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第159話:また夜の小競り合い

寒気。


闇。


バンカーのゲストエリアを見下ろす岩の張り出しは、ひどく狭かった。


ノアは片膝を胸元に引き寄せて座り、重厚なオーク材の扉をじっと見つめていた。


その向こうでは、ヴァルデス王が眠っている。


この位置だけが、通路全体を完璧に見渡せる唯一の場所だった。


任務をこなすだけなら、どうということはない。


――隣にいる、この連れさえいなければ。


エリリアは、ノアの肩より少し高い岩の隙間に陣取っていた。


羽を小刻みに震わせ、淡い緑色の光を放っている。


退屈のあまり、彼女は森の単調なメロディを小声で口ずさみ始めた。


「いい加減、黙れ」


ノアは振り返りもせず、吐き捨てるように言った。


「はいはい、わかりました」


エリリアは他人事のように返事をした。


わずか三秒の静寂。


そして彼女は、全く同じメロディを、半音上げて歌い直した。


ノアの奥歯が軋んだ。


(持ち場を離れるわけにはいかない。だが、耳元でこの嫌がらせのような鼻歌を聴かされ続けるのは、限界だ)


ほんの一瞬、ノアは張り出しから飛び降りた。


階下、石積みの継ぎ目で、鋭い金属音が響く。


彼は瞬時に元の場所へと飛び戻った。


ただ、その左手には、瑞々しく水分を含んだ根の束が握られていた。


エリリアが昨日、このエリアを補強するために三時間もかけて壁沿いに編み込んだ根だ。


ノアは見せつけるように、切り取った蔦を彼女の小さな顔の前に突きつけた。


そして短剣を抜き払い、精霊の目の前でそれをズタズタに刻み始めた。


歌がピタリと止まった。


ノアが刻んでいたはずの切り株が、彼の掌の中で突如として痙攣するように跳ねた。


次の瞬間、それらは猛烈な勢いで急成長し、彼の(手首)を締め上げた。


太い木質の血管のような触手が前腕から肩へと這い上がり、彼の腕を石壁に縫い付ける。


「ほう、そう来るか」


ノアは静かに息を吐いた。


右手の短剣が逆手に回る。


鈍い音を立てて刃が木肌に突き刺さり、的確な三撃で拘束を断ち切った。


自由になったノアは張り出しから地へと滑り降り、通路の深い夜の闇へと溶け込んだ。


気配を消し、彼女の予測を裏切るために一歩ごとに軌道を変える。


ノアは闇から潜り込み、彼女の背後を取った。


短剣の柄頭で彼女を石壁に組み伏せんと、すでに腕を振り上げていた。


だが、彼女はわずかな空気の振動さえも見逃さなかった。


ノアが突き込もうとしたその瞬間、石の隙間から鞭のような細い蔦が飛び出した。


それは瞬時に彼の攻撃の手と両足を絡め取る。


ノアは踏み込んだ姿勢のまま硬直した。


刃は彼女の頭の一インチ手前で止まっていた。


「かかったな」


ノアが突如、不敵に囁いた。


抗うどころか、彼は指先で短剣を回転させて足元の蔦を切り裂き、その切れ端をエリリアへ向けて力任せに投げつけた。


根は風を切って飛び、彼女の鼻先わずか一ミリのところで、魔法の障壁に阻まれて静止した。


同時にノアは、空いた手で掴み取った植物のクズを彼女に浴びせた。


舞い散る葉と木片の分厚いカーテンが、ほんの一瞬、エリリアの視界を完全に奪う。


防御の隙を突き、ノアは瞬時に位置を変え、再び彼女の背後に回り込んだ。


その指先が彼女の羽を捉えようとした瞬間。


木の葉の向こうの空間がエメラルド色の火花を散らし、彼女は対面の張り出しへと姿を消していた。


ノアは苦々しく顔を歪め、空振りに終わった手を下ろした。


「――テレポートはチートだろ、まったく」


短剣を握り直す。


突如、居住ブロックから重苦しい軋み音が響いた。


鍛冶場のオークの扉がゆっくりと開き、温かみのある黄色い光の帯が石床に溢れ出す。


敷居をまたいで現れたのはダーウィンだった。


ズボン一丁の姿で髭はボサボサ、手には火かき棒を握りしめている。


彼は誰もいない広場に向かって盛大にあくびをし、空いた手で目をこすった。


「こんな夜更けにどこのどいつだ……」


彼は薄暗い中庭を見回しながら、ぶつぶつと文句を言った。


ノアは咄嗟に、小さな精霊の胴体を両手で押さえつけた。


同時にエリリアは身をよじり、ノアの長い髪にその小さな指で全力でしがみついた。


二人は息を殺し、完全に静止した。


お互いに掴み合ったまま、完璧に息を合わせて身を引く。


張り出しの氷のように冷たい窪みの奥へと、深く身を隠した。


ダーウィンは十秒ほどそこに立ち尽くしていた。


やがて首を振り、唾を吐き捨てると、夜の隙間風に身震いした。


「気のせいか……」


彼はそう呟き、奥へと引っ込んでいった。


扉が閉まる。


カン、とかんぬきが下りる音が響いた。


再び、夜の静寂が広場を包み込む。


光が消えた瞬間、エリリアは怒りを再燃させてノアの髪を引っ張った。


「あんたのせいでしょ!」


耳元で、蚊の鳴くような声で威嚇してくる。


「そっちのセリフだ! その下手くそな歌をやめろ!」


ノアは容赦なく手を離し、精霊を岩の張り出しへと放り出した。


激しい小競り合いの後、二人は肩で息をしながら睨み合っていた。


一瞬、純粋な敵意をぶつけ合ったかと思うと、同時に身を乗り出して額を激しくぶつけ合わせた。


ノアの目が危険な光を帯び、エリリアの指先には再び細い緑の火花が宿り始める。


七時間後。


バンカーの天井の隙間から、かすかな朝の光が差し込んでいた。


遠くからは、聞き慣れた斧の音と、目覚めゆく鍛冶場の低い地鳴りが聞こえてくる。


アイロンは車椅子のハンドリムを回し、自室から出てきた。


そこへ、通路の奥からノアが歩み寄ってくる。


その姿は、控えめに言っても満身創痍だった。


上着は数箇所が裂け、肩には小さな緑の葉が張り付き、額には新しい引っかき傷が赤く浮かんでいる。


「首尾はどうだ?」


アイロンは車椅子を止め、静かに尋ねた。


「不審な動きは?」


ノアは疲れた様子で眉間を揉み、首を振った。


「王の側には動きはありません。ただ……なぜかダーウィンが夜中に火かき棒を持って広場に現れました。危うく見つかるところでしたよ」


アイロンはノアの額の傷をじっと見つめた。


(……理由はなんとなく分かるな)


心の中でそう呟く。


「そうか、苦労をかけた。下がって休め」


昨夜。夕食の直後。


重厚なオーク材の扉の奥、王の寝室内。


アリアンは素早く窓の掛け金を確かめ、分厚いカーテンを閉めた。


他の二人の近衛兵は、剣の柄に手をかけたまま入り口で直立不動の姿勢を取っている。


ヴァルデス王は机の傍らに立ち、重い肩当てをゆっくりと外していた。


部下たちを振り返るその眼差しは、鋭くも冷静だった。


「よく聞け」


王は静かに、だが威厳を込めて告げた。


「今夜は一切の武器を使うな。流血沙汰も厳禁だ」


アリアンは意外そうに眉をひそめたが、何も言わなかった。


「ここで大立ち回りを演じれば、街は鉱山を封鎖するだろう。それにアイロンの奴は、己の技術を渡すくらいなら、このバンカーごと自爆しかねん男だ。我々が敵ではないと示すのだ。質問はあるか?」


近衛兵たちは一斉に背筋を伸ばした。


「ございません、陛下」


アリアンが低く応じた。


現在。


アイロンは自室に戻り、車椅子のロックを確認した。


手慣れた動作で膝の上の分厚いウールの毛布を整える。


肘掛けについた目に見えない埃を払う。


その思考は明晰で、冷徹で、極めて計算高かった。


夜間の緊張はすでに完全に霧散している。


技術者はハンドリムに手をかけた。


車椅子がバンカーの石床を滑らかに進み、中央会談室へと向かう。


工房の扉の前では、すでにアリアンが待機していた。


アイロンの姿を認めると、彼は黙って傍らへ退き、道を譲る。


微かに開いた扉の隙間から、鍛冶の煙と淹れたてのお茶の香りが漂ってきた。


ヴァルデス王はすでに作業台の前に腰を下ろしている。


兜は脇に置かれ、木製の天板の上には真っ白な羊皮紙とインク壺が用意されていた。


アイロンは重いオークの扉を押し開けた。


車輪が滑らかに敷居を越え、細かな石屑をかすかに踏み鳴らす。


「おはよう、ヴァルデス」


アイロンは王の正面で車椅子を止め、静かにそう声をかけた。

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