脱出
巨大モグラを倒した後、俺は真っ暗な空間の中で出口を探していた。
ニルヴァーナが以前言っていた自分たちがここに来た時の入口になった場所があるはずなのである。しかしながら現状では全く探し出せずにいた。
俺は目を閉じ周囲の気配を探る。
でも、やっぱり何もわからない。
「わっかんねーな」
【集中力が足りてないのです】
「ほんとにそうか?」
【そうです】
もう一度目を閉じる。
巨大モグラが死んだため、周囲に動くものは何もなく音も風も光さえも感じることはない。そんな中意識を集中していく。
深く……
深く……
もっと深く……
そうしてしばらくすると自分の中の動きが振動となって音となって感じる事が出来た。
心臓の鼓動、呼吸の音、血液の流れ、神経の流れ、思考ですら音がある。自分自身に集中していくとその中だけでも無数の音が感じられた。自分自身の生命活動の賑やかさを感じると、逆に周囲の静けさを感じる事が出来た。
自分自身の音に耳を傾け、集中している意識を今度は外へと押し広げていく。
何もない空間、動きもなく巨大モグラと自分以外何も見えない空間。だったはずなのだが、集中していくと少しずつ色々なものが感じられた。息ができている、すなわち空気もあり風というほどのものではないがわずかな空気の流れや温度がある。自分やモグラが見える。すなわち光がある。集中すればそのわずかな音や温度が感じられ流れが見えてくる。
全体的に固定されているかのような空間ではあるが、実際には様々な力がわずかながらに働いている。それは光や空気さらに魔素の流れで感じられるようになってくる。それらを知ることで、もはや目で見ていたものとは全く違う世界が目に映るように感じられるようになっていた。
そうして少しずつ認識範囲を広げていく。少しずつ少しずつ……
そうして一つの違和感を見つけ出す。それは自分から見てモグラの死体の左後ろの方。それほど遠くない位置に感じた。わずかだが空間に揺らぎを感じられる。おそらくあれが入り口だったのだろう。
「ニルヴァーナ見つけたよ」
【さすがは主様です】
「どうすればいいか解る?」
【場所がわかったのなら後は全力で叩き割るだけでしょう】
「それで元の場所と時間に戻れるのか?」
【全くそのままという訳にはいかないでしょうが、近い所には戻れるでしょう】
「そうか、できればあの瞬間のあの場所に戻りたい所だがそうも行かないかな」
【このままここにいるよりは場所や時間が多少ずれても戻ったほうがよいかと】
「そうだよな、仕方ない覚悟を決めよう。このままここにいたらおかしくなりそうだしな」
【一点突破の魔法を全力で打ち込めばきっと抜けられます】
「わかった、ならあれで行こう」
自らのイメージによって作り上げた魔法の一つ。一点突破型の最強魔法を準備する。
『ウィル・オ・ウィスプ』
これは本物の光の精霊ではなく秋野の周りに浮かんでいる精霊を俺のイメージで具現化した純粋な魔法である。使い方としては周りに浮かべて明かりにするとか、敵にぶつけて爆発させる、直進性の高い魔法を捻じ曲げるなども可能だ。さらに今回の使用するように強力な魔法を使う際の補助機構としても役に立つ。何気に超便利魔法だ。今回はこれを5つ呼び出し周りに浮かべる。
「さぁ、やろうか!」
気合を入れる。俺のオリジナルの中でも最強の一角の魔法だ。色々制限が多すぎて実戦で使う事はなさそうだが、今この場ではこれしか思いつかない。
先ほど召喚した『ウィル・オ・ウィスプ』を制御し目の前で高速回転させて輪を作る。これによって輪の中を通る魔力を10倍に高める。ここに全魔力を集中した光のレーザーを打ち込むのが今回の魔法だ。威力がどれくらいになるのかは撃ってみないと分からないが、今の俺の最強の威力になる事だけは確実だ。
「すべての魔力をこの腕に、すべての光をこの杖に! 光の神の御業を持ってすべてを滅ぼす光をここに」
(これはハズイ。人前では絶対無理だ)
普通の魔法に呪文はいらない。正確には必要がない。なぜならそれほどの集中力は必要ないからだ。だが、今回は違う。とてつもない魔力を一点に集め制御するにはどうしても言霊の力が必要になった。言霊とは言葉の持つ魔力であり古代の知識からそれを借りた。
『イレージングスター』
星も消し去る光の魔法。ほんとにできるかは知らないがそれくらいやばい魔法だとは思う。杖の先から放たれた光は光の輪を通りさらに大きな光の渦となって一直線に目標に向かう。今回は相手は動かない目標である外すことはない。全力で打ち込んだ光の渦は目標を打ち抜き貫いた。その圧倒的なエネルギーは時空を揺るがし、罅を入れ破壊した。そこには別の世界の光が見えモグラと俺の体はその穴に吸い込まれていった…………
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それくらいたったのだろう。気を失っていた俺は巨大な植物に囲まれた不思議な場所で目を覚ました。
「どこだここは?」
周りを見渡すが、巨大な植物に阻まれほとんど何も見えない。まるで自分が小人にでもなったかのような錯覚に陥るほどの大樹海である。見た事もない巨大な木。巨大な葉を持つ草。時折生き物の鳴き声が遠くで聞こえる。
”ガサゴソ”
”クチャクチャ”
耳を澄ますと、近くで何かが動く音や肉をかじるような音が聞こえる。
なんだか危険を感じるので慎重にそちらに向かい巨大な葉の陰から覗いてみるとそこには巨大モグラの死体とそこに群がる小型の(と言っても人の背丈ほどはあるが)恐竜の群れであった。
「なんだあれは、恐竜がいるってもしかして時代を間違えた?」
【いや、さすがにそこまで時間を逆行する事はないはずです。おそらく時間的には数週間から数か月くらいしかずれていないはずですしそれにそもそも時間の逆行は出来ないはずです】
「過去という事はないのか、ならあれはなんだ?」
【おそらくですが、寮の傍の森にできたダンジョンの地下5階なのではないでしょうか?】
「そういえばそんな事を聞いた気がする。しかしどうしようか、それはそれで面倒だぞ」
今回の事件の元になったと思われる寮の近くの森にできたダンジョンの地下5階だとすると、かなり危険な場所のはずだ。さらにこんな所まで下りてくる人はほぼいない。しかも俺はいきなり飛ばされたので出口がわからない。さてどうするか……
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