第8話(優しさと決意)
杖泥棒の襲撃から1週間が経過した。
その間、ルリーシヤ、カッペト、メティルトとポユルは、それぞれのやり方で、私の看病を献身的に行なってくれた。
誰かに看病をしてもらったのは、いつぶりだろうか。
ルリーシヤは、杖泥棒の襲撃があった日の翌日から、なぜか毎晩ヘトヘトになって宿に戻ってくるが、滲出液で汚れたガーゼの取り替えや、食事の支度を必ず行い、私の体調を心配して、毎日声をかけ続けてくれた。
カッペトは、ベッドの上で気に病んでいる私を励まそうと、少し尾ひれが付いたであろう冒険の話をとても楽しそうに語ってくれた。
メティルトは、自らが育てている果物のうち、もっとも気に入っているという柑橘を毎日私に届けてくれた。
それは、柑橘特有の酸味を少しも感じないほど甘かった。
後で聞いた話だが、この柑橘は、カッペトもルリーシヤも食べたことがないらしい。
ポユルは、私が辛い表情を浮かべている時、ベッドの隣に置いてある椅子に乗り、私を励まそうとしてくれているのか、一芸を披露する。
私が笑うと、満足そうに椅子の上で眠り始める。
1人で上京し、都会のドライな人間関係の中で暮らしていた渚にとって、久々に感じた人の温もりだった。
私は、皆のことが大好きだ。
しばらくすると、男に暴行された傷は塞がり、腫れも引いた。
今も時々、痛みを感じることがあるが、それは肉体的な損傷から来るものではない。
カッペトが抵抗するルリーシヤを杖に引っ掛け、宿の外に連れ出したある日の昼下がり、私はメティルトにあの日あったことを尋ねた。
メティルトは、慎重な面持ちで話してくれた。
メティルトによると、私が男に杖で顔面を殴られ気絶した後、カッペトとルリーシヤが男達に半べそをかかせ、撃退してくれたらしい。
その際、ルリーシヤが暴れ回って、カッペト達の家を破壊したようだ。
その弁償をするため、ルリーシヤはカッペトにこき使われているらしい。
毎晩、疲労困憊の状態で宿に帰ってきていたのは、そのためだったということがわかった。
「メティルトさん、話してくれてありがとうございます」
メティルトは、少し罪悪感を感じていた。
「ナギサ様は、ルリーシヤ様が大切されているお方です! これくらい当然です!」
私も皆の役に立ちたい。
自分の無力さに落ち込んでいる場合ではない。
渚は、心の底からそう思った。
その夜も、ルリーシヤは、疲れ果てた様子で部屋に戻ってきた。
服は泥にまみれ、両腕は力なく垂れ下がっている。
「ルリーシヤさん! おかえりなさい!」
「あぁ…… ナギサ、調子はどうかしら?」
「ルリーシヤさん達のおかげで、随分とよくなりました! ありがとうございます。 そこでなのですが、明日から私もルリーシヤさんのお手伝いをしてもいいでしょうか?」
例の事件後、どこか元気のなかった渚が、以前の様子を取り戻した姿を見て、言葉にできない感情がルリーシヤに湧き上がった。
いつの間にか、目から溢れ出しそうになっていた涙を必死に堪えた。
「私の手伝いをする必要ないわ。 この原因を作ったのは私よ。 何より、あれは病み上がりの人間がするようなことではないわ」
「では、他に、私がルリーシヤさんのためにできることは、何かありますか?」
渚は、ルリーシヤが何をさせられているのか気になったが、そのことには触れなかった。
「わ、私は、ナギサと一緒に楽しく冒険がしたいわ!」
「はい! 冒険しましょう」
「ダメよ! 私だけが楽しんでも意味がないもの!」
「この町に来るためのルリーシヤさんとの冒険、ちゃんと楽しかったですよ。 私を楽しませるために、いろいろ頑張ってくれていましたもんね。 私のためを思ってここまでしてくれる人、そういません」
「が、頑張ってないから!! け、けど、ありがとう……」
「では、私がルリーシヤさんを楽しい冒険にご招待するというのはいかがでしょう?」
渚は、笑顔で言った。
「そのために、明日からカッペトさんに魔法の修行をお願いしようと思います!」




