第146話:窒息する結び目
アイアンは車椅子の金属製のハンドリムを強く掴んだ。
手のひらは汗とグリスで滑りそうだった。
「やれ」
彼は息を吐き出すように言った。
レンガの山の背後にいたノアが、レバーを力任せに引いた。
スチールワイヤーが悲鳴を上げた。
半日かけて削り、縛り上げていた旧市庁舎のファサードが、腹に響くような轟音とともに崩れ落ちる。
コンクリートと錆びた鉄筋の塊が、真っ直ぐに馬車のラッカー塗装された屋根を目がけて突き進んだ。
その瞬間、ラインハルトがただ指を鳴らした。
奇妙な音が響いた。
巨大な瓦礫が、馬車のわずか五十センチ上でピタリと止まった。
宙に浮いたそれは、次の瞬間、ただの灰色の粉塵となって霧散した。
ワイヤーが弾け飛ぶ。
金属の鞭となった破片が石畳を叩き、一人の近衛兵のブーツから数センチのところで火花を散らした。
その男は、眉一つ動かさなかった。
「騒々しいな」
静かで、透き通った声が響いた。
「それに、ひどく見苦しい」
ラインハルトは舞い落ちる塵を巧みに避けながら、彼らの方へと歩いてきた。
シルクのハンカチで指を拭き、ひっくり返った荷車のバリケードに目を向ける。
「からくりか?」
彼はアイアンに視線を向け、その手製の車椅子で目を止めた。
「滑稽だな。子供の頃に壊した古い玩具を思い出す。同じように不格好で、脆い」
アイアンは、背後にいるノアの手がゆっくりとナイフの柄へ伸びるのを感じた。
だが、それが無意味であることも分かっていた。
ヴァルターが一歩前へ出て、アイアンの車椅子を遮るように立った。
「地下室にはまだ火薬が残っているぞ、伯爵。俺が一言合図すれば、お前の馬車もろとも全員吹き飛ぶことになる」
ラインハルトは薄く笑った。
「火薬だと? 湿気った樽に必死でタールを塗っていた、あの出来損ないのことか? 私の部下が五分前にすべて水浸しにしておいたよ。お前たちがその……張り子の芝居に夢中になっている間にな」
彼はハンカチで崩れ落ちた市庁舎を指した。
「もう芝居は終わりだ。ヴェイランドをここへ連れてこい。条件を突きつける前に、まずはあいつが息をしているかどうかを確かめたい」
ヴェイランドが、まるでボロ切れの袋のように天幕から引きずり出てきた。
二人の民兵に両脇を支えられている。
伯爵の呼吸は激しく、胸の包帯には病的な黄色い液体が滲んでいた。
ラインハルトはハンカチを強く鼻に押し当てた。
「ひどい有り様だな」
ラインハルトはハンカチを離したが、距離は保ったままだ。
ヴェイランドは背筋を伸ばそうとしたが、すぐに激しい咳に見舞われて前かがみになり、黒ずんだ血の塊を地面に吐き出した。
「期待外れだったな」
彼は手の甲で口元を拭いながら、掠れた声で言った。
「ここに何の用だ? 自分の領地だけでは満足できないのか?」
ラインハルトは薄笑いを浮かべ、バリケードに沿ってゆっくりと歩いた。
「私のものになるべきものを受け取りに来ただけさ。お前も分かっているだろう」
彼は廃墟の方へ手を振った。
「街はもう存在しない。法も消えた。評議会は見放し、国王もこんな泥溜めに構っている暇はないのだ」
「ここは俺の土地だ」
ヴェイランドは伯爵の足元に血を吐き捨てた。
「俺の民だ」
「お前はもうここの主ではない。その気になれば十分でお前たちを全員捻り潰せる。私の魔術師たちに、この森ごと焼き尽くさせてもいいのだぞ」
「残るのは不毛の荒野だけだ」
アイアンが車椅子から声をあげた。
ラインハルトが彼の方を振り向いた。
「鉄と石炭の鉱脈が眠る、豊かな荒野、だな」
伯爵は優しく訂正した。
「お前たちの命などいらん。欲しいのは資源だ。だが、伯爵を殺すとなると……宮廷で余計な騒ぎになる。官僚的な手続きが面倒でな」
彼は再びヴェイランドに視線を戻した。
「取引をしよう」
ラインハルトが一歩近づいた。
「お前たちはここに残れ。このゴミ溜めの統治者ごっこを続けるがいい。ただし、お前は私の傀儡となるのだ」
ヴェイランドは血に染まった歯を見せ、歪んだ笑みを浮かべた。
「その『慈悲』の代償は何だ?」
「採掘されるすべての鉱石の五十パーセント」
ラインハルトはシルクの手袋をはめた指を折り曲げ始めた。
「さらに、略奪者からの『保護』の名目で十パーセントを上乗せする。それと……」
彼はアイアンを指さした。
「すべての設計図だ。そのガキは、他人がただのクズ鉄と見なす場所にからくりを見出すと報告を受けている。今後、彼は私のために働く」
アイアンはキャプテンを見た。
ヴァルターは石のように硬い表情で、目を伏せていた。
車椅子の後ろでは、ノアがナイフを握るのをやめ、その腕を力なく体の横に垂らしていた。
背後の民兵たちは身を寄せ合い、馬車の側に控える武装した近衛兵たちを怯えたように見つめている。
「鉱石の半分だと?」
ヴェイランドが聞き返した。
「半分だ」
ラインハルトは頷いた。
「まずはな。それと、そのガキが思いつくすべての図面だ。私の部下が月に一度、荷馬車を連れてやってくる。お前たちの仕事は積み込みだ。私の仕事は、略奪者にお前たちの喉が掻き切られないよう保証することだ」
彼は指を鳴らした。
従者が馬車へ駆け寄り、ケースから丸められた羊皮紙と携帯用のインク瓶を取り出した。
ヴェイランドに近づき、書面を差し出す。
「設計図は……」
アイアンが口を開いた。喉は完全に干からびていた。
「俺がいなければ、どう組み立てればいいのか分からないはずだ」
ラインハルトは彼を見ようともしなかった。
「どうにかするさ。お前の仕事は描き、作ることだ。もしからくりが動かなければ、お前を私の城へ連行するだけだ」
ヴェイランドは羊皮紙を受け取った。
その紙は、震える手の中で激しく音を立てた。
彼はそれを読まなかった。
伯爵は薬指から家紋の刻まれた印章指輪を外した。
従者がインク瓶を開ける。
ヴェイランドは印章に赤い練りインクを擦りつけ、馬車のラッカー塗装された泥除けに重々しく寄りかかりながら、書面の右下の角に指輪を押しつけた。
鮮明な赤い印影が残された。
従者は丁寧に紙を回収し、印に息を吹きかけてから、羊皮紙をケースへと戻した。
「素晴らしい」
ラインハルトはコレットの襟元を整えた。
「賢明な選択だ、ヴェイランド」
彼は背を向け、馬車の中へと戻っていった。
扉がカチリと音を立てて閉まる。
柔らかいベルベットのクッションに身を預け、ラインハルト伯爵は目を閉じた。
微かな笑みが彼の唇に浮かぶ。
「取引は期待以上にスムーズに運んだな」
彼は静かに呟いた。
「彼も満足するだろう」
馬車が動き出した。
車輪が砕けた石を踏みしめ、重々しい音を立てて反転する。
近衛兵たちは無言でその後に従った。




