第129話:第三の道の亡霊
街は俺の皮膚の下で脈打っていた。
指先で。
義肢の鋼鉄のジョイントで。
俺は工房のひっくり返った木箱に座り、『猪』の冷却システム用の新しいバルブを研磨していた。
「コーヒーか?」
工房に入ってきたウェイランドが短く尋ねる。
「砂糖が入っていれば」
俺はマグカップを受け取りながら答えた。
「シュタインはまだ帰っていないのか?」
「自分の馬車に引きこもっている。入り口に衛兵を二人立たせて、密告書を書き殴っているところだ」
ウェイランドは油のシミなど気にする様子もなく、作業台に寄りかかった。
「奴は魔導院から『専門家』を呼び寄せた。表向きは『公共の安全への脅威』を評価するためだ。だが実際には――近いうちに我々を排除しに来るだろう」
「準備はできている」
俺は熱いコーヒーを一口すする。
「『猪』は稼働状態。周辺防衛網もアクティブだ」
「防衛だけでは足りない。ただ門を閉ざせば、奴らは兵糧攻めで我々を絞め殺しに来る。ドルンハイムこそが『新たな日常』なのだと、奴らに見せつけねばならない」
その瞬間。
左のこめかみを鋭い痛みが貫いた。
ルモンが一連のパルスを放つ。
それは強烈なオゾンの臭いとして知覚された。
[警告:セクター・サウス4におけるエネルギー流の不安定化。振幅の臨界的増大。破断点まで――残り180秒]
俺は危うくマグカップを落とすところだった。
「ウェイランド、ヴァルターを呼べ! 古い洗濯場の地下に隠してある南の配電ハブが、爆弾になりかかってる。誰かが共振チャンバーに極性を反転させたスタビライザーを突っ込みやがったんだ!」
「ダーウィン、キャビンに乗れ! エリリア、根を掴め! 出るぞ!」
俺は叫びながら、『猪』のステップに飛び乗った。
サンドイッチを口にくわえたままのダーウィンが、砲手用のハッチに飛び込む。
エリリアは既にそこにいた。
コントロールパネルに編み込まれた緑色の繊維を、神経質そうに指で弾いている。
俺は操縦席に沈み込み、接触プレートに手を置いた。
「行くぞ」
機体は音もなく発進した。
空気を満たす静電気により、キャタピラの下から火花が散る。
南セクターに近づくと、それが見えた。
洗濯場の窓から、青い炎の塊が吹き出している。
周囲の家々は激しく振動し、屋根から瓦が落ちていた。
「あいつら、狂ってる!」
覗き窓から外を見ていたダーウィンが叫んだ。
「このハブが吹き飛べば、ブロックの半分が蒸発するぞ!」
「落ち着け」
俺は歯を食いしばる。頭が割れるように痛い。
「エリリア、準備しろ。このエネルギー流をアース(接地)する必要がある」
俺は『猪』を洗濯場の壁に直接向かわせた。
機体がレンガの壁を粉砕して突っ込む。
地下室の中では、青い炎が咆哮を上げていた。
中央にある鋼鉄の配電盤の中で、光を飲み込むような黒い結晶が輝いている。
「ダーウィン、掴め!」
『猪』のマニピュレーター――巨大な鋼鉄の腕――が前方に伸びる。
だが、それが筐体に触れた瞬間、金属を伝って放電のアークが走った。
制御システムが一瞬ダウンする。
[臨界過負荷。自動シャットダウンを試行中……]
(ダメだ。シャットダウンするな)
俺は命じた。ルモンは眼球を焼くような痛みで応える。
「エリリア、今だ!」
彼女はキャビンの内壁に両手をついた。
『猪』を貫く鉄のオークの生きた根が、装甲の下から伸びていく。
それらはマニピュレーターに絡みつき、炎の源へと手を伸ばした。
植物がエネルギーを吸収し、透明な黄金色に輝き始める。
熱は機体のキャタピラを通じて大地へと逃げていった。
「もう少しだ……」
俺はかすれた声で絞り出す。
ダーウィンがアームを操作し、黒い結晶をフックで捉えた。
マニピュレーターの金属が溶け始めている。だが、エリリアの根が構造を辛うじて保っていた。
鋭い動きで、彼は妨害モジュールをソケットから引き抜いた。
轟音が嘘のように止む。
青い炎は消え去り、そこにはただ溶解した石だけが残った。
「クリア……だ」
俺は座席の背もたれに深く寄りかかった。
疲労でよろめきながら機体から這い出ると、隣の家の影からノアが姿を現した。
普段と変わらない様子だが、青白い頬には細い煤の線が走り、手にはシュタイン監査官の紋章が入った数珠のようなものを握っている。
「一人逃がしたか?」
俺は布で顔を拭いながら尋ねる。
「いや」
ノアは路地の方へ顎でしゃくった。
そこには、自分たちの外套の切れ端で縛り上げられた二人のシュタインの『衛兵』が転がっていた。
あの『錬金術師』たちだ。
二人とも肩が外れている。
「下水道から逃げようとしていた」
その時。
ウェイランドが愛馬に乗って洗濯場に駆けつけてきた。
その後ろには、幌を開けた馬車に乗るフォン・シュタイン男爵の姿。
俺は馬車に近づいた。
「男爵」俺は言った。
「あなたの部下が何か落とし物をしたようです」
俺は掌を開く。
溶けかかったデスタビライザー(不安定化装置)が、馬車のベルベットの座席に転がり落ち、焦げ穴を開けた。
男爵は結晶を見つめ、それから路地で縛られている自分の衛兵たち――ノアが無言で指差している――に目をやった。
「これは……何かの間違いだ! 私は全く関係ない!」
男爵は絞り出すように言った。
「ええ、関係ないでしょうとも」
ウェイランドが馬車を見下ろす位置まで近づく。
「だからこそ、あなたは今すぐ部下たちに武器を置き、この街から退去するよう命じるのです。そうすれば、帝国の監査官が政治的利益のために居住区を爆破しようとしたという事実を、陛下への報告書に書き記すのは忘れて差し上げよう」
「猶予は一時間です、男爵」
俺は付け加えた。
夜。
俺たちは工房に集まっていた。
ダーウィンがサンドイッチの残りを平らげ、エリリアが『猪』の根に謎の栄養剤を撒いている。
ノアは隅でナイフを研いでいる。
深夜になって、ウェイランドがやって来た。
上等なワインのボトルと、グラスを五つ持って。
「シュタインは去った」
彼は酒を注ぎながら言った。
「やっとかよ」ダーウィンが言う。
「なんで俺たちばっかりこんな目に遭うんだ?」
「我々だけではない」
ウェイランドが答える。
「今この瞬間も、地球上の何千万、いや何億という人間が我々と同じように生きている。貴族、魔法、権力――この悪循環こそが、世界を終わりのない苦しみに陥れているのだ。我らがオルゲルド王でさえ、自らの目的のためなら手段を選ばず、市民のことなど一顧だにしない」
「じゃあ、どうやってそれを正す?」俺は尋ねた。
「二つの選択肢がある」とウェイランド。「第一に、貴族を根絶やしにし、魔法を彼らと共に葬り去ること。そして第二に、彼らとの間で平和的な交渉を行うことだ」
「もし最終的に、その二択に絞られるなら……」
「それなら、第一の選択肢になるだろう」ウェイランドは断言した。
「だが……第二の選択肢を実現し得る人間が、一人だけ存在する」
「誰だ?」ノアが問う。
「ヤンだ」
ウェイランドは重い声で言った。
「だが、彼一人の力では到底実現不可能だ。私の過去が雄弁に物語っていることは承知している。だが、だからこそ私は、彼と肩を並べて立てる者を探していたのだ」
彼は俺たちを見回した。
「俺はパスだ」ノアが言う。
「私も」エリリアが付け加える。「第一の選択肢を選んだ方がずっと簡単だわ」
「そうそう! 俺もそう思う!」精霊が同意した。
「つまり……」
俺は木箱から立ち上がり、伯爵を真正面から見据えた。
「あんたは俺たちに戦争を仕掛けたのか? 俺たちの人間を殺したのは、ただ俺たちがその『大いなる目的』にふさわしいかどうかを試すためだけだったって言うのか!?」
ウェイランドは静かにグラスのワインを口に含み、俺の目を見た。
「繰り返すが、私の過去は雄弁に物語っているのだよ、アイアン」
伯爵は平坦な声で言った。
「ああ。私は戦争を始めるよう命令を下した。何としてもこの土地を奪えと命じた。だが、私自身は君たちの人間を一人も殺していない。あの死はすべて……彼ら自身のせいで起きたことだ」
血が頭に上った。
こめかみが脈打ち、目の前のすべてが鈍い灰白色の幕に覆い尽くされた。
理性が完全に吹き飛ぶ。
どう動いたのか覚えていない。
俺の腕が、勝手に鞘から剣を抜いていた。
ガァンッ!
最後の一瞬で、金属が激突する不快な音が響いた。
俺の刃は、伯爵の喉元わずか数センチのところで止められていた。
ノアが自分の剣で、俺の一撃を弾き返したのだ。
「どけ!」
俺は全体重を前にかけながら吠えた。
「こいつのせいで無実の人間が死んだんだぞ! このクソ野郎を庇うのか!」
「落ち着け、アイアン」
ノアは俺の武器を抑え込みながら、静かに答えた。
「襲撃の時から気付いていた。伯爵自身は血を一滴も流していない。彼の騎士たちも……本気で戦っていたのは俺とエリリアに対してだけだ。おそらくウェイランドは、最初からあの村の連中を信用していなかったんだろう」
ウェイランドはゆっくりと頷き、その言葉を肯定した。
彼のその絶対的な落ち着きが、事態をさらに悪化させる。
「それに」
ノアが俺の目を真っ直ぐに見つめ、思わず身震いした。
「あのバリケードでの突破劇を思い出せ。お前自身が二人の兵士に、お前を援護して残るように命じたじゃないか。彼らが生き残れないと分かっていながら。それを棚に上げて、伯爵にそんな口を叩くのか?」
「あれは……あれは俺じゃない!」
俺は後ずさりしながら絞り出した。剣を持つ手が震えている。
「聞いてるのか!? あれは俺じゃないんだ!」
「じゃあ誰なんだ?」
ノアが静かに問う。
彼が一歩近づく。
滑らかな動きで俺の力が抜けた指から剣を奪い取り、油まみれの作業台の上に置いた。
俺はそこに立ち尽くしていた。
激しく息を乱し、全身が大きく震えるのを感じながら。目の前にはまだ灰色の染みが浮かんでいる。
ノアは俺のすぐそばまで歩み寄ると、不器用な動作で短く抱き寄せ、俺の肩を軽く握りしめた。
「今ほど、お前が必要な時はないんだ、アイアン」
彼は耳元で静かに言った。
「だから頼む……。自分を取り戻してくれ」
工房は、重く息苦しい沈黙に包まれた。
「いずれにせよ」
伯爵がようやく沈黙を破り、何事もなかったかのように息を吐き出した。
「ヤンが今どこにいるのか、私には見当もつかないがね……」




