第三十三話
「オランダに三号戦車を売却するのですか?」
「うむ、既に五号戦車のパンターが配備されているのだ。無駄な兵器は同盟国に売却するのが妥当だろう」
俺はフリッチュにそう説明していた。というよりもオランダ側から武器輸出を要請されていたからな。
まぁ、向こうも旧式兵器ばかりだからな。それに石油を提供してくれている恩もある。
ドイツから武器売却をしないとオランダ側もプライドを傷つけられる事になるし、あまり公にはしたくないしな。
「今のところ二個連隊程が売却出来ますが……」
「うむ、それで頼む」
俺はそう言ってコーヒーを飲む。最近、コーヒーを飲む回数が増えたな。
「総統、リッベントロップです」
「入れ」
フリッチュが退出すると入れ代わりにリッベントロップが入室してきた。
「総統、件の事ですが……」
「どうかね?」
「アルゼンチン政府は乗りました。武器輸出の交換条件ですが……」
「それは仕方ない。だがよくやったリッベントロップ」
「ありがとうございますマインフューラー」
リッベントロップがそう言った。俺はアルゼンチンとの親密を図っていた。
勿論、ドイツの南米進出して市場に加入する事もあるが最大な理由はもしドイツが負けた場合だ。
史実でも南米にドイツの軍人等が亡命して南米の軍事に一役買っている。例えばルーデルとかな。
この交渉を機に、アルゼンチンが後に枢軸入りするのであった。
「失礼します総統」
レーダーが部屋に入ってくる。
「日本の戦況はどうかね?」
「初戦は制しているようです。確認が取れただけですが、日本はアメリカの空母エンタープライズ、レキシントン、サラトガの三隻を撃沈しているようです」
「そうか」
史実では生き残っていたエンプラとサラトガが沈んでいるか。恐らくは輝義のおかげだな。
「恐らくはアメリカは空母を太平洋に重点的に配備するかと……」
「まだ安心はするなよレーダー。奴等は小型空母をも保有しているのだ」
「はい」
カナリス経由の情報だとアメリカは大西洋に五隻の護衛空母を配備して近海を警備しているらしい。
「それとレーダー。日本からあの計画書は提供してくれたかね?」
「勿論であります総統」
計画書とは史実日本海軍が対アメリカ用として対策していた斬減作戦の事だ。
アメリカが艦隊を出撃させた場合、ドイツとイギリスは共同で当たるようになっていた。
艦艇が少ないドイツとイギリスの二つを合わせて、空軍と協力して米大西洋艦隊を撃破するしかないからな。
「イギリス側とも現在、話し合いをしています。彼等も自由イギリスに、国王に裏切られたと思っているからな」
ゲッベルスの宣伝工作でイギリスの国民には国王が国民を裏切って逃げたと思わせている。ちなみにジョージ六世の後の王は娘のマーガレットが女王として就任している。
姉は無事にジョージ六世と共にカナダに逃れたがマーガレットだけは脱出が間に合わなかったのだ。
俺はマーガレットと会談をして女王の就任を要請してマーガレット自身も渋々だが承諾してくれた。
それとマーガレットを補佐するのは元国王のエドワード八世だ。密かにエドワード八世とも接触していて当初は国王就任を要請したがエドワード八世は固辞したのでマーガレットが女王になりエドワード八世が補佐する形になった。
「それに日本から艦艇の図面を購入する事が出来ましたから設計もやりやすくなりました」
日本からは艦艇の図面を格安とまでは言わないが、重巡や軽巡等の図面を購入した。俺は輝義に手紙で「もうちょい安くしろ」と送ったが、輝義は「此方はカネが無いんだよバーロー(´・ω・`)」と送ってきたから値引きは諦めた。
図面は駆逐艦吹雪型、重巡最上型、軽巡長良型を購入した。
そのおかげかレーダーは大分狂喜乱舞していて関係者は深い溜め息を吐いているらしい。
「図面を元に新たに新型重巡の建造計画も進行中です」
「うむ、一日でも早い就役を期待している」
そして昼食はヒルダと共に食べる事にした。
「美味しいかヒルダ?」
「うん、美味しいよあーちゃん」
ヒルダはうどんを食べながらそう言って笑う。俺は天そばを食べている。ちなみに日本から輸入した物だが官邸のシェフが日本料理に理解を示している。
……日本食がドイツで流行りそうだな。
「あのねあのね、さっきゲーリンちゃんが私に氷の妖精さんの服を着てみてって言われたんだけどゲルダ御姉ちゃんに連れて行かれたよ」
「……そうか」
……あの馬鹿……。
「総統、お時間宜しいですか?」
「どうしたカナリス?」
昼食を終えてお茶で一服しているとカナリスが入室してきた。
「実は……」
「何かあったのか?」
「はい、実は中国がアメリカと接触しているようです」
「何……?」
確か今の中国は蒋介石の政権のはずだ。何でアメリカと接触を……。
「どうやらアメリカにいる夫人が暗躍しているようで……」
「……宋美齢か」
ち、どうしても歴史は日本を敗北にしたいのか?
「大島にその情報は送っただろうな?」
「ヤー。日本も十分に警戒するでしょう」
輝義がいれば何とかなるかもだが……。
「カナリス、引き続き情報収集を頼む」
「ヤー」
カナリスは退出すると牛乳を飲んでいたヒルダが寄ってきた。
「カナリスのおじちゃんとのお話終わったの?」
「あぁ。さて、今日は何をしようか?」
「神社の悪霊を描いて〜」
「いいよ(あたしゃ此処にいるよ)」
午後はヒルダと久しぶりに遊んだりした。そして夜も十時を過ぎた頃、フリッチュ達と作戦計画を立てていた。
「総統。中東方面ですが自由イギリスとアメリカは戦力を増やしているようです」
「ふむ……レーダー、Uボートをインド洋に増やせないか?」
「は、ですが大西洋方面にも配備は必要です」
「うむ、八隻はインド洋にいるな。それで奴等の戦力は判るか?」
「多くは把握していませんが、三十万はあると思います」
やはりな……。
「ゲーリング、空軍は十分な支援は出来るな?」
「勿論ですマインフューラー。三個航空艦隊は派遣出来ます」
「むぅ……」
中東方面に攻めこみたいが、むやみに戦死者は出したくないしな……。
「……リッベントロップ。君の出番かもしれん」
「判りました。最善を尽くしましょう」
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