第11話:他人の皮膚
俺は鎧を身にまとい、その感覚に耳を澄ませながら身を硬くした。
奇妙な感覚だった。
通常、衣服というのは単なる布の層にすぎず、一分もすれば気にならなくなるものだ。
だが、この手製の胸当て(キュイラス)は胴体に完全に密着し、身体を動かすたびに革が軋む音を立てた。
俺は深く息を吸い込んだ。
胸が広がり、骨のプレートが互いに滑り合って圧力を再配分する。
システムは機能していたが、何かが違っていた。
装甲は防御するというよりも、むしろ身体を拘束している。
一歩間違えれば、プレートの端が肋骨に突き刺さるだろう。
「一歩間違えれば、プレートの端が肋骨に突き刺さるな」
俺は言った。
ゼノは入り口のそばに座り、小さなナイフを研いでいた。
「どうだ?」
砥石を脇に置きながら、彼はようやく尋ねた。
「肩のあたりが窮屈そうだな?」
「許容範囲内だ」
手首をほぐしながら、俺は答えた。
「肩当ての重量のせいでバランスがわずかに右に偏っているが、姿勢でカバーできる。計算では、これで衝撃時の慣性がより良く分散されるはずだ」
「計算、か」
ゼノは素っ気なく鼻で笑った。
「その皮がお前を爪から救う前に、お前の『意志』がお前自身を焼き尽くさないという保証はどこにある?」
「行くぞ」
ゼノは杖を支えに立ち上がりながら言った。
「今日の森はいつもより少し騒がしい。お前の『鎧』がどれほどのものか、ちょうど見極められるだろう」
俺たちは茂みの奥へと進んだ。
小屋から離れれば離れるほど、空気の密度が増していく。
魔力が鼓膜を圧迫するのを、俺は肉体的に感じていた。
鳥たちは静まり返っていた。
虫さえもこのセクター(区域)から退避したかのようだった。
オゾンと腐った葉の匂いが漂っていた。
「ここだ」
ゼノは、奇妙な溝で荒らされた小さな開けた場所で足を止めた。
『生きる意志』が短く鋭いパルスで応じた。
システムが警告を発していた。前方にある脅威は、標準パラメータを超えている。
それは木々の影から姿を現した。
俺が芸術家なら、それを狼と呼んだだろう。
だが、俺はエンジニアだ。
俺の目に映ったのは、マトリックス(構造)のバグにすぎなかった。
獣の身体は絶えず明滅していた。
輪郭はぼやけ、四肢は煙のような痕跡を残し、その顔面はまるでいくつかの異なる猛獣を縫い合わせたかのようだった。
それは、ガラスを金属で引っ掻いたような不快な音を立てた。
「運動ベクトルが不安定だ」
俺はスキルを起動しながら呟いた。
世界から色彩が失われた。
時間が濃縮されていく。
俺は、獣が跳躍のために後ろ脚に力を溜めるのを見た。
奴は微小なテレポート(空間転移)を繰り返し、引き裂かれたような断続的な動きで距離を詰めてきた。
俺は最も厚いプレートで保護された左の前腕を前に突き出した。
衝撃は、耳の中の血管が弾けるほどの威力だった。
俺は背後にある古い松の木まで吹き飛ばされた。
装甲は耐えたが、慣性エネルギーが消え去ったわけではない。
体内で何かがズレた。
肺から空気が喘ぎ声とともに絞り出され、視界に重苦しい赤い斑点が広がった。
さらなる跳躍。
俺は側方へ転がった。左肩が鈍い悲鳴を上げる。
脇腹の装甲が軋んだ――プレートを繋ぎ止めていた腱の一本が弾け飛んだのだ。
可動性が阻害された。
今や左腕を動かすたびに、骨と骨が硬く擦れ合う感触が伝わってきた。
『左セクターへの致命的負荷。装甲の整合性――八十二パーセント』
理性が冷徹に報告を告げた。
奴が安定化する瞬間を捉える必要があった。
あらゆるアノマリー(異常)にはサイクルが存在する。次の跳躍に移る前、この世界に完全に「レンダリング(描画)」される一瞬の隙だ。
俺は木の幹に背中を押し当て、手のひらに圧力を溜め始めた。
激痛が走る。
魔力が沸騰した油のように回路を流れ落ちていった。
シャドウ・ウルフ(影狼)は三メートル先で静止し、跳躍の身構えを見せた。
その虚ろな眼窩が、俺の目を射抜いていた。
「さあ、来い……」
俺はかすれた声で言った。
奴が地を蹴ったまさにその瞬間、俺は蓄積した魔力を収束された振動として一気に解放した。
俺たちの間の空間がパキリと割れた。
獣は不可視の障壁に激突し、コンマ数秒の間だけ実体(密度)を得た。
それだけで十分だった。
奴は地面に墜落し、草に触れるよりも早く溶けて消える黒い破片となって霧散した。
俺は木の皮に指を食い込ませたまま、かろうじて立っていた。
「デアクティベーション(停止)……」
俺は言葉を絞り出した。
「システムの再起動を……」
スキルが命令を受け付けない。
肉体が生存モード(サバイバルモード)のままロックされてしまっていた。
ストレスホルモンが脳を侵食していく。
筋肉は限界まで張り詰め、今にも引き裂かれそうだった。
体温が急上昇していくのを感じた。
「アイロン!」
ゼノの声が耳鳴りを突き抜けて響いた。
「圧力を解放しろ!」
彼は俺のすぐ横の地面を杖で叩いた。
衝撃がブーツを介して伝わり、パニックのパルスを打ち消した。
俺は無理やり、ゆっくりと息を吸い込んだ。
それから、吐き出す。
次の瞬間、ゼノは俺の頬を強く張り飛ばした。
「そこまでだ」
彼は厳しく言った。
「戻るぞ」
世界が次第に色彩を取り戻していった。
視界が広がる。
『生きる意志』が後退し、後に残されたのは凄絶な疲労感だけだった。
俺は幹に沿って地面へと崩れ落ちた。
左腕は力なく垂れ下がっている。
脇腹のトロール皮は引き裂かれ、ひび割れた狼のプレートが露出していた。
「鎧が……」
俺は砕けた骨板を見つめた。
「耐えきれなかった。固定ノード(結合部)の剛性が高すぎる」
「装甲の問題ではない」
ゼノは俺の傍らにしゃがみ込み、手のひらを額に当てた。
「体が燃えるように熱いぞ。自分自身と常時戦争状態にあるというのは、あまりにも重すぎる負荷だ。
バランスを見つけなければ、いつか完全に『オフ』にできなくなる。
その時は、お前自身があの狼のようなアノマリー(異常存在)に成り下がるぞ」
俺たちはゆっくりと小屋への帰路についた。
朝は三十分足らずだった道のりが、今は永遠のように感じられた。
鎧の重量が、一グラム単位で体にのしかかってくる。
今のそれはただの重荷――自ら進んで背負い込んだガラクタの塊にしか思えなかった。
家に入ると同時に、俺はそれを剥ぎ取った。
鈍い音を立てて床に落ちる。
俺はそれを見つめた――傷つき、汚れ、オゾンと汗の臭いを放つ塊を。
内側の皮膚はところどころ擦り切れて血が滲み、肩にはすでに巨大な痣が浮かび上がっていた。
ゼノは黙って、苦い薬草の煎じ液が入ったクマグを俺の前に置いた。
「飲め。震えが収まる」
俺はそれを煽った。
熱がじわじわと身体に広がり、意識を少しずつ現実へと引き戻していく。
「作り直す必要があるな」
机の上の胸当てを見つめながら、俺は言った。
「お前というやつは、本当に救いようがないな」
ゼノは向かい側に腰掛けながらため息をついた。
俺はナイフを手に取り、破損した胸当てを引き寄せた。
極度の疲弊(エネルギー枯渇)にもかかわらず、脳内にはすでに新しい設計図が構築されつつあった。
硬い腱を編み込み構造(メッシュ構造)に変更する。
プレートの間に柔らかい苔や毛皮の層を追加し、振動を減衰させる。
そして何より重要なのは、スキル起動時、装甲が俺の肉体と完全に同期して『呼吸』できるようにすることだ。
「お前は己の弱さを憎んでいるな」
俺の手元を見つめながら、ゼノが静かに言った。
「それは危険だ」
彼は少し沈黙し、それから言葉を継いだ。
「自分をコントロールすることを覚えなければ……いつか本当に止まれなくなるぞ」
俺は目を上げないまま、鼻で笑った。
「相変わらず同じ話ばかりだな、爺さん」
ゼノはフンと鼻を鳴らした。
「だからこそ、お前のような新米から目を離せんのだ」
俺は顔を上げて彼を見た。
「気遣いは感謝するが、遠慮しておく。さっきの張り手の件はまだ忘れていないからな」
「硬いことを言うな」
彼は手を振ってそれを遮った。
「生きてるんだろ?」
「それはロジック(論理)になっていない」
「俺にとっては十分すぎる根拠だ」
ゼノはニヤリと笑った。
「お前一人では、ここでは長く持たんよ」
俺は首を振ったが、反論はしなかった。
「結果を見てみればわかる」
「見てみればわかる、か」
彼はにやにやしながら俺の口調を真似た。
そうして俺とゼノは夜更けまで言葉を交わし続け、最後は疲労の限界で完全に意識を失った(シャットダウンした)。




