第十九話
一方、本国艦隊は比較的楽観していた。
「ナチスめ、貴様らは直ぐに終わらしてやる」
本国艦隊旗艦ネルソンの艦橋で本国艦隊司令長官のチャールズ・フォーブスはそう呟いた。
本国艦隊は戦艦だけでもネルソン、ロドネー、リナウン、レパルス、ロイヤル・ソブリン、ラミリーズの六隻を揃えており空母もアーガス、グローリアスの二隻である。上陸船団は陸軍約三万人と戦車と火砲が多数だ。
「奴等が近付いてこようが、艦隊決戦で片付けてやる」
フォーブスはそう思った。そして第一機動部隊司令長官のリュッチェンスは違う考えをしていた。
「艦隊決戦など到底今のドイツ海軍には無理な事だ。此処は航空攻撃で敵上陸船団を叩いてノルウェー攻略を延期させるしかない」
リュッチェンスはそう決断していたのだ。一時間後に飛行長がリュッチェンスに報告へ来た。
「長官、攻撃隊は全機発艦出来ますッ!!」
「グートだ。直ちに発艦せよッ!!」
リュッチェンスは飛行長を褒めて命令を出した。三隻の空母の飛行甲板で待機していた攻撃隊がプロペラを回し始めた。
「帽振れェッ!!」
日本海軍から教えてもらった惜別の合図で乗組員達は攻撃隊を見送る。
発艦していく攻撃隊は海軍型のBf109戦闘機二十機、シュトゥーカ隊三十機、九七式艦攻をライセンス生産したフォッケウルフ雷撃機三十機の計八十機である。
三隻の搭載機数はデアフリンガーで四八機(常用四二機、補用六機)、小型空母は常用三十機だ。
「敵機来襲に備えて対空対潜警戒を厳とせよ」
「ヤーッ!!」
第一機動部隊は敵機来襲に備えた。
「うん、順調な飛行だ」
戦闘機隊の第二中隊を率いるのは史実で「アフリカの星」と異名を持ったハンス・ヨアヒム・マルセイユ少尉であった。既に編隊は三十分の飛行をしているが、編隊はフラフラと飛ぶような事はせず、見事な編隊であった。これもドイツへやってきた日本海軍のパイロット達からの教えの賜物である。
『雲の隙間から航跡ッ!!』
ドイツ海軍攻撃隊は迷う事なく、上陸船団を発見出来た。
『右二時と三時に敵戦闘機だ。戦闘機隊は制空戦に掛かれェッ!!』
戦闘機隊指揮官はそう叫ぶ。
「さぁて、やるぞッ!!」
マルセイユは速度を上げて敵戦闘機――フルマーに突入した。
――本国艦隊旗艦ネルソン――
「ドイツの攻撃隊だとッ!? そんな馬鹿な事があるかッ!!」
「し、しかし現に戦闘機隊と交戦中でありまして……」
部下の報告にフォーブスは舌打ちをした。
「やはりドイツ海軍は復活していたか……」
戦前から日本から艦艇を購入していたのは知っていたが、直ぐに乗り操れるとは思ってなかったのだ。
「全艦対空戦闘開始ッ!!」
本国艦隊から対空砲火が撃ち上げられた。しかしドイツ軍攻撃隊は本国艦隊の戦艦を狙わずに空母と上陸船団を狙った。
シュトゥーカ隊の十二機が空母アーガスとグローリアスに急降下爆撃を敢行した。
「ジェリコのラッパだッ!!」
急降下してくるシュトゥーカを見てアーガスの水兵はそう叫んだ。対空砲火で四機が撃墜されたシュトゥーカであるが五百キロ爆弾がアーガスに三発、グローリアスに二発が命中した。
他のシュトゥーカ隊は上陸船団に五百キロ爆弾を叩きつけていた。炎上する上陸船団の輸送船にフォッケウルフ雷撃機二四機(残り六機は空母二隻に突入)が突入した。
「撃て撃て撃てェッ!!」
対空砲火が懸命に撃つがフォッケウルフ雷撃機に当たる事はない。
「は、速すぎるッ!!」
フォッケウルフ雷撃機は機体は九七式艦攻であるがエンジンは史実のBf109と同じダイムラーベンツのDB601Aである。そのため最大速度は四一八キロと雷撃機にしてはかなりの高速であったのだ。
それでもたまにマグレ弾で撃墜されるのがいたが、二一機のフォッケウルフ雷撃機は航空魚雷を距離七百で投下した。
輸送船は懸命に避けようと舵を回したが、避ける事が出来ず次々と水柱が立ち上がった。
「総員退船ッ!!」
侵入してくる海水に対処出来ずに傾斜していく輸送船から乗組員や陸軍兵士達が海に飛び込んでいく。
早く離れないと沈没時の渦に巻き込まれるからだ。
それらをフォーブスはネルソンの艦橋から見ていた。
「……何て事だ……救助を急がせろッ!!」
結果、上陸船団は輸送船を九隻を失い、約一個連隊が渦に呑み込まれた。更に戦車と火砲も多数喪失した。
「……これ以上の攻撃は無さそうだな」
攻撃隊が引き上げた事にフォーブス達も安心していたが、それはなかった。
「う、右舷から魚雷ッ!!」
「しまったッ!? Uボートだッ!!」
騒ぎを聞きつけた三隻のUボートが海中から伺っていたのだ。魚雷は損傷していた輸送船二隻を沈めた。
「長官ッ!! 空母グローリアスの舵が損傷ッ!! 面舵二十度から動かないようです」
しかもグローリアスはその目指す場所が悪かった。
「……このままだとノルウェーのベルゲンに向かうぞッ!!」
フォーブスは思わず叫んだ。仮にベルゲンに突っ込めばドイツ軍の攻撃に晒される事は明白であった。
「護衛に駆逐艦二隻を付けろ。速度を落として修理させるのだッ!!」
斯くして、空母グローリアスと駆逐艦二隻は本国艦隊から離れるのであった。
本国艦隊は第一機動部隊の攻撃をものともせずに損傷した空母アーガスを護衛の駆逐艦と共にスカパ・フローへ帰還し、(アーガスは魚雷一本が命中しており、飛行甲板も使用不能だった)残りはナルヴィクへ航行を開始した。
Uボートの雷撃を警戒したが、雷撃は一度きりのようで本国艦隊の乗組員も漸く一息がつけた。
しかし、本国艦隊と上陸船団がノルウェーのオーレスンの沖合いを航行していた時に対空レーダーが反応した。
「レーダーに反応ありッ!! 敵機ですッ!!」
レーダーが百機以上の反応をしたのだ。接近してきたのはトロンヘイムに臨時で配備した第四航空艦隊のBf109戦闘機二十機とシュトゥーカ四八機、ハインケルHe111H三十機、ユンカースJu88A三六機だった。
「全艦対空戦闘開始ィッ!!」
本国艦隊は慌てて対空砲を撃ち始めた。攻撃隊はそれに臆する事なく攻撃を開始した。
シュトゥーカ隊が先に急降下を始めて輸送船を目標に五百キロ爆弾を投下した。
「……終わった……」
炎上する輸送船を見ながらフォーブスはそう呟いた。
この攻撃で輸送船七隻を撃沈され、重装備を大量に喪失した本国艦隊はナルヴィクを攻略する事を諦めて虚しくスカパ・フローに帰還するのであった。
しかし、この戦闘はまだ終わりを迎えてはいなかった。
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