第10話(祝い)
渚たちは、カッペトがオススメだと言うお店に来た。
店内に入ると、4人掛けのテーブル席に案内され、渚とルリーシヤ、カッペトとメティルトがそれぞれ隣り合って座った。
席についてから数分後、料理が運ばれてきた。
渚は、魔物を食材にした品が出てくるのではないかと身構えたが、運ばれてきた食事は、穀物や野菜、果物を使用した華やかなものであった。
メティルトは、フォークを握りしめ、ゆっくりと料理が盛り付けられたお皿に近付けている。
待ちきれないようだ。
それを感じたカッペトが乾杯の音頭を取った。
渚は、野菜と果物のサラダを口に運んだ。
「とても美味しいです!」
「ふぉっふぉっふぉ。 それは何よりじゃ!」
カッペトに酷使されているルリーシヤと食べ盛りのメティルトが、競い合うように、お皿に盛られた料理を次々と平らげていく。
「ルリーシヤ様! これは、ナギサ様の復帰祝いです! 少しは遠慮してください!」
「は?! メティルトの方こそ食べすぎよ! そんなに食べていると太るわよ!」
落ち着いて料理に舌鼓を打っている渚とカッペトをよそに、2人は火花を散らしている。
「ふぉっふぉ。 2人とも、楽しむのはよいが程々にするのじゃぞ。 ルリーシヤよ、そんなに体力が有り余っておるんじゃったら、もっと労働時間を伸ばした方がよさそうじゃのお」
「なっ!? それは困るわ!!」
ルリーシヤは、前のめりになっていた身体を後ろに引いた。
「流石、お師匠様です!」
メティルトは、勝ち誇った表情をしながら、フォークで野菜を突き刺し、ルリーシヤを見ている。
「メティルトよ、お前さんには、もっと上品に食べるよういつも言っておるじゃろう。 言うことが聞けないというのじゃったら、もう一度、あの修行をしてもらおうかのお」
メティルトは、身の毛がよだち、しゅんとした。
「そういえば、ルリーシヤさんとカッペトさんは、どういったご関係なのですか?」
沈黙に包まれた場に耐えかねて、渚がカッペトに質問した。
「どこから話すかのお。 お嬢さん、ルリーシヤが王女だったことは知っておるかの?」
「はい! 知っています」
「そうであれば、話は早いのお。 ワシは昔、王国でルリーシヤをはじめとした王族に武術を教えておったんじゃ。 その時からの腐れ縁じゃよ」
「そうなんですね。 昔からのお知り合いでしたか。 小さい頃のルリーシヤさんは、どんな方だったのですか?」
「カッペト。 余計な事、言うんじゃないわよ」
「ふぉっふぉっふぉ。 そうじゃのお。 兄に追いつこうと、ワシの厳しい修行に死に物狂いで食らいついてきた可愛げのある少女ってところかのお。 ルリーシヤは、兄が大好きなのじゃ」
「カッペト!!」
ルリーシヤは、顔を真っ赤にして怒っている。
「いいじゃないですか。 可愛げのある少女なのですから。 というか、ルリーシヤさん、お兄さんがいらっしゃったのですね」
渚は、気さくにそう言った。
「いるわよ。 でも、もう死んだわ」
ルリーシヤの目は、少し潤んでいる。
渚は、胸が締め付けられる気持ちになった。
「そうとは知らず、すみませんでした……」
「いいのよ。 カッペトが悪いんだから」
「ルリーシヤよ、すまなかったのお」
カッペトの言葉を聞いた後、ルリーシヤは無言で席を立ち、店を出て行った。
「お嬢さんにも、悪いことをしたの」
「いえ、私は大丈夫です。 ルリーシヤさんのお兄さんって、どうして亡くなられたのですか?」
「どう言ったらいいかのお…… 魔物の大群から皆を守るために、戦って死んだんじゃ」
「そうだったのですね……」
渚は、自身の取り皿に残っている果物を食べたが、味が薄くなっているように感じた。
3人は、夕日に照らされながら、宿への帰路についた。
渚は部屋の前の廊下で、感謝の言葉を口にし、カッペト、そしてメティルトと別れた。
部屋に入ると、ベッドの上で窓の外を眺めながらうずくまっている女性の影が、目に入ってきた。
部屋の入り口付近にある間接照明に明かりを灯すと、ルリーシヤの頬をつたう一筋の滴が光った。
「ルリーシヤさん…………」
ルリーシヤは、少し腫れた目で、じっと渚を見つめた。
「そうね…… いずれ話さなければと思っていたわ」
ルリーシヤは、ズボンの布を巻き込みながら、膝の上で両手を力強く握っている。
渚はそっとベッドの方へ歩いて行き、ルリーシヤの隣に腰をかける。
ルリーシヤは、自らの過去を話し始めた。




