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「……もうそろそろいいか?いいな?」
「あ、ごめんなさい、ユリウスさん。外の方大丈夫ですか?」
半ば飛び込むようにして部屋の中に入ってきた王太子ユリウスは、後ろ手で扉を閉めると「大丈夫だと思うか?」と小さくため息をついた。
「外は兵士で溢れてるぞ。今まで私が王太子であるから硬直状態だったんだが、さっき伝令が飛んできたと思ったら剣を引き抜いてきた。……っ」
ドンッ、と王太子が抑えていた扉が大きく跳ねた。
「どうする、サクヤ」
「っ……え、えっと……窓から……逃げるとか……」
「外にも兵士が来てるみたいだけどねー」
軽く覗き見た外にも、チラホラとだが兵士がいる。
「さっきみたいに兵士の動きを止めてみたら?」
「……っ、もう、あんま魔力が残ってなくて……」
咲夜は大きく肩を落とす。
私は深くため息をつくと、王太子に声をかけた。
「なんか面倒事に巻き込んじゃったみたいでごめんなさい。えぇと、なんか絶体絶命みたいで」
「……そのようだな。最悪、君たち二人は逃せるよう努力する。私のことは構わず、逃げなさい」
カチャリ、と剣の柄を握りなおす王太子を、私は止めた。
「ユリウスさん、ナイフか何か持ってませんか?私の武器、全部取り上げられちゃったみたいで」
「ナイフで戦う気か?それは無茶だぞ」
「無茶は二人の行動ですよ。……私が道を開きます。逃げてください」
ちらり、と咲夜に視線を向けると、「何言ってるの!」と泣きそうな顔を向けられた。
「千香も逃げよう?ね、きっとなんとか逃げ道が見つかるはずだから!」
「国王陛下は、多分もう私を逃がさない。タイムリミットが今日なのは、月の力が最も強くなるからだろうね。私だけでも、捕らえようとすると思うよ。でも二人だけなら多分逃げられる。それにね」
心配そうな咲夜に、私は目を細めて付け足す。
「もうこれ以上、犠牲を出させるわけにはいかないよ」
初めて街を歩いた日、路地裏で出会った少女を思い出す。もしかしたら、彼女も将来犠牲に遭っていたかもしれない。
「自己犠牲は、何にもかっこよくないんだよ……っ!」
咲夜の言葉は叫びに近かった。私は咲夜を安心させるように笑い返す。
自己犠牲なんて、そんな美しくバカバカしい言葉は、あいにくと私の辞書には載ってない。
「大丈夫。私は死にになんて行かないからさ」
王太子から手渡されたナイフを引き抜き、私は扉に手をかける。
「咲夜」
「……何?」
「今日という日を乗り越えられたら、また一緒におしゃべりしよう。咲夜の駆け落ちの話、ぜひ聞かせてね」
馬鹿、と咲夜の声が聞こえた。苦笑を貼り付け、私は扉を押し開く。
「そこの兵士、全員止まりなさい!さもなくば、私は喉を掻き切ってやる!」
私の持つ最大の人質、それは彼らが絶対に今失いたくないもの。わざわざ召喚の儀式を使ってまで手に入れた、最高の『材料』。
この命自体が、国王に対する最強の人質だ。




