第九話
フィンランドとソ連は予てより懸案の国境線問題の協議を繰り返し行っていた。
しかしソ連側は「戦略的に重要な都市のレニングラードにフィンランドの国境線が近すぎるので後退させろ」等と理不尽極まりない要求をしたためフィンランド側も態度を硬化させ、結局のところ協議は物別れに終わった。
両国間の緊張が高まっていた1939年十一月二十六日、ソ連は突如「フィンランド領内から砲撃を受けた」と発表してフィンランドの挑発行為を非難して一方的に国交を断絶した。
対するフィンランド側は「事実無根」と主張して事件はソ連の自演とも主張した。
「……そろそろ来るな」
報告を聞いた俺はそう呟いた。そしてそれは的中した。
数日後の十一月三十日早朝、フィンランド国境付近に布陣したソ連軍が攻撃を開始した。
フィンランドの首都ヘルシンキにはソ連空軍の爆撃隊が空襲しようとしていたが……。
「上空から敵戦闘機ッ!!」
爆撃隊の上空から逆落としにフィンランド空軍の戦闘機隊が襲い掛かった。
フィンランド空軍の戦闘機は固定脚の戦闘機とエンジンが液冷エンジンを搭載した戦闘機が多数あった。
それはフィンランドに輸出された九六式艦上戦闘機とBf109戦闘機であった。
上空からの一降下で爆撃隊八機が炎上してフィンランド湾に墜落していく。
「ソ連の爆撃機は全て撃ち落としてやれッ!!」
フィンランド側の戦闘機は四八機もおり、爆撃機しかいないソ連空軍はあっという間に駆逐され生き残った爆撃隊はボロボロになりながらもソ連へ帰還した。
その頃、ソ連軍は北極圏からレニングラード北のカレリア地峡まで約千五百キロに及ぶ国境線を越えてなだれ込んでいた。
ソ連軍は二十三個師団、戦車二千以上、火砲約二千門、航空機八百機の大兵力であった。
しかし、フィンランド軍は無駄な戦いをせずゆっくりと後退をした。
「撃ェッ!!」
開戦から一週間が経過した。ソ連軍はカレリア地峡のフィンランド防衛線である「マンネルヘイム・ライン」に到達していたが、ここでソ連軍はフィンランド軍の猛烈な反撃を開始した。
森や雪原に隠匿された日本軍から売却された三八式野砲や九四式三七ミリ速射砲等が一斉に砲撃を始めた。
フィンランド軍の後退ぶりに油断していた歩兵達が吹き飛ばされ、速射砲弾はBT快速戦車の側面を貫通させて快速戦車を破壊する。
「くそッ!! 敵は何処だッ!!」
「探せ探せッ!!」
フィンランド軍の反撃にソ連軍は慌ててしまう。その隙に狙撃兵が戦車長や隊長達を狙撃してその命を狩らしていく。
「撃ェッ!!」
榴弾を装填した三八式野砲が再び火を噴いてソ連兵を吹き飛ばす。そして飛行機の爆音が聞こえてきた。
「フィンランド軍の攻撃隊だッ!!」
接近してきたのはドイツが送った義勇軍でありBf109二十機、シュトゥーカ四八機であった。
「行くぞォッ!!」
シュトゥーカ隊は一斉に急降下爆撃を敢行してソ連軍戦車部隊を混乱させた。
「えぇい全軍後退せよッ!!」
第七軍司令官は部下からの報告に無念そうに言って後退を開始した。
この攻撃隊はフィンランド湾に進出したドイツ海軍の第一機動部隊からの攻撃隊であった。
ヒトラーは大胆にも義勇軍にドイツ海軍を派遣していたのである。
しかもほぼ全艦艇であり、艦隊は輪形陣を構成していた。
「対空警戒を厳にしておけ」
艦隊司令官には異例のレーダーを司令官にして義勇軍に参戦させていた。
「フフ、総統も中々の手を打つものだ……」
レーダーは戦艦シャルンホルストの艦橋でそう呟いた。
勿論、攻撃失敗の報告はクレムリンのスターリンにも届いていた。
「……どうやらドイツと日本が手引きしているようだな」
「は、二国に抗議をしますか?」
部下の言葉にスターリンは笑う。
「そんな事をしなくていいが軽い抗議はしておこう。抗議を強くすれば世界の反応も変わる可能性がある」
「それでは……」
「新たな戦力を投入せよ。ドイツと日本が義勇軍を出しているなら叩き潰せ。ノモンハンの敵討ちだッ!!」
『ダーッ!!』
部下達はそうスターリンに叫ぶのであった。
「……おのれちょび髭め……ヤポンスキーめぇ……」
スターリン以外誰もいない部屋でスターリンは怒りに震えていた。
「今度は大量の戦力で押し込んでやろう。フフフ、奴等の慌てる顔が目に浮かぶ……」
ニヤリと笑うスターリンであった。
しかし、日独義勇軍は更なる抵抗を考えていた。
「襲撃機ですか?」
「そうです。ルフトヴァッフェにBf110という双発戦闘機のがありましてな。それを襲撃機に改造したのがあります」
日本軍派遣司令官の山下中将の言葉にドイツ義勇軍司令官マンシュタイン中将はそう答えた。
史実ではバトル・オブ・ブリテンで惨敗したBf110だが、ヒトラーはこれを襲撃機への改造を指示して三七ミリ速射砲、五百キロ爆弾が搭載出来るようになっていた。
「この襲撃機はヘルシンキに二七機いますので直ぐに此方へ移動させましょう」
「ありがとうございます。ところで……ドイツ軍も多いのですか?」
「……は、多いですな」
山下とマンシュタインは中間管理職の人のように深い溜め息を吐いた。
彼等の近くではドイツ義勇軍参謀長のフーベ少将と日本派遣軍参謀の辻中佐が本を交換していたりする。
「……御互い苦労しますな」
「どうです? ヴィンテージ物のワインがあるんです。良ければ飲みませんか?」
「いいですな」
何かと苦労する司令官であった。そして戦局はフィンランド軍や義勇軍が奮戦して一進一退の攻防が続いていた。
ソ連軍は増援を送ったりしたが、フィンランド軍と日独義勇軍は航空部隊で敵の補給線を叩いてソ連軍の士気を下げていた。
そしてソ連は遂にドイツに対して接触を図ってきた。
「フィンランドから手を引け……と?」
「簡単に言えばそうです」
総統官邸で俺とソ連代表のモロトフと話をしていた。
「……良かろう。フィンランドから撤退しよう」
「ありがとうございます」
モロトフ外相は頭を下げながらニヤリと笑い、会談は終了した。
「……宜しいのですか総統?」
「何を言っているんだフリッチュ?」
「ですからフィンランドからの撤退です」
「安心したまえフリッチュ。フィンランドからは義勇軍は撤退せんよ」
「え?」
「確かに私はフィンランドから撤退すると言った。だがな、何時に撤退するとは一言もモロトフ外相には言っておらんよ」
「……屁理屈ではないでしょうか?」
「知らんな。少なくとも何時とは聞かずに帰ったモロトフ外相もだがね」
モロトフざまぁだな。
そして撤退しないドイツ義勇軍に再び抗議するモロトフ外相であったが俺は「撤退するとは言ったが何時とは言ってない」と拒否。
モロトフ外相は「何時撤退を?」と聞いてきたが俺は「貴殿方が侵略を止めるまでですかな」と言っておいた。
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