第十二話 契約者
前回、サラミナ戦及び直感の鍛錬終了。
掲載した後に付け加えた文が結構あるので、念のため前話の内容をご確認ください。
そういえばまだトレーニングを始めて三日しか経ってないんだ。
翌日学校でテストをしながら、空いた時間でそんなことを考えていた。
ドーナツを食べた後に蛍が数学の復習に手伝ってくれたおかげで、テストの空欄はとりあえず全部埋まった。
見直して、目立つ間違いがないことを確認。後は天に祈るだけ。
時計を確認する。残り10分。思考はトレーニングの事へ。
アラディアさんのトレーニングは確かに効果がある。
順調に、何より成長している実感が自分で感じられるのが嬉しい。
これなら・・・・・・・・これで、奴に勝てるのか。
思い出す。あの時の事を、初めてファルファレナと出会った時を。
あの圧倒的な存在感。意識を向けられただけで魂が弾け飛びそうな、あの視線を。
どんな苦痛にも耐えられる。意思で常識を超越することも出来た。直感で他の全感覚を補える。
けど、まだあいつに勝てるイメージができない。
根本的な格が足りないんだ。霊格のどうしようもない、彼我の差。
それを埋めない限り、どれだけ技量を積んだところで意味がない。
アラディアさんはそれも織り込み済みなのかな。そうだと信じたい。
やがてチャイムが鳴り、それと同時に担当の先生がテスト用紙を回収する。
休み時間はテストの話で持ちきり。答え合わせをしたり、それを見て歓喜したり嘆いたり。
カナもなんとか乗り越えられたようで、空白が五つで済んだらしい。
「昨日の気怠そうな二人が嘘みたいだよ。背筋がピンとしているというか、所作の一つ一つが丁寧になってる気がする」
カナは私たちを見てそう言った。
アラディアさんにかけられた呪いも慣れてきた。同時にそれを克服する方法も。
もう何十日もこの呪いと一緒にある。自然体で生活できるのも無理がない。
自然と姿勢が良くなっている気がしたが、勘違いではなかったらしい。
そして、テストが終わって放課後。
私たちは桃花に向かった。
「こんにちは、二人とも」
二階で私たちを待っていたのは店長だった。
昨日のドーナツの件を思い出して頭を下げる。
「ドーナツ美味しかったです。ありがとうございました」
「いえいえ、二人とも頑張っていますからね。むしろこんなことしかできなくて悲しいくらいです」
「そんなことありませんよ。とても嬉しかったです」
店長は笑いながら、部屋の大部分を占領するスライムを指差す。
「アラディアさんと天都さんは既にスライムの中です。
準備ができ次第来るように、と言っていました」
「分かりました」
学校を出てから準備は出来ている。
私たちは臆さずスライムに触れる。
波立ち、吸い込まれるように中に入る。
目に映るのは巨大なトレーニングルーム。
直接見たことはないけど、東京ドーム1個分くらいの広さはあると思う。
白い、四角張りの空間。前に立つ二人の黒い影。
煙草をもみ消した天都さんに、傍らに立つアラディアさん。
「よう、来たか」
アラディアさんは私たちに近づき、天都さんを後ろ指で指す。
「これからこの暇人にも手伝ってもらう。
遠慮することはない。咎人だと思って思いっきり殺す気で臨めばいい」
「殺す気って、今回のトレーニングは何をするんですか?」
「簡単だよ」
ニヤリと笑うアラディアさん。その笑みは果たして私たちに向けられているのか、天都さんに向けられているのか。
「これからお前たちは天都と戦う。一発食らわせればそれでいい。
本人は良い具合に手加減してくれるってよ」
「あ、天都さんにですか?」
「・・・・久々ですね」
今までと違う緊張感が私たちを襲う。
天都さんとの手合わせは初めてではない。最近は少なくなったが、一年前は結構指南してもらったことがある。
その時に天都さんの強さは十分すぎる程実感している。
それを思い出して、思わず私は唾を呑んだ。
説明が終わった私たちを見て、天都さんは右手をブラブラと振って言う。
「人差し指」
「え?」
「俺は指一本で相手する。お前たちは不意打ちでも顕現でも魔術でも何でも使ってこい」
その言葉がはったりではないことはすぐに分かった。
天都さんの位階は熾天使。私たちの上の上の上の上。
天と地の差が四個分くらい開いている。むしろ指一本でも使ってもらえることに驚く。
「そんな、天都さん相手に殺す気なんて、無理ですよ」
蛍はいかにも困ったような表情で苦言を呈する。
当然だ。天都さんは私たちに様々な事を教えてくれた恩人で、同じ桃花の店員だ。
先日もモンブランを買って頂いたし、そんな人に殺意を持てなんて、そっとやちょっとのことでは無理だ。
「はっ、慕われてんなぁ天都。
簡単なことじゃねぇか、日頃抱えてる恨み辛みをここでぶつけてやりゃいいだけだ」
「そうは言いましても――」
刹那、二人の姿は消えた。
天都が瞬きをした、その一瞬にして背後を取り、発動した顕現をそれぞれぶつける。
漆黒の爪が、創造した双剣が、無防備な背中にそれぞれ凶器を突き立てる。
ドバァッ!!!!と、トレーニング場に深い爪痕を残す。
巻き起こる風は、莫大な力で粉砕されたトレーニング場の破片を吹き飛ばす。
破壊の爪は一回、剣閃は都合十八振るわれた。
空間ごと薙ぎ払われたその場所は、塵一つ存在することを許されない。
さっき殺す気がどうのこうの言っていたのはなんなんだって?知らないなぁ、そんなこと言ったっけ。
天都さんにそんなこと言っていられるわけがない。最低限殺意MAX、親の敵と思って挑まなければ逆に失礼だ。それが美羽と蛍の共通認識である。
息がぴったりあった連携。
合図はさっき、蛍がわざとらしく無理だと言った時。
魔術を使い、二人の間で不可視のネットワークを構築し、タイミングを見計らっていた。
結果は、いかに?
「まあまあだな」
無傷で立っている天都がいた。
その場から一歩も動いていない。それなのにさっきの不意打ちを防がれた。
それに驚愕する猶予はない。美羽は即座に二つ目の顕現を発動させる。
理を破壊する歪脚。相手がどんな顕現を使おうが無理矢理突破できる法則殺しの力。
毒を操る怪鳥も、数を支配する脳体にも通用した破壊の顕現。
出し惜しむつもりはない。黒を纏い、天都の顔に向けて右足を繰り出す。
超速の蹴りは、みるみるうちに天都に吸い込まれ、やがてピタっと停止。
宣言通り、天都は指一本で美羽の蹴りを食い止めていた。
(だいぶ無駄な動きが少なくなった。集中力が向上し、正確さも威力も速さも増している。姿勢もいい。
霊格の増大より前に技術面の部分を磨いたか)
今までの短い交戦で、新しい二人の情報を感じ取る天都。
指先に少し力を入れる。
ピシィッ! と、黒の脚に罅が走る。
「お前のそれは顕現や魔術相手に有利を取れるが、それらを使わず力にものを言わせる咎人には通用しない」
指の力だけで、美羽の顕現を圧倒している。
天都の忠告を聞きながらも、ノータイムで美羽の第二打が放たれる。
指一本しか使わないのならこれで詰みだ。
けど、なぜか美羽にはこの蹴りが当たる予感がしなかった。
美羽の直感は当たり、天都の手前、空中で蹴りがピタリと止まった。
不可視の何かが、美羽の蹴りを遮っている。
(魔術?いや、天都さんは何もしてない。もし発動していたとしても美羽の顕現で破壊されるはずだ。
天都さんの顕現もこんな効果はない。何か別の方法で防いだんだ)
攻防を繰り返した美羽と天都の間に、蛍が双剣を構えて滑り込む。
腕を肩よりも上にあげ、腰を若干曲げる。既に構えは出来ている。
奔る二つの剣閃が上下から迫る。
既に最高の自分を想像済み。海を割り空を裂き山脈を貫く。
宇宙をいくつか両断可能な双撃は、しかし不可視の力によって防がれる。
振り下ろした衝撃が天都を叩くが、髪の毛一本揺るぎはしない。
柄を握る手に力を込める。だが蛍たちを拒む不可視のそれは、一㎜たりともそれ以上の進入を許さない。
(見鬼の魔術を発動しても何も映らない。別の視覚領域にあるわけでもないのか)
その正体を探る。美羽と蛍は咄嗟にその場から退き、置き土産とばかりに蛍は武器を創造した。
天都を囲むように剣の群れが創られる。360度全方角から襲い来るそれらは、逃げ場を与えず刃を突き立てる。
その時、天都の指先だけがわずかに動くのを、二人は見逃さなかった。
ギャリン!という音が連続して聞こえる。剣の群れは空中で不可視のなにかに叩き落とされ、払いのけられる。
空中でキラリと何かが光る。不可視の何かと剣がぶつかり火花を散らす。その正体は、
「ワイヤー、ですか」
蛍は天都が操るものを看破した。
極細のワイヤー。既にこのトレーニングルームに仕掛けていたのか、戦闘が始まってすぐに張り巡らせておいたのか。
その細さは自己強化した蛍が目を凝らしても見えない程。しかしその強度は蛍の創造物を遙かに凌ぐ。
惑星を容易く貫く蛍の武器をたたき伏せた時点で、それは分かっている。
ワイヤーは一つだけではない。幾本あるかは知らないが、十数くらいはあると思って良いだろう。
それを指一本で操り、防御に使ったということだ。
「嘘は言っていないぞ」
天都は蛍の言葉を首肯する。
確かに彼は指一本で相手をするとは言った。しかしそれ以外を使わないとは言っていない。
日本語って難しいな、とどこか呑気に思いながら蛍と美羽は構え直す。
天都の操るワイヤーは障害の一つ。あれをなんとかしない限り一撃を与えられない。
そして、二人の直感が正しければあのワイヤーは防御だけの用途ではない。
ドバッ!!という音を置き去りに、二人の前の地面が裂けた。
地を這う二つの斬撃を横に躱し、二人はワイヤーの大まかな位置を探ろうとする。
直感は当たった。あれほど強靱なワイヤーだ、攻勢に転じることも充分可能。
敵からすれば不可視の斬撃。事前の予兆がなければ察知できない。
二人が躱せたのは天都がワイヤーを使うという情報を得ていて、なによりトレーニングで磨いた勘が働いたからだ。
一歩遅れれば真っ二つ。何の効果が発動するか分からない以上、下手に触れない方がいい。
美羽は腕と脚の、二つの顕現を発動させながら、天都に接近戦を仕掛ける。
蛍は武器を創造しながら、張り巡らされているワイヤーの位置を探る。
右から襲い来る破壊の顕現。左から襲い来る創造の顕現。
それら全てを、天都は指一本で捌いていく。
不動のまま、指を横に縦に動かし、ワイヤーに命令する。
接近した美羽に向け、正面、背後、右横から三本のワイヤーが迫る。
美羽が身体を滑り込み、飛び、身体を傾けそれらを躱したところを狙って、今度は真上からワイヤーが迫る。
無理な体勢から回避するため、軋む肉と骨を無視して後ろに飛ぶ。
直後、上からワイヤーが、まるで断頭台のように落ちてきた。
床を蹴った脚が避けきれず掠る。足先が分断されるが、秒も経たずに新たな足が生えてくる。
無数の武器を生み出す蛍。空間を埋め尽くし、圧倒的な量でもって天都に切っ先を向ける。
大きさも速さもバラバラ。虫のように小さい小刀もあれば、亀のようにわざと遅く進む巨剣もある。
数本のワイヤーでは対処不可能。悟った天都は数百のワイヤーを操りそれらを叩き落とす。
先ほどと違うのは役目を終え地面にたたき落とされた武器。
本来、蛍の想像を持続させなければすぐに消える創造物。しかし工夫を凝らしたのか、地面に落ちたその後も、蛇のような軌道を描いて再び天都に襲いかかる。
粉々にしても動くだろう。見切りをつけた天都はついに魔術を使った。
ワイヤーが動き、武器を迎撃すると同時に蛍を狙う。
地を裂くワイヤーを見切る蛍。しかし蛍の後方で通り過ぎたワイヤーが絡まりあう。
それらは空中で複雑な魔術陣、魔術円を描く。
蛍がそれに気づいた時には、既に魔術が発動していた。
空気を爆発させて紫電が迸る。指向性を持った雷は蛍の身体を貫きながら、竜のように武器群を食い散らかす。雷に触れた武器はその熱量に溶解した。
「ぐっ!」
不自然に貫かれた箇所の細胞だけが焼け焦げた蛍は、慣れた痛みを噛み殺し、新たに想像を始める。
突如、周囲に赤い霧が立ちこめる。
風もないのに広がり続ける。あっという間にトレーニングルームを覆いつくした。
その意図に気づいた天都は、あえて何もしなかった。
霧はベタベタと、水分が服や肌につく。
温泉特有の臭いがする。硫化水素の臭い。
他にもアンモニアなど、五種類ほどの有毒のガスが含まれている。
しかもかなり高濃度。常人なら数呼吸して気絶、そしてそのまま死亡しかねない。
では高濃度の有毒ガスで天都を倒すのかというと、蛍の狙いはそれではない。あくまでおまけのようなものだ。
この程度で天都が倒れるなど蛍は夢にも思っていない。危険なガスが充満する場所であろうが、深呼吸をして空気を楽しむ余裕すらあるはず。
やがて霧が晴れる。
「ワイヤーに色をつけて、見やすくしようとしたのか?」
霧の中から現われた天都は、やすやすと蛍の狙いを見破る。
周囲に張り巡らされたワイヤーからは、赤い液体が滴っている。
空気中からポタポタと、赤く染まった床に滴が垂れる。
気体のガスに着色性をつけ、それによりワイヤーの位置を探ろうというのが蛍の魂胆。
「だが無駄だ」
ビィィィィィィィィィィィンと、何かが振動する音が聞こえた。
ワイヤーだ。残像を伴って、ワイヤーが振動している。
それと同時に、赤い液体が辺りに撒き散らされる。
数瞬後には、空中に垂れていた赤い滴は一切見えなくなった。
ワイヤーを振動させるだけで脱色できるとかまじか。
感心している蛍に十の斬撃が襲いかかる。
身体を捻って避けるが、頬を掠めて血を流す。
しかしそれだけに終わらない。通り過ぎたワイヤーは、先ほどと同じように背後で魔術陣を描く。
魔術陣の構成、文字、形式が違う。
紫電ではない。予想通り魔術陣から発せられたのは炎。
昨日のトレーニングでも炎そのものの咎人と戦ったが、それを上回る熱量と規模。
目の前が白で染まり、あっという間に腕が炭になる。
「ッ!!」
似たような戦術を先ほど体験した蛍の反応は早かった。
熱が全身を焼き尽くす前に想像。後方に突如現われた自分をイメージする。
空間を移動して200メートルは離れた位置に出現する。
全身が炭と化す前に回避成功。
しかしそれを易々見過ごすほど天都は甘くはなかった。
(既に仕掛けていたとは、さすが天都さん。一発も当てられる気がしなくなってきた)
ツー。と、床に着地した蛍の血が溢れる。全身には細かい切り傷。
蛍が現われた空間に、既にワイヤーが張り巡らされていた。
安全だと思っていた蛍はその罠を踏み抜いてしまったというわけだ。瞬く間に全身を切り裂かれてしまった。
未来を予測しているのか、それともそこに現われるという直感を感じ取ったのか。
蛍も美羽も、鍛えた直感がきく時ときかない時がある。それは天都と二人の経験やそもそもの格の違いなのかもしれない。
「腕を上げたな」
遠くに位置する天都さんの声が届く。
ファルファレナと同様に空間を超越しているせいか、その声が至近距離から聞こえてくる。
「動きが格段に良くなった。無駄がなく、フォームもいい。アラディアのかけた呪いが効いている証拠だ。たった数日でここまでの成長。天才的でもある」
飾らない賛辞。表裏のない性格である天都さんは嘘をつかない。つく必要がない。
二人を視界に収めながら、言葉を紡ぐ。
「だが、それでも奴に追いつけるとは思えない。
どうも俺はアラディアの口車に乗せられた気がしてならない」
「何言ってやがる、今まではウォームアップみたいなもんだよ。大切なのはこっからだ、こっから」
天都さんの言葉に、トレーニングの端で様子を見ていたアラディアさんが噛みつく。
それを天都さんは無視して続ける。
「お前たちは熾天使をどういう存在だと思っている」
「・・・・・・堅洲国の最下層にいる、咎人たちの中で最も力を持つ存在、と聞きました」
警戒を解かずに答えたのは蛍。広辞苑を開いたら出てきた説明を、そのまま口に出したよう。
昔、桃花に働き始めて少し経った時、店長から聞いたことだ。同時に、僕たちが関わる必要はない、とも言われた。
天都さんはその言葉を首肯する。
「天使の階梯の最高位に位置する者。既存の概念を超越し、極限まで想念が純化した者。
神にほど近く、単体で世界の全てに壊滅的な被害を及ぼす者。
お前たちがこれから相手するのはそんな存在だ。
奴に会って分かっただろう。自分では絶対に勝てないと」
真実だ。それゆえ二人は押し黙る。
あの魂が打ち砕かれそうな莫大な存在を、あの魂が吸い込まれそうな目を。
それを目撃し、戦意が砕け散ったのは事実だ。反論の余地はない。
今も思い出せば身震いする。それほどまでにファルファレナと名乗った咎人の力は絶対的だった。
だけど、だけどだ。
たとえ天と地の差がどれほどあったって、彼我の間の次元がどれほど離れていたって、神様にほど近い存在だからって。
それでも諦めきれないことはある。
二度とあんな悲劇はごめんだと、大切な日常を守りたいのだと、二人は視線に力を込める。
二人の視線を身に受けて、天都さんは深い溜息をこぼした。
「正直、今でも思う。お前たちと集を除いて、俺たちだけで奴を仕留めるべきだと。そうでないのなら、今回の件は高天原に任せるべきだと」
その言葉に、二人は思い出す。
ファルファレナの粛正に二人を参加させる。店長の提案に、最後の最後まで反対したのは天都さんだ。
その理由は、
「私たちは、やっぱり足手まといですか?」
「それもある。が、それが確信的な理由ではない」
ぴしゃりと言い切る天都。二人が力不足であることよりも思慮すべき事があると言う。
鋭い目を細め、苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべる。
「お前たちが奴と戦う必要はないんだ。
本来、熾天使の粛正は粛正機関の領分ではない。
本人の自己申請があったとはいえ、それを簡単に承諾した店長のことも、こう言ってはなんだが信じられん。
それも、お前たちのような子供に・・・・・・」
細まる視線は睨んでいるようにも見える。だが違う、瞳の奥には二人を案じている気遣いがある。
呟く言葉は自戒のようで、言葉の対象は視界に映る二人よりも、むしろ天都本人に向いていた。
あの時、咎人と二人を鉢合わせさせてしまった自らへの悔恨。
目を閉じて、そして開くと同時に自らの想いを吐露した。
「子供は年相応に遊んでいればいいんだ。
それが出来ないのは、俺たち大人の責任だ」
「天都さん・・・・・」
不器用で、無口で、けど何よりも二人を案じている。
いつだって天都さんはそうだった。
それを思い返し、美羽はこの時だけは構えも警戒も解いて、ただ天都に感謝した。
「心配してくれて、ありがとうございます。
けど、それでも私はファルファレナをこの手で倒したいんです。
たとえこれからもっと傷つくことになっても、それは変わりません」
「・・・・・・・・・」
これまでのトレーニングを乗り越え、美羽も蛍もその想いも精神も高まっている。
今さら何を言われたところで、決意が変わることはない。
天都もそれを分かっているのか、それ以上のことを口に出すのを止めた。
「はっ、今さら何言ったって無駄だぜ。というか止められたら俺が困る。
それとも後輩たちをボコるのが嫌ならお前だけ手を引くか、天都?」
代わりに横から口を出したのはアラディア。先ほど無視されたことを根に持っていたのかもしれない。
「約束だけは必ず守る。
お前たちがそう望むのなら、叶えるまで手助けするのも俺たちの役目だろう」
再び手を上げ、人差し指で見えないワイヤーをなぞる天都。
それを見て二人は構えた。寝首をいつでも掻けるように、全身に力をみなぎらせる。
次回、次元の話について




