第179話:修復
新しい一日は、一瞬の猶予もなく幕を開けた。
下からこの成長し続ける巨像を見上げながら、私は悟っていた。
完成はまだまだ先だ、と。
プロジェクトの規模が、あまりにも巨大すぎた。
だが、ここで立ち止まろうとする者など、誰一人としていなかった。
マレクの労働者たちが、次なる梁の束を上へと運び上げていく。
その背中を見送りながら、私の思考は再びあの合金の特性へと回帰していた。
当初、私は『オーシャン』を「信じられないほど頑丈な建築資材」程度にしか考えていなかった。
しかし、テストの過程で予想外の特性が判明したのだ。
強力な機械的振動を受けると、その結晶格子が共鳴エネルギーを蓄積し始める。
無論、『カオス』のように自らエネルギーを生成するわけではない。
だが、ごくわずかなロスでエネルギーを保存し、放出することができた。
頭上からの大声が、私の思考を遮った。
見上げると、足場の上でクララとダーウィンが激しく言い争っている。
大げさな身振りを交え、互いの胸を指でつつき合いそうな勢いだ。
クララは接合プレートを「重ね合わせるべきだ」と頑なに主張し、ダーウィンはそれを真っ向から否定して「溝付きの継ぎ手」に固執していた。
後戻りできない暴言が飛び交うより早く。
ノアが音もなく二人の間に飛び降り、エリリアが苛立たしげに腕を振り回しながら彼らの目の前に滞空した。
二人は文字通り、口論する彼らを両へ引き離した。
荒い息を吐きながら、ダーウィンがそのコンビをねめつける。
「お前ら……お前ら二人が、俺たちを仲裁する気か?」
ノアが不機嫌そうに返す。
「他に誰がやるってんだよ」
ノアはこちらに顔を向け、下に向かって叫んだ。
「おい、アイアン! なんとかしてくれ。じゃねぇと、この茶番が夜まで続くぞ」
私は塔の根元まで車椅子を走らせた。
口論の火種となった接合部を見上げ、疲れたように眉間を揉む。
「どっちも間違っている」
私はよく通る声で言った。
「クララ、重ね合わせれば、最初の強風で上部の張力線が弾け飛ぶ。ダーウィン、あんたの塞がった溝では共鳴回路が完全にブロックされ、『オーシャン』が波を分散できなくなる」
「第3の選択肢を採る。左へ2度ずらした、貫通固定だ」
バツが悪そうに、だが落ち着きを取り戻し。
二人は黙って工具を手に取り、作業に戻っていった。
この小競り合いの後、作業はスムーズに進んだ。
しかし、炎天下での連続作業は確実に彼らの体力を奪っていた。
4時間の過酷な組み立て作業を終える頃には、マレクの部下たちは再び息を上げ始めていた。
連携が乱れ、重い足取りに足場の丸太が悲鳴を上げる。
ダーウィンに至っては、巨大なクランプを落としかけていた。
「降りろ!」
私は車椅子の車輪をロックし、大声で命じた。
「昼休憩だ。30分休め」
建設作業員たちは一斉に安堵の溜息を漏らすと、工具を放り出し、転げ落ちるようにして構造物から降りてきた。
広場の脇に積まれた丸太の上に、彼らは密集して座り込む。
ちょうどその時、数人の女性たちがやってきた。
彼女たちは手際よく、栄養満点の温かいシチューが入った深い木の椀と、分厚く切った焼きたてのパンを配っていく。
キャンプに短い静寂が訪れる。
聞こえてくるのは、スプーンが当たる鈍い音と、疲れ果てた男たちの荒い息遣いだけだった。
食事が終わるや否や、私は全員を現場へと急き立てた。
内部の螺旋階段の足を固定し、段の継ぎ目を調整しなければならない。
その退屈で単調なルーティンを、少しでも紛らわせるかのように……。
エリリアが突然舞い上がり、濃密な風の奔流で、二つの巨大な接合ブラケットを同時に持ち上げた。
ノアのそばを通り過ぎる際、彼女は勝ち誇ったように鼻を鳴らしてキーキーと声を上げた。
「見てよ、ノア! 私、二人分働いてるんだから! そっちで寝てたんじゃないの?」
ノアは重いアンカーボルトを掴み、手のひらでの強力かつ正確な一撃で溝の奥深くに打ち込んだ。
そのまま素手で鋼のナットを締め上げる。
彼はエリリアを横目で睨みつけ、冷ややかに言い放った。
「気ぃつけろよ、チビ。こっちは五人分の仕事をしてるんだ。文句も言わずにな」
私は下から二人の対抗意識を眺めつつ、『リュモン』を通して階段のアライメントをチェックしていた。
彼らの言い争いは、明らかに他の労働者たちを刺激し、全体の作業ペースを引き上げていた。
「やれやれ、勝者に幸あれ、だな」
私は呆れたように首を振り、小さく呟いた。
その後すぐに車椅子をマレクの方へ向け、残りの大工チームの指揮へと意識を切り替える。
深い夜の闇がドルンハイムを包み込む頃。
私は疲れ切ったチームを今日の作業から解放した。
闇が濃くなる中、現場はあっという間に無人となる。
私は車椅子を反転させ、自室へと戻っていった。
工房に入るとすぐにランプに火を灯し、机を部屋の真ん中に引き寄せて、新たな図面に没頭した。
時間は迫っていた。そして上層階には、途方もない精度が要求される。
高く登れば登るほど、条件は厳しさを増していく。
幾何学的な計算がわずかでも狂えば、この何トンもの構造物は、最初のテスト起動の瞬間に内側へと崩落してしまうだろう。
私は何時間もかけて接合部を検証し、『リュモン』に安定性シミュレーションを何度も繰り返させた。
そんな深夜の静寂の中。
最終プラットフォームの剛性角の計算を終えようとした、まさにその時。
目の前のグラフが、突如として暗転した。
【警告:生体再生プロセス完了】
バックグラウンド修復プロセス:100%
筋繊維および神経繊維:安定
現在のステータス:下肢の完全再生を確認。
『リュモン』の声が、不意に脳内に響き渡った。
私は凍りついた。
指先から鉛筆が滑り落ち、机の上を転がって、床のどこかへと落ちる。
車椅子の肘掛けを握りしめていた両手は瞬時に感覚を失い、心臓が胸の中で狂ったように早鐘を打った。
ゆっくりと。
何が起きているのかまだ完全には理解できないまま、私は視線を下へ向けた。
「再生……した……?」
私は、聞き取れないほどの声で息を吐き出した。




