第15話 「ユークリッド様は……」
「ユークリッド様は……」
「そう。一応ね、オレも王の血を引いてはいる」
言われて、アンブローシアも、その後ろに立っているクリューセスも驚きを隠せなかった。
メリッサは、驚きを顔に表さないように、ぐっと歯を食いしばっている。
「端的に言えば、現王が酒に酔った末に、当時城のメイドをしてたオレの母に、あれやそれをしてしまった結果、運悪くオレが生まれた。王族の特徴である金の髪や緑の瞳がなければどうとでも誤魔化せたんだろうけど。この通りだからね。王により獣人化され、母と共に獣人領に送られた」
「酷い……」
「まあ、酷いけどね。そういう経緯なので、一応、表向きは母が当時の獣人領の領主に嫁ぎ、オレは母と領主との間にできた子……ということになっている」
なっている。が、実は違う。
貴族社会ではよくあることだが……。
ユークリッドやその母親の心痛を思わず考えて、眉根を寄せてしまう。
しかし、ユークリッドは嘆くために皆を集めたわけではないはずだ。
アンブローシアはすっと右手を上げた。
「質問、よろしいかしら」
「もちろん」
「フィランダー王太子殿下を排除し、ユークリッド様が次代の王となることは可能ですか?」
ユークリッドは首を横に振った。
「無理だと言っておこうか。まず、オレが現王の子であることは公にはされていない。知っているのは当の王、王妃、エヴァンジェリン第一王女、オレの母、それから、この場にいる皆だけだ」
当時の状況を知る者たちは、皆、獣人化され、この獣人領の送られている。王都には、いない。
「だから、仮に、フィランダー王太子がいなくなったとしたら、次の王太子に任命されるのはカサンドラ第二王女だろうね。エヴァンジェリン第一王女は任命されても辞退するだろう。彼女は真面目だが、王太子や王として国を背負うほどの気概がない」
「げーっ! あのカサンドラ第二王女が王太子⁉ 冗談じゃないよっ!」
そのカサンドラ第二王女に獣人化の魔法をかけられたセルジオスが立ち上がって怒鳴った。
「あの男好きのやりたい放題が次期王⁉ ありえない! 気持ち悪い! そんなクソな王国なんて滅べっ!」
「……うん、まあ、そうだけど。国が亡べば大変なのは平民だ。だから、国を存続させたまま、制度だけを変えたい」
制度。つまり王政から議会民主制や立憲君主制などへの移行。
「……できますの?」
アンブローシアが聞いた。
「できるかできないか、ではなく。やるかやらないかだったらやるしかないだろうね」
国のため、国の民のため、その上、自分たちの復讐にもなる。
「やり方は……まあ、ある意味単純。そのために、オレはこの獣人領をゼファーたちに任せて、王都に行く必要がある」
「王都……」
「それから、アンブローシア嬢。獣人化が解けたからというわけではないんだが、一緒に王都に行こう。アイツらに仕返しくらいはしたいだろ?」
「それは……もちろん」
良かった……と、ユークリッドが笑顔になった。
「オレ一人でもできないことはないんだけど、アンブローシア嬢がいたほうが話が早い……というか、不意をつけるというか……」
承諾しかけたアンブローシアの前に、クリューセスとメリッサがすっと立ちふさがる。
「失礼ながら、ユークリッド様。アンブローシアお嬢様に危険なことをさせるおつもりは……」
「ない」
きっぱりと、言った。
「フィランダー王太子に対面する際の危険としては、もう一回獣人化の魔法をかけられる程度のことだろ?」
「それは……」
もう一度ゴリラ化するのは嫌といえば嫌だが。
仮に、またゴリラ化したとしても。
クリューセースがいれば、何度だって元の人間の姿に戻ることができるだろう。
アンブローシアがちらとクリューセースを見上げれば、視線の意味を理解したクリューセースはにこりと笑った。
「それに、オレにもね。メリッサにオレのかっこいいところを見せて、もっと惚れてもらいたいという下心もある。メリッサが敬愛するアンブローシア嬢に危険な目になんて合わせないよ」
さらりと付け加えられたユークリッドの不意打ちに、さすがのメリッサの顔も真っ赤になった。
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17話が最終回になります。
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