第161話:エミッター塔
作業台の上に、小さなガラスの小瓶が置かれていた。
中には一掴みの灰と、溶けて固まった極小の金属の雫が見える。
アイアンは指先でゆっくりと小瓶を回した。
この「代物」をかつて分析した際の、無機質な記録が脳裏に蘇る。
『B-4型ポリマーの痕跡。リチウム塩の残留。高濃度の二酸化ケイ素。暫定結論:携帯型能動防護超音波発信器。動力源は内蔵セル』
「ポケットサイズの玩具か」
彼は独りごちた。
「これを集落全域を覆う巨大なドームへと拡張する……悪辣な難問だな」
『回路Z』をそのまま拡大しようとするのは、技術的な自殺行為に等しかった。
黒い鉱石があったのは、まさに破格の幸運と言える。
その結晶格子は、高周波の超音波パルスを保持するのに完璧な構造をしていた。
アイアンは小瓶を机の端に置いた。
まっさらな紙の分厚い束を手元に引き寄せ、鋭く削られた鉛筆を握る。
「まずは共振回路からだ」
誰もいない部屋の虚空に向かって、静かに呟いた。
微かに擦れ音を立てて、芯が紙に食い込んでいく。
最初の数式、コイルの配線図、長大な特性インピーダンスの計算が、紙の上に溢れ出し始めた。
地中深く、湿った息の詰まるような坑道。
そこでの生の律動は、ツルハシが刻む鈍く規則正しい打撃音によって支配されていた。
ノアは周囲より数フィート高い岩の張り出しに立っていた。
「おい、第三セクター!」
彼の鋭い声が響き渡る。
「泣き言を言ってる暇があったら手を動かせ。急げ!」
作業員たちは額の汗を拭いながら、ペースを落とすことなく小声で毒づいた。
黒い石を山積みにした手押し車が、途切れることのない列をなして昇降機へと運ばれていく。
地上では、ドルンハイムが全く異なる労働で沸き立っていた。
エリリアは薄暗い灰色の建物の合間を、音もなく飛び回っていた。
精霊は彼女なりの方法でドルンハイムを「装飾」していた。
彼女が通り過ぎた場所では、石の隙間から蔓や強靭な根が突き出し、脆い土壌を強固に締め付けた。
地面は硬化し、起伏は平らになり、巨石は粉々に砕けて塵へと変わる。
将来の土台や作物のためのスペースが、次々と切り開かれていった。
集落の外周から少し離れた場所では、ハンマーの音が次々と響いていた。
マレクの指揮下にある大工たちが、新しい宿舎を建て、防柵の隙間を埋めている。
マレクはアイアンの古い、油で汚れた図面を何度も確認しながら、接合部を完璧に合わせるよう男たちに要求していた。
「その丸太をもっと上げろ!」
彼は若い男に向かって怒鳴りつけた。
「アイアンの指示じゃ、この骨組みは破城槌に耐えなきゃいけないんだ! なのに手のひら一枚分の隙間が開いてるじゃねえか! やり直せ!」
深夜。工房の内部。
アイアンは頭からつま先まで煤にまみれていた。
シャツの袖を肘まで捲り上げ、顔色は死人のように青白い。
目は充血し、異様な光を宿していた。
ケイ素の基板が、融解した黒い鉱石と融合することを頑なに拒んでいた。
考えつく限りの比率で調合を試みたが、結合は絶望的なほどに不安定なままだった。
小さなテスト用セルは、鈍い爆発音を立てて破裂しては作業台に刺激臭のする火花を撒き散らすか、さもなければ一瞬で冷え固まり、脆く使い物にならないスラグ(鉱滓)へと変わった。
技術者は、またしても台無しになったるつぼを部屋の隅に投げ捨てた。
行き止まりだ。
完全な、破綻。
アイアンは車椅子の背もたれに深く体を預け、小瓶を手に取った。
灰を手のひらにぶちまけ、溶けた極小の金属の雫を指先で捕らえる。
薄暗い明かりの中で目を細め、それを目の前にかざした。
「お前は……、そうか、そういうことか!」
「周波数モデリングだ。なぜ今まで気づかなかったんだ?」
アイアンは木炭を掴み、携帯型発信器の古い図面を太い線で激しく塗り潰した。
大きなまっさらな羊皮紙を強く押さえつけ、彼の腕は猛烈な勢いで全く異なる構造を描き殴り始めた。
紙の上に、巨大で堅牢な建造物のシルエットが浮かび上がっていく。
集落の真中心に据えられるべき、黒い鉱石の重厚な芯を持つ、超巨大な固定式発信タワー。
アイアンは笑みを浮かべた。
そして木炭を紙に強く押し付け、これから生まれるタワーの防護半径を計算し始めた。




