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「流石ですね。貴方がこの場の人間の意識を集めてくれたおかげで、術式の構成が実に楽に行きましたよ」
「まーったく、めんどくさいったらありゃしねぇ。おい嬢ちゃん、まだ生きてんな?」
「一応なんとか生きてますよ」
がしがしと髪を手櫛で梳きながら、私は返答する。
一瞬で、中庭は静寂に包まれていた。月明かりの中、今まで私を見物していた人々は、揃って魔術により硬直している。
その硬直させた本人は、やや青白い顔で、メガネのブリッジを押し上げた。服装はいつもの貴族らしい高級なものではなく、そこらの文官の着る質素なものだ。
「宰相、ナイスタイミング。助かりましたー」
「まったくですね。あなたは本気で死ぬ気ですか?作戦を立てた時にも思いましたけどね、あまりに無謀すぎますよ」
宰相の呆れた声に、私は苦笑を返した。
「じきに、ラグナが騎士団引っ張ってこっちに来る。今回のことは、流石に不問にするには大きすぎる話だぜ、陛下。神聖な儀式を汚したこと、多くの民を犠牲にしたこと。分かってるよな」
魔力の大量放出で疲れきった私と唯一動ける国王陛下の間に、アルフレッドさんが割って入った。国王陛下は、そんな私たちを睨みつける。
「どういうことだ……これは……」
「どういうことかっていうと、まぁ、最初から作戦のうちだったって事ですね」
国王の殺気立った表情も、もう怖くない。私は芝生の地面に座り込みながら、国王ににやり、と悪戯めいた笑みを送った。
三日かけて王都に駆け戻ってきた私たちは、一泊宿を取った次の日の朝、とある所用により出かけた。
この所用というのは実は宰相との連絡を取る為のものだったのだ。
街についてすぐ、ラグナさんと私のもとに、宰相から連絡が入った。もう既に牢を抜け出していること、ここは危険だということ、その他説教山盛りの手紙だ。
『万一連絡が取りたいのであれば、明日の早朝、隠れ家にいます。来なさい』
かくして、私はこの連絡に従い、隠れ家の扉を叩くことになる。
宰相は、顔を見るなりやっぱり説教を始めようとした。それをなんとかなだめつつ、私たちは素早く情報交換を行う。
「……ということで、私はアルフレッドの手引きを借りて牢を脱出してきました。身代わりを牢に残しているので、多分まだ私の逃亡は気づかれていないでしょう」
「なーるほど。じゃあアルフレッドさんも味方と見ていいわけですね」
「で、問題は貴方ですよ。大体理解してるんでしょう?」
問いかけてきた宰相に、私は満面の笑みで答えた。
「知ってますよ?国王陛下はどうやらアメリア姫を生き返らせたいようだとか、生き返らせるには生贄がいることとか、多分それ私のことなんだろーなーとか、その他いろいろ」
「そこまで知っていてなんで帰ってくるんですかこのお馬鹿」
なんでと問われれば、目的がいっぱいあるから、としか答えられない。
「とりあえず咲夜の保護と、国王陛下のお説教。あ、これアメリア姫の代わりにね。あと万一クーデターだー!ってノリになってたらそれを抑制しようかなーっていうのもあります」
にかーっと笑うと、宰相は呆れたような視線をラグナさんの方に向けた。なんでこんなやつ連れ帰ってきたんだ、と顔に書いてある。
ラグナさんは苦い顔をしながら、私たちの話を聞いていた。しばらく討論が続いた後、ラグナさんは懐から一通の手紙を引っ張り出す。
「ティカ、王宮に忍び込むつもりなら、あえて捕まってみるという手もあるかもしれないぞ」
「ほい?」
「これは、国王陛下からの手紙だ。トゥナリアで俺宛に届いた」
ほれ、と手渡された手紙を受け取り、私はそれに軽く目を通す。
内容は、私を早く王都へ連れ帰って来いというものだった。
私を連れ帰ってきたら、報酬は弾む。しかし断ったら、家族がどうなっても知らないぞ。
私は眉間にしわを寄せた。性格悪いぞ国王陛下。
「一度お前が手の内に入ってしまえば、多少なりとも気は緩むだろう。そのうちに、俺たちも個別に忍び込む。どうだ」
にやり、とラグナさんが悪戯めいた笑みを浮かべる。それを見て、「大分ティカに毒されましたね……」と宰相はため息をついた。
「いいんじゃないでしょうか。じゃあラグナさん、ざっくり私を裏切って、王宮の中へ運び込んでくださいね!」
まるでドラマの中に入ったようで、心浮き立つ。ワクワクとした私の様子に、男二人は天を仰いだのだった。
……まぁ、そんなこんなで私たちは準備をし、ここまで作戦通りに動いてきたわけである。
咲夜の乱入は正直予想外だったのだが、一応問題なくここまで進んできた。
わざわざ逃げ出すのではなく王宮に入り込み、国王との接触をとったのは、ただの酔狂ではない。
私は、こちらを睨みつける国王陛下をまっすぐ見返した。
国王陛下は、実に悔しそうな表情を浮かべている。悔しげで、辛そうで、……しかし、そこには僅かな安堵があると思うのは、私だけか。
彼だって、元々こんな混君であったわけではないだろう。誰かの犠牲の上に成り立つこの儀式に、罪悪感がなかったとは思わない。
けれど、諦めきれないからこそ、彼はこうして動き続けてきた。
ならばその未練、断ち切ってあげよう。
にっと笑って、私は地面の魔法陣に手を添えた。残っている魔力を注ぎ込み、魔法陣をわずかに書き換えながら起動する。
既にさっき動いていた魔法陣は、十分の魔力を月から引き出しているらしかった。再び光り始めた魔法陣に、国王陛下は怪訝そうな顔をする。
「何をしている」
「国王陛下、私は残念ながら、貴方の娘のために死んであげるわけにはいきません。でも、少しぐらいなら、貸してあげられます」
私の体は、アメリア姫の魂と相性がいいはずだ。ならば、少しぐらい体を貸しても拒絶で死ぬことはないはず。
光がだんだん強くなる。私はその光に身を委ねながら、ニッコリと笑った。
「話してください。アメリア姫と」




