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第6話(杖の泥棒)

 「お……おじぃちゃん、にげ……て……」


 渚は、声を振り絞った。


 「うっせえんだよ!! 黙ってろ!」


 男は、手に持っている杖で渚の顔を複数回殴打した。

 渚の頬は腫脹し、所々出血がみられる。


 「ワシの店で騒ぎを起こすとは、貴様ら、いい度胸よのお」

 「おいおい! こんな腰の曲がったヨボヨボのジジイが店主だったのかよ!! こりゃ、堂々と盗みを働けるぜ! 兄貴、この店の物、全部奪ってやりましょうぜ!」


 男達は、勝ち誇ったかのように高笑っている。


 「おい、じいさん、他に金目のものはないのか?」


 カッペトは、男達の言動を気にとめず、渚の前に来て、「お嬢さん、かわいそうにのお。 さぞ痛かろう。 メティルト、手当てをしてやっておくれ」と言った。

 メティルトは、「はい! わかりました! お師匠様!」と言いながら、渚に駆け寄り、傷の応急処置を始める。


 「コラ、ジジイ! 兄貴が質問してんだ! 無視してんじゃねえよ!!」

 「ぉお? なにか言ったかのお? 年を取ると、小さい音が聞こえにくくなって困るんじゃ。 特に虫けらの鳴き声はの。 年は取りたくないのお」

 「てめえ!! 調子に乗るんじゃねえぞ!!」


 男は、カッペトに向かって殴りかかろうとする。

 その時、カッペトの杖が光った。


 「【謝姿罪決】」


 男は、腰を直角に曲げ、カッペトに対し深々とお辞儀をしている。


 「なにしやがった!! クソジジイ!!!!」


 男の下半身は、アスファルトで固められたかの如く微動だにしない。

 更に、巨大な圧力が上半身を包むように上下左右からかかっている。

 凄まじい圧力により、胸部が拡張できず、息が吸えない。


 「おぉ! そうじゃ、そうじゃ!! すっかり忘れとったわい! 貴様、90秒以内に顔を上げないと……死ぬぞ。 後、60秒といったところかのお」

 「あっ………… ぐ……」

 「今すぐ、お嬢さんに謝るなら許してやるぞ? むろん、それができればの話じゃがな。 ふぉっふぉっふぉ」


 男は、肺に残っているわずかな空気を声帯に向け、精一杯送り込んだ。

 声帯はわずかに振動したが、声となって口から発せられることはなかった。


 「なんじゃ? きこえんのお。 残り10秒じゃ」


 意識が消失した男の顔には、涙と鼻水が合流し、大きく開いた口の中に流れ込んだ形跡があった。


 カッペトが魔法を発動してから90秒後、今までの数百倍の圧力が男の上半身に降りかかる。

 その瞬間、男の上半身は、血しぶきを上げながら潰れた。

 床に飛び散った血液の中に、ただの一つすら肉片は見当たらなかった。


 もう1人の男は、その光景を目の当たりにし、尻餅をついた。


 「ば……化け物だあぁああ!」


 男は、全身から噴き出す汗を感じながら、床を這いつくばって扉の方へ向かっていく。


 「はーい。 ちょっと待ちなさーい。 これ、忘れているわよ?」


 ルリーシヤは、男達が大量の杖を詰めた袋を持って、男の行く先に立ちふさがった。


 「ガキはどいてろ!!!!」


 床を這う男は、緊迫した表情で叫んだ。


 「あんた、カッペトから逃げ切れると思っているの? 私が見逃すように頼んであげようかしら?」

 「ほ、ほんとですか?! お願いします! お願いします!! お願いします!!!!」


 男は、情けない声でルリーシヤにすがりつき、泣きべそをかきながらそう言った。


 「けど、1つ条件があるわ…… あんたは……ナギサに謝れるわよね?」

 「も、もちろんです!!」

 「それじゃあ、早くやりなさい」


 ルリーシヤは、這いつくばる男を軽蔑の目で見下し、足で尻を蹴っ飛ばした。


 「す……すみませんでしたあぁああ!」

 「ナギサ、許してあげるの?」


 渚は、メティルトの膝の上に頭を乗せ、気を失っている。


 「ざんねぇーーん。 謝りレベルが足りなかったようね」

 「なんだと!! 言われたとおり、謝っただろうが!!」

 「は? カッペト、こいつも同じ目に合いたいそうよ。 そうよね?」


 ルリーシヤは、男の髪の毛を鷲掴みにしながらそう言った。

 男は、全身を盛大に震わせ、首を左右に振る素振りを見せた。


 「はぁ…… 仕方がないわね。 最後のチャンスをあげるわ。 これをあんたに向けて放ったらどうなるか、わかるかしら?」


 ルリーシヤは力を発動させ、渚、メティルト、カッペト、そして自分の身体の周囲に真空と空気からなる層を幾重にも重ねた。

 その数、1000層を超える。


 「ワシらでなんとかできる程度にするのじゃぞ!!」


 カッペトはいつになく早口で言った。


 ルリーシヤは、空気中から可燃性ガスを掌の周囲に集めた。

 可燃性ガスの周囲の気体を超高速で加速させることで、その温度を上昇させていく。

 ある温度を超えた瞬間、可燃性ガスが燃え上がった。

 ルリーシヤは、さらに可燃性ガスを追加していく。

 燃え盛る火球の半径がルリーシヤの身長の2倍を超えた頃、男は「し……死にますね…………」と言った。


 「残念ね。 不正解だわ」


 ルリーシヤは男に向けて、火球を放った。


 「正解は、『消えてなくなる』よ」


 放たれた火球の半径は、最終的にルリーシヤの身長の10倍を超えていた。

 男2人の身体とカッペトの店舗兼住宅は跡形もなく焼失した。


 同刻、3体の魔物が召喚された。


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