第133話:交響曲
どうやって塔から下ろされたのか、記憶にない。
目を覚ましたとき、最初に視界に入ったのは絶え間なく流れるデータストリームだった。
俺は市庁舎の地下に設けた作戦本部の、硬い簡易ベッドに横たわっていた。
壁は一メートルの厚さがあった。それを透かしてなお、遠い爆発で地面が震えているのが肌に伝わってきた。
「アイアン、聞こえるか?」
アルベルトが再び俺の目にライトを当てる。
「聞こえている、アルベルト。光を退けてくれ。キャリブレーションの邪魔だ」
自分の声が、まるで他人のもののように冷たく響いた。
「キャリブレーションだと?」
医師は、地図の置かれたテーブルの前に立つウェイランドを振り返った。
「うわ言を言っている。瞳孔がまったく反応しない」
「北セクターの古い倉庫街だ。まもなく上陸が始まる。舟が三隻。灯りを消し、滑るように進んでいる」
ウェイランドが瞬時に俺の傍らにやってきた。
「確かか?」
「エーテル背景の乱れで感知できる。ルモンの誤差は三メートル。ウェイランド、そっちの配置は?」
「タレットの弾薬はすでに配り終えた。ヴァルターは『ヴェープル』で市場の広場に控え、命令を待っている。ノアは……二時間前に墜落したフラッグシップへ向かった」
「よし。始めるぞ」
俺は目を閉じ、街のネットワークへと『接続』した。
「ウェイランド、通信を預かれ。後方を指揮しろ。南街区のガス供給を止めさせてくれ。砲撃を喰らえば一発で吹き飛ぶ」
伯爵は頷き、部下たちに短く命じた。
「聞いた通りだ。南街区のガスを止めろ。負傷者は修道院の地下へ。急げ!」
北セクターから無線を通じて短い雑音が返ってきた。
「ヴァルター、出番だ」
俺は襟元に縫い付けられたマイクに向かって言った。
「方位0-15。距離四百。奴らはそっちに真っ直ぐ向かっている」
「了解」
スピーカーから響くヴァルターの声は冷静だった。
「ダーウィン、左シリンダーの圧力を上げろ! 砲塔を回すぞ!」
俺の脳内スクリーンの中で、『ヴェープル 2.0』が動き出すのが見えた。
巨体は滑らかに進む。
俺はデータをヴァルターのレティクル(照準線)へと直接転送し、敵の舟の輪郭を鮮やかなオレンジ色で強調した。
『ヴェープル』の最初の一撃が、先頭の舟を粉々に粉砕した。
魔導師たちは個人のシールドを展開する暇さえなかった。
二隻目が回避を試みたが、俺の誘導に従うヴァルターは、すでに倉庫の角で待ち伏せていた。
『ヴェープル』の鋼鉄の衝角が、舟の船腹を石壁へと叩き潰す。
「片付いた」とヴァルターが報告する。
「だが、まだ来るぞ」
「見えている。ノア、そっちは?」
「もうすぐだ」
ノアの声はノイズに紛れてかろうじて聞き取れた。
「岩礁の上だ。魔導師どもが『黄金の眼』から主通信結晶を回収しようとしている。あれを起動されれば、残りの艦隊に統一された連携ネットワークが構築される」
「何が必要だ?」
「岩礁から半径一キロの範囲を、三分間だけ完全な闇にしてくれ。それと、俺が合図するまで『雷鳴』をあっちに撃つな」
俺は即座に北方向への流れを『遮断』し、変電所の事故を擬似的に引き起こした。
「完了したぞ、ノア」
フラッグシップの熱線映像を通じて――ノアが残していった発信器を経由して接続に成功していた――俺は、影が破壊された甲板の上を滑るように動くのを見ていた。
ノアはコンソールに立つ者と、通信士官だけを確実に排除していった。
その頃、市庁舎の最深部では、エリリアとダーウィンが独自の戦いを繰り広げていた。
「アイアン! 第三回路の温度が上昇しています!」
ダーウィンが叫ぶ。
「根が追いつかない、枯れ始めています!」
俺は意識の一部を地下へと向けた。
エリリアは主変圧器の冷たい金属に額を押し当てて立っていた。
彼女の腕には発光する緑の血管が絡みつき、それは巻線の奥深くへと伸びていた。
彼女の顔は死人のように青白かった。
電圧が跳ね上がるたび、彼女の身体が痙攣に震える。
「エリリア、耐えてくれ」
彼女の痛みを我がことのように感じながら、俺は囁いた。
「あと一発だ。二隻目の装甲艦を叩き落とさなければ、上空からの無差別爆撃が始まる」
「わたしは……持ちこたえるわ……」
彼女が喘ぐように答えた。
その時、俺は再び空を見上げた。
装甲艦の一隻、『白銀のグリフォン』が距離を詰めてきていた。
奴らは『雷鳴』が固定砲台であることに気づくのが早かった、と俺は思った。
「ウェイランド、よく聞け。倉庫に、かつて灯台用に作ったあの古い銅製の反射鏡は残っているか?」
「あ、ああ、八枚ある」
「至急それを岸壁に運び出せ。市庁舎に向けて四十五度の角度で設置するんだ」
彼が部下たちに命令を伝えると、一分後、重い荷馬車を引いた馬たちが一斉に走り出すのが見えた。
即席の鏡を使った共振インパルスの跳弾。
成功確率は約40%。
だが、俺たちに選択肢はなかった。
「ダーウィン、蓄電池を準備しろ。120%までチャージする」
「マスター、それは限界値です!」
ダーウィンが悲鳴を上げる。
「巻線が蒸発してしまいます!」
「構うな! やれ!」
街が一本のバネのように張り詰めていくのを感じた。
ヴァルターの『ヴェープル』がデアサント(降下部隊)を川へと押し戻していく。
ウェイランドと彼の近衛兵たちは、上空からの激しい砲撃に晒されながらも岸壁に鏡を設置していた。
ノアは岩礁のどこかで、フラッグシップの通信ノードにテルミット装薬を仕掛けている。
「鏡の設置、完了した!」
ウェイランドが無線で叫んだ。
タレットのカメラ越しに彼の姿が見えた。
彼は岸壁に立ち、反射鏡の支柱の最後のボルトを締め付ける作業員を、盾で庇っていた。
魔導師たちの炎の矢が、彼らの傍らをかすめて飛び去っていく。
「了解した」
俺の声はひどく掠れていた。
「エリリア……痛むぞ」
俺はセーフティを解除した。
『心臓』のエネルギーが猛烈な勢いで『雷鳴』へと流れ込み、市庁舎の塔が内側から発光し始めた。
レンガが半透明に透けていく。
ルモンが警告を叩き出した。
[致命的なエラー。構造崩壊まで:5……4……]
「放て!」
俺は息を吐き出した。
インパルスが下方、岸壁に向けて叩きつけられた。
巨大な銅の鏡が一瞬、盲目的なほどの閃光を放つ。
屈折した光条は垂直に跳ね上がり、ちょうど旋回に入ろうとしていた『白銀のグリフォン』の腹部へと直撃した。
巨艦は継ぎ目から引き裂かれ、大気中に蒸気と燃え盛る残骸の雲を撒き散らした。
エンジンが停止し、その巨体がゆっくりと湾へと墜落していく。
落下の衝撃波がすべての鏡を押し流した。
ウェイランドはかろうじて石造りの手すりの陰に飛び込んで難を逃れた。
再び意識が戻ったとき、作戦本部の中は静まり返っていた。
予備発電機が規則的な低音を響かせているだけだった。
俺は壁に背を預けて床に座り込んでいた。
すぐ傍らでアルベルトがしゃがみ込み、濡れたタオルで俺の顔の汗を拭っていた。
腕を上げようとしたが、動いたのは義肢の指先だけだった。
「艦隊の状況は?」
俺は掠れた声で尋ねた。
「撤退した」
ウェイランドが部屋に入ってきた。
彼は足を引きずり、上着はボロ布のようになっており、顔は煤で黒く汚れていた。
「だが長続きはせん。奴らは増援を呼ぶか、遠距離魔導に切り替えるはずだ」
続いてヴァルターが、油まみれの布で手を拭きながら現れた。
「その隙に『ヴェープル』を修理して、タレットをもう二、三基据え付ける時間は稼げるな」
入り口にノアが姿を現した。
普段と変わらぬ様子だったが、マントの数箇所が焼け焦げていた。
彼は無言で、ルーンの刻まれた重い金属製のケースをテーブルに放り出した。
「通信コードと航海日誌だ」
彼が短く言った。
「主結晶は爆破してきた」
俺は目を閉じた。
ルモンが囁き続けている。
[ステータス:安定。残余電力:64%]
「次の襲撃まで、どれだけ時間がある?」
立ち上がろうとしながら、俺は尋ねた。
「少なくとも八時間はある」
ウェイランドが俺の身体を支えながら答えた。
「よし。ダーウィン、第四冷却システムの設計図を持ってこい。エリリア、塔の基部にさらに鉄の樫の根を回してくれ。ヴァルター、散弾の在庫を確認しろ」




