第103話:ドーンハイムの灰
前方、地図上で大きな村があるはずの場所では、巨大な業火が燃え盛っていた。オレンジ色の炎の舌が屋根の藁を舐め尽くし、家々を黒焦げの梁だけの骸骨へと変えていく。火の粉が空へ舞い上がり、辺り一面に肉の焦げる重苦しく、ひどく甘ったるい臭いが立ち込めていた。
俺は歯を食いしばった。またか。またこのパターンだ。
「あちゃあ……」頭の上にいた精霊が、ぶらつかせていた足を止めた。「わたしの森が……酷いことされてる。黒い影はまだここにいるよ、鉄の男。感じる?」
煙の帳から、引きずり出された内臓の切れ端を引きずりながら、一匹の異形が道へと這い出てきた。姿は狼に似ていたが、大きさは雄牛ほどもあり、その皮膚は腐敗した潰瘍で弾けそうになっていた。そのすぐ後ろの影から、さらに三匹が姿を現す。
(リュモン)俺は心の中で呼びかけた。
『生体反応を感知:4。個体識別:歪んだ森の捕食者。攻撃ベクトルの解析……完了。推奨戦略:接近時の迎撃』
(自分でベクトルを計算しなくていいのは本当に助かる)と、俺は思った。
リュモンの計算を設計図代わりに、俺は刃を振るった。
左へ。慣性の相殺。反転。
一振りの剣が、最初の一匹を顎から尻尾まで一刀両断にする。返り血が俺のジャケットに飛び散ったが、その時にはもう、俺の体は別の場所に移動していた。
頭の上の精霊も黙って見てはいなかった。彼女が指をパチンと鳴らすと、近くのオークの根が地面から飛び出し、残りの二匹を締め上げて真っ二つに引き裂いた。
一分も経たないうちに、すべてが終わった。
俺たちは、魔物と人間の死骸が散乱する通りの真ん中に立っていた。
「あそこに誰かいる!」精霊は俺の頭頂部から飛び立ち、広場の中央にある壊れた井戸へと急降下していった。
俺は袖で剣を拭いながら、彼女の後を追った。
井戸の石積みに背を預け、一人の少年が座り込んでいた。見たところ、俺と同じくらいの年齢だ。服は血に染まったボロ切れと化し、顔は赤黒い血の塊に覆われ、左腕は力なく垂れ下がっている。
彼が俺を見上げた。その瞳はガラスのように虚ろだった。
「助けて……」彼は掠れた声で言った。「ノア……僕の名前は、ノア……」
精霊はためらわなかった。彼の胸の上に降り立つと、その小さな手のひらが鮮やかなエメラルドグリーンの光を放ち始める。傷口が塞がり、骨が接合していく様子を、俺は目の前で見つめていた。
少年は荒く息を吐き、体を起こした。その瞳に生気が戻る。
だが、彼が意識を取り戻した瞬間、俺の脳内で警報が鳴り響いた。
(リュモン、報告を!何がおかしい?そいつをスキャンしろ!)俺は命じた。
『警告。要求は拒否されました。対象「ノア」のスキャンは不可能です。推奨警戒レベル:最大』
俺は剣の柄を強く握り直した。
精霊が治療を終えた瞬間、彼はよろめきながらも勢いよく立ち上がった。
「ばあちゃん!」彼は声を裏返らせて叫んだ。「そこにいるの!?」
すでに半分が煙を上げる炭の山と化した、一番近い家へと彼は駆け寄った。ノアは素手で熱い梁を退かし始めた。指先の皮膚が瞬く間に火傷で水膨れになっていく。
「手伝ってよ、鉄の男!何突っ立ってるの!?」瓦礫の上を飛び回りながら、精霊が叫ぶ。
俺は気が進まないまま近づき、義手の力を利用して、重い黒焦げの丸太を一吹きで跳ね飛ばした。
その下、灰色の塵と煤の中に、一人の老女が横たわっていた。目は開かれていたが、そこにはもう何の生気もなかった。
ノアは膝から崩れ落ちた。そのしわくちゃの手を掴み、顔を押し当てて、激しく泣き崩れる。
「ごめん……間に合わなかった……ばあちゃん、ごめん……」彼の声は、息の詰まるような囁きへと変わっていった。
その姿を見て、俺は自分が家族の亡骸のそばでこうして泣くことさえ許されなかったことを思い出していた。
俺は顔を背けた。
やがて、地下室や森の茂み、石壁の陰から、人々が少しずつ姿を現し始めた。およそ五十人ほど。彼らは広場に集まり、燃え盛る我が家を見つめていた。叫び声を上げる者、炎の中に飛び戻ろうとする者、ただ地面に座り込んで体を前後に揺らしている者。
今すぐに彼らを統率しなければ、寒さか、あるいは戻ってきた魔物に襲われて全滅する。俺はそう確信した。
「全員、俺の言葉を聞け!」俺は声を張り上げ、威厳を持たせようとしながら広場の中央に出た。「静かにしろ!まずは警戒態勢を整える。男は動かせる武器を集めろ。女と年寄りは中央に集まって、水の備蓄を確認するんだ!俺たちは――」
人々が動きを止めた。そして、俺を見た。
だが、その瞳にあったのは希望ではなく、恐怖だった。
「お前は……何者だ?」一人の老人が後ずさりしながら呟いた。「お前が……この炎を連れてきたのか? 出て行け! 失せろ!」
群衆から地鳴りのようなざわめきが沸き起こる。
井戸の屋根からその様子を見ていた精霊が、深くため息をついた。
「はぁ、鉄の男……あんた、本当に人間と話すのが下手くそだね」
彼女は空へと舞い上がった。その存在が、広場を温かい黄金の光で満たしていく。彼女が歌い始めた――森の中で俺に口ずさんてくれた、あのメロディだ。
人々は静まり返った。泣き声が止み、敵意は畏怖へと変わる。精霊はゆっくりと舞い降り、一人ひとりに光を灯していった。人々の肩から緊張が抜けていくのが見えた。
十分後、五十人の村人全員が大きな焚き火を囲んで穏やかに座っていた。精霊が、あの破壊的な地獄の業火を、暖かな平穏の炎へと変えたのだ。
俺は広場の端にある影の中に立ち、その和やかな光景の中で自分だけが異分子であるように感じていた。
「おい」近くから声がした。
振り返ると、そこにはノアがいた。涙を拭った彼の顔は青白かったが、落ち着きを取り戻していた。俺を見るその瞳には、先ほどのガラスのような絶望はもうない。
「……ばあちゃんを引っ張り出すのを手伝ってくれて、ありがとう」彼は静かに言った。「それから、そっちの相棒にもお礼を伝えてくれ」
「僕はノア」彼は手を差し出しながら、もう一度名乗った。「君は?」
俺はその手のひらを見つめ、それから彼の目を見た。
「アイアンだ」俺はそう答えたが、手は握り返さなかった。




