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第206話:限界過負荷

巨大な岩塊が、ゴーレムの胴体を地面に押さえつけていた。


機体の内側で、リレーが鈍く作動する音が響く。


数メートル離れた倒木の間に転がっていた、引きちぎられた四肢と割れた頭部が、同時にピクリと動いた。


腕と脚がゆっくりと、胴体に向かって引き寄せられていく。


ゴーレムの頭部のレンズが、再び鈍く点灯した。


関節の可動性を完全に取り戻すと、ゴーレムは自らを押し潰している岩の下端に両手を突いた。


指が硬い岩盤に深く食い込む。


金属の軋む音と共に、ゴーレムは巨岩を頭上へと持ち上げ、肘の関節を急激に伸ばし、前方へと放り投げた。


隊列の前衛部隊はすでに先へと進んでいたため、その岩塊は進軍の中央列に直撃した。


土埃の柱が上がり、鉄張りの盾の破片や粉砕された装甲が四方八方に飛び散る。


伐採跡はパニックに陥り、負傷した兵士たちが瓦礫の下から這い出ようと悲鳴を上げた。


少し前方を歩いていた側面の指揮官が、背後から響く轟音と悲鳴を聞きつけた。


彼は勢いよく振り返り、叫んだ。


「後ろで何が起きている!?」


ゴーレムは瞬時に距離を詰め、再び兵士の隊列へと突っ込み、立ち塞がるものすべてを粉砕し始めた。


即座に新たな呪文が飛んでくる。魔術師たちが火球や稲妻を浴びせかけるが、金属の機体はそれらの攻撃を平然と受け止めていた。


ゴーレムが次なる一撃のために腕を振り上げた瞬間。


一人の騎士が、機体の欠陥に気づいた。


先の爆発で割れた胸部装甲の深い亀裂の奥から、光が漏れ出ている。


「胸を狙え!!」


騎士は声を限りに叫んだ。


「そこにコアがあるぞ!!」


支援の魔術師たちは即座に戦術を切り替えた。


彼らは意図的にゴーレムを挑発し、レンズに向かって細かい呪文を投げつけ、機体に大振りな動きを強いる。


その隙を突いて、先ほどの騎士が猛然と前へ飛び出した。


彼はゴーレムの腕の下を潜り抜け、光る胸の亀裂へと力の限り剣を突き立てた。


ゴーレムは瞬時にフリーズした。


レンズの光が消え、腕がだらりと下がる。


周囲の一般兵たちは安堵の息を吐き、脅威は去ったと考えた。


騎士は変形した装甲から苦労して刃を引き抜き、味方の元へ戻ろうと背を向けた。


だがその瞬間、ゴーレムの内部システムが臨界過負荷クリティカルオーバーロードモードへと移行した。


何が起きているのかを最初に悟ったのは、近くにいた魔術師たちだった。


彼らにとって、時間はまるで止まったかのように感じられた。


ゴーレムの装甲のすべての継ぎ目や亀裂から、急速に赤い光が膨れ上がっていくのを目の当たりにしたのだ。


金属の外殻が一瞬だけ膨張し、輝く線の網目に覆われ――そして、弾け飛んだ。


エネルギーの波が瞬時に大地を焼き払い、近くにいた部隊をほぼ完全に消し去った。


生き残った兵士たちも、凄まじい衝撃波によって木々に叩きつけられる。


その速度と威力は、木の幹がしなり、折れ、吹き飛ぶほどだった。


歩兵と木々の残骸が、半径数十メートルの範囲に散乱した。


戦闘の跡地には、ただ煙を上げる伐採跡だけが残された。


その頃、アイロンは深い葉に覆われた太い木の幹の後ろに隠れて立っていた。


ディスプレイ上の、敵軍の総数を示すカウンターが急速に更新されていく。


ノアの待ち伏せやゴーレムの自爆による敵の損失を反映し、数字は猛スピードで減少していった。


やがて、マーカーは『437,123』で停止した。


「上出来だ」


エンジニアは心の中でそう評価し、空になった弾倉をポーチに押し込んだ。


突然、インターフェースが数キロ離れた地点での熱源シグネチャと、別動隊の動きを捉えた。


アイロンは拳銃を構え、高度を見越した適切なリード角を取り、素早く数発発砲した。


エネルギー弾は上空へと放たれ、敵の隊列の中央へと正確に向かっていく。


しかし、その部隊の後方魔術師たちは咄嗟に反応した。


上空から降ってくる閃光に気づき、瞬時に広範囲の集団防壁を展開する。


アイロンの弾丸は轟音と共に魔法の盾に直撃した。


強烈な爆発が数回立て続けに起こるが、防壁は持ち堪えた。


「チッ……」


インターフェースを通して標的が無傷であることを確認し、アイロンは不満げに舌打ちした。


兵士たちの間に騒動が巻き起こる。


指揮官たちはヒステリックに怒鳴り散らし、即座に陣形を立て直し、戦闘態勢を整えるよう命じていた。


敵の注意を引いたことを理解したアイロンは、襟元に手を伸ばし、首の送信機のボタンを押し込んで通信を繋いだ。


「エリリア、そっちの状況はどうなっている?」


エリリアは猛スピードで木々の間を飛び回っていた。


矢や魔法弾が彼女に向かって飛んでくるが、タイミング良く躱し、時折小さな防壁を展開して防いでいる。


移動しながら、彼女は前衛の敵兵をピンポイントで排除していた。


同時に、エンジニアからの呼び出しが入る。


彼女は通信越しに答えた。


「一つの部隊と交戦中よ。アイロン、奴ら森全体を完全に包囲しているわ。安全地帯なんて全くない。最大限の注意を払って」


自分自身のスペースを確保するため、彼女は鋭く手を振った。


瞬時に地面から数本の太い蔓が飛び出し、強烈な一撃で次なる集団をなぎ払い、彼らの陣形を崩す。


『君の任務は魔術師を殺すことだ。騎士たちはなんとかする』


「了解よ」


エリリアは短く返答した。


彼女は急上昇し、雲の高さまで舞い上がった。


手のひらを下に向けて言い放つ。


「『抽出エクストラクト』」


地面から直接、巨大な節くれだった根が噴出してきた。


それらは急速に互いに絡み合い、このセクターにいる敵の魔術師たちを的確に捕縛していく。


文字通り数秒のうちに、根は彼らを巨大な木の球体の中に完全に封じ込めた。


球体は直ちに、ゆっくりと、しかし凄まじい力で収縮し始め、そのサイズを縮めていく。


中から骨の砕ける音が響いた。


彼らが生命反応を示さなくなるや否や。


エリリアは手を鋭く振り下ろし、その球体を残った騎士たちの頭上へと直接叩きつけた。


襲撃を受けた部隊の指揮官は、パニック状態で通信のアーティファクトを起動した。


「オルゲルド様! 神霊エリリアの襲撃を受けています!」


彼は装置に向かって叫んだ。


「ご指示を!」


アーティファクトから、オルゲルドの平坦な声が響いた。


『数分後に、ギルスの封印を使用しろ』


通信が不意に切れる。


指揮官は装置をしまい、防御を固めた馬車に向かって電光石火の速さで走り出した。


エリリアは上空からその動きを見逃さなかった。


走る指揮官の行く手に、瞬時に太い根が地面から飛び出す。


指揮官は急激に横へステップを踏んで一撃を躱し、走りながら残りの縛めを剣で斬り捨てた。


エリリアは次の呪文の準備を始めたが、生き残った敵の魔術師たちが素早く再結集し、厚い盾で指揮官を守った。


エリリアは苛立たしげに鼻を鳴らした。


彼女が片手を上げると、その手のひらの上に緑色の丸い球体が灯る。


塊は急速に膨張していった。


エリリアは手を下ろし、逃げる指揮官に向けて魔力の光線を放った。


「急げ!」


指揮官は振り返ることなく、声を枯らして叫んだ。


魔術師たちは前方に防壁を展開し、部隊の一人の騎士が力任せに金属製の装置を地面の奥深くへと突き立てた。


大地が揺れ、土の中から巨大な多層構造の鉄の建造物がせり出してくる。


この防御構造体は瞬時に四方へ展開し、大地と空を遮断した。


エリリアの緑の光線が金属に直撃する。


エネルギーは第一の鉄の装甲を貫き、続いて第二、第三の装甲を粉砕した。


敵の魔術師たちは、顔を白濁させるほどの疲労の中で限界まで力を振り絞り、最後の力を振り絞って防壁を維持している。


しかし、その僅かな時間稼ぎで十分だった。


指揮官は装甲馬車に辿り着き、中から『ギルスの封印』を見つけ出したのだ。


最後の鉄の障壁を破るには時間が足りないと悟ったエリリアは、手の向きを急激に変えた。


緑の光線を横にそらし、馬車の周囲に立っていた騎士や支援の魔術師たちを焼き払い始めたのだ。


エネルギーの奔流は瞬時に人間を消滅させ、後には黒く焦げた、煙を上げる大地だけが残された。


エリリアの顔は、疲労で目に見えて青ざめていた。


彼女は残りの光線を防壁の前の一点に集中させ、魔力の奔流を無理やり維持する。


数秒後、超高温に晒された土壌が蒸発し、舞い上がり始めた。


次の瞬間、強烈な緑色の爆発が起こり、衝撃波が四方八方へと広がった。


エリリアは光線の照射をやめ、空中に浮かんだまま荒い息を吐いた。


ほぼ全セクターが完全に制圧されていた。


閃光と爆風が、支援魔術師、騎士、そして指揮官を消し去ったのだ。


その時、焦げた爆心地に隣接する部隊の指揮官が駆け込んできた。


煙と瓦礫の中で素早く状況を把握した彼は、無傷で残っていた『封印』を発見する。


男は第一の保護カバーを引き裂き、続いて第二、第三と外し、機構を展開した。


装置は瞬時に巨大な大砲へと変形し、彼はそれを両手でしっかりと握りしめた。


その間、エリリアは舞い散る粉塵を透かして状況を評価しようと、魔法の視力を使っていた。


「誰もいないわね……」


彼女は小さく呟いた。


しかし、少し遠くへ視線を移した時、エリリアの目は巨大なエネルギーの塊に釘付けになった。


「でも、あっちは……とてつもない量の魔力……」


その時、指揮官の手に握られた大砲が唸りを上げ、強力な紫と白の光線を放った。


エリリアが接近する閃光に気づけたのは、周辺視野だけだった。


反射的に体が動き、彼女はたった今自分がいた場所がエネルギーの奔流に焼き尽くされる、ほんの一瞬前にテレポートした。


エリリアは森の奥深くに実体化し、すぐに高い木の一つにある鬱蒼とした葉の中に身を隠した。


数秒後、下から足早な足音が聞こえてくる。


息を潜めて枝の隙間から覗き込むと、掃討作戦に向かう騎士の大部隊が見えた。


彼らの横には、テクノロジーを駆使した大砲を抱えた者たちが歩調を合わせている。


エリリアはエンジニアの頭の中にテレパシーを送った。


『アイロン。奴らが持っている大砲、あなたの持っているものとそっくりよ。気をつけて……それと、私は今すぐには戦えない。少し回復する時間が必要だわ』


一方、焼け焦げた伐採跡では。


展開された武器を構える指揮官のもとに一人の兵士が駆け寄り、何もない地面を見回した。


「仕留めたのですか?」


兵士が尋ねる。


指揮官は険しい表情で砲身を下ろした。


「どうだろうな」


『分かった、エリリア』


精霊の頭の中に、アイロンの落ち着いた返答が響いた。


彼自身は今、自分の担当する森の区画で激しい戦闘の真っ最中だった。


複数名の騎士の進軍を食い止めている。


アイロンは常に移動し続け、敵から見えない最も安全なポイントを選び抜いていた。


そして拳銃から濃密で絶え間ない銃撃を浴びせ、敵を次々と撃ち抜いていた。

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