第7話(後始末)
「まったく、やりすぎじゃわい……」
そう言いながら、カッペトは周囲を見渡した。
「メティルトや。 覚悟せい。 そこそこの力を持った魔物が、ここに向かってくるぞ」
「お師匠様、あたしは準備万端です!」
「ふぉっふぉっふぉ。 ワシとあのバカ女でお嬢さんを見ておくから、魔物は任せてよいかのお?」
「もちろんです! お師匠様!」
ルリーシヤがカッペトの言葉に反応する前に、メティルトが返答した。
ルリーシヤは、メティルトの膝の上に頭を乗せ、横たわっている渚を抱きかかえる。
メティルトは、カッペトの期待に応えようと、勢いよく立ち上がり、魔物の気配がする方向に対し、杖を構えた。
「あの子1人で大丈夫なの? まだ小さい子どもよ?」
「ふぉっふぉ。 お前さんと一緒で期待されると伸びるタイプなのじゃ。 良い機会じゃし、ここは、いっちょ協力してくれんかのお」
更地となったカッペトの土地に、亀裂が生じ始める。
亀裂がルリーシヤとカッペトの足元まで迫った時、先刻焼失した家と同程度の大きさのヒルのような魔物が3体、地下から現れた。
ナイフのように鋭い歯が、同心円状に整列し、口の中に生えている。
3体の魔物は、現れるや否や、一番近くにいたメティルトに向け、同時に火を吐いた。
メティルトは、それに呼応し、魔法を発動させる。
運河のように大量の水が、3体の魔物に向け放たれる。
放たれた水は、魔物の目前に迫った。
「やるわね」
「ふぉっふぉ。 そうじゃろ。 魔法の規模じゃと、ワシとそう変わらぬからのお」
しかし、メティルトが放っている水の量は徐々に減少し、魔物の吐いた火に押し返されはじめた。
「手伝うわよ!」
ルリーシヤは、メティルトに聞こえるよう、大声でそう言った。
「大丈夫です! あたし、まだまだいけます!」
ルリーシヤは、渚を地面に優しく寝かせた後、フゥっと息を吐き、構えた。
「【勝痰流 吐出の拳】」
吐出の拳は、痰を吐くかの如く猛スピードで拳を繰り出し、相手の肉体を貫く技である。
これは、勝痰流を極めし者にしか使用できない奥義である。
この世に吐出の拳を使用できる人間は、ルリーシヤ、そしてカッペトの2名のみである。
ルリーシヤの拳は、最も近くにいた1体の魔物を貫いた。
その勢いのまま、2体目、3体目の魔物の身体にも巨大な穴を空けた。
身体を貫かれた3体の魔物は、瞬く間にドミノのように倒れていった。
「あ、あれは…… お師匠様の……」
眼前の敵をルリーシヤに倒されたことにより、カッペトの期待に応えられなくなったと思ったメティルトは、「助けてくれなんて言っていないです!」と少し不機嫌になる。
「カッペト、見てごなんなさい。 あなたの弟子が一撃で倒したわよ」
カッペトは、レンズ全体に炭の粉が付着した大きな銀色のサングラスを外す。
「ふぉっふぉっふぉ。 流石じゃのお!」
カッペトの言葉を聞いたメティルトは、「ありがとうございます!! バカ女様!」と、純粋な眼差しでルリーシヤに感謝を伝えた。
「あぁのジジイ…… 私は、バカ女ではないわ! ルリーシヤよ!」
「ルリーシヤ様! 私、もっと修行に励みます! そして、ルリーシヤ様に負けないくらい強くなります!」
メティルトは、夕日に照らされるルリーシヤを見上げて、そう言った。
メティルトの尊敬する人物が1人増えた。
魔物を討伐したルリーシヤは、気を失っている渚を抱え、宿に戻った。
渚をベッドに寝かせ、布団をかける。
「ひどい怪我だわ…… これは、しばらく安静が必要ね」
氷の入った袋を顔の患部に固定し、渚の様子をしばらく確認した後、ベッドの近くにある椅子に腰かけた。
その時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はーい。 なにかしら?」
ルリーシヤは、ドアを開ける。
そこには、カッペトとメティルトが大量の果物を持って立っていた。
「ふぉっふぉ。 ちょいと見舞いにと思っての。 様子はどうじゃ?」
「ナギサ様が心配です!」
「ありがとう。 しばらくこの宿で休ませることにするわ」
「そうか…… ワシらもこの宿にしばらく世話になることになったからのお。 何かあれば言うがよいぞ」
そう言って、カッペトとメティルトは、自分たちの部屋へと向かおうとする。
「え? 今なんて言ったのよ?」
「誰かさんが、ワシらの家を消し炭にしたでのお。 あえなく宿暮らしってわけじゃ。 後で、しっかり働いて弁償してもらうからの。 覚悟しとくのじゃぞ」
「あ、あれは…… あいつらが悪いのよ! カッペトだって、『清々したのお』って言ってたじゃない!」
「まあの。 じゃけど、それはそれ。 これはこれじゃ。 また明日、様子を見に来るでのお。 ふぉっふぉっふぉ」
カッペトとメティルトが立ち去る姿を、ルリーシヤは呆然と眺めていた。
「お師匠様! あたしたちの部屋はここです!」
メティルトは、部屋番号の書かれた紙を確認しながらそう言った。
「おお、ワシらの部屋は、お前さんらの隣か。 ふぉっふぉ」




