第14話(首飾り)
「まずは、お嬢さんの今の力を確認するとしようかのお」
カッペトは、幼児でも扱うことができる入門用の杖を渚に渡した。
渚は、一瞬躊躇ったが、すぐに気持ちを整え、それを受け取った。
杖の声が聞こえてくる。
うちは、とおーっても可愛い光の妖精なのだ!
輝く世界を見たかったら、【明過透陽】と唱えるのだ!
優しい杖の声に、渚はほっとした。
メティルトに抱きかかえられているポユルを含む全員が、期待の眼差しで渚を見つめている。
【明過透陽】
杖の先から、ロウソクが放つ光のような淡く小さな明かりが現れる。
私、魔法…… 使えた!!
発動した魔法は、誰しもが使えるありふれたものであったが、渚の喜びはひとしおだった。
「やったわね!」
ルリーシヤがそう口にした次の瞬間、その場にいた全ての者の目に強烈な閃光が入射した。
誰も目を開けていられなかった。
光が弱まった時、最初に目を開けたのは、カッペトであった。
カッペトは、視界の隅で残光を発している物体に気付く。
それは、ルリーシヤが身に着けている首飾りだった。
皆が、うっすらと光っている首飾りに気を取られている間、ポユルは、メティルトの腕の中から抜け出し、ルリーシヤの肩に飛び乗って、颯爽と首飾りを奪った。
「ちょっと!! 返しなさい!」
ポユルは、追いかけてくるルリーシヤを華麗な身のこなしで避けながら、渚に向かって跳躍した。
ポユルの身体が渚の頭上に差し掛かると同時に、首飾りは放たれる。
数秒間、空中を舞った首飾りは、渚の首へと着地した。
その瞬間、先程よりも強い光が辺りを包んだ。
渚は、全身の皮膚・粘膜から、温かい空気が染み込んでいくような不思議な心地になった。
白色で埋められた皆の視界が、鮮やかな色彩を取り戻していく。
「これは…………!!」
「ど、どういうことよ!!!?」
「ナギサ様?!」
眼前の状況に対して、各々が声を発した。
先刻、渚がいた場所には、ノクフィーの容姿をした人物が立っていた。
「もう一度、同じ呪文を唱えてみるのじゃ!」
カッペトは、即座に声を上げた。
渚は、言われるがままに呪文を唱えた。
発生した光の強度は、先程と同程度だった。
同じ呪文で、同じ規模の魔法…… どうやら変わったのは、外見だけのようじゃのお。
ルリーシヤとメティルトも、カッペトと同様の見解であった。
しかし、自らの魔法を間近で体験していた渚だけは、光が僅かに強くなった気がしていた。
立て続けに魔法を発動させた渚は、疲れ果てて、その場に尻餅をついた。
その光景は、ルリーシヤとカッペトにとって、とても新鮮だった。
「ふぉっふぉっふぉ。 では、今日はここまでじゃ。 初めて魔法を使った後は、大層疲れるでのお」
この日は、ルリーシヤが皆を夕食に誘った。
「今日は、私の奢りよ!」
ルリーシヤは、先日のお詫びがしたかった。
渚たちは、そんなルリーシヤの好意を喜び、食事を楽しんだ。
店の外には、笑い声が漏れ聞こえていた。
帰り道は、皆で談笑しながら宿まで歩いた。
お風呂に入ろう。
渚は、風呂場の横にある脱衣場で、順々に服を脱いでいく。
下着を脱ぐ際、何かが引っかかるような違和感を微かに感じた。
衣服を脱ぎ終え、風呂場に続くドアを開けようと視線を下げた時、本来そこにあるはずのないものが視界に映った。
「えぇええええー!! な、なんで!!!?」
渚は、自身の目が信じられなかった。
そのままの姿で脱衣場を出て、椅子に座ってくつろいでいるルリーシヤの前に飛び出す。
ルリーシヤは、目のやり場に困った。
「ルリーシヤさん! スマホ持っていましたよね?! それで私を撮ってください!!」
「ちょっと、ナギサ!! どんな格好で彷徨いているのよ! ってか、すまほって何よ?!」
ルリーシヤは、渚のいる方とは反対側に顔を向け、頬を赤らめている。
「私と出会った時に、脅しに使っていた長方形のものです!」
「あぁ、あれね!!」
ルリーシヤは、バックパックの中を漁っている。
「あったわ! こ、これでナギサを撮ればいいのね……」
ルリーシヤは、ここぞとばかりに渚の写真を撮った。
「そんなに撮らなくても大丈夫です。 撮った写真を見せてください」
「み、見るの?!」
「当たり前です」
ルリーシヤは、画面を渋々見せた。
そこには、渚が目を疑う光景が写っていた。
「わ、私、やっぱり男性になってる!!? 顔も変わって…… こ、これ、元に戻るの?!」
「お兄ちゃんのことだわ。 きっと私へのサプライズか何かのつもりよ。 数日もすれば、戻るんじゃないかしら」
ルリーシヤは、残念そうに言った。
それから数日が経過した。
渚の姿は、未だ元に戻ってはいない。




