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第4話(私の力)

 パチパチと音を立てながら、小さな焚き火が燃えている。


 「あの…… ごめんなさい…… 助けてくれて、ありがとうございます……」


 渚は、両腕で膝を抱えながら少しうつむいて、焚き火の傍に座っている。


 「私は、何もしていないわ」


 ルリーシヤは、渚の隣で嬉しそうにちょこんと座っている生物を見ながらそう言った。


 「私、この世界に来てから、ルリーシヤさんに迷惑しかかけていないですね……」


 渚は、膝を抱えている両手で、二の腕を強く握った。


 「私が叫び声を上げたせいで、魔物を呼び寄せてしまったのに、何もできないばかりか、いつものポンコツを発揮して、ルリーシヤさんの邪魔をしてしまいました……」

 「あぁ…… あれのこと?」


 ルリーシヤは洞窟の外に顔を向け、脚だけを数本残して消滅した魔物の亡骸を指差した。


 「ナギサのせいじゃないわ……」


 渚は、目を開いて、少し顔を上げる。


 「本来、この森に魔物は生息していないわ」

 「それじゃあ、やっぱり私が……」

 「違うわ。 私の力のせいよ」

 「どういうことですか?」


 ルリーシヤは、自身の力について、少し躊躇いながら渚に説明した。


 「私の力は、この世界で皆が使用している一般的な魔法と違うわ。 私が力を使うと、その威力と同程度の力を持つ魔物が召喚されてしまうの。 ナギサの悲鳴を聞いて、洞窟に戻る時、ほんの少し力を使ったわ。 あの魔物はそのときに召喚されたものよ」

 「………………」


 渚は、顔を両腕と胸で囲まれた空間に再度埋めた。


 「いや、私が皆と同じ魔法が使えないのが悪いのよ。 ナギサは悪くないわ」

 

 ルリーシヤは、言葉を選びながらそう言った。


 「まあ、そんなことは置いておいて、夜ご飯にしましょう! お腹空いたでしょ?!」


 ルリーシヤは、おもむろにバックパックの中をまさぐり始めた。

 数分後、肉の塊を取り出し、渚に対し自慢げに掲げた。


 「この世界にも、牛肉があるのですね」

 「ぎゅうにく? これは、昨日、渚をベッドごと浮かせた後に現れた魔物の肉よ!」

 「え……えぇ?! 魔物を食べるんですか?!」

 「食べないの? 意外といけるわよ!」

 「食べません!! 断固拒否します!」


 顔の前で手を交差させている渚を横目に、ルリーシヤは焚き火で調理を始める。


 「これはなんですか?」

 「さっきこの森で採ってきたスパイスと野菜よ。 魔物の肉に合うわ」

 「わざわざそれを探しに行っていたのですか?」

 「そうよ! 冒険に美味しいご飯は必要不可欠だわ!」


 ルリーシヤは、食にこだわる派であった。


 肉の焼けるいい匂いが辺り一面に漂い、嗅覚を刺激する。


 「できたわ! はい、これナギサの分! さあ、食べましょう!!」


 魔物の肉と野菜が盛り付けられた手製の器を受け取った渚は、怪訝な表情でその中を注視している。


 「なにボーっと見ているの? ほら、早く食べなさい!」


 ルリーシヤは、焼けた魔物の肉を手でつかみ、渚の口へと無理やり突っ込んだ後、唇を指で摘んで押さえた。


 「んぅん…… ちょっ…… 離し………」


 ルリーシヤの手を唇から離そうと、全力で藻掻いたが、びくともしない。


 あぁ…… これは詰んだ…………


 渚は、覚悟を決め、恐る恐る顎を動かした。

 歯ごたえのある食感、上品なスパイスの香りとともに肉汁が口の中いっぱいに広がった。


 「お、美味しいです!!」

 「当然よ! この私が作ったんだから!!」


 ルリーシヤは、得意気な表情の下に喜びを押し隠しながらそう言った。


 渚は、一気に数切れの肉を頬張った。

 ふと隣に意識を向けると、子犬のような生き物が空腹感あふれる表情で器を見ている。


 「この子にもあげていいですか?」

 「止めておきなさい。 エサを与えて懐かれでもしたら大変よ」


 子犬のような生き物に対し、渚は右手を差し出す。


 「お手」


 渚の掛け声に反応し、左の前足を掌の上に置いた。


 「いや、いつの間に躾ているのよ!」


 「こ、この子…… 飼ってもいいですか?」


 幼少期から犬を飼いたかった渚は、目を輝かせながらルリーシヤを見た。


 ルリーシヤの頭の中には、この生物が魔物に放ったあの力のことがよぎった。

 少し悩んだ末、一緒に連れて行けば何かの役に立つかもしれないと結論づけた。


 「まぁ、いいわよ」

 「本当ですか!? そうとなれば、早速名前を付けないといけませんね!」


 渚は、しばらく考え込んだ後、子犬のような生き物を抱き上げながら「君は、ポユルだ!」と言った。


 焚き火を消し、2人と1頭は床についた。





 洞窟の中に朝日が差し込む。


 2人は颯爽と支度をし、洞窟を出発した。

 渚の頭の上には、ポユルが座っている。


 洞窟を出発してから6時間ほど歩き、森を抜けると、そこにはレンガ造りの建物からなる小さな町並みが広がっていた。


 「着いたわ! ここが目的の隣町、ハブニスよ!!」


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