第128話:生体機械
アイアンは解体された『猪』のパーツに膝まで埋もれて立っていた。
作業台には、ピストンやひん曲がったコンロッド、そして煤で真っ黒になった古い装甲板が散乱している。
彼は油まみれの手をズボンで拭うと、左手を巨大な鋼鉄のスパー(縦通材)に押し当てた。
ルモンが即座に呼応する。
「そのうち、肘までそいつと同化しそうだな」
工房の暗がりから、静かな声が響いた。
ノアが工具箱の上に座り、短く湾曲した短剣を放り投げては受け止めている。
「何しに来た?」
アイアンは尋ねた。
ノアは床に飛び降り、近づいてくる。
彼は作業台の上に、魔導院の『掃除屋』たちの短剣を三本並べた。昨夜、北の哨戒所で奪い取ったものだ。
「こんなガラクタでも、お前の役には立つかと思ってな。それで来たんだ」
ノアは言った。
アイアンは短剣の一本を手に取る。
ルモンが即座に解析結果を弾き出した。
[吸収性同位体を高濃度で含む合金。理想的な絶縁体]
「使えるな。キャビンの装甲に組み込もう」
「アイアン親方! こいつ……言うことを聞いてくれません!」
隣の区画からダーウィンの叫び声が聞こえた。
アイアンは溜息をつき、弟子の元へと向かった。
ダーウィンは新しい自動ハンマーの前に立っていた。アイアンが『心臓』のラインに直接接続した代物だ。
ハンマーは、ダーウィンがやっとこを近づけた正確なタイミングで素材に振り下ろされ、彼が少しでも躊躇すると、指の数ミリ手前でピタリと静止する。
「まるで俺をからかってるみたいだ」
荒い息をつきながら、ダーウィンは額の汗を拭った。
「もっと強く打たなきゃって考えると、こいつは減速する。訳が分からない!」
アイアンは、彼の生体認証でしか作動しないコントロールパネルに近づいた。
「このハンマーは『心臓』のリズムに同期している。お前がこいつに合わせるんじゃない、そのリズムを掴むんだ。ただ自分の仕事をして、恐れるな」
「言うのは簡単だよな」
ダーウィンはぼやきながらも、再びやっとこを握り直した。
正午頃、エリリアが工房にやって来た。
彼女は疲れているように見えた。
緑色の外套は木の樹脂で汚れ、髪には枯れ葉が絡まっている。
「あなたの『獣』、熱いわよ、アイアン」
彼女は機械の解体されたシャーシを指差した。
「『心臓』のエネルギーは、こいつには少し……鋭すぎるみたい」
「分かってる」
アイアンは熱交換器を睨みつけ、眉をひそめた。
「普通のオイルなら五分で沸騰する。水冷でも追いつかない。別の熱伝導媒体が必要だ」
エリリアは『猪』のフレームに近づき、冷たい鋼鉄に手を置いた。
「私に任せて」
彼女は生きた新芽をいくつか成長させ、冷却用の銅管システムに根を慎重に編み込み始めた。
エネルギー源の近さを感知した根は、自ら金属に絡みつき、生きた外装を作り出していく。
「これで、大地の呼吸をするわ」
エリリアが囁く。
「機械が熱を持ち始めると、根の中の樹液が熱を奪って、装甲全体に分散させる。まるで……皮膚みたいにね。金属は温かくなるけど、もう溶けることはないわ」
ルモンが確認した。熱交換効率が三倍に上昇している。
蹄の音と、高級なサスペンションの軋む音が、アイアンを作業から引き剥がした。
工房の門の前に、馬車の車列が乗り付けてきたのだ。
最も格式高いフロックコートに身を包んだウェイランド伯爵が先頭を歩く。
その隣を歩いているのは……帝国監査官、フォン・シュタイン男爵だ。
鏡のように磨き上げられた胸当てをつけた四人の近衛兵が従っている。
「……ですから、男爵。確約いたしますが、『違法な研究』などという噂は、すべて嫉妬深い者たちの作り話に過ぎません」
ウェイランドが弁明している。
「我々はただ、街の照明の計画的な近代化を行っているだけなのです」
シュタインは聞いていなかった。
彼は工房の敷居で立ち止まり、モノクルを上げて、地下へと続く青く光るケーブルを値踏みするように見つめている。
「近代化、と仰るか?」
男爵の耳障りな声が響いた。
「伯爵。私は帝都の大学でさえ、このような『照明』は見たことがない。そして、あなたの……その地方予算で、このような技術を購入できるとは到底思えませんな」
彼は視線をアイアンに移した。
解体された『猪』の傍らに立ち、汚れた布で手を拭いているアイアンを。
「して、こちらがその『錬金術師の大家』とやらですか?」
シュタインは軽蔑に満ちた視線でアイアンを値踏みした。
「どう見てもただのボイラー焚きにしか見えんが」
「第一に、俺はエンジニアだ」
アイアンは答えた。
「第二に、俺の時間を無駄にするのはやめてもらおう。舗装の強度に文句がないなら、口出ししないでいただきたい」
傍らを歩いていたヴァルターが青ざめ、監査官の背後で必死に身振りをし、アイアンに自重するよう訴えかける。
だが、ウェイランドはただ口角を上げていた。
「私の文句は、貴様らの税金と帝国規格への適合性についてだ」
シュタインは工房の奥へともう一歩踏み出し――そして、すぐに立ち止まった。
「ここは埃っぽいですよ、男爵」
ノアが静かに言った。
「高価な服がすぐにダメになってしまう。お気をつけを」
シュタインは躊躇した。
彼は『猪』のフレーム、エリリアの光る根、そしてアイアンをもう一度見比べる。
「明日また来よう、伯爵」
監査官は吐き捨てるように言った。
「それまでに書類のリストを用意しておく。そして、あなたの……その部下たちには、もっと相応しい振る舞いをさせることを強くお勧めする」
一行の姿が見えなくなると同時に、ウェイランドは重い溜息をついた。
「なぜあんな奴、いっそ消してしまえないのか」
伯爵は呟いた。
「それにアイアン師。疲労は理解しますが、もう少し丁重に振る舞えませんか。結局のところ、我々の未来がかかっているのですよ」
「ええ、その通りですね、閣下。今後はもっと慎重になりましょう」
アイアンはそう言い残し、工房の奥へと戻った。
作業は夜通し続いた。
ダーウィンはボロ布の山の上でそのまま眠りこけ、エリリアはオークの根に寄りかかってまどろんでいる。
そしてノアは消えた――ただ、闇に溶けるように。
ルモンが組み立て完了のデータをアイアンに送信する。
[共振コロッサスのインストール:完了]
[ステータス:待機モード。エネルギー消費:0.02%]
[システム準備完了:100%]
彼は操縦席に腰を下ろした。
レバーや圧力計の代わりに、今はタッチパネルがあり、ルモンを通じてデータが脳に直接投影される。
彼は「スタート」を押した。
『猪』が身震いする。
側面の青い血管が、均等な紺碧の光を放って輝き始めた。
装甲に編み込まれた生きた根が緑色に染まり、冷却材を送り出している。
アイアンはステルスモードを起動した。あの『掃除屋』たちの短剣を溶かして組み込んだ機能だ。
機体が明滅し始め、その輪郭がぼやけていく。
工房の暗闇の中で、全高五メートルの巨大な戦車は、ほぼ完全な不可視状態となった。
翌朝。
フォン・シュタイン男爵が、ウェイランドを伴って再び工房に現れた。
「さて、アイアン師」
中庭に入りながら、彼は口を開いた。
「私に、あなたの……」
彼は言葉を失った。
工房は空っぽだった。
門は大きく見開かれ、中庭の中央には昨日まであった機体のフレームはなく、ただの空間が広がっているだけだ。
「どこだ? アイアン。あの牽引車はどこへ消えた?」
男爵が鼻で笑う。
「どうやら、あなたの自慢のエンジニアは逃げ出したようだな。あのガラクタを持ち逃げして……」
その瞬間、シュタインの真後ろの空気が振動した。
カチリという小さな音が響き、虚空から音もなく『猪2.0』が織りなされるように姿を現す。
艶消しの金属で作られた巨大な黒いボディ。脈動する青い血管。
それが監査官の頭上に覆い被さるようにそびえ立っていた。
砲塔が滑らかに旋回し、彼のフロックコートのボタンに照準を合わせる。
防弾ガラス越しのキャビンの中に、男爵はアイアンの姿を見た。
シュタイン男爵は後ずさりし、石につまずいて泥の中に直接尻餅をついた。手帳を取り落とす。
「近代化、完了しました」
機体のスピーカーから、アイアンの声が響き渡った。
「実地試験の準備は万全です」




