第201話:戦争への準備
アイロンは、建設中の高さ3メートルの塔、その上部プラットフォームに立っていた。
エンジニアである彼の周りには、マレクや数人の優秀な鍛冶屋、そしてノアが集まっている。
彼らの目の前にある作業台には、これから完成させる砲台の、部分的に組み上がった動力ブロックが置かれていた。
アイロンはそれを指でコツコツと叩き、皆の注意を引いた。
「よく聞き、仕様を頭に叩き込め」
彼は淡々とした口調で口を開いた。
「この砲台は、対空目標に対する我々の唯一の対抗策だ。構造は6つの主要な要素に分かれている。それぞれが厳密な物理的機能を持っている」
「『オーシャン』――頑丈な支持フレーム。塔全体の土台であり、主要な機械的負荷を受け止め、射撃時の反動を吸収する。ここの金属は空洞が一切ないよう、完璧に鋳造されなければならない」
「『オメガ』――外部装甲。その役割は、物理的な損傷や破片から内部の機構を保護することだ」
「『プリズム』――遮熱層。砲身から演算装置への過剰な熱伝導を防ぐ」
「『サン』――アクティブ冷却システム。稼働中のリアクターから熱を逃がす」
「『カオス』――エネルギーコア。塔全体の主電源であり、エーテルを凝縮されたパルスに変換する」
「『セレスティアル』――頂上部にある複合ブロック。追跡センサー、演算モジュール、そして砲身先端の集束レンズが一つに統合されている」
マレクは図面と実際の部品を交互に見比べながら、じっと目を凝らした。
「つまり、たった一つでも機構がイカれたら、こいつはただの粗大ゴミになるってことか?」
「その通りだ」
アイロンは頷いた。
「もし『サン』に泥が詰まれば、稼働から3分でリアクターが『セレスティアル』をドロドロに溶かす。もし『オーシャン』が歪めば、最初に旋回しようとした瞬間に駆動部が焼き付く」
「だからこそ、勝手な真似はせず、厳密に指示通りに組み立てるんだ」
アイロンは図面のページをめくった。そこには、塔の上部にある可動プラットフォームの断面図が描かれていた。
「次に、このシステムが実際にどう機能するかを説明する」
エンジニアは図面の頂上にある球状のドームを指差しながら続けた。
「プロセスは完全に自動化されている」
彼はセンサーモジュールの輪郭を指でなぞった。
「塔の頂上にある『セレスティアル』のセンサーブロックは絶えず回転し、上空360度をスキャンし続ける。システムは3つの要素に反応するよう設定されている。物理的な動き、急激な魔力反応、そして熱または運動エネルギーの大規模な蓄積だ」
アイロンは指を砲塔基部の演算装置へと移した。
「目標を発見した瞬間、演算機は即座に4つの処理を実行する。正確な距離の測定、対象の速度の計算、飛行ベクトルの特定、そして偏差射撃ポイントの算出だ」
「塔は自動的に該当するセクターへと旋回する。駆動部は砲身を水平線から90度まで仰角をつけることが可能だ。つまり、ほぼ真上に撃てる」
「それで、発射の瞬間はどうなるんだ?」
複雑な計算表を覗き込みながら、ノアが尋ねた。
「『カオス』のコアが蓄積されたエネルギーを解放する」
アイロンは淡々と説明した。
「そのエネルギーの奔流が『セレスティアル』の集束レンズを通り抜け、極限まで圧縮され、凝縮されたエネルギーボルトとして砲身から放たれる」
「基本的には私の銃が撃ち出す弾と同じだが、威力と安定性は数十倍だ」
エンジニアは指を2本立てた。
「この砲台には主に2つの射撃モードがある」
「1つ目は標準モード。機動力のある単一目標に対する単発の精密射撃だ。命中精度が高く、エネルギー消費は最小限、冷却システムの消耗もほぼゼロに等しい」
「2つ目はバースト(連射)モード。巨大で動きの遅い標的や、密集した敵集団向けに設計されている」
「砲塔が強力な射撃を連続で3発素早く放った後、システムが数秒間強制的に射撃をロックする。その間に『サン』が余剰圧力を排出し、レンズを冷却するためだ」
マレクは作業量を計算しながら後頭部を掻いた。
「そいつは頼もしいな。だが、もし四方八方から一気に攻め込まれたら、塔一つじゃ到底足りないだろ?」
「だからこそ、これを4基造るんだ」
アイロンは図面を丸めながら答えた。
「さらに、それぞれの射界が互いに交差するように調整する必要がある」
彼は丸めた図面を助手のひとりに手渡した。
「実践に移ろう」
彼の声は一定で、抑揚がなかった。
「マレク、建設中の2号塔だが、『オーシャン』の支持フレームの接合部を補強しろ。バーストモードのパルス反動は桁違いだ。普通の留め具じゃ、最初の連射で簡単にへし折れる。強化スタッドを使え」
マレクは了解の意を示して頷き、素早くメモ帳に書き留めた。
「それからもう一つ」
エンジニアは3号塔の基部を指差して付け加えた。
「あっちの『サン』の冷却システムは再調整が必要だ。回路にほんの僅かでも気密漏れがあれば循環が破綻し、リアクターが内部から施設を溶かしてしまう。配管の圧力は直接確認しろ」
指示を終えると、アイロンは木製の足場を確かな足取りで降り、地面に降り立った。
その足音は等間隔で乱れがない。
彼は防衛線をゆっくりと歩きながら、ゴーレムの隊列を視察した。
何体かの巨人の装甲板の固定具合を無作為に点検した後、すでに完成し草むらに偽装されている地上砲塔へと視線を移す。
すべてのシステムは正常に機能していた。しかし、それでもエンジニアの心は休まらなかった。
彼の意識の中では『リュモン』がこれから起こりうる襲撃のシミュレーションを絶え間なく回し続けており、その結果は、本格的な軍隊を相手にするには現在の防衛力では不十分だと示していたのだ。
『防衛網をさらに拡張しなければならない』
アイロンはそう結論づけた。
彼の頭の中で、優先タスクのリストが瞬時に組み上げられていく。
――地雷原:森側からの野営地への接近経路を封鎖する必要がある。爆薬には『カオス』の合金を使い、『オメガ』で強固な殺傷用の外殻を作る。そして『セレスティアル』は起爆用の非接触式モーションセンサーとして機能させる。
――エネルギー・スピア(槍):ドーンヘイムの歩兵には、近衛兵の重装甲を容易く貫通できる武器が必要だ。
――巨大な攻城砲:敵の砲兵を制圧し、攻城魔術師の結界を破壊するための、強力な長距離砲。
アイロンは防衛濠の縁で立ち止まり、作業に当たる人々を見つめた。
(我々に、これらすべてをやり遂げる時間はあるのか……?)
彼は建設現場の端、作業員たちの喧噪から離れた場所に立ち止まった。
アイロンは右手を挙げ、手のひらを開いて自らの指先を見つめる。
「リュモン、局所干渉の簡易テストを行う。出力は最小だ」
彼は頭の中でそう命じた。
『要求を受理しました』
冷徹な声が即座に応答する。
『マスターの掌上、10立方センチメートルの空間にフォーカスします。物理変数を指定してください』
アイロンは最も単純で安全なもの――『温度』を選んだ。
彼は自身の肌のすぐ上にある空気分子に意識を集中させた。
熱エネルギーを強制的に再分配し、指定した領域内の分子の動きを急激に減速させる。そこから運動エネルギーを奪い取り、周囲の空間へと拡散させた。
手のひらの上の空気が瞬時に冷却される。
空気中に含まれる水分が凝結し、かすかなカサカサという音とともに、彼の指の間に丸く小さな氷の結晶が形成された。
それは肌から数ミリ離れた空中に静止していた。
『演算誤差:0.02%。温度勾配はマイナス15度で安定。エネルギーロスは最小限です』
リュモンが報告する。
アイロンが指をわずかに動かすと、氷の粒は一瞬で粉々に崩れ落ち、気温は元に戻った。
彼はゆっくりと手を握りしめ、拳を作る。
「基本的には、準備完了だな」
遠くにそびえ立つ塔を見上げながら、彼は静かに声に出して呟いた。
――時を同じくして。
クロント王国にある城の地下室では、秘密裏の会議が開かれていた。
部屋にいるのは3人。オルゲルド王、エドリアク王、そしてヴァルデス王である。護衛や使用人はすべて、分厚い鉄扉の外に残されていた。
部屋の中央にある重厚なテーブルの上には、オルゲルドがルキウスから受け取った木箱が並べられていた。
すでにいくつかのコンテナは開けられており、中からは複雑な金属の構造物や、明滅するインジケーター、用途不明の電源ブロックなどが姿を覗かせている。
「お集まりいただいた理由はこれだ」
オルゲルドは並べられた装置を手で示した。
「ルキウス殿から譲り受けた武器と機械だ。我々の現在の最優先課題は、これらを詳細に分解して原理を解明し、来るべき遠征に向けて我が軍にこの技術を導入することだ」
エドリアクが近づき、滑らかな銃身と基部に紫色のセルが組み込まれたライフルのひとつを、胡散臭そうに見つめた。
「我々の部下に、これが何なのか理解できると本気で思っているのか?」
彼は黒光りする金属に触れながら尋ねた。
「理解させるほかに道はない」
オルゲルドは冷たく言い放った。
「ルキウス殿が詳細な指示書を残してくれている。すべて書かれているのだ。もしドーンヘイムに対して僅かでも勝機を見出したいなら、前線部隊にこの装置を配備するしかない」
ヴァルデスはテーブルを回り込み、最も大きな木箱の中身を熱心に観察していた。
箱の中には、複雑な光学系と奇妙なレンズが何枚も連なった、巨大で銃身の長い兵器が収められている。
「なるほど、歩兵用の武器については分かった」
彼は銃身の艶消しされた表面に触れながら言った。
「だが、こいつは何だ? いったい誰に向けて使うつもりだ?」
オルゲルドはひどく疲れたような目で彼を見た。
「それは、神霊『エリリア』に対抗するための砲だ」
部屋の中が一瞬にして静まり返った。
エドリアクとヴァルデスは、全く同じような深い衝撃の表情を浮かべてオルゲルドを見つめた。
「神霊エリリアだと?」
最初に沈黙を破ったのはエドリアクだった。その声は明らかに強張っている。
「彼女が……彼女がドーンヘイム側にいるというのか?」
「そうだ」
オルゲルドは淡々と肯定した。
「待て」
エドリアクは過去の出来事を思い返そうとしながら眉をひそめた。
「そもそも、彼女はあそこにいたのか?」
ヴァルデスの顔に、突如として極めて不快な事実を悟ったような表情が浮かんだ。
「私が訪問した時、そこには小さな空飛ぶ精霊しかいなかったが……」
彼はゆっくりと言葉を紡いだ。
「待て。まさか、あの精霊が……」
オルゲルドは無言で頷いた。
エドリアクは困惑した様子で、二人の王を交互に見やった。
「……ルキウス殿が我々にこの兵器群を譲り渡した理由が、ようやく分かったよ」
「無駄話やパニックはそこまでだ」
オルゲルドは空のコンテナの一つの蓋を激しく閉め、話を遮った。
「時間がない。急いで装置を分解し、国中から最高の職人を呼び集めるんだ。一刻も早く、これらすべてを実戦で使えるように準備しなければならない」
王たちは顔を見合わせると、それ以上は何も言わず、テーブルの上に武器の部品を並べて作業に取り掛かった。




