第149話:轍(わだち)での待機
ドルンハイムは灰色の泥濘の中に静まり返っていた。
アイアンは天幕の下に座っていた。
防水布のテントは重たげにたわみ、その端から大粒の滴が、彼の冷めた粥の入った器へと直接落ちて汚い音を立てた。
外では、濁った霧越しにぼやけた人影が動いている。
鈍い斧の音が聞こえる。濡れた木が軋む。
ノアが重い丸太を肩に担いで歩いていた。ブーツが泥に深く沈み込む。
彼は新しい兵舎の骨組みのそばに丸太を投げ捨てると、泥だらけの前腕で額の汗を拭った。
エリリアはその近くを飛び回っていた。
深い霧の中では彼女の光も弱々しく、色褪せて滲んだ緑色のシミのように見える。
彼女はもうおしゃべりをしていなかった。ただ空中に留まり、ノアが丸太を落とすべき場所を指示している。
霧の中からヴァルターが現れた。片足を引きずっている。
悪天候のせいで古傷が痛み出しているらしく、一歩踏み出すごとに顔をしかめていた。
「ラインハルトの期限は切れた」
天幕のそばで立ち止まり、キャプテンはしわがれ声で言った。
「街道は完全にもぬけの殻だ」
アイアンは自分の膝へと視線を移した。
膝掛けはすっかりずぶ濡れになっていた。
「静かなのは悪いことか?」
彼は尋ねた。
「あの伯爵がさっさと来て、鉱石を持って行ってくれた方がマシだった」
ヴァルターは唾を吐き捨てた。
「これじゃあ……トラバサミにかかって座り込んでいるようなもんだ」
アイアンは濡れた手のひらを膝掛けで拭った。
だが、羊毛はすでに水をたっぷり吸い込んでおり、ほとんど意味がなかった。
腹は減っていたが、器に入った灰色のドロドロを見ただけで吐き気がした。
『診断結果はどうだ、リュモン?』
彼は頭の中で尋ねた。
[システムステータス:クリティカル]
・エネルギー回路:1.1%(伝導障害)
・中枢神経回路:2.1%(神経結合の修復遅延)
推奨:栄養補給、保温、睡眠。
「栄養、保温ね……」
アイアンは皮肉な笑みを浮かべた。
彼は自分の足を見つめた。
一歩も歩いていないのに、ブーツは泥まみれだった。誰かが急いでいてぶつかったのだろう。
彼は全神経を集中させ、右太ももの筋肉をただ緊張させようと試みた。
頭の中で鋭い電子音が響いた。
太ももが僅かにピクリと動いた瞬間、耐え難い鈍痛が足に食らいついてくる。
彼は歯の隙間から息を漏らし、手が肘掛けを死に物狂いで掴んだ。
車椅子が軋む。車輪の一つが、泥濘の中へ少しだけ深く沈み込んだ。
『みんなが俺を信じてくれているのに、実際は雨から逃げることすらできない役立たずのお荷物だなんてな。クソったれだ』
アイアンは苦々しく思った。
「2.1、か」
彼は声に出して呟いた。
「まあいい。少なくともゼロじゃない」
彼はヤスリを手に取った。
膝の上にある部品の削り出しを終わらせなければならない。さもないと、明日またダーウィンが「作業が止まってる」と愚痴り始めるだろう。
五時間後。
ダーウィンがブーツで泥音を鳴らしながら、天幕へと歩いてきた。
彼は再製錬された鉱石の塊を、作業台の端に放り投げた。
「これを見てくれ」
ダーウィンは袖で鼻を擦り、機械油を頬に塗り広げながら言った。
「脆すぎる。スラグ(鉱滓)が多すぎて、掻き出すだけで腰を悪くしそうだったぜ」
アイアンはその破片を爪で引っ掻いた。
金属が剥がれ落ち、指先に灰色の粉が残る。
「完璧だ」
彼はぶっきらぼうに言った。
ダーウィンは彼が狂ったかのような目で見つめた。
「天幕の下に居すぎて頭がおかしくなったか? こんなもんじゃ、まともなツルハシ一本打てやしないぞ。石を一発叩いただけで砕けちまう。それなのに、これで昇降機用のベアリングの支持部品を鋳造しろって言うのか?」
「その通りだ」
アイアンは羊皮紙を自分の方へ引き寄せた。
紙の下部は湿気を吸ってボロ布のように柔らかくなっており、炭が酷く滲んで太く黒い線を残していた。
「ここを見ろ。ベアリングの公差を変えたんだ。本来必要な隙間より、ほんの数分の一ミリだけキツくしてある。文字通り、髪の毛一本分だ」
ダーウィンは身を乗り出し、薄暗い光の中で目を細めた。
「噛み込むぞ」
「すぐにはな」
アイアンは歪んだ笑みを浮かべた。
「最初は連中も潤滑油を差すだろう。そうすりゃ、可愛らしく回ってくれるさ。驚くほどスムーズに。静かにな。五日くらいは保つ。だがその後、お前の作ったその『ガラス』みたいな鉄が内部で砕け始めたら……ドカン、だ」
「爆発するか?」
ダーウィンが囁く。
「もっと酷いことになる。一番最悪なタイミングで、機械全体が役立たずのガラクタの塊に変わるんだよ。ちょうど、昇降機に一トンの鉱石を載せきった瞬間にな」
ダーウィンは後頭部を掻いた。リスクを天秤にかけながら、彼の頭の中で歯車が回っているのが透けて見えるようだった。
「もしサボタージュだとバレたら……俺たち全員終わりだぞ。ラインハルトはコケにされるために金を払ってるわけじゃないんだ」
「誰が気づくって?」
アイアンは鉱石の破片を山へ放り投げた。
「向こうのエンジニアどもは、完璧な鋼と魔法の強化を使った仕事に慣れきってるはずだ。脆い金属が狭い溝で噛み込んだ理由なんて、連中には分かりゃしない。予期せぬ事故として処理されるさ。どっちにしろ、一か八かだ」
「行け、ダーウィン。部品を鋳造しろ。大事なのは見た目を良くすることだ。外側だけはピカピカに磨き上げとけ」
ダーウィンは無言で鉄の塊を拾い上げ、霧に溶け込みながら、のろのろと炉の方へ戻っていった。
アイアンは一人取り残された。
喉が渇いていたが、マグカップに手を伸ばすためだけに必要な労力が、今は途方もないものに思えた。
その夜、寝る前に彼らは焚き火の周りに集まり、間近に迫ったラインハルトの到着について話し合った。
薪は湿っていて、熱よりも煙ばかりを出している。
刺激の強い煙が目に沁み、涙を誘った。ヴァルターが、アイアンの車椅子の横にある倒木に腰を下ろす。
「巡回がいない」
キャプテンはくぐもった声で言った。
「ここ二日、街道には人っ子一人いない。完全に死に絶えたみたいだ」
向かいに座り、スープの骨をかじっていたノアが声を発した。
「単にスケジュールを変えただけじゃないのか? それか、別の区画に回されたとか」
ヴァルターは首を振った。
「いや。俺自身で古い監視所まで行ってみたが、空っぽだった。馬の蹄の跡はあった――新鮮なやつがな。だが、全部街の方へ戻っている。まるで一斉に呼び戻されたかのようだ」
「ラインハルトの奴、何かトラブルにでも巻き込まれたのか?」
ノアがアイアンを見た。
「ほら、誰かに襲撃されて、俺たちにかまってる余裕がないとか。宮廷での政治的な足の引っ張り合いとかさ。もしかして、荷物をまとめて逃げ出す時間ができたんじゃないか?」
「どこへ逃げるって?」
アイアンは鼻で笑った。
「車椅子を引きずって森の中を進むのか? 大して遠くへは行けないぞ」
それに、彼の頭には別の考えもよぎっていた。
『そもそも、なんで出て行かなきゃならない? どんな状態だろうと、ここはまだ俺たちの家だ』
「即席の担架くらい作れるさ」
ノアが呟く。
「それで飢え死にするか、最初に出くわした魔物に引き裂かれるのがオチだ」
ヴァルターが遮った。
「巡回が消えたからといって、俺たちが忘れられたわけじゃない」
「俺が思うに」
アイアンがゆっくりと口を開いた。
「連中が退いたってことは、もう俺たちを監視する必要がなくなったってことだ。俺たちに逃げ場はないと確信しているか、それとも……」
「それとも、俺たちはすでに切り捨てられたか、だな」
ヴァルターが彼の言葉を締めくくった。




