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第137話:ラプラスの球体

ヴァルターはドルンハイムの中央広場に立ち、「ヴェープル」の冷めていく装甲に背を預けていた。


戦車は死んでいた。


左の履帯は引きちぎられた鉄の帯と化し、破壊されたラジエーターからは暗くどろりとした液体が石畳へと流れ落ちて、水溜まりを作っている。


周囲のいたるところ、土嚢やひっくり返した荷車で作った即席のバリケードの間に、都市民兵の生き残りが座り込んでいた。


およそ三十人。


泥と煤に汚れ、疲弊しきった彼らは、無言で空を見上げていた。


「キャプテン……」


民兵の一人が、壊れたクロスボウの破片で上空を指さしながら、掠れた声を出した。


「奴ら、戦列を整えています」


「見えている」


ヴァルターは短く吐き捨てた。


彼は戦車の装甲から身を離し、古い街の噴水の上に急ごしらえで組み立てられた、不格好で巨大な構造物へと歩み寄る。


アイアンはそれを「ラプラスのスフィア」と呼んでいた。


その装置はハイブリッドだった。


工場の発電機から剥ぎ取られた巨大な銅製誘導コイルが、太いケーブルと複雑に絡み合い、その先は下水道へと伸びて都市の主水道管に直結している。


蜘蛛の巣のような配線の中心には、包囲戦の初期に倒した魔導師たちから剥ぎ取った三枚のエーテルレンズが据えられていた。


あの技師のコンセプトは荒削りだった。


シールドが攻撃の運動エネルギーと魔力エネルギーを受け止め、それを熱エネルギーに変換して都市の地下水へと逃がす(ダンプする)。


ヴァルターは二つの重いナイフスイッチに手をかけた。


「全員、遮蔽に隠れろ!」


彼は命令した。


「伏せろ! 口を開け、耳を塞げ!」


上空で、一隻の艦がわずかに艦首を下げた。


その腹部から、凝縮された「真なる光」の、目も眩むような白い光線が放たれる。


ヴァルターは勢いよくスイッチを押し下げた。


広場が揺れた。


噴水の上の空気が一瞬で凝縮され、半透明の揺らめくドームの形を形成する。


光線は爆発音もなく、スフィアの頂点に激突した。


代わりに響いたのは、空間が引き裂かれるような、耳を劈く鋭い悲鳴だった。


装置がうなりを上げた。


銅製コイルが一瞬でチェリーレッドに加熱され、くすんだ黄色から鮮烈な輝きへと色を変えていく。


ヴァルターの身体がコントロールパネルへと激しく叩きつけられた。


静電気が濡れたブーツを突き抜け、全身の筋肉を痙攣させる。


彼は周波数調整器にしがみつき、上空からの魔力圧力と、回路の物理的抵抗とのバランスを必死に保とうとした。


「耐えろ、この鉄クズめ……」


キャプテンは歯を食いしばり、掠れた声で呪った。


ドーム内の空気が急速に熱を帯び始める。


ヴァルターの足元、石畳のはるか地下で、水道管が鈍くうめき声を上げた。


主幹パイプの超高熱のエネルギーを吸収し、中の水が沸騰しているのだ。


光線が消えた。


「今のは……ただの試射か」


彼は呟いた。


残りの四隻の艦が、同期射撃のためにそれぞれのベクトルを合わせ始めるのを見つめながら。


ノアは織物職人街の廃墟を歩いていた。


身体の横で力なく垂れ下がった右腕は、もはや死肉の塊だった。


手首から肩にかけて皮膚が裂け、黒ずんで引きちぎられた筋肉の繊維と、砕けた骨の破片が露出している。


血はもう流れていなかった。


血管は空になり、彼の再生能力は致命的な最低ラインで停止して、残されたすべてのリソースを心臓と肺の維持へと回していた。


彼は交差点で立ち止まり、崩落したレンガの壁に左肩を預けた。


ノアの視線が足元の瓦礫をなぞる。


砕けたレンガ、ガラスの破片、あるいは破れた穀物袋の間に、ピストルグリップが溶接された不格好な金属のシリンダーが転がっていた。


手持ち式エーテル砲のプロトタイプ。


ダーウィンが持ち歩いていたものだが、市庁舎の正面玄関が崩落し始めた際、放り出したのだろう。


ノアはゆっくりと片膝をついた。


無事な左手でグリップを掴む。


砲の重量はおよそ十五キロ。


彼は鈍い呻き声を上げて立ち上がり、重い砲身を壊れた民家の壁に押し当てて、照準を固定した。


砲口を空へ向け、最も近いスキフを狙う。


不格好な引き金に、指をかけた。


砲の内部にあるエーテルバッテリーが短く悲鳴を上げ、砲口からプラズマの塊が撃ち出される。


反動は鋭く、制御不能だった。


ノアの左肩がきしり、関節が外れかける。


砲身が跳ね上がり、彼自身もバランスを崩して仰向けに倒れ、石畳に後頭部を打ちつけた。


プラズマの塊は数百メートルを飛行し、インクイジターのスキフの見えないシールドに衝突した。


かすかな音が響く。


プラズマは艦のエーテル装甲の表面で青い火花となって散り、一瞬で消え失せた。


「……やってられるか」


彼は虚空に向かって呟いた。


役立たずの鉄パイプを放り出し、うつ伏せに寝返りを打つと、壁の残骸に手をかけて無理やり身体を起こした。


アイアンはコンクリート柱の根元に背を預け、床に横たわっていた。


その顔は土色に変色し、灰のような色をしていた。


ダーウィンが彼のそばでしゃがみ込んでいる。


見習いの少年は激しく震え、手に持った包帯をほどくことすらできずにいた。


少し離れた場所では、エリリアが民兵の外套の山の上に横たわっている。


彼女の呼吸は浅く、途切れがちだった。


重い鉄の扉が、不快な音を立てて開いた。


地下室にノアが入ってきた。


ダーウィンはびくりと身体を震わせ、包帯のロールを落とした。


アイアンが、重い瞼をゆっくりと持ち上げる。


ノアは近くにあった空の弾薬箱に歩み寄り、重い腰を下ろした。


無残に破壊された右腕が膝の上に置かれ、そこからコンクリートの床へと血が静かに滴り落ちていく。


「エリアスは死んだ」


ノアが言った。


ダーウィンは、今にも泣き出しそうな神経質な引きつった笑い声を漏らした。


「死んだ……。じゃあ、僕たちは……僕たちは奴らを食い止めたのか?」


「いや」


ノアは見習いを見上げた。


「上には、まだ五隻の艦がいる。中央広場の真上で、完全に戦闘体系を整えつつある」


アイアンが、壁に埋め込まれた通信ターミナルへとゆっくりと首を巡らせた。


「広場は、どうなっている?」


「ヴァルターがドームを維持している」


ノアが答えた。


「お前のあの……ラプラスの球だ。奴らは一発撃ってきた。ドームは耐えたが、今は同期射撃の準備に入っている」


壁の無線機が突然パチリと音を立て、ノイズの向こうからキャプテンの声が飛び込んできた。


激しく息を切らし、まるで空気が肺を焼いているかのように喘いでいる。


「アイアン……まだ生きているなら、よく聞け」


ヴァルターの声が激しい咳で中断される。


「第三回路が溶けかけている。誘導コイルに亀裂が入った。水道管の水は蒸発し、これ以上熱を逃がす場所がない。奴らが高度を下げてくるぞ」


「レギュレーターの温度は?」


アイアンは虚空に向かって問いかけた。


ヴァルターに聞こえないことは分かっていたが、頭は自動的に状況を計算していた。


「奴らはジェネレーターを狙っている」


スピーカーからの声が続いた。


「今シールドを突破されたら、この銅の塊がすべて爆発する。広場の半分もろとも、俺たちは吹き飛ぶぞ」


ダーウィンが無線機に飛びつき、震える手でマイクを掴んだ。


「ヴァルターさん! キャプテン! 装置を切ってください! みんなを地下室へ避難させて! そこにいたら焼き殺される!」


「俺がスイッチを離せば、ドームは一秒で崩壊する。奴らはすでに照準を固定している。俺が維持する。限界までな」


大きな破裂音が響き、通信が途絶えた。


アイアンは、無事な方の手をコンクリートの床に重く突き立てた。


「……俺を……立たせてくれ」


彼はダーウィンに言った。


「どうしてですか?」


ダーウィンはその場にしゃがみ込んだまま、力なく呟いた。


「ドームはもうすぐ破られる。階段に辿り着くことすらできない。もう、終わりですよ」


「俺を……。立たせて、くれ」


アイアンが繰り返した。


「ヴァルターが時間を稼いでいるのは、俺たちがここで座って待つためじゃない」


ダーウィンは唾を飲み込み、おののきながら立ち上がると、技師の身体に肩を貸した。


アイアンはその身体に重く寄りかかる。


「……何を企んでいる」


ノアが顔を上げずに、静かに尋ねた。


「武器は、もう残っていないぞ」


「分かっている」


アイアンは巨大な気密扉の前で足を止めた。


『心臓』と都市を繋ぐ、ぶ厚いデータ転送ケーブルを見つめる。


アイアンは、『心臓』のサービスポートへと手を伸ばした。

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