第118話:ポチョムキン村
ウェイランド城からドルンハイムまでの道のりは三日間を要した。
馬車に揺られ、埃にまみれ、護衛の親衛隊百騎の蹄の音が果てしなく響く三日間。
俺は馬車の中でウェイランドの向かいに座っていた。
彼は大半の時間を窓の外を眺めて沈黙し、俺はただ、自分の体がバラバラにならないよう耐えるだけで必死だった。
「今にも気を失いそうな顔だな、アイアン」
伯爵は振り向きもせずに言った。
「お抱えの医師が言うには、お前の脈は同年代の人間と比べても弱すぎるそうだ」
「激動の一ヶ月でしたから、閣下」
俺は痛む肩を揉みながら答えた。
「技師の仕事は頭脳だけでなく、神経もすり減らすのです」
ウェイランドがようやくこちらを向いた。
その目が細められる。
「ドルンハイムに、お前が息を吹き返せる場所があるといいのだがな」
「ええ、確実にありますよ」
俺は静かに応じた。
ドルンハイムが近づくにつれ、俺は焦燥を覚え始めた。
エリリアがダーウィンに俺の指示を伝える猶予は三日間あった。
だが、命令を出すことと、圧倒的な時間不足の中でそれを実行することは全く別物だ。
地平線に村の輪郭が見えてきた。
もっとも、今やそれは小さな砦の街と呼ぶべき姿に変貌していたが。
俺は窓にしがみついた。
一見すると、ただの栄えている集落だ。
だが、俺の目は瞬時に「修正点」を捉えた。
城壁に設置していたはずの気圧式タレットが、すべて消えている。
代わりに立っていたのは、弓兵を配置したありふれた木造の櫓だった。
俺たちは正門をくぐった。
「ふむ」
ウェイランドが身を乗り出した。
「お前の街は驚くほど通りが綺麗だな」
「汚物が嫌いなもので」
俺はそっけなく言った。
「密閉式の排水システムと石畳を整備しました。物流の時間を短縮し、労働者の間で疫病が広がるリスクを抑えるためです」
伯爵は隠しきれない驚きをにじませて周囲を見回した。
工房の屋根からは濃い白煙が立ち上っていたが、煙突はごく普通の暖炉の排気口に偽装されていた。
中央広場では、すでにダーウィンが待っていた。
一週間は一睡もしていないような風貌だった。
目の下のクマ、乱れた髪、煤で汚れた手。
彼は伯爵に深く頭を下げたが、俺へ向けられた視線は無言の問いを投げかけていた。
(これらをすべて隠すために、俺たちがどれほどの地獄を見たか分かってんのか?)
「閣下」
ダーウィンが声を嗄らして言った。
「ドルンハイムへようこそ。最高の屋敷をご用意しましたが……我々の環境は、閣下にはいささか手狭に感じられるかと」
「もてなしなどどうでもいい」
ウェイランドが遮った。
「すぐに『オブジェクト』へ案内しろ」
「オブジェクト……」
ダーウィンは言葉を詰まらせ、俺を見た。
「ああ、資源倉庫のことでしょうか?」
俺はかすかに頷いた。
住宅街を抜け、主要な工房が集まる外縁部へと向かう。
そこは隅々まで計算し尽くされていた。
あれほど苦労して組み上げた旋盤や工作機械は、分厚い麻袋で覆われ、空の木箱や古びた鉄屑の山に埋もれている。
鍛冶職人たちは、俺たちの姿を見るやいなや、ありふれた鍬の刃を猛烈な勢いで叩き始めた。
一時間前までは、新型コンプレッサーの部品を削り出していたはずなのだが。
「それで、お前たちの言う『ポイントNo.1』の入り口はどこだ?」
ウェイランドは、ただの炭小屋にしか見えない傾いた建物の前で足を止めた。
周囲には無煙炭の山が転がり、壁は煤で真っ黒に汚れている。
「ここです」
俺は鉄板で補強された扉を指差した。
「この倉庫の地下に、一次分配ノード(結節点)が存在します」
伯爵は同行者の一人に振り返った。
錬金術師のローブをまとった、背の高い痩せた男だ。
男は鞄から、糸で吊るされたマナ・クリスタル付きの銅製フレームという測定器を取り出した。
錬金術師は眉をひそめながら、倉庫の周囲を歩き回る。
「ここには何もありません、閣下」
彼は冷ややかに告げた。
「エネルギーの波形は完全にニュートラル。エーテルの痕跡も、アクティブな流れも一切感知できません」
ウェイランドがゆっくりと俺を振り向いた。
「アイアン、俺は他人に馬鹿にされるのが酷く嫌いでな」
伯爵が静かに言った。
同時に、親衛隊の面々が剣の柄に手をかけた。
背中に冷や汗が流れるのを感じた。
「あなたの連れてきた錬金術師の魔法は、マナを探している」
内臓が引き絞られる感覚を覚えながらも、俺は平然と答えた。
「だが、このオブジェクトはマナでは動かない。ロジック(論理)で動いている。下がってください」
俺は倉庫の壁に近づいた。
煉瓦の隙間から、ランタンを吊るすためのありふれた錆びたフックが突き出ている。
それを引っ張る代わりに、俺は三列下にある特定の煉瓦を押し込み、同時にフックを反時計回りに回した。
カチリ、と金属音が響いた。
倉庫の内部、炭に埋もれていた床の一部がゆっくりと下降を始めた。
石板の間の細い隙間はあまりにも完璧に噛み合わされており、外部から視認することは不可能だった。
床板は油圧ピストンによって深部へと沈んでいく。
伯爵の錬金術師はよろめき、その手の測定器は微動だにしなかった。
「そんな……馬鹿な、どうやって……」
彼は呆然と呟いた。
「どうぞ、閣下。ここが『ポイントNo.1』です」
(ダーウィンがあらかじめポイントを見つけ、エリリアを通じて俺に伝えておいてくれて本当に助かった)
俺は胸中で安堵した。
ウェイランドがシャフトの縁に歩み寄った。
松明の光に照らされた底には、彼の城と同じ、漆黒の複合素材の壁が鈍く光っていた。
「本当に、開けたのか……」
伯爵が息を漏らした。その声には畏怖が混じっていた。
伯爵は数秒間、沈黙のまま暗闇を見つめていた。
「ダーウィン」
「……明かりを」
ダーウィンは入り口のレバーを引いた。
シャフトの奥深くで、俺たちの原始的な化学反応炉から給電された薄暗いランプが明滅した。
光は不安定で揺れていたが、地中へと続く階段を確かに照らし出した。
「降りるのは明日だ」
伯爵は突然そう言い放ち、縁から一歩下がった。
「今日は……これを受け入れる時間が必要だ。ヴァルター! 周辺の警戒体制を整えろ。俺の許可なく誰もここへ入れるな」
俺は安堵のため息を必死に噛み殺した。
(映画の中だけの話だと思ってたよ)
そんな考えが頭をよぎる。
最初のテストはクリアだ。
俺たちは「入り口」を見せた。
だが、最も危険な部分――稼働中の演算センターと、下層にある俺たちの隠し工房は、ダーウィンが急造した隠し壁の向こうに隠蔽されたままだ。
「御心のままに、閣下」
俺は軽く頭を下げた。
「ダーウィンが客室へご案内します。俺は……少し、座らせていただきます」
俺はゆっくりとその場を離れた。
背中に突き刺さるウェイランドの重い視線を感じながら。
工房の角を曲がり、二人きりになった瞬間、ダーウィンが俺の腕を掴んだ。
「アイアン、本当に紙一重だったんだぞ。もしあの錬金術師が倉庫の壁越しにスキャンを試みていたら、俺たちの新しいピストンが見つかっていた」
「あいつを見ろ。明らかに形だけの無能だ、気づきやしないさ」
俺は囁き返した。
「今はとにかく、この夜を乗り切ることだ。正式に伯爵を深く潜らせすぎないこと」
「でも、彼が自力で気づく可能性はないのか?」
「ない。俺自身、まだそのポイントも、お前たちがそこで何をしたかも見ていないんだ。だから、俺の反応は本物になる。馬鹿げた理屈に聞こえるだろうが、今はそれに懸けるしかない」




