第156話:試練
ドルンハイムの門の外には、『フリークス(不細工)』がそびえ立っていた。
ダーウィンが嬉々として名付けた、その機械のあだ名だ。
それは黒い鉄の塊だった。
蠢く生きた根で頑丈に縛り上げられ、四つの巨大な強化車輪の上に危なっかしく乗っている。
「積め」
アイアンが短く吠えた。
ヴァルターとマレクが、重い岩を後部の荷台に運び込む。
エリリアの根が重量に軋み、圧倒的な重圧の下でピンと張った。
この粗削りな構造が、サスペンションの代わりだった。
アイアンは車椅子に微動だにせず座り、魔法コアの圧力計を見つめていた。
針が激しく震えている。
鉄のシャーシの奥深くで、人間の聴覚の限界すれすれの低い振動を立てながら、アキュムレータが唸っていた。
「やれ、キャプテン。始動だ」
ヴァルターは狭い運転席に身をねじ込んだ。
粗雑な操縦レバーの間に、そのがっしりとした肩を辛うじて収める。
彼は体重をかけ、鋼鉄のメインレバーを手前へと力いっぱい引いた。
機械が跳ねた。
鋭く、荒々しい金属の軋み音が、静かな朝の空気を引き裂く。
そして車輪が地面を噛み、分厚い芝土をえぐり取った。
『フリークス』は十ヤードほど前方に飛び出し、激しい衝撃とともに停止すると、汚い青色の濃い煙を吐き出してエンストした。
「ストップ! 止めろ!」
重いレンチを構えたダーウィンが駆け寄ってくる。
「左の車軸! へし折れるぞ!」
彼は泥の中に飛び込み、シャーシの下へと滑り込んだ。
リズミカルで重いハンマーの打撃音が、静まり返った集落に響き渡り、街の残りの人々を目覚めさせた。
二十分後。
ダーウィンは機械の腹の下から這い出し、顔についた黒い油を布で拭き取った。
「これで持つはずだ。多分な」
ウェイランドが前に進み出た。
重厚な旅外套を羽織り、背中には両手剣を背負っている。
「時間だな」
伯爵は冷ややかな視線をアイアンに向けた。
「ああ。あんたの理論が正しいことを祈るよ、伯爵。良い旅を」
「可能な限り早く戻る」
ウェイランドは約束した。
「ああ。それと、ヤンを探すのも忘れないでくれ」
「忘れはしないさ」
ヴァルターが運転席に座りながら呟く。
ウェイランドも後に続き、重い鉄の扉をガチャンと閉めた。
キャプテンがレバーを引く。
今度はよりスムーズに動いた。
バンカーの壁に機械の咆哮が反響し、『フリークス』は南の獣道へと加速していく。
彼らが視界から消えた後も、誰もいなくなった道には分厚い土埃の帳が長く漂っていた。
ドルンハイムに、突如として深い静寂が降りた。
アイアンは車椅子を反転させた。
背後には、ノアとエリリアが立っていた。
二人は今にも互いの喉笛に噛みつかんばかりだった。
自然の精霊は怒りで鼻を膨らませており、一方のノアは短いトレンチナイフの先で無頓着に爪の掃除をしている。
「さてと」
ノアが門の方へ顎をしゃくった。
「大人たちは行っちまったな。これでお前がボスってわけか?」
「俺はいつだってボスだ」
動かない足に掛かった布を直しながら、アイアンは答えた。
「もっとも、お前ら二人を見ていると、この街は予定より早く飢え死にするんじゃないかと思えてくるがな」
エリリアが勢いよく振り返った。
彼女の目が、激しいエメラルドの光を放つ。
「こいつに言ってやってよ!」
「生き残ってからというもの、自分が何か必要不可欠な存在であるかのように振る舞ってるのよ。傲慢で、偉そうに」
「こいつのいちいち口を挟む実況のせいで、一歩も歩けやしないわ」
「お前こそ、ワガママなガキみたいな真似はやめるんだな」
ナイフから目も離さずにノアが反論する。
「お前のクソ忌々しい根っこがそこら中に蔓延ってるんだよ」
「昨日なんて、お前の根の先っぽが俺の部屋にまで入り込んできやがった。次やったら、薪の代わりに燃やしてやるからな」
「日を追うごとにうっとうしくなりやがって」
アイアンは肘掛けを手のひらで強く叩いた。
重い打撃音が、瞬時に二人の口論を断ち切った。
「いい加減にしろ」
「お前ら、前は協力してやっていただろう。何が変わった?」
「こいつに聞いて」
エリリアが不満げに呟く。
「本当に耐えられない」
「こいつに聞けよ」
ノアが言い返す。
「このガキのヒステリーのせいで、そのうちこの街は破綻するぜ」
アイアンは重く、ゆっくりとため息をついた。
「なら、こうしよう」
彼の声は硬さを増し、冷徹な指揮官のトーンへと変わった。
「今日、お前ら二人は一緒に森へ行け」
「目的は肉だ。イノシシでも、シカでも、ミュータントでも構わん」
「街には食料が必要なんだ」
ノアは反論しようと口を開いたが、アイアンはそれを途中で遮った。
「これは命令だ。条件付きのな」
「もし上手く連携できずに手ぶらで戻ってきたり、この広場までお前らの泣き言が聞こえてきたりしたら……」
「ノア、お前は一週間、戦術訓練の権利を剥奪する」
「そしてエリリア」
アイアンの視線が精霊を射抜いた。
「北セクターのエネルギー結節点を封印する。あるべきではない場所に根を這わせることは、もう一切許さん」
「一本の木に縛り付けられ、ただの庭の茂みとして生きることになる。分かったな?」
彼の声が、ほんの少しだけ和らいだ。
「お前たちは両方とも関係を修復したがっている。ただ、プライドが高すぎてそれを認められないだけだ」
「さあ、行け。お前らがチームであることを証明してみせろ」
ノアは石畳に唾を吐いた。
「クソガキが」
「装備を整えろ。十分後には境界線の外に出ているようにな」
「はいはい」
ノアは文句を言いながら、森の地帯へと背を向けた。
エリリアはアイアンに舌を出してから、ノアの後を追ってふわりと飛んでいった。
アイアンは彼らの遠ざかる背中を見つめながら、皮肉な考えを脳裏に走らせた。
(なんであいつらは俺の言うことを聞いてるんだ?)
(まあ……機能しているなら、文句を言う筋合いはないが)
森の奥深く。
ノアが先頭を歩いていた。その足取りは音もなく、乾いた枝の上を滑るように進む。
両手には、鈍く光る一対の短剣。
数歩後ろでは、エリリアが茂みを抜けて無音で宙を漂っていた。
「もう少し静かに動けないのか」
振り返らずにノアがこぼす。
「私こそが森なのよ」
エリリアがシューッと音を立てて威嚇する。髪に編み込まれた小さな葉が、苛立ちでカサカサと鳴った。
「ここではあなたこそがよそ者よ」
彼らは小さな空き地に出た。
その中央、倒れて腐りかけた樫の木の幹のそばで、三頭の野猪が地面を掘り返していた。
巨大な化け物だった。背骨はギザギザの骨の隆起で武装され、牙は人間の前腕ほどの長さがある。
ノアは低く身をかがめ、筋肉をバネのように引き絞った。
「俺が両脇をやる。お前は真ん中のデカい奴だ」
エリリアは目を細め、その瞳の奥で緑色の残り火が激しく燃え上がった。
「あなたに指図される覚えはないわ」
ノアが爆発的なダッシュを見せた。
ぼやけた影となって下草を駆け抜け、一頭目の喉元へ向けて刃が致命的な弧を描く。
――その時、獣の足元の地面が爆発した。
太く、節くれだった根が土を突き破ったのだ。
だが、根は獣を貫く代わりに、ただ宙へとカタパルトのように跳ね飛ばした。
不意を突かれたノアは、落下してくる巨体の真下へと突っ込み、朽ちた切り株に肩を強く打ち付けた。
イノシシは五ヤード先に落下し、甲高い鳴き声を上げると、転がりながら茂みの中へと逃げ去っていった。
「あら」
エリリアは上品な手を口元に当てた。
「手が滑っちゃったわ。よくあることよね」
ノアはゆっくりと立ち上がった。その頬には、粗い樹皮で擦れた赤い擦り傷ができている。
「滑っただと? ふざけてんのか、クソが?」
二頭目のイノシシが即座にエリリアに向かって突進した。
彼女は平然とした自信を漂わせて手を上げる。地面が震え、絞め殺すような蔓の網を放つ準備が整った。
だが、最初の蔓が獣の蹄を捉えるより早く、彼女の耳元を短剣がかすめて飛んでいった。
鋼の刃はイノシシの眼窩に綺麗に吸い込まれ、柄の根元まで深く突き刺さった。
慣性に従って、巨大な死体は泥をえぐりながら滑り、精霊の足元から数インチのところで停止した。
ノアは少し離れた場所に立ち、無造作に袖の泥を払い落としていた。
「おや、俺も『滑っちまった』みたいだ」
「木を狙ったんだが、お前の獲物に当たっちまった。よくあることだよな」
「あなたって人は……!」
エリリアが激怒する。
「私の獲物だったのよ! 捕らえてたのに!」
「ああ。それで、お前はその自慢の雑草で絞め殺すのに三十分もかけるつもりだったんだろ」
「街に必要なのは肉であって、演劇の舞台じゃないんだよ」
彼らは空き地の中央に立ち、互いを焼き尽くさんばかりの視線を交わした。
エリリアの足元にいるイノシシが血まみれの最後の一息を吐き、動かなくなる。
三頭目の獣は、とうの昔に深い茂みの中へと消え去っていた。
「本当に耐えられないわ」
エリリアが毒づく。
「王様みたいに振る舞ってるけど、実際はただのつまらない男じゃない」
「お前はただのガキだ」
「その小さな緑色の脳みそにも分かる言葉で言ってやる。お前は剪定し忘れた苗木だ」
「うるさいだけで、何の役にも立たねえ」
突然、森の奥深くから音が響いた。
追い詰められた獣の鳴き声でも、風の音でもない。
それは、本能的に背筋が凍るような、低く、喉の奥から絞り出すような唸り声だった。
空き地の端の深い茂みが揺れる。
「霧の猟犬だ」
ノアが言った。彼の声色は、些細な口論から一瞬にして真剣なものへと変わっていた。残された短剣を握る指に力がこもる。
「四匹。いや、五匹だ」
エリリアは緊張し、彼女を包むエメラルドのオーラが厚い盾へと凝縮された。
「見えてるわ。両翼から回り込んできてる」
燃える石炭のような目をした、巨大で毛の抜け落ちた化け物たちが開けた場所へと姿を現した。
恐ろしいほどの同調で動き、二人の周りに包囲網を狭めてくる。
最初の一匹がノアに飛びかかった。
彼はその一撃を避けたが、二匹目の獣が空中での彼の跳躍を阻む。
ノアは咄嗟に短剣を掲げ、決死の防御を見せた。
牙が彼の顔に食い込む寸前、エリリアが手で空を切り裂いた。
重厚な根が地面から飛び出し、猟犬の後ろ脚を捕らえ、力任せに後方へと引きずり倒す。
その一瞬の隙で、ノアには十分だった。彼は短剣を化け物の喉元深くへと突き立てた。
ノアは両足で着地し、荒い息を吐いた。
「思い上がるなよ」
彼は茂みに視線を走らせながら吐き捨てた。
「俺一人でも対処できた。呪文を編もうと必死な顔が哀れだったから、情けをかけてやっただけだ」
「よく言うわね!」
エリリアが噛み付く。
手首を鮮やかに振るうと、二本の木の幹を引き寄せ、三匹目の猟犬の頭蓋骨を瞬時に粉砕した。
「あなたはドッグフードになるまであと一秒だったのよ」
「私が助けたのは、獲物の代わりに役立たずの死体なんて持ち帰ったら、アイアンがヒステリーを起こすからよ。本当に厄介者なんだから」
「ああ、そうかい。そりゃどうも」
ノアは暗くニヤリと笑い、四匹目の化け物の噛みつきを潜り抜けた。
「口より手を動かせ、苗木。次は俺じゃなく、犬っころに当てるようにな」
二人は独立した個として戦い、毒のある嫌味を言い合い、互いの邪魔をしていた。
しかし徐々に、戦闘の動的なリズムが融合し始めていた。
ノアが側面を晒した場所には、防御バリアが具現化する。
エリリアの呪文が貴重な一秒の集中を要する時には、閃くノアの鋼が牙を遠ざけた。
だが、なんという悪夢か。一匹倒すごとに、森の黒い深淵からさらに二匹が這い出してくるかのようだった。
「数が多すぎるぞ、雑草!」
ノアが荒い息を吐きながら叫んだ。彼の背中が、古い松の木の粗い樹皮にぶつかる。
黒い外套には真新しい切り傷が走り、青白い肌が覗いている。浅いかすり傷の下では、すでに傷が塞がりかけていた。
彼の両腕は狂ったように動き、短剣が防御の『8の字』を描いていた。
だが、猟犬たちは密集した群れで押し寄せ、彼から動き回るスペースを奪っていく。
エリリアは空き地のまさに中心にいた。
棘と根の荒れ狂う嵐に囲まれ、飛びかかってくる魔物を空中で叩き落としている。
彼女の顔は死人のように青ざめ、エメラルドの輝きは不規則に脈打っていた。
「見えてるわ! 盲目じゃないんだから!」
防衛線を突破してきた猟犬に巨大な上の枝を叩き落とし、彼女は金切り声で叫んだ。
「南から押し寄せてきてる! あっちに巣があるに違いないわ!」
群れが再編成のために後退した。
傷だらけで巨大な五匹のリーダー格が牙を剥き、多方向からの連携攻撃の準備を整えている。
「いいか、聞け」
彼女の方を横目で睨みながら、ノアが吠えた。
「今すぐ息を合わせないと、俺たちはお陀仏だ」
「この空き地を丸ごと一掃できるような、強力な技はないのか?」
弱まっていく防御を必死に維持しながら、エリリアは一瞬だけためらった。
「あるわ。『森の怒り(ラース・オブ・ザ・フォレスト)』」
「根が地面から飛び出して破壊的なドームを作り、中のものをすべて粉砕する」
「でも時間が必要よ。十秒間の、絶対的な集中が」
「俺がその十秒を稼いでやる」
ノアが言った。その声は平坦で、致命的な響きを帯びていた。
「いいか、絶対にヘマをするなよ。外すな」
「分かってるわよ!」
エリリアは痙攣するように息を吸い込み、目を閉じた。
目も眩むほどの激しいエメラルドの光が彼女の体から噴出する。
足元の地面が沸き立ち、根が複雑なルーンの曼荼羅を編み上げ始めた。
彼女の防壁は完全に消滅した。
彼女の無防備さを嗅ぎ取り、群れが一斉に襲いかかった。
ノアは真正面から迎え撃った。
踏み込む。閃く鋼が、先頭の猟犬の脇腹に深い赤い溝を刻む。
そのまま低い姿勢で転がり、次の一匹の下へ滑り込むと、下から上へ真っ直ぐ腹に刃を突き立てた。
一秒。二秒。三秒。
三秒稼いだ。
彼の自殺行為にも等しい攻撃性に困惑し、獣たちは一瞬だけ怯んだ。
だが、直後に倍の怒り狂って彼に襲いかかる。
四秒。五秒。六秒。
凶悪な爪が彼の太ももを引き裂いた。
ノアは歯の間から息を漏らし、よろめいたが、純粋な意志の力だけで立ち続けた。
しかし、背後から巨大な猟犬に突き飛ばされ、顔から泥の中へ叩きつけられる。
「エリリア、早くしろ!」
背骨にのしかかる獣の窒息しそうな重圧に抗いながら、ノアがかすれた声で叫ぶ。
七秒。八秒。九秒。
エリリアの両目が開いた――それは、目も眩むような純粋なエメラルドの光を湛えた、二つの湖。
彼女は両手のひらを、力いっぱい地面に叩きつけた。
「『森の怒り(ラース・オブ・ザ・フォレスト)』!」
古代の攻城兵器ほどもある、節くれだった巨大な根が土から噴出する。
それらは絡み合い、空き地の上空を覆い尽くし、巨大な脈打つドームを形成した。
骨が砕ける恐ろしい音、死にゆく魔物たちのくぐもった遠吠え、そして純粋な自然魔法の深く反響する唸り声が、空気を満たす。
爆風で空き地の端まで吹き飛ばされたノアは、仰向けに倒れていた。
荒い息を繰り返しながら、その惨劇を見つめていた。
一分も経たぬうちに、嵐は静まった。
木のドームは再び地中へと消え去り、後にはズタズタに引き裂かれた土と、猟犬の無残な死体の山だけが残された。
エリリアは草の上に崩れ落ちた。その呼吸は途切れ途切れで、浅い。
彼女のまばゆいオーラは、今や弱々しく枯渇した瞬きへと消え失せていた。
ノアはゆっくりと身を起こし、血まみれの足で彼女の方へと足を引きずった。
彼女の上に立ち尽くして一瞬ためらい、それから手を差し伸べる。
「いい気になるなよ、雑草」
顔を背けながら、彼はぶっきらぼうに言った。
「お前があまりにも惨めな姿だったから、手を貸してやっただけだ」
「それと……まあ。ありがとな。ちゃんと正しい的に当ててくれて」
エリリアは彼を見上げ、次に彼の手を見た。
弱々しい、歪んだ笑みが彼女の唇に浮かぶ。
「よく言うわ」
「あなたこそ、あいつらの朝食になるところだったじゃない」
「私があなたを生かしておいたのは、アイアンが機嫌を損ねるからよ……まあ、分かるでしょ」
「それに……ありがとう。時間を稼いでくれて」
太陽が沈みかけ、地平線を凝固した血のような色合いで染め上げていた。
ノアは重い足取りで進んでいた。破れた外套で作った即席のロープを引き、巨大なイノシシの死骸を引きずっている。
その後ろでは、エリリアが弱い根の網目を使って、三匹の霧の猟犬の死骸を引きずっていた。
ノアの顔は乾いた泥と黒い血にまみれている。
エリリアの姿は半透明に近く、その生命力は明滅する消えかけの炭火のように縮小していた。
アイアンは門のところで彼らを待っていた。
毛皮を敷いた車椅子に座り、手の中で真鍮のメーターを弄っている。
ノアは重く、湿った音を立てて、技術者の足元にイノシシを放り投げた。
「お前のペットの雑草のせいで、丸太の山の下敷きになるところだったぜ」
ズボンで手を拭いながら、彼は文句を言った。
「次は俺一人を行かせてくれ。こいつは、化け物一ダース分よりもよっぽど危険だ」
「よく言うわね」
エリリアはため息をつき、獲物のそばの地面へ崩れ落ちた。死骸を運んでいた根が力を失い、死に絶える。
「私が手を出さなければ、あなたは穴だらけにされてたわ」
「自分がどれだけ素早いか見せつけたいがために、馬鹿な危険を冒したのよ。惨めだったわ」
「惨めだと? お前が呑気に花を咲かせてる間、俺が秒単位で時間を稼いでやってたんだろうが」
「俺がいなきゃ、お前は手すら上げられなかったはずだぜ」
「はいはい」
彼女は軽く手を振って目を閉じ、呟いた。
「その話はダーウィンに取っておきなさいな。英雄のベッドタイムストーリーが好きなのは、あの子でしょ」
アイアンは慣れた、分析的な視線で二人を観察していた。
ノアが毒づきながらも、エリリアが背中を寄りかかれるように、さりげなくイノシシの死骸を引き寄せてやったことを見逃さなかった。
そして、精霊がこっそりと細く光る蔓を伸ばし、ノアの引き裂かれた太ももへと這わせたことにも気づいていた。
その苗は微かな熱を帯びて脈打ち、引き裂かれた爪痕を塞いでいく。
(子供だな。どっちも)
アイアンはそう思った。
「前はこんなに言い争ってはいなかったはずだが」
彼は口に出して言った。
「暗闇の中で、共通言語でも見つけたか?」
「互いに死ぬほどムカつく相手だってことが分かっただけさ」
ノアは腰から水筒を取り出しながら言った。
彼は長く喉を鳴らして飲み、それをエリリアに差し出す。
彼女は無言で受け取り、一口飲んでから返した。
「だが、こいつとはなんとかやっていける」
アイアンは頷いた。
「ノア、こいつをバンカーに運んでやれ」
アイアンが命じる。
「それから獲物を倉庫へ回せ」
「明日からが本番だ。ウェイランドもヴァルターもいない。俺たちの負担はたった今、倍になった」
ノアは口答えしなかった。
彼はエリリアを抱え上げると、無遠慮に自分の肩に担ぎ上げた。
「いい気になるなよ、雑草」
敷居へと振り向いた時、彼は彼女の耳元で呟いた。
「俺がお前を運んでやるのは、お前があまりにも酷いツラをしてるからだ」
「さっさと歩きなさいな、『必要不可欠な存在』さん」




