第131話:8.64
「最悪な気分だ。激務のあとの目覚めは、自分の肉体が自分のものではないような錯覚を覚える。あるいは、あの耳障りな低い唸りのせいか」
俺はベッドに座り込んだ。
世界が一瞬、ぐらりと揺れる。
ルモンが即座に視界の前にデータグリッドを投影した。
冷媒の温度、心臓のチャージレベル、外周防衛網のステータス。
すべて緑色。すべて正常。
だが、オゾンの後味が俺の五感にへばりついていた。
鼻をどれだけ強くこすろうと、その臭いは消えない。
「またそれか」
不機嫌そうな声がした。
アルベルトがドアのところに立っている。
手にはトレイ。
朝食の代わりに、大きなマグカップが置かれていた。
中には茶色く、湯気を立てる何か。
「飲め。エリリアの煎じ薬だ。そんな目で見るな」
味は苔に古い樹皮の苦味を混ぜたようだった。
だが一分後、体に熱が巡る。
こめかみを揺らしていたあの馬鹿げた振動が、少しだけ収まった。
「カッシアンはまだ生きているか?」
俺は唇を拭いながら尋ねた。
「ああ、生かしておけば何になる。地下室に放り込んである。ヴァルターが少し『揺さぶって』やりたがっていたが、止めさせた。あの消耗度合いじゃ、一撃で死ぬぞ」
「賢明な判断だ。俺が行ってくる」
地下室は、ドルンハイムの中で唯一、俺が意図的に『心臓』からの光を通さなかった場所だ。
半暗闇が支配している。
わずかなオイルランプだけが明かりだった。
カッシアンは独房に座り込んでいた。
エリリアのルーンの帯が絡みついている。
空気中のあらゆる魔法の火花を吸い出しているのだ。
くたびれたローブ、乱れた髪。
うつろな視線。
俺が入ってきて、格子戸の向かいの木箱に腰を下ろしても、奴は顔さえ上げなかった。
「嘲笑しに来たのか?」
奴がしゃがれた声で言った。
「おもちゃが一度空に向かって弾けたからといって、自分たちが勝ったとでも思っているのか?」
「そんな目的で来たんじゃない、カッシアン」
俺はルモンを起動し、知覚を研ぎ澄ませた。
「旗艦のエーテル結晶の調整周波数を教えろ」
俺は冷静に言った。
「貴様らの盾は、どの調波で稼働している?」
カッシアンが歪んだ笑みを浮かべる。
「私が魔導院を裏切るとでも? 死んだほうがマシだ」
「なぜ殺す必要がある?」
俺は身を乗り出した。
「カッシアン、今この瞬間、俺は貴様の脈拍を見ている。皮膚の温度を感じている。貴様がいつ嘘をついているのかも分かっている。貴様の肉体は、口を開く前に嘘に反応するんだ」
俺はテーブルの端を指先で叩いた。
「嘘をつけば、俺には分かる。黙り続ければ、周波数を突き止めるために無駄な三十分を費やすことになる」
「……ハッタリだ」
「4.2メガヘルツか?」
俺は適当に数字を投げて、奴の反応を凝視した。
瞳孔が収縮した。
脈拍が跳ねる。
「低すぎるな」
俺は断定した。
「8.5か?」
カッシアンが目を逸らす。
呼吸が乱れた。
ルモンがグラフを叩き出す。
[反応確認。範囲:8.2~8.8]
「貴様は怪物だ」
奴が囁いた。
その瞬間。
地下室のドアが音もなく開いた。
影からノアが出てきた。
彼はただ歩み寄り、小さな革袋をカッシアンの前のテーブルに置いた。
何が入っているかは分かっていた。
魔導師の従者から回収した私物。
故郷からの手紙、妻と二人の子供の肖像が描かれた金のメダル。
カッシアンの手が震え、メダルに伸びかけた。
しかし、ギリギリで引き戻す。
「魔導院は弱さを許さない」
ノアが低く言った。
「艦隊が墜落すれば、奴らは貴様を裏切り者として扱うだろう。王都に残した家族は……ただでは済まないはずだ」
ノアが魔導師を見据える。
「だが、犠牲を最小限に抑える手助けをしてくれるなら。艦隊を爆破するのではなく、ただ座礁させるだけなら……。アイアンは、貴様の虜囚としての『死』を、英雄的な最期として偽装することを保証する。家族も保護しよう」
カッシアンが目を閉じた。
肩の力が抜ける。
「8.64だ」
ついに奴が吐き出した。
「搬送周波数は8.64メガヘルツ。だが、旗艦には予備回路がある。『サイレンサー』の充電中、奴らは予備に切り替える。その瞬間、船尾の盾が30%低下する。切り替えには十秒しかかからない」
俺は頷き、データを高速でルモンの記憶に書き込んだ。
「十秒。それで十分だ。礼を言う、カッシアン。貴様は今、数千の命を救った」
地下室を出たとき、太陽はすでに沈みかけていた。
人々が通りに立ち、南の空を見上げている。
俺は市庁舎の塔へと上がった。
ダーウィンとエリリアが追加のコンデンサーの設置を終えようとしていた。
「アイアン!」
エリリアが駆け寄ってくる。
「根の調整は終わったわ。今や生きた編み込みとして、レンズの温度を保てる。周波数は?」
「8.64だ」
俺は制御パネルへと歩み寄った。
「旗艦が『サイレンサー』を展開し始める瞬間に、十秒間の窓がある。ダーウィン、右セクターの鏡を再調整してくれ。面で打つんじゃない、一転にインパルスを集中させるんだ」
「了解です、マスター!」
ダーウィンがウィンチへと駆け出した。
俺は塔の欄干に腕を預けた。
地平線が突然、黒ずんだ。
最初は雲かと思ったが、ルモンが即座に熱源分布を解析した。
丘の尾根の向こうから、ゆっくりと十二の巨大な影が浮かび上がってきた。
巨大な葉巻型の船体。
黒鋼で覆われ、緋色の魔導防衛シールドを纏っている。
中央を進む旗艦は、甲板と魔導砲が牙を剥く、空飛ぶ大聖堂そのものだった。
「美しいわね」
エリリアが囁いた。
「美しいな」
俺は同調した。義肢が微かに震え始める。
「だが非効率だ。照明にエネルギーを使いすぎている」
俺はルモンに全システムの完全診断を命じた。
[心臓のチャージ:98%]
[『雷鳴』との同期:確立]
[ターゲット:旗艦『黄金の眼』。距離:15マイル]
「定位置へ!」
俺は号令を下した。
「ダーウィン、冷却を監視しろ。エリリア、根の共振を維持してくれ。ノア、ヴァルター、壁の民兵隊を準備させろ。誰か一人でも上陸させてはならない」
俺はコンソールの前に一人残った。
眼下の街が闇に沈み始める。
俺は街灯を一つの区画、また一つの区画と消していき、余ったすべての電力を塔のコンデンサーへと送った。
ドルンハイムは闇の中に沈み、ただ市庁舎の頂上だけが青い炎を灯していた。
俺はメインの接点に掌を置いた。
頭上の空で、敵の探照灯が放つ最初の緋色の光が、街の壁を切り裂いた。
ルモンが囁く。
[対象は射程内。コマンド待機]
「もう少しだ」
俺は独り言のように呟いた。
「もっと近づけ」




