第138話:暴走する核心
地下の発電室内の空気は重く、湿り気を帯び、金属粉の味がした。
重厚な気密扉は背後で完全にロックされ、アイアンを仲間たちから切り離していた。
目の前には『心臓』がそびえ立ち、その根はドルンハイムの基盤深くへと伸びている。
鉛のケーシングが、細かく低い周波数で振動していた。
区画内の温度はすでに40°Cを超え、技師の顔に浮かぶ汗は瞬時に泥と混ざり合った。
アイアンは中央コンソールへと近づいた。
画面には蜘蛛の巣のような亀裂が走り、通気口からは絶縁材が焦げる臭いが立ち込めている。
プログラムコードを介してリアクターを制御することは、もはや不可能だった。
残されたのは、物理的な直接接触のみ。
彼は『心臓』の基部にある、開いたメンテナンスハッチの前に膝をついた。
内部では、都市の配電網へとエーテルを送り出す太い幹線ケーブルが脈打っている。
左手を伸ばし、アイアンはメインノードから鉛の被覆を力任せに引き剥がした。その拍子に爪が剥がれた。
火花の束がコンクリートの上に降り注ぐ。
頭上、数十メートルの土と石を透過して、ねじ曲がる鉄の長く低い地鳴りのような呻きが響いてきた。
広場にあるヴァルターのドームは、最後の数秒を迎えている。
インクイジターのスキフ群は、光線を一点へと固定しつつあった。
アイアンは、無残に壊れ、溶け落ちた義肢の残骸を、剥き出しの電線の束へと力任せに突き刺した。
電流が彼の回路を駆け抜け、脊椎を狂ったようにのけ反らせる。
ルモン。最大活性化。
鼻腔の毛細血管が弾け、どろりとした暗い血の筋が顎を伝って胸へと滴り落ちた。
高音の、途切れない耳鳴りが耳を貫く。
世界のすべてが闇に没する中、視界は極小の輝く一点へと狭まっていった。
意識が『心臓』と融合する。
鉛の炉心の内部で高まるエーテルの圧力を、彼は感じていた。
頭上で都市を押し潰そうとしている、五つの巨大なエネルギー源を。
彼は冷却回路をショートさせ、『心臓』が生成するすべてのエネルギーを逆流させた。
崩壊した市庁舎の鉄の骨組みを、巨大な導電体として利用する。
それは一瞬の、短絡パルス。
垂直の共鳴。
中央広場で、汗と血に目を眩ませていたヴァルターは、両手に握られた「ラプラスの球」のスイッチが突如として氷のように冷たくなるのを感じた。
上空からの圧力が消失した。
そのわずかコンマ数秒前。
変換される前の、純粋な運動エネルギーの目に見えない柱が、地底――市庁舎の基礎から噴き出した。
そこには色も光もなかった。
ただ空間が歪み、幅百メートルの円柱状の波動となって天空へと立ち昇ったのだ。
生の反エーテルが、艦船の魔力装甲や機関に衝突した。
重金属も、人間の肉体も、エーテルの核も――すべてが一ミリ秒で基本元素へと分解される。
それは灰色のイオン化された塵の雲となり、風によって瞬時に廃墟へと霧散していった。
波動は彼らを貫通して成層圏へと消え去り、鉛色の雲を切り裂いて、かすかな淡い青空を覗かせた。
地下室で、アイアンが鈍い音を立てて横倒しになった。
身体が短く痙攣し、そのまま弛緩する。
接続が切れた。
過負荷が、溶けた義肢の内部回路を完全に破壊していた。
アイアンは微動だにしない。
眼球は上を向き、白目だけが見えていた。
脳は完全な破滅から逃れるように、深い昏睡の闇へと退避した。
隣の区画では、ノアが壁に重く寄りかかって弾薬箱に座っていた。
疲弊と腕の激痛で鈍っていたものの、彼の鋭い聴覚は、周囲の周波数が急激に変化したのを捉えた。
頭上には死の静寂が広がっていた。
敵の機関が放っていた圧力が消え去ったのだ。
だが、地下室の静寂は別の音によって破られた。
密閉された発電室の気密扉の向こうから、かすかな高音が聞こえてくる。
それは次第に高く、激しさを増していく。
足元のコンクリート床が、細かく絶え間のない振動を始めた。
天井からコンクリートの粉塵が絶え間なく降り注ぐ。
『心臓』が制御不能の暴走と炉心融解のモードに突入した。
鉛のカプセル内に閉じ込められ、熱の逃げ場を失ったエーテルが膨張し始めている。
ノアは無理やり立ち上がった。
膝が震え、肩の引きちぎられた筋肉が炎のように熱い。
「ダーウィン!」
ノアは彼を振り返って叫んだ。
ダーウィンが虚ろな目を向けた。
彼はエリリアの傍らに座り、ぼんやりと空間を見つめていた。
「炉心が融解している」
ノアは装甲扉を蹴り開けた。
「ここが吹き飛ぶぞ。彼女を抱えて階段へ走れ。急げ!」
ノアは発電室へと踏み込んだ。
熱気で空気が歪んでいる。
『心臓』は咆哮を上げ、その鉛の壁はすでに内側から変形し、膨れ上がっていた。
リアクターの周囲のコンクリート床には、光を放つ無数の亀裂が走っている。
ノアはアイアンの体に屈み込んだ。
技師の体は重く、ノアには動かせる腕が一本しか残っていない。
無事な左手でアイアンの襟を掴むと、ノアは歯を食いしばり、力任せにその身体を左肩へと担ぎ上げた。
「走れ!」
出口へと重い足取りを進めながら、彼はダーウィンに向かって吠えた。
ようやく状況を理解したダーウィンが跳び起きた。
意識を失っているエリリアを腕に抱え、残されたすべての力を振り絞って出口へと突進する。
二人は螺旋階段へと続く通路へ飛び出した。
階段が揺れている。
石の段には瓦礫や空薬莢が散乱し、ブーツの底が滑った。
地下の奥底から、脈打つ白い光がせり上がってくる。
オゾンの臭いは、息を吸い込むたびに喉を焼くほど濃くなっていた。
ノアが先頭を進んだ。
足の感覚はなく、ただ機械的に前へ踏み出している。
肩からはアイアンがぶら下がり、彼の血がノアの背中に滴り落ちていた。
背後ではダーウィンが激しく息を荒らげ、呼吸を乱している。
少年は二度躓き、膝を血に染めたが、エリリアを離すことはなかった。ただひたすらに上へと、自身を突き動かす。
「急げ……」
ノアは掠れた声を出した。自身もかろうじて足を動かしている状態だった。
「あと、もう一階層だ」
下方からの光は、すでに目を灼くほどになっていた。
高音の金切り音はインフラサウンド(低周波音)へと変わり、耳を塞ぎ、吐き気を催させた。
金属の階段の手すりは、触れられないほど熱を帯びている。
崩落した市庁舎の翼棟、その一階の破壊された出入口から外へと飛び出した。
頭上には灰色の空が広がっていた。
震源地からさらに十歩ほど離れたところで、背後の音が完全に消失した。
絶対的な、耳鳴りのような静寂。
真空。
「伏せろ!」
ノアは叫び、前方に身を投げ出しながらアイアンの身体をかばった。
ダーウィンも本能的にうつ伏せに倒れ込む。
彼らの足元の地面が、巨大な石の泡のように膨れ上がった。
リアクターは蓄積されたすべてのエネルギーを、一度の制御不能な大爆発として解放した。
基礎、地下室、そして建物の残骸のすべてが吹き飛ぶ。
目も眩むような炎と超高温のプラズマの柱が、地殻を突き破った。
地を揺るがす轟音が、半径一キロメートル以内にいるすべての者の鼓膜を破らんばかりに響き渡る。
爆発は岩石を消滅させ、それを沸騰するスラグの飛沫へと変えた。
衝撃波が、逃げる彼らの背中を直撃した。
身体が地面から浮き上がった。
ノアはアイアンとともに空中へと放り出されるのを感じた。
二人は数十メートルも吹き飛ばされた。
直後、ノアは瓦礫の山に激突し、肋骨がきしむのを感じながら転がった。
鋳鉄のパイプに後頭部を強く打ちつける。
アイアンは彼の手から滑り落ち、数メートル離れた石の上に激しく叩きつけられた。
ダーウィンとエリリアは別の方向へ吹き飛ばされ、爆発が巻き上げた濃い塵の雲の中に消えた。
それから、残骸が降り注いだ。
人間の頭ほどの大きさの石の塊が、広場に雹のように降り注ぎ、石畳を砕く。
熱い灰色の灰が空から舞い降りてきた。
そして、すべてが静まり返った。
残されたのは、冷めていくスラグの風切り音と、くすぶる梁の爆ぜる音だけだった。
アルベルトはゆっくりと目を開けた。
世界は霞み、音を失っていた。
彼は灰の層に覆われ、仰向けに横たわっていた。
右肩が激しく脈打っている――落下の衝撃で肩を脱臼したのだ。
彼は肺を埋め尽くした灰色の泥を吐き出しながら、起き上がろうとした。
近くの瓦礫の山が動いた。
ヴァルターが、朦朧とした様子で頭を振りながら起き上がる。
耳からは血が流れていた。
彼はアルベルトに向かって何かを叫んでいたが、医師の耳には意味をなさない重低音のうなりしか届かない。
アルベルトは広場の中央を指さした。
クレーターの縁は融解し、滑らかで煙を上げる黒いガラスと化していた。
その窪みの中では、残留したエーテルの微光が、ゆっくりと消え入りそうに揺らめいている。
広場の周辺部で生き残った数少ない者たちが、バリケードの陰からゆっくりと立ち上がり始めた。
彼らは虚ろな目でそのクレーターを見つめていた。
ヴァルターは建物の残骸に寄りかかり、重い足取りで立ち上がった。
彼はクレーターを見つめ、それから、主要な爆風が突き抜けた破壊された住宅街の廃墟へと視線を移した。
足を引きずりながら、彼は熱い灰をかき分けてそちらへと向かった。
アルベルトも脱臼した肩を押さえながら、彼の後に続いた。
二人はねじ曲がった梁を乗り越え、レンガの塊を退けながら進む。
空気は重く、衣服の布地越しに呼吸をするしかなかった。
二十分後、ヴァルターは爆心地から五百メートルほど離れた、崩壊した時計塔の骨組みのそばで足を止めた。
彼は金属製の屋根の破片を脇へと退けた。
その下に、ダーウィンがいた。
見習いの少年は頭から足の先まで傷だらけで、左脚は不自然な方向に曲がっていた。
少年は仰向けに倒れ、いまだ意識の戻らないエリリアをしっかりと抱きしめていた。
アルベルトが近づいて膝をつき、ダーウィンの脈を確かめる。そしてヴァルターに頷いた。
キャプテンはさらに進んだ。
瓦礫の山を回り込むと、そこにノアがいた。
彼はかろうじて残ったレンガ壁の断片に背を預けて座り込んでいた。
右腕は無残に破壊されている。
左手で引きちぎった布切れを胸に押し当て、首の傷からの出血を止めようとしていた。
ノアの目は開いていたが、その視線は鈍く、何も捉えていなかった。
そこから二メートルほど離れた場所に、塵と細かい砂利に半分埋もれるようにして、アイアンが倒れていた。
ヴァルターは技師の傍らに重々しく膝をついた。
アイアンの身体は冷たかった。
こびりついた血の塊が、彼の顔を覆っている。
キャプテンは火傷を負った二本の指を、技師の頸動脈へと押し当てた。
静寂が、果てしなく引き延ばされるように続いた。
空からは灰が降り注ぎ、廃墟を灰色の覆いで包み込んでいく。
かすかな、不規則な拍動。
それから、もうひとつ。
途方もなく長い間隔を置いて。
ヴァルターは鼻から鋭く息を吐き出した。
彼はノアを見た。ノアは、ゆっくりと、辛うじて分かる程度に頷いた。
キャプテンは無理やり身体を起こし、ドルンハイムの残骸を見渡した。
もはや通りも、広場も、家々も存在しなかった。
重苦しい鉛色の空が、彼らの上にのしかかっている。
ヴァルターは引き裂かれた上着のポケットから、くしゃくしゃになった煙草を引っ張り出し、口に咥えて古いフリント式の火打石を鳴らした。
彼は冷めていくクレーターを見つめながら、鼻を突く煙を深く吸い込んだ。




