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第192話:共振変換器

俺は作業台に向かい、共振コンバーター(レゾナンスコンバーター)の組み立てに苦戦していた。


今のところ、ハッキリ言ってこいつの見た目はクズ鉄の塊だ。


四方八方から太い銅線が飛び出した鋼鉄のキューブで、不肖この俺の手によって不器用にイモハンダで束ねられている。


ダーウィンと一緒に、初めてこの手の装置を組み上げた時の記憶が脳裏をよぎる。


あの時は、文字通り足元に転がっていたガラクタを繋ぎ合わせただけだった。


「以前ならルモンが回路にエネルギーを給電し、振幅をなだらかにして、内部のコイルが過負荷で焼き切れないよう監視してくれていたんだがな」


俺は溜め息をついた。


(俺の魔力チャネルは、一体いつになったら全快するんだ?)


そんな思いが頭を掠める。


繊細なエネルギー供給なんて芸当が望めない以上、俺は回路全体をカオス鉱石用に全面改修せざるを得なかった。


結晶から放たれるのは不規則で不安定なエネルギーの波動だ。


このクソ代物が作業台の上で爆散するのを防ぐため、俺は『オメガ』合金製の隔離チャンバー内部に鉱石を収めた。


この保護回路が強力なダンパーとして機能する。カオスの突発的なスパイクを捕捉し、その破壊的な威力を打ち消して、指向性のある高周波電流へと変換してくれるのだ。


そこから高周波電流が共振回路へと送り込まれ、キューブ内部の銅製コイルが指向性の振動波を照射する仕組みだ。


鋼鉄の蓋にある最後の固定ネジを締め上げ、袖口で額の汗を拭った。


『竹馬』でバランスを取りながら、鉄のキューブを外まで引っ張り出すのは並大抵の苦労ではなかった。


塔の建設時に残された巨大な瓦礫の山の前で立ち止め、俺は重い息を吐く。


目の前には、花崗岩の砕石、石灰モルタルの破片、曲がりくねった鉄筋がぐちゃぐちゃに混ざり合っていた。


こいつを起動するには正確なデータが必要だ。


俺は作業ジャケットのポケットをあさり、四つ折りにされたくしゃくしゃの紙切れを見つけ出した。


小さなナットやガラクタに埋もれていた代物だ。


それを広げ、素早く目を通す。


(ルモンがあらかじめ基本素材の共振周波数カタログを作成しておいてくれたのは、ここ最近で間違いなく最高の判断だったな)


俺はそう思った。


「まずは花崗岩グラニットからか」


メモと照らし合わせながら呟く。


コンバーターの筐体には調整機構を設けてあった。内部にあるインダクタンスコイルの有効長を変える、スライド式の銅製コンタクト(接点)だ。


それを動かすことで、俺は手動で共振回路のパラメーターを変化させ、装置を狙いの周波数へとチューニングしていく。


プロセスの本質は極めて泥臭く物理的だ。


石であれ鋼鉄の塊であれ、あらゆる物体には固有の結晶格子振動周波数が存在する。


そこに全く同じ周波数の指向性波を叩き込めば、内部の微小振動の振幅が雪崩のように増幅していく。


結果として、加熱も物理的打撃もなく、構造そのものが内側から自壊するのだ。


目盛りで必要なパラメーターをセットし、キューブの放射口を瓦礫の最下層へ向けて、トグルスイッチを切り替えた。


装置が不快な甲高い音を立て、それがすぐさま重苦しい唸り声へと変わった。


足元の杖の先で、大地がわずかに揺れる。


巨大な花崗岩の岩塊が、まず白い細かな亀裂の網に覆われ、次いで乾いた音を立てて沈み込み、細小の砂利へと崩れ落ちていった。


装置を切り、息を整えてから、メモを確認しつつつまみを二目盛りほどずらして回路を石灰岩へと再チューニングする。


再度スタート。


白っぽい石灰岩が一瞬にして粉末へと砕け散った。


最後の仕上げに、ねじ曲がった金属屑を処理する。


三十分の作業の後、あれほど山積みだった建築瓦礫の痕跡は消え去り、粉塵とパウダーで覆われた平坦な広場だけが残されていた。


コンバーターをシャットダウンし、俺は松葉杖に寄りかかって息を吐いた。


片付けは終わった。


あとはこの粉末状の基質そのものを処分するだけだ。


「エリリア!」


森の開けた場所を見つめながら、小声で呼んだ。


彼女はほぼ一瞬で空中に実体化し、広場の上で滞空しながら、俺の仕事の成果を興味深そうに見分した。


「わあ。本当にあのガラクタを片付けちゃったんだ」


近寄ってきた彼女は、小さなブーツのつま先で石灰の細かい粉をコンコンと突いた。


「しかも完璧に細かくなってる!」


「森で使い道があるって言ってたろ」


「もちろん!」


エリリアは満足そうに頷いた。


「石灰岩は小川の近くの窪地に欲しかったの。それに細かい砂利は斜面の補強に使えるしね!」


彼女が両手をかざすと、手のひらの周りに細い緑色の光の糸が渦を巻いた。


広場の粉塵と砂利がふわりと宙に舞い上がり、ひとつの雲へと束ねられていく。


エリリアは別れの言葉代わりに明るい歓声を上げると、建築ガラクタの粉末を丸ごと引き連れて、森の奥へと飛んで行った。


木製の柱に背を預け、俺は綺麗になったスペースを思案深げに見渡した。


(……そろそろ、本気で噴水でも造るべきかね)


俺は苦笑し、首を振った。


いや、違うな。


(まずは外郭の防衛線を強化するのが先決だ)


俺は松葉杖の位置を調整し、工房の扉に向かってゆっくりと足を進めた。

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