第162話:引き裂かれた設計図
朝の最初の太陽の光が、ドルンハイムを覆う灰色の霧の隙間からかすかに差し込んでいた。
ノアは鉱山の方からゆっくりと歩いてきて、凝り固まった首を疲れ切った様子で回した。
上着はこびりついた炭塵で汚れ、頭の中にはただ一つの願いしかなかった。
一刻も早く、自分のベッドに潜り込むこと。
入り口のすぐ手前で、エリリアが彼の行く手を遮るように横切った。
彼女は緑色の火花の尾を引きながら、空中をぐるぐると回っている。
ノアは足を止め、精霊を忌々しげに睨みつけた。
「またサボりか?」
彼は吐き捨てた。
「私がサボってるですって!?」
彼女の高い声は、正当な怒りで今にも破裂しそうだった。
「私の魔法は、あんたの錆びついた鉄くずを全部合わせたよりも、ドルンハイムの役に立ってるわ!」
「土を固めて、石を平らにしてあげてるのよ。それに……」
彼女は誇らしげに鼻を高くした。
「地底にあるあの黒い鉱石は、すべて自然が作ったもの。つまり、私が作ったのと同じよ」
「だからあんたは、私の慈悲に寄生して生きてるだけのヒルなのよ!」
ノアの顎がピクリと跳ねた。
彼は深く息を吸い、満身の力で彼女を殴り飛ばしたい衝動
「もういい」
ノアは手を振って、陰鬱に呟いた。
「アイアンはどこだ? 夜明けに報告に来いと言われてるんだ」
エリリアは一瞬でそれまでの勢いを失い、当惑したように瞬きをした。
「知らないわ……。工房からは絶対に出てないはずだけど」
二人は揃って重い木製の扉へと近づいた。
ノアが慎重にそれを押し開ける。
床は丸められた下書きの紙屑、割れたるつぼ、視覚的なノイズのような木炭の粉で埋め尽くされていた。
そして、その混沌の真ん中。
作業台のすぐ後ろに、アイアンが座っていた。
彼は文字の並んだ羊皮紙の束の上に頭をのけぞらせたまま、車椅子の上で意識を失うように眠りこけていた。
顔色は青白く、目の下には深い黒い隈が浮かび、頬と衣服は煤で汚れている。
片腕はだらりと下方に垂れ下がり、床に触れるか触れないかの位置にあった。
その周囲には、何らかの巨大なタワーを描いた、描き立ての精緻なスケッチが散らばっている。
ノアとエリリアは顔を見合わせ、それから同時に、技術者の肘の真下に敷かれている中央の紙に目を留めた。
エリリアが意識を集中させる。
タワーを描いた最も大きく、最も詳細な図面が、机の上からふわりと浮き上がった。
だが、その紙がわずか五十センチも浮き上がらないうちに、ノアの腕が稲妻のように空を切った。
彼は紙の端を掴み取った。
「俺が先に見る」
声を出さずに唇の動きだけで命じ、図面を手元に引き寄せる。
エリリアはすぐさま前に突っ込み、羊皮紙の反対側の端にしがみついた。
「よこしなさいよ! 私が浮かせたのよ!」
精霊は紙を自分の側へ引き込もうと低く唸った。
「離せ、破れるだろ!」
ノアは前腕で相手をブロックしながら、図面を自分の方へと引っ張った。
エリリアは魔法を使って、満身の力で引っ張った。
次の瞬間、二人は互いにあまりにも鋭く、反対方向へと羊皮紙をむしり取った。
バリッ。
魔法の負荷とノアの速度が重なり、分厚い紙は大きな破裂音を立てて、数十の細かな、不揃いの破片へと引き裂かれた。
その音で、アイアンが跳ね起きるように目を覚ました。
彼の頭が揺れ、重いため息をついて目を開ける。
ノアとエリリアは石のように硬直した。
瞬きする間に、二人は図面の残骸をかき集め、それぞれの背後へと隠した。
「お、起きたか?」
ノアは左目を微かに引きつらせながら、どうにか親しげな笑みを作った。
「おはよう」
「そ、そうね、おはようアイアン! よく眠れた?」
エリリアが甲高い声を出した。
アイアンは眠たげに顔を顰め、煤に汚れた額を擦ると、すぐにタワーの計算に戻ろうと作業台に手を伸ばした。
ノアと精霊が視線を交わす。
「おいおい、落ち着けって。いきなり仕事か?」
ノアはアイアンの腕を掴み、彼の手が机に届くのを阻んだ。
「自分の姿を見てみろ。顔を洗ってこい。頭を冷やすんだ」
「そうよそうよ! まずはご飯を食べて!」
エリリアも彼の頭の周りを激しく飛び回りながら調子を合わせた。
「絶対に体を洗ってきて!」
「分かった、分かったから……」
彼は車椅子を反転させながらぼやいた。
「ただ、ここのものには何も触るなよ」
車輪が静かに唸りを上げ、アイアンは扉の向こう、居住区画へと消えていった。
扉が閉まった瞬間、ノアとエリリアは同時に大きく息を吐き出した。
だが直後、ノアは背側に隠していた紙切れの山を作業台の上にぶちまけた。
エリリアもそこへ急降下する。
「直せ! お前の魔法を使え! 早く!」
ノアは破れた端を合わせようと苦闘しながら、低く鋭く言った。
「私、紙を直す魔法なんて知らないわよ!」
エリリアはパニックになって叫んだが、それでも指先に緑の火花を散らせた。
魔法が破片を包み込む。
だが、それらが結合する代わりに、精霊の焦りのせいで、薄い羊皮紙の端が微かに焦げ始め、黒ずんでいった。
「やめろ馬鹿、燃やしちまうだろ!」
ノアは彼女の指を押し退け、手作業で破片を集めようとした。
「ええと、これがタワーの角で……いや、これは歯車か……クソ、なんで線が噛み合わないんだ!? お前の羽のせいで台無しだ!」
「あんたの手が引きちぎったんでしょうが!」
エリリアが言い返した。
図面を復元するのは不可能だと悟り、ノアは紙のゴミを拳で掴み取ると、机の隅にある重い鋳鉄製のるつぼの下へと押し込んだ。
重い扉が勢いよく開いた。
アイアンが工房に入ってくる。
すでに顔を洗い、髪は濡れ、顔色はさっぱりとしていた。
手にはきれいな水の入ったカップを持っている。
「なぜお前たち二人はまだここにいるんだ?」
彼は疑わしげに目を細めた。
「いや、その……お前の部屋の、体にいい空気を吸ってただけだ」
ノアは真顔で言い切った。
アイアンは首を振り、車椅子を机に近づけて作業台に視線を落とした。
手のひらで木肌をなぞる。眉をひそめた。
もう一度、机の上を見回す。
「おかしいな……」
彼は静かに言った。
「固定式タワーのメイン図面はどこだ? 確かにここに置いておいたはずだが」
その瞬間、ノアの心臓が跳ね上がった。
エリリアは目を瞑り、心の中でアイアンに謝罪した。
アイアンは唇を噛み、車椅子の周囲の床に目を向け、それから重いため息をついた。
「まさか隙間風で吹き飛んだのか……? 奇妙だな」
彼は車椅子の引き出しに手を伸ばし、いくつかの書類を漁ると……。
滑らかな動作で、全く汚れのない、そして先ほどと完全に同じ発信器の詳細な図面が描かれた羊皮紙を取り出した。
「まあいい。最初から二つの複製を作っておいて正解だったな」
「重要なプロジェクトは、万が一燃えたときのために必ず複製を取っておく。昔からの癖だ」
ノアとエリリアは同時に息を吐き出した。
ノアは微かに体勢を崩し、精霊は力なくインク瓶の縁へとへたり込んだ。
アイアンが二人に視線を上げ、眉をひそめた。
「お前たち二人、大丈夫か? なんだか顔色が悪いぞ」
「全く問題ない!」
二人の声が完璧に重なった。
「俺は坑道の点検に行ってくる!」
ノアは踵を返しながら怒鳴るように言った。
「私は……木の様子を見てくるわ!」
エリリアが甲高い声を残し、換気口の隙間から弾丸のように飛び出していった。
アイアンは二人の奇妙な様子にただ首を振るだけだった。
彼は複製の図面を広げ、木炭を手に取ると、防護周縁の計算へと没頭していった。
超音波の波がどのようにドルンハイムを覆うのか、詳細に脳裏に描きながら。
突然、彼の目の前の空気がいつものように揺らめいた。
システムインターフェース『リュモン』の半透明の文字列が、柔らかな淡い青色の光を放って浮かび上がる。
【警告。下肢の自動再生プロセスが50%完了しました。筋肉の緊張が部分的に回復しています】
アイアンは、厚手の毛布の下に隠された自分の足へとゆっくりと視線を落とした。
50パーセント。
(こういう良いニュースなら、もっと頻繁に届けてくれてもいいんだぞ、リュモン)
彼は内心でそう呟いた。




