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第108話:生存の数学

夜明けは重く、息苦しかった。


灰色のどんよりとした空気が、ドルンハイムを地面に押さえつけているかのようだった。


外壁から六百メートル離れた森の端。そこに、何千もの兵が布陣していた。


鎧の鳴る音、何百頭もの馬のいななき、そして軍靴の足音が、一つの低く重い地鳴りとなって響く。


俺たちが血の滲むような思いで再建した家々の窓ガラスが、その振動でビリビリと震えていた。


「……怖いか?」


音もなく近づいてきたノアが口を開いた。


彼は軽量の革鎧を身に纏い、背中にはあの高炭素鋼の剣を背負っている。


朝の光の中、彼の顔は青白く見え、その瞳孔は鋭い縦長の裂け目のように細くなっていた。


「恐怖は非効率な感情だ」


腹の底が冷たく縮み上がるのを感じながらも、俺はそう答えた。


「だが、明らかな事実を否定するのも愚かだ。数が多すぎるぞ、ノア」


壁の上に立つ四十人の村人たちは、息を呑んで硬直していた。


木こり、鍛冶屋、ただの日雇い労働者たち。


彼らの足元には、砂の入ったバケツと予備の火縄が置かれている。


『対象:ウェイランド伯爵軍。戦力比:300対1。第一防衛線の維持確率:42%』


平原の向こう側で、角笛が吠えた。


第一波――数百人の歩兵部隊が、こちらへ向かって前進を開始する。


「撃て!」


俺は絶叫した。


門の上に設置された第一砲台が、空気を引き裂いて火を噴く。


三発の鋳鉄の砲弾が空を切り裂き、密集した歩兵の隊列に突き刺さった。人体が紙切れのように粉々に吹き飛ぶ。


「罠を起動しろ!」


リュモンが聞いていると信じて、俺は虚空に向かって叫んだ。


起爆レバーを力任せに押し込む。壁の前の地面が、天を突く勢いで爆発するはずだった。


「死の地帯キルゾーン」を作り出すため、地雷原の配置は完璧に計算していた。


カチッ。


――何も起きない。


「どういうことだ!?」俺は怒鳴った。「リュモン、報告しろ!」


『回路エラー。原因:土壌の高湿度および導火線の絶縁不良。罠の有効性が70%低下』


「クソッ、よりによってこんな時に!」


俺は胸壁を拳で殴りつけた。


敵の歩兵部隊は、野獣のような雄叫びを上げて一気に距離を詰めてきた。


すでに壁の真下だ。鈍い音とともに、攻城梯子が壁に掛けられる。


「エリリア! ノア!」


すでに破城槌の衝撃で震え始めている門を目指し、俺は壁から飛び降りた。


ノアが胸壁を飛び越えた。


五メートルの高さから、敵のど真ん中へと落下していく。


彼は旋風となって舞い、斬り飛ばされた手足と、引き裂かれた臓物の軌跡を残していく。


彼の上空では、緑色の竜巻が荒れ狂っていた。


エリリアの瞳が、毒々しいエメラルドグリーンの光を放っている。


木の根が地面から飛び出し、兵士たちの足を絡め取る。骨をへし折り、生きたまま土の中へと引きずり込んでいった。


俺は内門に辿り着いた。


破城槌が外側の扉をぶち破り、伯爵の傭兵たちが雪崩れ込んでくる。


改造マスケット銃を構える。一発撃つ。一人が倒れた。


二発目――不発ミスファイア


俺は銃を投げ捨て、短剣を引き抜いた。義手の金属表面で、青白い放電が踊る。


斬りつけ、突き刺し、義手を盾にも鈍器にもして戦い抜いた。だが、あまりにも数が多すぎた。


次第に壁際へと追い詰められていく。


一人の傭兵が重い斧を振りかぶり、側面からは槍兵が狙いを定めていた。


「リュモン、代替の戦略を!」


スキルが残り少ない体力を焼き尽くしていくのを感じながら、俺は掠れた声で叫んだ。


『解析中……陽動作戦を展開。優先度:高』


その瞬間。


倉庫の影から、二人の少年が飛び出してきた。この三ヶ月、鍛冶場で俺を手伝ってくれていたトーマスとピートだ。


彼らの手には、粗末な槍が握られていた。


「アイアン親方、下がって!」


トーマスが叫ぶ。


俺は、今すぐそこから逃げろと怒鳴りたかった。


だがその刹那、奇妙な電気信号を感じた。口が開かない。


代わりにリュモンが、ヘルメットの外部スピーカーを通し、俺自身の声を使って冷酷に命じた。


「奴らを食い止めろ! これは命令だ!」


一瞬の躊躇もなく、少年たちは敵に向かって突進した。


ピートが俺をかばうように前に出て、その胸に槍の直撃を受ける。


トーマスは絶叫と共に、自分の槍を傭兵の鎧の隙間に突き立てたが、直後に他の三人の敵に押し潰された。


それが、俺に「三秒」の猶予を与えた。


リュモンが自動で跳躍ベクトルを計算する。


義手が地面を叩き、その反動で俺の体を後方の第二防衛線へと弾き飛ばした。


傭兵たちがトーマスに止めを刺すのを、俺はただ見ていることしかできなかった。


「お前……何をした……?」


彼らの血で汚れた自分の手を見つめながら、俺は呻いた。


「一体何てことをしてくれたんだ、リュモン!?」


『対象:トーマス、およびピーター。ステータス:消滅。生存確率が64%向上しました。プロジェクト「ドルンハイム」完了における当該対象の価値は、極めて軽微でした』


俺の中で、何かがプツリと切れた。


その時、壁の上にガラットの姿が見えた。


砲身を掃除しようとしていた彼の肩を、クロスボウの矢が貫く。


彼は崩れ落ちたが、その手から洗矢さくじょうを離すことはなかった。


俺は敵を薙ぎ払いながら、血路を開いて彼のもとへ向かった。


「ガラット!」


俺は彼を抱き起こした。


「逃げろ……」


荒い息を吐く彼の唇から、血の泡が溢れ出す。


俺の腕の中で、彼は動かなくなった。


初めての砲弾の完成をあんなに誇らしげにしていた鍛冶屋のライデンは、頭蓋骨を割られ、炉のそばで横たわっていた。


いつも俺たちに食事を運んでくれていたマルタは、突破口で騎兵に踏み潰されていた。


壁を突破した数千の敵のうち、第二防衛線から逃げ帰ることができたのは三十人にも満たなかった。


敵は山のような死骸を残して敗走したのだ。ドルンハイムの前の平原は、死体で埋め尽くされていた。


俺は破壊された門の瓦礫の中に立っていた。


装甲には深い傷が無数に刻まれ、義手からは火花が散っている。世界は色を失い、ただひたすらに冷たかった。


ノアが近づいてきた。全身血まみれだ。


彼の左肩は深く切り裂かれていたが、傷は見る間に塞がっていく。


その傍らで精霊がゆっくりと舞い降りた。羽は力なく垂れ下がり、あの緑色の光はほとんど消えかけていた。


俺は目を閉じた。


(リュモン……もしもう一度、俺の直接の命令なしに俺の民の命を利用したら……)


(必ずお前をシャットダウンする方法を見つけ出してやる。自分の頭に弾丸をぶち込むことになろうとな)


リュモンは答えなかった。


俺は生き残った者たちへと振り向いた。


五十人いた村人のうち、立っているのは二十人にも満たない。彼らは目の前に広がる凄惨な光景を、恐怖の眼差しで見つめていた。


「第一波は……退けた」


俺は掠れた声で言った。


「負傷者を集めろ。大砲を再装填するんだ。まだ終わってないぞ」


俺は地平線に目を向けた。


そこで、新たな光が灯り始めていた――奇妙な、紫色の光が。

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