第155話:残留熱
五日。
ドルンハイムはついに泥沼から這い出した。文字通りにだ。
溝が掘られ、排水設備が敷かれた。
夜の雨水は壁の外へと流れ出し、大通りを沼に変えることはなくなった。
車椅子の車輪の下で、砕石が沈み込むこともない。
ハイブリッド家屋が整然と立ち並んでいる。
エリリアの伸ばした根が、古い石材と新しい木材を強固に結びつけている。
煙突からは細い煙が立ち上っていた。ヴァルターが薪の配給を厳格に管理しているのだ。
難民たちも体制に組み込まれた。
マレクはタフな男だった。
今まさに、彼と南から来た二人の若者が、大槌で焼け残った壁を粉砕し、砂利に変えているところだ。
荒い息を吐きながらの重労働だったが、彼らの動きにパニックの欠片もない。
森は沈黙していた。斥候たちは手ぶらで帰還する。
ミュータントも、巡回兵もいない。
今朝などは、ダーウィンが「俺たちはリスから身を守るためにバンカーを作ってるのか」と大声で冗談を飛ばしていたほどだ。
アイアンは門の上の見張り塔の木製の足場に座っていた。
地上から四メートル。ウェイランド伯爵がその横に立っている。背筋を伸ばし、両手を後ろで組んでいた。
「彼らは戦争が終わったと思っている」
広場を見下ろしながら、ウェイランドは平坦な声で言った。
アイアンは左車輪のブレーキを確認した。カチッ。機構は正常に作動している。
「そう思わせておけばいい。精神がリラックスしていれば、生産時の不良品も減る」
ウェイランドは、遠くに見える黒い森の帯へと冷ややかな視線を移した。
「危険だ。君自身も分かっているはずだ」
アイアンはただ車椅子を反転させ、下へ続くスロープへと向かった。
「工房へ行く。未解決の課題があるんだ」
工房には、機械油と焦げた粉塵の匂いが立ち込めていた。
机の上には、銅線で縛り付けられたレンズのシステム――原始的な顕微鏡が置かれている。
その下には一つまみの粉。Zという男のガジェットの残骸だ。
アイアンは目が焼けるように痛むまで接眼レンズを覗き込み、手のひらで顔を拭った。
「成分は単純だ。だが……回路の辻褄が合わない」
「どうやってこのちっぽけなゴミ屑から、あれほどの出力の超音波を発生させた?」
「エミッターはどこだ? 冷却システムは?」
アイアンは独り言を呟いた。
「こいつは三日間も稼働するどころか、最初の十秒で溶け落ちているはずだ」
「ここでの物理法則が根本から違うか、決定的なパーツが欠けているかのどちらかだな」
頭が割れるように痛んだ。アイアンは丸二日以上眠っていない。
建設、計算、パトロール、おまけにこの粉だ。目の前を灰色の星が飛んでいる。
ドアが静かに軋んだ。ノアが部屋に入ってくる。
彼は机に近づき、アイアンを見て、それから灰色のゴミの山を見た。
「死体みたいな顔だな」
アイアンは瞬きをし、焦点を合わせようとした。
「邪魔をするな」
ノアは静かに手を伸ばし、レンズを脇へどかした。アイアンは元に戻そうと身をよじったが、指が言うことを聞かない。
「『回路の辻褄が合わない』、ね」
ノアは鼻を鳴らした。
「寝た方がいいぜ」
「時間がない」
「四時間寝たところで街は崩壊しねえよ」
ノアは切り捨てた。
彼はアイアンに向かう窓からの光を遮るように立った。
「それに、健康管理もできねえ指揮官なんて御免だね。お前が図面の上でよだれを垂らしてる時に襲撃でも来たら、何の役にも立たねえだろ」
アイアンは無言で車椅子を回し、工房の隅へと向かった。そこには硬いマットレスが床に直に敷かれている。
「三時間後に起こせ」
マットレスに身体を移しながら、彼は言い捨てた。
「はいはい」
ノアは壁に寄りかかり、何もないドアから目を離さずに応じた。
眠りは鉛のように重かった。
アイアンは目を開けた。
工房は暗く、廊下からの鈍い光だけが空間を二つに切り裂いている。
口の中には焦げた油の味がした。耳鳴りがする。
[警告]
[深い睡眠フェーズにおいて、魔力リザーブの12%を加速再生に消費しました。]
彼はマットレスから脚を下ろして座った。
ドアの枠にはヴァルターが立っていた。険しい顔つきで、鎧をきつく締めている。
「起きたか? 伯爵が広間で待っている。全員を集めた」
アイアンは無言で車椅子に乗り移った。両手は習慣で正確に動く。車輪が床板を擦る音を立てた。
中央広間。
バンカーの広間は冷え切っていた。ウェイランドは暖炉のそばに立ち、その中ではわずかに炭が燻っている。
ヴァルターはその右肩の後ろに控えている。ノアは柱に寄りかかり、自分の爪を眺めていた。
「三日後、私はここを発つ」
ウェイランドが平坦な声で言った。
「領地の状況を確認する必要がある。ドルンハイムに供給されていた『心臓』からのエネルギー流は、爆発後も消滅していない疑いがある。方向が変わっただけだ」
伯爵はアイアンへと視線を移した。
「アイアン。君は私の隠れ家に押し入り、実に見事な働きをしてくれた。私の手帳まで盗んでな」
アイアンは沈黙した。
「だが、君は不注意だった」
ウェイランドは軽く手を動かした。
「私の家の紋章が描かれたタペストリーが掛かっていた、あの壁の裏。そこには隠し通路がある」
「それは下層へと続き、アキュムレータ(蓄電池)へと繋がっている。私の個人的な『予備の心臓』だ」
「まだ動いているとでも?」
アイアンは尋ねた。
「膨大な残留電荷が蓄積されているはずだ。もしそれが不安定になれば、大惨事になる。私が行かねばならない」
「三日後だ」
ウェイランドはアイアンに近づいた。
「道のりは遠い。道なき道を走らせれば、普通の馬は一日で潰れるだろう。何か……もっと速いものが必要だ」
アイアンは自分の手を見つめ、それから工房に残してきた図面に思いを馳せた。
彼の脳裏に、Zの粉まみれのアーティファクトの回路図と、自ら設計した重金属の構造物が一瞬交錯する。
「俺に、三日で車を作れと?」
彼は乾いた声で確認した。
「その通りだ。君はエンジニアだろう、アイアン。解決策を見つけろ」
ウェイランドは踵を返し、広間を出て行った。
アイアンは工房に戻った。ノアは相変わらず壁にもたれかかり、空っぽの机を見つめている。
Zの粉は同じ場所、レンズの下にあった。
「聞いたか?」
ノアは首も向けずに尋ねた。
「伯爵様は垂直離着陸できる馬車でもお望みらしい。それとも、何を打ち直すつもりだ?」
アイアンは重い鉄の部品を床に落とし始めた。
「ダーウィン!」
アイアンは、バンカーに隣接する鍛冶場に向かって叫んだ。
「蝶番作りは放り出せ。フレームが必要だ。それと、強化ベアリング付きの車軸を四本だ」
一分後、煤まみれの眠そうな見習いがドアに姿を現した。
彼は前掛けで手を拭き、アイアンの足元にあるガラクタの山を見た。
「今何時だと思ってんだ?」
ダーウィンはぼやいたが、その目にはすでに興味の火が灯っていた。
「炉に火を入れろ。仕事の話だ。馬無しの荷車が要る。後輪駆動だ。レバー式のトランスミッション」
「それから、最初の岩にぶつかったくらいでバラバラにならないサスペンションだ」
ダーウィンはしゃがみ込み、車軸の一つを調べた。
「馬無し? 誰がそいつを引っ張るんだよ?」
「すぐに分かる」
アイアンは机の上に真新しい羊皮紙を広げた。短い鉛筆が紙の上を猛スピードで走る。
それは、トロッコと山岳用バギーのハイブリッドだった。
安定性を高めるための低重心設計。
焼き入れ鋼の帯を巻き、緩衝材としてエリリアの生きた根を巻き付けた幅広の車輪。
「ここを見ろ」
アイアンは図面を指で突いた。
「心臓部だ。ここにアキュムレータを載せる」
「旧市庁舎の廃墟から引きずり出してきた、あの『ブラックボックス』だ。パルス出力用に再調整する」
「爆発するぞ」
ダーウィンは短く結論づけた。
「坩堝鋼のカバーを作り、間に湿った砂と鉛の層を挟めば爆発しない」
「さらにエリリアの根で補強する。余分な熱はあれが吸収してくれる」
アイアンは再びZの灰色の粉を見た。頭の中でまだ回路は完成していなかったが、一つの原理は掴んでいた。
振動だ。奴は高周波を使って魔物を追い払っていた。
ならば、低周波を使ってピストンを動かすこともできるはずだ。
原始的か? ああ。効率的か? それは三日後に分かる。
一時間後、作業は本格的に熱を帯びていた。
鍛冶場では四方八方に火花が飛び散る。ヴァルターも重い資材を運ぶのを手伝っていた。
「エリリア!」
アイアンは振り返らずに呼んだ。
精霊がすぐそばに姿を現した。不満そうな顔をしている。
「お前の根が必要だ。最高に弾力があって頑丈なやつがな」
「このシャフトに巻き付けてくれ。魔法ブロックからの回転を車軸に伝達するんだ」
「これほどの負荷がかかれば鋼のチェーンは引きちぎれる。だが、お前の枝なら伸び縮みして耐えられる」
エリリアは目を細め、ガチャガチャと音を立てる機械を眺めた。
「私に、この醜い鉄くずの一部になれと言うの?」
「ああ」
アイアンはそっけなく答えた。
一日目の夜半には、フレームが完成していた。
黒い金属でできた、無骨で角張った骨格。
もし伯爵の言うことが真実で、彼の領地に本当にアキュムレータがあるのなら、状況は一変する。
「走ると思うか?」
ノアが後ろから近づき、アイアンに冷たい水の入ったマグカップを差し出した。
「走るはずだ。ダーウィンが車軸でヘマをしておらず、俺がパルスブロックの極性を間違えなければな」




