第204話:封鎖
「到着だ。減速しろ」
アイロンが言った。
エリリアが急激に速度を落とし、二人は上空で静止した。
エンジニアは見下ろした。
眼下には、巨大な軍隊が広がっていた。
重装騎士の隊列、槍兵の陣形、そして弓兵と弩兵の大規模な部隊。
無数の松明が燃え盛り、夜を薄暗い昼間へと変えている。
エリリアが彼の横で立ち止まり、その顔を強張らせた。
「アイロン。後列の方、魔術師がすごくたくさんいるわ。彼ら、連携陣形を組んでる」
「リュモン」
その瞬間、アイロンの網膜に鮮明なデジタル映像が投影された。
敵陣の輪郭が灰色にハイライトされ、そして敵の奥深く――後方に、数百ものエネルギーマーカーが紫色の光を放って浮かび上がった。
アイロンは滑らかな動作で腕を前に伸ばし、ホルスターから拳銃を抜いた。
「エリリア、準備しろ」
彼は冷酷に命じた。
「えっ……?」
精霊が問い返す間もなく。
アイロンはグリップを握り直し、引き金を引いた。眼下の最も密集した部隊へ向けて、射撃を開始する。
バン! バン! バン!
次の瞬間、近衛兵の陣形のど真ん中で大爆発が巻き起こった。
破壊された装甲、盾、そして人体の一部が、土塊と共に宙へ吹き飛ぶ。
指揮官たちが空を指差し、絶叫した。
「上空からの攻撃だ! 上を狙え!」
一方、エリリアは両手を下へと向けた。
数秒後、敵兵の足元の地面が蠢き始める。
太く節くれだった根と樹木の蔓が芝生を突き破り、密集した隊列へと食い込んだ。
それは人ごと装甲を押し潰し、盾をへし折り、破壊された肉体をあちこちに放り投げ、進軍する者たちの連携をズタズタに引き裂いていく。
アイロンは引き金を引き続けた。
エネルギーの塊が地上へと降り注ぎ、天幕を撃ち抜き、装備を積んだ木製の荷馬車を木端微塵に変えた。
時を同じくして。
中央の司令部天幕では、上級将校の一人が足早にオルゲルドのもとへ歩み寄った。
「オルゲルド様、敵の攻撃が始まりました。上空からの砲撃です。前衛部隊に損害が出ています」
オルゲルドは机に広げられた地図から顔を上げることすらなく、暗い合金でできた、くすんだルーン文字が刻まれた小さな角張った装置の上に手を置いていた。
「まだ早い」
彼は淡々と言い放つ。
「魔術師たちに標的の座標を固定させろ」
アイロンの網膜では、リュモンのカウンターがデータを更新し続けていた。
正確な狙撃と根の爆発が起きるたび、緑色の数字が波のように変動する。
当初の『50万』という数字は、急速に減少し始めた。
499,870……499,610……499,100。
後方部隊が動き出すと同時に、眼下のパニックは収まった。
敵の魔術師たちが連携陣形の構築を完了したのだ。
彼らの周囲の空気が、過剰なエネルギーによってバチバチと音を立てる。
次の瞬間、陣形の中央から極太の紫色の光線が空へと向かって放たれた。
その破壊範囲はあまりにも広く、アイロンやエリリアが単に横へ移動するだけで躱せるようなものではなかった。
アイロンは即座に光線の軌道とエネルギー密度を評価した。
意識を集中させ、目の前の空間を局所的に歪曲させようと試みる。
まさにその瞬間、オルゲルドが装置のボタンを押し込んだ。
アイロンは周囲の原子に思考の命令を下した。――しかし、何も起こらない。
「何っ?」
光線が迫る速度はあまりにも速すぎた。
空間の歪曲が機能していないことを悟ったアイロンは、直撃に備えて身構えた。
一瞬の硬直、そしてアイロンの顔を照らす紫色の光に気づいたエリリアが、猛然と彼に向かって飛び込んだ。
彼女の手がアイロンの肩に触れる。
空間が収縮し、次の瞬間、二人の姿はそこから消え去った。
彼らがつい先程まで浮遊していた空間を、光線が突き抜けていく。
アイロンとエリリアは、ドーンヘイムの中央広場に実体化した。
エンジニアは両足で立っていたが、急激な空間転移のせいでひどい耳鳴りに見舞われていた。
彼は困惑しながら、拳銃を握りしめている自身の手のひらを見下ろした。
隣で鈍い音がした。
エリリアが両手を地面につき、膝から崩れ落ちていた。
彼女の体は細かく震え、喉からはかすれた咳が漏れている。
「だから……」
彼女は必死に空気を吸い込もうとしながら、荒い息を吐き、再び咳き込んだ。
「だから、人間にはテレポートを使いたくなかったのよ……」
「私の魔術が発動しなかった」
彼は指を開いたり閉じたりしながら、声に出して言った。
「抑制されたのか?」
『警告。環境操作モジュールに対する外部からの波動干渉を検知。敵は未知の狭帯域妨害装置を使用しています』
「解除にはどれくらいかかる?」
アイロンは頭の中で尋ねた。
『妨害を完全に無効化するには時間を要します。システムの適応アルゴリズムの起動と、バックグラウンド共鳴周波数の再調整が必要です』
「分かった。バックグラウンドで解析とブロックの回避プロセスを開始しろ」
アイロンはそう命じた。
その時、動揺したマレクが駆け寄ってきた。
支給された拳銃を手に握りしめ、荒い息をついている。
「アイロン! どうだったんだ!? 見たのか? 敵はどれくらいいた!?」
アイロンはゆっくりと武器をホルスターに収め、鍛冶屋の方へ向き直った。
「実際に見てみると、言葉で聞くよりずっと多く感じるな」
マレクは目に見えて青ざめ、武器のグリップを握る手にさらに力がこもった。
その恐怖を感じ取り、アイロンはより確信に満ちた口調で付け加えた。
「だが、数が多いとはいえ、我々が勝つチャンスは十分にある」
返事を待たずに、アイロンはきびすを返し、工房へと早足で向かった。
拳銃をリロードし、予備の弾倉を準備する必要があった。
一方、軍の野営地では。
ヴァルデス王が自身の天蓋の中で、遠くから響く爆発音の余韻に耳を傾けていた。
緊張した面持ちで、彼は机の引き出しから通信用アーティファクト――小さな角張った箱――を取り出し、起動した。
「オルゲルド、そっちで何があった?」
ヴァルデスは装置に向かって険しい声で尋ねた。
「前衛部隊の方からすごい音がしたぞ」
通信線の向こうでノイズが鳴り、続いてオルゲルドの平坦な声が聞こえた。
「アイロンと神霊エリリアの襲撃を受けた。空からの攻撃だ。だがルキウス殿の装置は完璧に機能した。我々は奴らの力を封じ、退却させた。致命的な被害はない」
オルゲルドは少し間を置き、背後で誰かに指示を出してから、再び口を開いた。
「計画を変更する。夜間野営は行わない。このままドーンヘイムへ直行する。エドリアクに連絡し、彼の部隊の進軍速度を上げさせろ。奴らが態勢を立て直す前に、完全に包囲しなければならない」
「了解した」
ヴァルデスは短く答え、アーティファクトの通信を切った。
その頃、ドーンヘイムでは。
アイロンが工房のポーチに出てきた。
拳銃の装填を完全に済ませ、弾薬ポーチには予備の弾倉が詰め込まれている。
「ノア!」
広場を見渡しながら、彼は低く声をかけた。
少し体力を回復したエリリアが、彼の隣を漂いながら静かに言った。
「ノアなら、もう森の奥へ向かったわ、アイロン。あなたが事前に指示していた通り、待ち伏せのポジションに就いたはずよ」
「上出来だ」
エンジニアは頷いた。
彼はポーチを降り、過去の指示で予備として残してあった4号ゴーレムの元へと向かった。
アイロンはゴーレムに近づき、命じた。
「森の奥、第3セクターへ移動しろ」
彼はゴーレムに低い声で指示を出す。
「所定の位置に就き、待機せよ」
ゴーレムの内部機構がうなりを上げ、レンズが鈍く光った。
それは向きを変え、ゆっくりと歩み去っていった。




