第116話:深層播種
ウェイランド城での新しい一日は、伯爵のお抱え技師長であるロランに、同じ部品を六回も測り直させることから始まった。
ロランは頑強な男だった。
だが……
「アイアン親方、いくら何でもこれは嫌がらせだ!」
ロランは重いノギスを作業台に叩きつけた。
「たかが昇降機の部品に、なぜそこまでの精度が必要なんだ? 遊び(ゆとり)くらい、どうせ魔法が補正してくれる」
俺は杖に深く寄りかかりながら、その横に立っていた。
「それが問題なんだ。お前たちは何でも魔法のせいにして片付ける」
俺は作業台に近づき、その部品を手に取った。
『リュモン』を起動する。
視界にグリッド線が重なった。
システムが鋼鉄の表面にある凹凸を赤く照らし出す。
「ここを見ろ」
俺は辛うじて見えるかどうかの粗面を指差した。
「この条痕が見えるか? 刃物が振動している。お前の弟子が焦った証拠だ。ここにかかる摩擦は、設計値の三倍に跳ね上がるぞ」
「そんなもの、一体誰が見るんだ?」
ロランはぶつぶつと文句を言ったが、部品を受け取ると凝視し始めた。
(少なくとも、この俺が見る)
俺は心の中で思った。
「仕事に戻れ。夕方までに二十枚の歯車すべてを、まるで一つの型から鋳造されたかのように噛み合わせろ。それとロラン、昨日俺が調合した油を使え。猪の脂は厨房にでも残しておけ、ここで必要なのは高い粘度だ」
よし。
これでロランとその部下たちは、向こう十二から十四時間は作業台に縛り付けられる。
ようやく、俺自身の仕事に取りかかれる。
部屋に戻ると、俺は真っ先に扉に鍵をかけ、机に向かってアーカイブから『拝借』してきた地図を広げた。
ドルンハイム。
エントリーポイントNo.1。
この図面が正しいなら、俺の村は何らかの戦略的な結節点に位置している。
だが、この城も……ただ偶然ここに建っているわけではない。
地形を見れば分かった。この基礎の下にあるのは、単なる地下室ではない。
「リュモン、基礎のスキャンデータを更新しろ」
俺は呟いた。
[構造物を検出。深度:42メートル。幾何学的誤差:0.001%未満。壁面の材質は本地域で確認されている既知の岩石と一致しません]
俺はバッグに荷物を詰め始めた。
気圧式カッター、鍛冶場でこっそり充填してきた高圧ガスボンベ、自作した錬金術の硫黄と硝石を混ぜた煙幕弾が二発。
あるいは、もちろん俺の拳銃。
「本当にあそこへ降りるつもりか?」
ノアが影から姿を現した。
「気が進まないが、俺たちの安全のためには確かめる義務がある」
「金庫室よりも衛兵が多いぞ」
彼は言い放った。
「あの身のこなしと装備、ただの人間じゃない」
「注意を引いてくれればいい。最悪、殺しても構わない」
「ようやくまともな仕事だな」
ノアは軽く体を伸ばすと、その瞬間に掻き消えた。
夜のウェイランド城は、物音と隙間風が幾重にも這い回る迷宮へと変わる。
エリリアの案内で、俺たちは通気口や古い点検通路を進んだ。
俺たちはひたすら深くへと降りていった。
湿った石とカビの匂いが、次第に別のものへと変わっていく。
空気は乾燥し、冷たく……どこか無機質だった。
「近いよ」
エリリアが囁いた。
彼女の淡い緑の光だけが、この暗黒の中の道標だった。
「ここの魔法……なんだか変」
俺たちは狭い通路に出た。
壁は何らかの滑らかな複合素材でできていた。
目の前に、重厚な気密扉がそびえ立つ。
中央には円、そして細い接合線のスリット。
「リュモン、ロックを解析しろ」
[機械式ロックを検出。タイプ:油圧シーリング。三箇所のインレットポートへ140バールの圧力を加える必要があります]
俺は気圧式カッターと、ロランに削らせたアダプターを取り出した。
(彼は灌漑システムの部品だと思い込んでいる)
接続には五分かかった。
ガスを注入し始めると、高まる破裂寸前の圧縮音が通路の静寂を破った。
扉が震える。
内部で鈍い衝撃音が響いた。
分厚い隔壁が、音もなく横へとスライドした。
一歩足を踏み入れた瞬間、俺は硬直した。
闇の中に天井が紛れる、広大なホール。
そして柱。
幾列にもなって奥へと続く、何百本もの完璧な漆黒の柱。
その間を微弱な青い放電が走り、空気は静電気でジリジリと鳴っていた。
「これ……何?」
エリリアが一つの柱に近づいたが、触れるのを躊躇っていた。
「サーバー室だ」
俺の口から言葉が漏れた。
「あるいは、何らかの管理ノード(結節点)」
俺はホールの奥へと進んだ。
脳が目の前の光景を必死に処理しようと火花を散らす。
そして、俺はそれを見つけた。
ホールの中央に木製の机が並んでいた。
その上には羊皮紙の山、錬金術のレトルト、そして……檻。
近寄ってみる。
壁に沿った専用の窪み(ニッチ)に、濁った液体で満たされたガラスのカプセルが吊るされていた。
その中にいたのは――
「魔術師……」
エリリアが息を呑んだ。
彼らの頭部からは何本もの銅の針が伸び、黒い柱のポートへと接続されていた。
身体は骨と皮ばかりに衰弱し、目は白目を剥いている。
俺は机の上に置かれていた日誌の一冊をひったくった。
『142日目。マナの消費量が指数関数的に増大。評議会の魔導師たちの摩耗が激しい。システムはさらなる供給を要求している。だが最大の問題は――中央ノードが応答しないことだ。管理キーが必要となる。キーのシグネチャをロケーションNo.1(ドルンハイム)にて確認』
「アイアン!」
エリリアが鋭く扉の方を振り返った。
「誰か来る!」
「ノアが引きつけているはずじゃなかったのか?」
頭上から、足音が響いてくる。
「脱出する! 急げ!」
俺は日誌を掴み、出口へと走った。
ホールから飛び出すと同時に、重い隔壁が元の位置へと閉まった。
俺は慌ててチューブを引き抜き、圧力を逃がした。
通気口の中を走る時間は、永遠のようだった。
肺が焼けつくように熱く、杖が邪魔をしたが、日誌の言葉が脳内で太鼓のように鳴り響いていた。
自分の部屋に飛び込むと、俺はブーツを脱ぐ気力もなく椅子へと崩れ落ちた。
「ウェイランドを相手にするのは危険すぎる」
俺は声を枯らした。
「だが、忌々しいことに、今ドルンハイムを守れるのは奴しかいない。選択肢は二つだ。伯爵を殺して絶対に勝てない戦争を始めるか、奴の同盟者になるか。どちらにせよ最悪だ」
「聞いたろ、奴は『キー』を欲しがっている」
ノアが声をかけた。
「お前は黙ってろ。何で衛兵を通した? はっきりと引きつけろと言ったはずだ」
「誰も通しちゃいない。二、三人殺して、残りは眠らせた。おそらく、持ち場を離れていた奴らか、お前の言う『夜勤』の連中だろう」
「……かもな」
俺はドルンハイムの地図を見つめながら呟いた。
扉がノックされた。
「アイアン親方?」
ヴァルターの声だ。
「閣下が朝のコーヒーにご招待しております。昇降機の設計図について……それと、別の件についてもお話ししたいとのことです」
俺は素早く日誌をマットレスの下に隠し、大声で返した。
「今行く、ヴァルター。閣下に伝えてくれ、彼の……『プロジェクト』のエネルギー消費を最適化するアイデアがいくつかある、とな」




