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ゴリラ刑に処された令嬢の 可憐な仕返し  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第13話 獣人化された犬の顔


獣人化された犬の顔ではなく、元の人の顔。

クリューセースによく似ているきりっとした青い瞳。柔らかな白い頬。


「メ、メ、メ、メ、メリッサ⁉」

「はい、お嬢様。メリッサでございます」


アンブローシアが驚くのは予想済みだったのだろう。メリッサはくすくすと笑う。


「わたしも運良く。昨夜、犬の獣人から人間に戻りました」


戻ったということは、本当に愛する相手がいたということだ。

が、そんな素振りなど、全く見えなかった。


「あ、あ、あ、あ、あ、相手は誰なの⁉」

「……会えばわかります」


アンブローシアもクリューセースもメリッサも。皆、人の姿に戻れたという嬉しさを上回る驚き。


だが、メリッサが言った通り、この獣人領で人の姿に戻っている者がいれば、きっとそれはメリッサの本当の愛の相手……なわけで。


「確かに、会えば、分かるけど……」

「そんなことよりも、ゆっくりしていれば昼食の時間も過ぎてしまいます。午後からは領主館に皆様集まるようにとユークリッド様からのご伝言もございますので、そろそろお支度を」


メリッサは馬の尻尾のように高い位置で一つに結んだ髪をふんわりと揺らしながら、アンブローシアを促した。


「ユークリッド様が?」

「ええ。今後のことを、皆様お集りの上話し合いたいと」

「今後……」


獣人の姿から人の姿に戻った。

ならば、このまま獣人領で過ごす必要はない。

フィッツクラレンス侯爵領に戻れるのか、未だに除籍もされずにフィッツクラレンス侯爵令嬢の身分のままなのか、分からないけれども。

とにかく、ジュロームのように獣人化の研究でもしているわけではないので、獣人領に獣人ではない人間がいることはできないのだろう。


「そうね」


人の姿に戻った。

愛する人もできた。

ならば。


王太子の婚約者という地位を返上し、更に王太子とその愛人に対してささやかな仕返しをするのだ。


「ユークリッド様とお話をして……。すぐにではないけれど、王都に帰りましょう」




昼の食事を終え、アンブローシアはクリューセースとメリッサと共に領主館に赴いた。


案内されたサロンには既にユークリッド、ジュローム、セルジオス、ゼファーら元文官の面々が集まり、ゆっくりと食後の茶を飲んでいた。


「あら、わたくしたちが最後かしら。お待たせしてしまって申し訳……って、えええええ⁉ ユークリッド様⁉」


ユークリッドの頭に、虎耳がなかったのにアンブローシアは気が付いた。


「も、ももももももしかしてユークリッド様がっ⁉」


思わずユークリッドを指さしたアンブローシア。

クリューセースもメリッサとユークリッドを交互に何度も見る。


「メリッサと……、ユークリッド様……⁉」


呆然としたような口調で、クリューセースが呟く。


その声に、ユークリッドは照れ笑いをした。


「あはははは。そういうことで」


メリッサといえば、すまし顔だ。


確かに接点はある。

アンブローシアの後ろのは常にメリッサが控えていたのだから。

とはいえ、愛。

獣人化が解けるほどの愛が、二人の間に芽生えていたとは考えにくかった。


「えええええっと。まさか、愛のあるなしにかかわらず、満月の夜に口付けを交わせばもれなく獣人化が解けるんじゃないでしょうね⁉」


思わず叫んだアンブローシアに「……だったらよかったんだけどねえぇぇぇ」と答えたのは、憮然とした顔のセルジオスだった。


「それまで個人的に交流なんてしていなかったように見えるユークリッド様とメリッサが人に戻ったのをこの目で見たからさ! ボクだって手あたり次第、知り合いに声をかけて試してみたのに! ボクはこのままだよ!」

「……手あたり次第?」

「知り合いの女性騎士とかと試しもしたし、ここで知り合った獣人たちとか。女性が全滅だったから、不本意ながら、男性ともね!」


セルジオスのふわふわのウサギ耳がへにょと垂れる。

そのセルジオスの後ろでは、ゼファーたち元城の文官たちが全員微妙な顔つきで明後日の方向を見ている。


……どうやらセルジオスは本当に手あたり次第、というか、知り合い全員と試したようだ。


一人ほくほく顔なのは、ジュロームだった。


「おかげで獣人化における解除方法の研究が多少なりとも進みましたよ。知り合いに対する親愛の情程度ではやはり獣人化は解けない。確固たる愛があれば解ける」


つまり、ユークリッドとメリッサの間にもきちんとした愛があったからこそ、獣人化が解けた……。


「いいいいいいいいつの間に愛を育んだの?」


アンブローシアの言葉に、メリッサは「ほほほ」と笑った。


「月夜の魔法かもしれませんわ。その場のノリといいますか、雰囲気に流されたといいますか」

「ええええええええええ! そうなの⁉」

「ユークリッド様のことは好ましい男性だとは考えておりましたが、愛かどうかまでは……」


メリッサの言葉にユークリッドのほうが慌てた。


「待て、メリッサ。そこは嘘でも実は以前からお互いに好ましく思っていたとか何とか言ってはくれないか⁉ 少なくともオレは! 昨日の月夜のメリッサが女神のように見えて……」

「あら」

「瞬間風速的にいきなり恋に落ちたっ! かもしれない! だが! 気持ちは昨夜だけというわけでは決してないっ! メリッサは違うのか⁉」

「……背も高くてがっしりとした体つきで、身分もあって有能な方が、わたしに対して焦ってわたわたとする姿は好ましく思えますわね」

「メリッサ……」


ほほほほ……と、笑うメリッサ。

だが、その耳が、人に戻った耳が、ほんの少しばかり赤く染まっているのをクリューセースは見逃さなかった。


なんだかんだと誤魔化しつつ、メリッサはユークリッドに惚れたのだろうとクリューセースは思った。ただし、いつから、どのくらい好きだったのかなどと問われるのは恥ずかしいのだろうとも。


「……それよりも、今後のことをお話するために集まったのでは?」


遠慮がちに、それでもきっぱりとクリューセースは申し出た。







今回も短くてすみません。


腱鞘炎はだいぶ良くなりました。ただ、シップ貼りすぎて、皮膚が……かぶれましたー! 手が、手が、かゆーい!




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