第152話:灰の上の礎
朝は咳から始まった。
宙には細かい石灰の粉塵が舞い、喉を詰まらせ、目を刺した。
ドルンハイムの中心部は、今や採石場のようだった。
黒焦げになったスレートの山、砕けたレンガ、そしてかつて市庁舎だった壁のギザギザの残骸。
アイアンは一番近い瓦礫の山から十歩ほど離れた場所で、車椅子に座っていた。
顔は即席の防塵マスク代わりの灰色の布で覆われている。
ズボンを石の粉塵から守るため、膝には分厚い防水布が掛けられていた。
「準備はいいか?」
マスクのせいでくぐもった声で、彼は尋ねた。
三メートルの壁の残骸の上に立つダーウィンが、手を振った。
彼の手には『コンバーター』が握られていた。四方八方に突き出した銅線を束ねて粗くハンダ付けされた、重い鋼鉄の立方体だ。
ただの屑鉄の塊に見えるが、その内部ではすでに、この地の石の共振周波数に合わせられたコイルが唸りを上げていた。
「固定完了だ!」
ダーウィンは下に飛び降りながら叫んだ。
「鼓膜を破りたくなかったら、下がってな!」
ヴァルターと数人の部下は、すでに焼け残った納屋の角に身を隠していた。
ノアは黒焦げの梁に寄りかかり、木片で歯をいじっている。
粉塵を一番気にしていないように見えたが、そんな彼でさえ、澱んだ煤の匂いには顔をしかめていた。
アイアンは肘掛けのパネルに触れた。
『リュモン、同期。外部バスにパルスを送信しろ』
[ステータス:接続確立。]
[周波数:14.2 kHz。]
[ストレージ充電率:82%。]
[警告:銅線コイルの過熱リスク大。]
『知るか。やれ』
アイアンは頭の中で命じた。
音はすぐには鳴らなかった。
まず、空気が重く振動し始めた。
次いで、細く耳を刺すような高音が響き渡る。
立方体が取り付けられた壁が、細かく震え出した。
石にひび割れが走り、何トンもある一枚岩が、乾いた音とともに崩れ落ち、細かい砂利へと変わっていく。
十秒後、高音は止んだ。
壁があった場所には、簡単に運び出せる大きさに砕けた瓦礫の山が、綺麗に積み上がっていた。
ダーウィンは瓦礫の山に近づき、灰色の破片を一掴みすくい上げて指先で擦った。
「上手くいったな」
彼は汗を拭い、鼻を鳴らした。
「バールで三週間かかる仕事が、たった十秒で粉になっちまった」
アイアンは顔からマスクを引き下げ、息を吸い込んだ。
「リュモン、残りは?」
[充電率:64%。]
[注記:湿った石に対する作業では効率が低下します。]
「ヴァルター!」
彼はキャプテンに向かって叫んだ。
「野郎どもを動かせ。正午までにこの場所を片付けるぞ。基礎の準備が終わらなけりゃ、夜には全部台無しになる」
ヴァルターは角から顔を出し、砂の山を恐る恐る見つめた。
「動け!」
彼は部下たちに命じた。
「シャベルを持て!」
アイアンは車椅子の背もたれに寄りかかり、男たちが瓦礫の撤去に取り掛かるのを眺めていた。
軋む音。金属が地面に落ちる鈍い音。
ノアは膝まで瓦礫に埋もれて立っていた。
その顔は険しく、錆と重油にまみれている。
彼は旧市庁舎の基礎から突き出た、曲がった鉄骨の端を掴んだ。
勢いよく引く。コンクリートが砕ける音がした。
「山に放り投げとけ」
アイアンはタブレットの図面から目を離さずに言った。
ノアは二メートルの鉄の塊を放り投げた。
「板を削れ」
ヴァルターが応じた。数メートル先で、キャプテンは斧を振り下ろし、焼け残った垂木を削っている。
ダーウィンはガラクタの山を漁っていた。
曲がった釘を一つのバケツに投げ込み、蝶番や掛け金は別のバケツへ入れる。
「こいつは鍛冶場行きだ」
ダーウィンは歪んだ溝形鋼を蹴りつけた。
「こっちは真っ直ぐに伸ばす。アンカーに使える。何一つ捨てるなよ」
アイアンは木片に木炭で骨組みの図面を描き殴っていた。
短い線、矢印、数字。剛性接合部の計算。
「ノア、右セクターだ」
アイアンは沈み込んだ壁の方を指さした。
「そこに鉄筋の帯が引っかかってる。根こそぎ引き抜け。岩盤まで基礎を剥き出しにしなきゃ、一週間で建物全体が傾くぞ」
ノアは無言で壁に向かって歩き出した。
作業は断続的に進んだ。
汗ばんだ彼らの背中に、粉塵が灰色の層となって降り積もる。
「アイアン」
ヴァルターは斧の柄に寄りかかり、息をつくために手を止めた。
「お前の言う『メッシュ』とやらは本当に耐えられるのか? 壁が薄すぎる。破城槌を一発食らえば、それで終わりだぞ」
「耐えるさ」
アイアンは顔を上げなかった。
「これは補強リブだ。幾何学だよ、ヴァルター。正しく組めば、建物が振動を吸収する。曲がりはしても、折れはしない。生きた木と同じだ」
彼はノアを見た。
ノアが最後のピンを引き抜いたところだった。彼の顔色は最悪だったが、そこらの労働者一ダースよりも五倍は速く働いていた。
「仕分けは終わったか?」
アイアンは綺麗になった四角い地面を見回した。
「使えるもんは全部回収した」
ダーウィンが最後のバケツを荷車に放り投げる。
「現場は空っぽだ。杭打ちを始められるぜ」
アイアンは頷いた。
太陽が森の方へ傾き始めている。彼女を呼ぶ時間だ。
「エリリア。出てこい」
精霊が近くに姿を現した。
彼女は地面から半メートルほどの宙に浮かび、ベタつく泥に触れないよう慎重に足を縮めている。
「また?」
彼女は顔をしかめた。
「コレギウムとの戦いで力を貸してくれたのを忘れたのか? お前の魔法は生命のためのものだ」
アイアンは、ダーウィンとノアが打ち込んだ鋼鉄の杭が立つ深い穴を指さした。
「鋼鉄は骨だ。木は骨格。だが、俺には靭帯が必要なんだ」
彼は下から彼女を見上げた。
「この試掘穴が見えるか? 下には岩盤がある。金属を石に結びつけろ。根を張るんだ。地下三メートルの深さまで。絶対に引き抜けないよう、すべての杭に絡みつかせろ。それが生きた基礎になる」
エリリアは少し高度を下げ、両手を地面に突き刺した。
最初は何も起きなかった。
やがて、足元の地面が震え出した。
低い地鳴りが響き、それは石が砕ける乾いた音へと変わる。鋼鉄の杭の周りの土が蠢き、波打つように広がっていく。
穴の奥底から、太く茶色い束が飛び出し始めた。
それは金属と擦れて軋む音を立てながら、鋼鉄をきつく締め付け、ダーウィンが残した一つ一つの刻み目に食い込んでいく。
アイアンはリュモンを通して、土壌の構造が変化していくのを観察していた。
[ステータス:基礎強化中……40%……70%。]
[土壌の異常な高密度化を検知。強度が12倍に増加しました。]
エリリアは荒い息を吐いていた。
極度の疲労から、彼女の顔はほとんど透明になっている。
根はヒューヒューと音を立てて地下へと潜り込み、鋼鉄と岩盤を一つの強固な塊へと完全に縛り付けた。
五分後、すべてが静まった。
エリリアはふらつきながら立ち上がった。
彼女のドレスには泥の塊がへばりついている。
「終わったわ」
彼女は額を拭った。
「でも、もう二度とこんなこと頼まないで」
「ありがとう、エリリア」
アイアンは今日初めて、その口調を和らげた。
彼はダーウィンとヴァルターの方を見た。
二人は離れた場所に立ち、ただの鉄の柱が森の一部へと変貌する様を、呆然と見つめていた。
「何を突っ立ってる?」
アイアンは言い放った。
「梁を運べ。根がまだ柔らかいうちに、骨組みに叩き込むぞ」
空は汚れた灰色に色褪せていた。
敷地の端にある焚き火が爆ぜ、骨組みに長く不規則な影を落としている。
鋼鉄のカスガイで固定された木の梁が、高さ三メートルまで組み上がっていた。
その間を、あのエリリアの根が這い回っている。今やそれは乾き切り、黒ずみ、埋れ木のように硬くなっていた。
建物の見た目は異様だった。普通の家にしては低すぎ、あまりにも重厚すぎるのだ。
ウェイランド伯爵が、アイアンの後ろに歩み寄ってきた。
彼のブーツの底が、新しい砂利を踏んでジャリッと鳴る。
「基礎はできたな」
建物の骨格を観察しながら、伯爵は静かに言った。
「市庁舎みたいだ。いや、私の顧問官たちの家か」
アイアンは、今まさにダーウィンが分厚い板で塞いでいる、狭い開口部を見つめていた。
「市庁舎じゃない」
彼はそっけなく答えた。
「家でもない」
ウェイランドは基礎に沿って歩いた。
彼は鋼鉄の杭の一つに触れる。根が強く巻き付いたせいで、金属が僅かにたわんでいる。
「住居にしては凝りすぎているな。壁の厚さが一メートル半? 狭い窓? 君は一体何を建てるつもりだ?」
「トーチカを建ててるんだ」
アイアンは車椅子の車輪を回し、伯爵と正面から向き合った。
「ラインハルトは来る。時間の問題だ」
アイアンは、いまだに遠吠えが聞こえてくる森の方を指さした。
「あの窓を見てみろ、ウェイランド。射界は百二十度だ。屋根は焼夷弾が転がり落ちるように傾斜をつける。ここは防衛の心臓部になる。この建物が落ちれば、その周りにいくら何かを建てようが、すべて落ちる」
伯爵は、窓枠のぽっかりと空いた黒い空間をじっと見つめていた。
そこへノアが近づいてきた。血まみれのナイフをズボンで拭いている。どうやら夕飯の残りを解体していたようだ。
「棺桶みたいだな」
ノアが言った。
「随分と立派で、頑丈そうな棺桶だぜ」
「招待状もなしに入り込もうとする奴らにとっては、まさにな」
アイアンは冷たく切り捨てた。
「ヴァルター! 今日はここまでだ。明日は、壁の隙間に石の破片と樹脂を混ぜたものを流し込む。雨が降る前に、箱の形だけは完成させなきゃならない」
ヴァルターは了解の意を示すように手を振った。
労働者たちが散り散りになり始めた。




