第188話:ポケット・ディメンションの設計図
俺は何時間も作業台の前に座り込み、また一枚無駄になった紙をぼんやりと見つめていた。
足元には丸められた紙くずが散乱している。
頭は緊張でガンガンと痛み、このクソ問題はどうしても解けそうになかった。
思考を少しでも整理するため、俺は鉛筆を置き、こめかみを揉みながら、ステップごとに声を落として整理し始めた。
「よし、アイロン、これは何だ? ポケット次元だ。じゃあポケット次元とは何だ? 普通の家と同じ物理的地点に存在しながら、ただ別の座標軸へとズレている『ポケット』のことだ。そうだろ」
指を一本折る。論理的か? 論理的だ。
「入り口はどう動く? ドアは入る者をスキャンしなければならない。普通の人間が敷居を跨げば、その先の空間は極めてありふれたままだ――ただの家の部屋に入る。だがそれがエリリアなら、システムが彼女の本質を認識し、量子シフトが起きる。よし、覚えた。次だ」
下書きに目を通す。ここからが一番の難関――内部構造だ。
「エリリアの意志で空間をどう変化させる? ルモンがリソースを割いて、ポケット内を常時監視する。エリリアが望みを口に出すか心で思えば、ルモンがその信号を感知して瞬時に再現する。そうだ」
まさにその瞬間、自分の中の深い場所で重いパルスをはっきりと感じ取った。ルモンはこのアイデアが断固として気に入らないらしい。
(他に選択肢はない)
俺は心の中で切って捨て、システムを黙らせた。
鉛筆を指で転がしながら、俺は溜め息混じりに付け加えた。
「デメリットは、ルモンがこれらすべてに俺の魔力を使うことだ。俺はいまだに自分にどれだけの魔力があるのかすら知らない。俺の体はこのドレインに耐えられるのか?」
ノートをもう一度読み返す。筋は通っている。基本構造は完璧で、相互作用のメカニズムも論理的破綻が一つもなく完全に理にかなっていた。
「ならなんで、クソッ、うまくいかねえんだよ!?」
俺は机に鉛筆を叩きつけて悪態をついた。紙の上には相変わらず、噛み合わない線の混ざり合いが残るだけだ。
数分後、俺は工房の暗い天井の板を頭を反らせてぼんやりと見つめたまま、微動だにせず座っている自分に気づいた。そして静寂を破ったのは、俺自身の低い嘲笑だった。
「俺はバカだ。救いようのないバカだ。どうしてこれを忘れてたんだ?」
細部に至るまで考え抜き、論理もアルゴリズムも相互作用も書き出した。だが一番重要なもの――物理的媒体を忘れていた。なんてこった……。
「よし」
俺は両手で顔を擦りながら息を吐いた。
「量子シフトを起こす必要がある。だが、クソッ……量子だと? 俺にそんな芸当ができるのか? まあいい、まずは回路の図面を描くだけでもやらなきゃな」
当然、キャンプには必要な資源なんてない。木材を使うしかない。事前にエリリアに頼んで、いわゆる『アイアンオーク(鉄樫)』の角材を用意させておいて正解だった。それには極めて高密度で、厳密に整列した炭素結晶格子を備えていた。実質的に、天然の基板だ。
だが素材はある。問題はその次のステップだ。純粋で凝縮された悪夢のような工程。動かすためには、俺自身の魔力を文字通り原子一粒分の針の細さにまで圧縮しなければならない。そしてその超微細なビームを制御しながら、木の繊維の内部に目には絶対に見えない回路模様を焼き付けていくのだ。
この構造図を安定して機能させるためには、純粋な魔力が喉から手が出るほど必要だ。だが、どこから調達する?
その時、頭の中でルモンが覚醒した。
[警告。環境分析が完了しました。上層大気中に純粋な魔力の存在を確認]
「マジか?」
俺は思考を反芻しながら指で机をトントンと叩き、自分自身に頷いた。
「よし。計画はこうだ。その純粋な魔力を何とか捉え、木材の中に焼き付けた微細な空洞の中に封入する。魔力粒子がそのルーン状の『ポケット』に入り込めば、整然と並んで生きたマイクロチップのように機能し始めるはずだ。おまけに、この構造全体が外部からは完全に不可視に保たれる。これは大きな利点だ」
喉が不快に乾いていた。ペースを少し落とし、マグカップに手を伸ばして冷たい水を数口飲む。溜まった炭の粉を洗い流し、俺は心の中で一番の問いを投げかけた。
(お前にできるか、ルモン?)
アルゴリズムを計算するように間を置き、ルモンは答えた。
[回答:現時点では正確な予測のための初期データが不足しています。最終判断はタスク実行の過程で形成されます]
俺はマグカップを作業台に戻した。
「まあ、嘘をつかれないだけマシか」
「よし、物理媒体の方は目処が立った」
俺は鼻梁を揉み、思考をまとめた。
「次は、このクソパズルの後半部分を解き明かさなきゃならない」
俺は椅子の背もたれに寄りかかり、再びルモンに語りかけた。
「ルモン、タスクを聞け。家の部屋の中の全空間をスキャンしろ。空間は一枚岩じゃない――少なくとも俺の元の世界ではそうだったが、ついでにそれも検証する。お前の目的は、現実の織り目にある微小な空隙を捉えることだ。まさにその地点で、俺たちの世界はハイパースペース(超空間)と接している」
システムからの念話による了解を待ち、アルゴリズムの構築を続けた。
「見つけた空隙を俺の魔力を使って拡張するんだ。魔力の圧力によってその地点を広げ、4次元内部に浮遊する完全な3次元のバブル(泡)へと膨らませる。だが問題がある。俺たちの宇宙の物理圧によってバブルが押し潰されないよう、お前は数学的安定性を常時計算し続けなきゃならない。お前がそれをしている間に、エリリアが自身のエネルギーで境界を編み上げる。結果として、外側に絶対の虚無が広がる隔離された球状バリア――力場が完成するんだ」
俺はその段階を下書きに追加した。
「次だ。お前はそのバリアの内部に、原初のエーテルを注ぎ込む必要がある。そのエーテルがポケットの全容量を満たし、お前のいかなる命令をも受け入れる準備を整える」
俺は完成した図面を凝視しながら口をつぐんだ。
「これで独立した二つの要素ができた。家にあるスキャナー付きの鉄の扉と、ハイパースペースのどこかに漂う空のバブルだ。お前の次のタスクは、そのバブルの空間周波数を取得し、そのアドレスを鉄の扉の量子ルーンに強固に書き込む(焼き付ける)ことだ」
破綻がないか確認しながら、最終シナリオを脳内でシミュレートする。
「そしてエリリアが敷居を越え、お前が彼女の本質を読み取る……原初のエーテルを生成し、極性が高まり、バブルが完全なポケット次元へと変貌する」
俺は息を呑み、ルモンの答えを待った。
「どうだ? できるか?」
平坦な声が頭の中に響く。
[回答:このプロセスの実行には途もない時間と計算リソースが必要です。成功させるため、全システムを高度自律モードへ移行する必要があります]
「なんでシャットダウンする必要がある?」
俺は眉をひそめた。
[回答:停止手順はお客様が過負荷で死亡するのを防ぐために不可欠です。宿主の状態分析は過度の緊張状態を示しています。重傷を負わせず安全を最優先するため、自律モードへの移行を有効化します]
「まあ、いいさ」と俺は言った。
そして、本当にルモンが停止するのを感じた。俺の意識の中に、一瞬にして静寂が訪れる。
クソッ……俺が弱すぎるせいで、ルモンは俺を害さないためだけにシャットダウンせざるを得ないのか……。
よし、全体のスキームを確定させよう。エリリアが扉を開け、開口部に飛び込む。スキャナーが彼女を読み取り、出入口が彼女を4次元軸に沿ってバブルの内部へと転送する。彼女の体が内部に入った瞬間、ルモン(バックグラウンドで24時間体制でシステムを監視する)が彼女の潜在的欲望を識別する――『瞑想の場所、自然、安らぎが必要』。ルモンがバブル内の原初のエーテルに指令を送る。エーテルは瞬時にその極性、密度、凝集状態を変え始める。エーテルの下部が凝縮し、黒土と石に変化する。上部は快適な温度の清浄な空気となる。エリリアのエネルギーがアストラル草や樹木の成長、そして小川の発生を促す。
俺は満足げに頷いたが、そこで思考の流れが行き止まりの壁にぶつかった。持ち上げた鉛筆を止めたまま固まる。
待て……原初のエーテルなんて、どこで手に入れりゃいいんだ?
「ルモン。答えろ」
応答なし。
クソッ。なんで真っ先にそれを聞かなかったんだ……。
俺は大きく息を吐き、鉛筆を置いて窓の外を見た。ガラスの向こうは、すっかり暗くなっていた。よし、寝よう。明日までにオンラインに戻ってきてくれることを祈るよ。




