第143話:悟りの重圧
アイアンが最初に目にしたのは、汚れた天幕の天井だった。
太ったハエが、せわしなく脚を動かしながら布の上を這い回っている。
彼はそれを五分ほどじっと見つめていた。
なぜ自分の世界が、この灰色の布切れ一つと、耳障りな羽音だけに凝縮されてしまったのか、それを理解しようとしていた。
耳の奥で、鋭く高い金属音が響く。
頭を動かそうとした瞬間、後頭部に激痛が走った。
「起きたの?」
声は右の方から、くぐもって聞こえた。
首の筋肉に逆らい、アイアンはゆっくりと顔を向けた。
エリリアが寝台の端に座っている。
羽は色褪せ、髪はもつれ、お世辞にも状態はいいとは言えなかった。
彼女は何か乾いた根っこをかじっている。
「どこ……」
アイアンは場所を尋ねようとしたが、喉からは乾いたかすれた音しか漏れなかった。
喉が砂で詰まっているかのようだ。
「ほら、飲んで」
エリリアが小さな手でブリキのマグカップを支え、彼の口元へ運ぶ。
水は温く、錆びた味がしたが、神聖なものに感じられた。
アイアンは数口飲むと、荒い息を吐きながら枕に頭を預けた。
「何があったんだ?」
ようやく絞り出した自分の声は、他人事のように聞こえた。
「あんたが『ドカン』とやったのよ」
エリリアは手の甲で口を拭い、あっさりと答えた。
「ものすごい大爆発。街はもうないわ。ノアがあんたを引きずり出したの。私もね。あんたはずっと……そうね、随分と長く寝ていたわ」
アイアンは目を閉じた。
眩い白い光。
耐え難い熱。
反射的に右腕を動かそうとする。
肩が痛みに反応したが、肘から先は全く反応がなかった。
下を見ると、そこには腕の代わりに灰色の包帯が巻かれた不定形の繭があった。
「俺の腕……」
彼は呟いた。
「あんたの金属のやつ、溶けちゃったのよ」
エリリアが近づき、肩に座りながら言った。
「アルベルトが診たけど、どうにもならなかったわ」
アイアンは唾を飲み込んだ。
そうか。
足指を動かそうとする。
反応なし。
太ももに力を込める。
毛布の下で膝を曲げようとする。
硬直したまま。
薄いシーツ越しに足は見えているのに。
感覚がない。
「エリリア……」
アイアンは、空虚なほど冷静な瞳で彼女を見つめた。
「足の感覚がないんだ」
「知ってるわ」
彼女は静かに言った。
「アルベルトが言ってた。脊髄に直接強い放電が走ったんだって。配線が焼け切れたのよ、アイアン」
アイアンは天井を見つめたまま固まった。
天幕にノアが入ってきた。
ひどい姿だった。
顔はやつれ、目は落ち窪み、右腕は包帯で胴体に固定されている。
アイアンが自分を見ていることに気づき、ノアは入り口で足を止めた。
「死の淵から帰還したってわけか」
ノアは淡々と言った。
足を引きずりながらベッドに近づく。
「お前を捨てて、場所を空けなきゃいけないんじゃないかと本気で考えていたところだ」
「ノア……」
アイアンは肘で体を起こそうとしたが、腕が激しく震え、再び倒れ込んだ。
「足のことだ。本当なのか?」
ノアは寝台の横の木箱に座り、乾いた泥にまみれたブーツを見つめた。
「アルベルトは希望はあると言っている。ごくわずかな可能性だがな。神経が繋がれば、と。だが今は……」
ノアはアイアンの足を一瞥した。
「今は、お前は……足手まといだ。悪いが、嘘はつけない。ただでさえ問題が山積みなんだ」
アイアンは壁の方を向いた。
汚れた天幕、ハエ、消毒薬の匂い。
「街は……完全に消えたのか?」
「完全にね」
ノアが答える。
「巨大なクレーターと灰の山さ。ヴァルターは木の枝で柵を作ろうとしているし、ウェイランドは意識を取り戻して早くも口うるさいしな。俺とダーウィンでお前に椅子を作った。車輪付きのやつをな」
アイアンは歪んだ笑みを浮かべた。
椅子か。
「つまり、俺は公式に不具者になったわけか」
「水を飲んで、愚痴はやめろ。俺たちをこの地獄から引きずり出す図面を描いてもらわなきゃならないんだからな」
アイアンは何も答えなかった。
エリリアが少しでも温もりを与えようと、小さな手で彼の腕を優しく撫でているのを感じる。
天幕の垂れ幕が揺れ、冷たい風と湿った石の匂いが入り込んだ。
アルベルトが入ってきた。
目には重いクマがあり、手はヨードと泥で汚れている。
手にはピンセットと濁った液体の入った瓶を乗せたブリキの盆を持っていた。
「目が覚めたか」
アルベルトはアイアンの目を見ようともせず、ぐらつくスツールに道具を広げた。
「運がいいな。あるいは悪いのか――一週間か二週間経てば分かるだろう」
彼はシーツを剥ぎ取り、アイアンの足を出した。
痩せ細り、青白い。
アルベルトは長い針を取り出し、予告なしに力任せに少年の足の裏へ突き刺した。
アイアンは無感動にそれを見ていた。
胸の内で冷たい結び目がきつく締まるのを感じる。
「何も感じないか?」
アルベルトが目を上げた。
「ああ」
アイアンは淡々と答えた。
「だろうな。放電で腰椎付近の神経の柱が破壊されている。組織は無事だが、繋がりがないんだ」
医者はため息をつき、針をしまった。
「ノアが街から持ってきたありったけの薬を打ったが、奇跡を期待するな。道が自然に繋がるか、さもなくばそれまでだ」
天幕にノアとダーウィンが手作りの椅子を引きずり込んできた。
「さて」
ノアが寝台の横に構造物を置いた。
「『玉座』の試運転の時間だ」
アイアンは……それを見つめた。
「自分でやる」
アイアンは歯を食いしばり、左腕で寝台の端を掴んだ。
「ああ、そうかよ」
ノアは一歩踏み出し、ダーウィンを退かした。
「英雄ぶるな」
ノアはアイアンの腕を自分の首に回した。
「しっかり掴まれ」
ノアは彼の肩を掴んだ。
ノアが緊張するのが分かった。
アイアンの足は死んだように地面を引きずられ、シーツの端を巻き込み、埃を舞い上げる。
自分の体重が途方もなく重く感じられた。
汗が目に滲み、心臓が喉の奥で高鳴り、耳元で痛々しく脈打った。
やっとのことで、短い唸り声とともにノアが彼を硬い座面に下ろした。
椅子が軋んだが、耐え抜いた。
アイアンは金属の肘掛けを指で強く掴んでいた。
「これで一件落着だな」
ダーウィンが額を拭いながらアイアンを見た。
「軸には油を塗ったから、軽く動くはずだよ。ブレーキは……まあ、時々しか効かないから、坂道で運試しなんかするなよ」
椅子の背もたれに乗っていたエリリアが突然そわそわし始めた。
彼女は森から持ってきた新鮮な松の枝を、座面の荒い革に編み込み始めた。
「ほら、こっちの方がいいでしょ」
彼女は埃にまみれてクシャミをしながら宣言した。
「さっきよりずっとマシな匂いよ。アイアン、なんでそんなに静かなの? 今やあんたは艦橋にいる船長さんよ。まあ、その船は……そうね、ちょっとしたポンコツだけど」
「俺を外へ連れ出してくれ」
彼は静かに言った。
「街が見たい」
「今か?」
アルベルトが眉をひそめた。
「休息が必要だ」
「連れ出してくれ」
アイアンは繰り返した。
今度は先ほどよりも大きな声で。
ノアとヴァルターが顔を見合わせた。
出口の陰に立っていたキャプテンが、黙って頷いた。
ノアが椅子の取っ手を握った。
石の上を金属が擦れる音が、キャンプの静寂の中で耐え難いほど大きく響いた。
彼らはゆっくりと「グリーンゾーン」の端へと移動した。
最後の松の木を過ぎた瞬間、アイアンは思わず目を閉じた。
そこにはドルンハイムの姿があった。
瓦礫に埋もれ、煙を上げる巨大な器。
厚い空気の中には、まだ埃が漂っていた。
「これは……」
アイアンは言葉を失った。
喉の奥に塊が突き上げる。
かつて自分の工房があった場所を見つめる。
今はただの砕石の山だった。
「俺がやったのか?」
「俺たちがやったんだ」
ヴァルターが近づき、横に並んで言った。
「だが俺たちは生きている。鉄も残っている」
アイアンは自分の膝に目を落とした。
指が椅子のアーマチュアフレームを痙攣するように握り締める。
「俺が建てたすべて。すべてが……破壊された。全部俺のせいだ」
彼は呟いた。
ノアが近づき、アイアンの後頭部を軽く小突いた。
「ヴァルターも言ったはずだ。もう一度言うぞ。街を壊したのはお前じゃない、俺たち全員だ。もし今ここでしっかり自分を持たないなら、俺は強硬手段に出るからな」
アイアンは歪んだ笑みを浮かべ、袖で鼻を拭い、鼻を鳴らした。
「……お前の言う通りだ。悪かった。そして、ありがとう、ノア」
(それでも……また同じ状況だな)と、彼は心の中で付け加えた。
「よし」
アイアンは息を整えた。
「ノア、鉛筆を見つけてくれ。せめて炭の欠片でもいい。それと、板だ。綺麗なやつなら何でもいい」
「何のためだ?」
ノアがぶっきらぼうに尋ねた。
「枝で柵を作るのはやめてくれ、ヴァルター」
アイアンはキャプテンに目を向けた。
「昇降機が必要だ。生き残りたいなら、この穴から価値のあるものすべてを引きずり出さなきゃならないんだ」
エリリアが嬉しそうに手を叩き、彼の目の前でホバリングした。
「これよ! 私のアイアンはこうでなくっちゃ! 意地悪で、口うるさくて!」
太陽がついに地平線の向こうへ沈み、濁ったオレンジ色の帯だけが残った。
風向きが変わる。
今は平原の方から、湿った草の匂いを運んできていた。
アイアンは軋む椅子に座り、上着の下へ冷気が入り込むのを感じていた。
灰色の毛布に覆われた足は、微動だにしなかった。
時折、不意の痙攣や震えを期待して目を向けるが、何も起きない。
「おい、キャプテン!」
外周の警備ポイントから、掠れた叫び声が響いた。
ヴァルターが身を震わせて振り返る。
薄暗がりの中から、民兵の一人が走ってきた。
ステファンという若い男で、顔は煤でひどく汚れている。
脇腹を押さえ、激しい腹痛にでも襲われているかのように、足元がおぼつかない。
「わめくな」
ヴァルターが彼に向かって一歩踏み出した。
「略奪者か?」
ステファンは呼吸を整えようと首を振った。
「いいえ……略奪者じゃありません。南へ五マイル、古い街道です。騎兵を見ました。少なくとも十人は」
それまで退屈そうに靴先で灰を蹴っていたノアが、カッと背筋を伸ばした。
彼の腕が、本能的に腰のナイフの柄へと伸びる。
「騎兵だと? こんな辺境で? どこからだ?」
「旗を掲げていました」
ステファンは息を切らして言った。
「黄色い地、黒い猪。あの紋章を知っています。ラインハルト伯爵の連中です」
ヴァルターは吐き捨てるように罵った。
「ラインハルト……」
アイアンは注意深く耳を傾けていた。
鉄のフレームを握る彼の指が白くなる。
「ラインハルトだと?」
彼は尋ねた。
「三年前に、鉄鉱山の採掘権を巡ってウェイランド伯爵と争ったあの?」
「そうだ」
ヴァルターが頷いた。
「奴の斥候がここにいるということは……」
「ドルンハイムで何が起きたか、もう知っているということか」
アイアンが遮った。
ノアがアイアンの椅子に近づき、肩に手を置いた。
「ここへ来るのか?」
「今日は来ないだろう」
ヴァルターは暗くなる森の向こうを見つめながら言った。
「斥候は状況を確認して、報告に戻るはずだ。だが、明日か明後日は? 十分あり得る」
それまで椅子の背もたれに静かに座っていたエリリアが、突然飛び上がり、ヴァルターの頭上を旋回し始めた。
「私たち、追い払えるわよね? 剣だってあるし! それに……ノア! あんたは信じられないくらい強いじゃない!」
「重武装した騎兵十人に、四十人の不具者で挑むってか?」
ノアが歪んだ笑みを浮かべた。
「素晴らしい作戦だな、チビ」
「いずれにせよ、明日までは猶予がある」
アイアンはノアに視線を移した。
「俺を天幕に戻してくれ。それからダーウィンを探せ」
話を盗み聞きしていた民兵たちは顔を見合わせた。
彼らの瞳には、深い不安と混じり合った耐え難い疲労が映っていた。




