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自灯籠  作者: 葦原爽楽
自灯籠 領域内の数学者
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第二十話 共闘

勘の良い方はもう薄々気づくと思います。



時間にしてみれば一瞬だ。だけど、それは確かに俺の脳裏に伝わった。

なんだ?この映像は。疑似体験?いや、それにしては俺に感覚がなかった。

まるでレイナという女性の内側から一部始終を見ていたような、そんな感覚だった。


この三人は、粛正機関か?いや、そうだな。会話を聞く限りそうだった。

そして伝わってくるレイナという女性の心情。

二人を優しく見守る慈母のような、そんな温かい感情。

この映像は、一体なんだったんだ?


そのことに思考を割いた一瞬の間に、俺の身体に影がさす。

見上げると、肉塊が俺に大量の手足を伸ばしていた。


(やべっ!!)


走っても間に合わない。空間移動の魔術を唱えようとした瞬間に、違和感が襲った。

魔術が使用できない。脳裏で思い描いて、理論や方式を求めて、力を注いでも、魔術が使用できない。

これは、さっきエクシリアちゃんが言っていた現象と同じ。

今脳裏に走った映像をトリガーに、その現象が俺にも起こったのか。


そうこうしている間にも、無数の手足が俺に迫る。

この距離では捌ききれる数では無いが、手当たり次第に変換してやると半ば自棄(やけ)になった時。


空から肉塊に向かって、赤と白の矢が降り注いだ。


「グゲガァアアアアア!!?」


何事かと驚いた咎人は、全身に刺さった矢を無数の手で引き抜いていく。

俺はその隙に咎人と距離を取る。

肉の表面に人浮かぶ面の一つが、お前がやったのかという目で俺を見つめる。

答えはNOだ。あの矢は俺がやったことじゃない。そもそも魔術も使えないのにあんな芸当はできない。

すると第三者が矢を放ったことになる。


視線を左右に向ける。そしてそれを見つけた。

崖の上に立つ少女。ピンクのツインテールの女の子。その人は。


「エクシリアちゃん!?なんでここに戻ってきたの!!?」


驚愕混じりの声で、叫ぶように俺は彼女に向かって名前を呼ぶ。

間違いない。先ほど出会った彼女だ。左手に煌々と輝く弓を構え、右手には矢を持っている。

あれが彼女の武器か。その形状から、彼女が咎人に矢を射ったことがわかる。いいや、今はそんなことよりも、なぜ彼女が戻ってきたのか理由を知りたい。

彼女は指を5本の指を一つ一つ広げた。


「一つ。咎人を倒すためです。粛正機関として咎人を討つことは当然のこと。そして、私にはそれが可能な武器があります。

二つ。私怨(しえん)です。私に無様な逃走をさせ、かつあんなに気持ちの悪い触手で触られました。

三つ。貴方に助太刀するためです。今も私が矢を射らなかったらぺちゃんこでしたよ。

四つ。加勢のためです。一人より二人で戦った方が数的に有利なのは当然。戦いやすくなりますよ。

五つ。お姉ちゃんの教えです。人から受けた借りは即刻返せ。その教えを守るために私は再び戻ってきました」


何か質問はありますか?とエクシリアちゃんは言う。

いや、質問と言われてもな。というか三つ目から五つ目まで理由一緒じゃないか?

とにかく俺は彼女の側に近づく。

崖をひとっ飛びで飛び越え、彼女の前に立つ。

彼女は目の前に立つ俺に、深々と頭を下げた。


「先ほどはありがとうございました。(ろく)に礼がいえず、このままでは悔恨を残すと思ったのも戻ってきた理由の一つです。

良ければお名前を教えてもらっても?」

「粛正機関・桃花所属、海曜集」

「海曜、集。なるほど、覚えました。

貴方の方が年上のようなので、簡易的に先輩と呼ばせてもらいます。

改めて自己紹介を。私の名はエクシリア。位階は主天使(ドミニオン)。粛正機関・アストレイアに所属しています」


アストレイア。どこかで聞いたような言葉だ。どんな意味だっけ。

まあそれはいい。重要なのは彼女の意思が本物かどうかだ。


「本当に、奴と戦う気なのか?」

「はい。ご心配なさらず、サポートに徹します。分は弁えていますから。あれと正面切って戦う気はありません」


そう言う彼女の目は、覚悟している目だった。

退く気など無い。先ほどは無かった覚悟が見える。

こうなっては何を言っても通じないな。

俺は彼女と隣に立ち、どうしてもこれだけは伝える。


「分かった。くれぐれも怪我をしないように、自分を大事にね」

「もちろんです。こんな所で死んでは、後でお姉ちゃんに死ぬほど怒られます」


冗談なのか、それとも真面目に言っているのか。

エクシリアちゃんは矢を引き絞り、咎人に狙いを定める。


「咎人から逃げている途中で気づいたことがあります。

正確な距離は分かりませんが、あの咎人からある程度距離を取ると再び魔術が使用可能になりました。

つまり咎人の顕現には距離が関係しています」


有益な情報だ。思っていた以上に彼女は戦闘に手慣れている感じがした。

せっかく教えて貰ったんだ。俺も有益かどうかわからないが、情報を共有しよう。


「あの咎人に触れると、誰かの記憶が強制的に脳内に流れてくる。さっきそんなことはあった?」

「?・・・・いいえ」

「そっか。ならそんなことがあったって覚えておいてくれ。隙を作りかねない」

「わかりました。前線頼みます」


矢を引き絞った先、咎人は俺たちに侵攻を開始した。

俺は崖から飛び降りて迎撃に向かう。ここにいてはエクシリアちゃんの邪魔になる。

狙いは変わらず、俺はヘスリヒの懐に潜り込む。

当然入る妨害。無数の手足が上から降り注ぎ、雨のように行く手を塞ぐ。

しかし、そこで矢がきらめいた。

エクシリアちゃんが放った矢は、空中で本数が増える。

1の矢から300の矢に空中で分かれ、飛来し、咎人以上の速度で手足を蹴散らしていく。

矢が弾幕のように降り注ぐ。俺にも当たりそうになるが、矢は器用に俺だけを避けて地面に落ちる。


先ほどから疑問に思っていたが、あの弓矢は一体何だ?

基本格が上の者には何をやっても通じない。どれだけ莫大な物理的破壊をもたらそうと、強大な能力を使おうと、彼我の霊格の差で弾かれる。

彼女は自らの位階を主天使(ドミニオン)と言った。しかし咎人・ヘスリヒの位階は俺と同じ座天使(スローンズ)

本来なら勝ち目などない。はずなのにあの矢は咎人にダメージを与える。

先ほど彼女は勝てる可能性があると言った。あの弓矢がそれなのか。


弓矢の弾幕でだいぶ減った手足。

俺は残ったそれらを振り払いながら、咎人に触れる。


「コンバート 貫通」


俺の拳の衝撃。それを一本の矢の如く集約し、放つ。

先ほどと同じく、衝撃は咎人の身体を突き抜け肉片を撒き散らしながら外に抜ける。

それを確認して一気に俺は後退した。

先ほどの記憶の混入。それにより生じる一瞬の隙をこいつにさらさないようにするためだ。

そして訪れる、誰かの記憶。見慣れぬ風景。二人の姿。



ザザーザーザザザーーーザザッザーーー(砂嵐の音。どうやらこれが合図のようだ)


映ったのは一室。

テレビ、ダイニング、机、三つの椅子、予定が書かれたカレンダー、まとめられた新聞紙。

狭いリビングだ。そこに二人の姿がある。リガとログだ。

椅子に座りながら、レイナ、私の話に耳を傾けている。


「今月の粛正件数は十二件。座天使一体。主天使七体。力天使(ヴァーチュース)三体。能天使(パワーズ)一体。

順調ね。多すぎず少なすぎず、人数的にもちょうどいいペースだと思うわ」


話しているのは今月の仕事の報告。咎人の粛正記録。

全ての粛正機関は月に一回、活動報告書を粛正機関総本部へ送ることを義務づけられている。

といっても書く内容は簡単だ。与えられた書類に咎人の名前、位階、顕現(分からなければ書かなくてもいい)。誰が咎人を倒したか等々。それらを所定の空欄に書き記せば良い。

書き終わった後はそれを既定のポスターに入れる。ポスター内部の空間は堅洲国へのゲートと同じ作用があり、堅洲国内部にある粛正機関総本部に送られる仕組みだ。

私はこれ幸いと、ついでに三人と月に一度このような報告会&反省会を行っていた。


私の話を聞いていたリガが意見したいと手を上げる。


「なあレイナ。レイナはともかく、俺たちが担当する咎人の数を増やした方がいいと思うぜ」

「なんで?」

「なんでって、そりゃあいつまでもサポート役に徹するわけにはいかねぇし、俺もレイナと一緒に戦いたいんだよ。そのためには俺も早く位階を上げて、座天使になるしかないだろ」

「同感だ。俺も最近そう思っていた」


リグの意見にログが賛成する。

この二人が意見を一致させる時は決まってその話だ。

位階が上の私に早く追いつくために、自分たちの仕事を増やしてくれ。

それが私への親切心だというのは分かっている。分かっているけど、その優しさには答えられない。


「二人とも急ぎすぎ。私だってこの位階に達するのに数年はかかったんだから。それも働きづめで。

それをまだ働き始めて三年も経ってない二人が到達したいなんて、いくらなんでも急すぎるよ。

『急いては事をし損じる』って言うでしょ。急ぎすぎて転んじゃうこともあるんだから」

「け、けどよぉ」

「・・・・・・・・・」


私の言葉に難色を示す二人。どうやら納得してはもらえなかったようだ。

時計を見る。11時。そろそろ寝る時間か。

私は記入し終えた紙を持って、総本部に続くポストに入れに行く。


「一応二人の意見は考えとく。

今日はもう寝よう。明日も学校あるんだし、夜更かしはいけないんだからね」

「あぁ」

「わかった。お休み」


話し合いが終わって、リガとログがそれぞれ自室に帰っていく。

一人残った部屋で、私は一人溜息をつく。

見えない(みぞ)が、私と二人の間に開いている気がした。

互いが互いを想うがゆえに、深まる溝。

このままでは二人との間に亀裂が生じかねない。いつかは溝を埋めなければ。

私はただ、この三人の日々がずっと続けばいいだけなんだけどな。



ザザッザザザザザーーーザザザッザー(砂嵐。意識が浮上する)


次話、ウリエル。

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