第12話 月明かりの下で
月明かりの下で、一晩中。アンブローシアとクリューセースはたくさんの話を重ねた。
これまでのこと、これからのこと。
心の中の想い。
「……国王陛下が帰国されないうちは、わたくしはまだあの王太子殿下の婚約者なのだけれど」
「はい」
「さっさと破棄でも解消でもしてしまいたいわ!」
両手を拳の形に握って、ふんっ! と、気合いを入れるアンブローシア。
そのアンブローシアを見て、クリューセースが微笑み。
が、その笑みがすっと薄くなった。
「クリューセース?」
「ああ、申し訳ございません。婚約が破棄なり解消なりできた後でも、侯爵家のご令嬢と孤児院上がりの使用人では……結ばれるのはなかなかに厳しいと」
「そんなことはないわよ! わたくしが獣人刑に処された時点で、お父様ならわたくしを除籍なりなんなりしているハズよ! 最終的な手続きには国王陛下の許可が必要でしょうけど、それ以前にきっともう、わたくしは平民扱いよ!」
「……多分、そうであろうという希望的なご意見で、事実そうなるかは……わかりません」
「クリューセース……」
希望と、現実。
獣人刑を受けたから、侯爵家から除籍されるだろう、婚約もなくなるだろう。
それは確かに希望であって、本当に現実になるかどうかは……わからない。
だけど、クリューセースはそんな現状を嘆いているのではなかった。
「前にユークリッド様がおっしゃっていた話を、おぼえていますか?」
「え?」
「立憲君主。文官たちが政治を行い、王族は国の顔としてだけ働いてもらい、権威を削ぐ……」
「王太子の権も第二王女の権もなくしてしまえればっていうアレね」
「……そういう世の中になれば。侯爵令嬢と使用人が手と手を取り合い、未来を掴めるのかと……」
身分差のない世界……とまでは行かなくても。
少なくとも、身分差があっても、愛し合う者同士が沿いあえる未来がつかめれば。
「そうなったら、素敵ね」
「そうなるように、前向きに努力をしてみようかと思います。私では何をどうするのか考えつかずとも、ユークリッド様やゼファー、セルジオスたちと共に、国を変えていければ……」
「いつかわたくしたちも……きっと……」
薔薇色の未来……とまではいわなくても。
今よりも良い未来を掴むために。
そうして、アンブローシアはクリューセースの胸に持たれながらこっそりと思う。
……望む未来を掴む過程で、こっそりちょっとだけ、フィランダー王太子に対して獣人刑に処された仕返しをしよう。
ただし、獣人領にやってきたことで、結果的にクリューセースとの素敵な未来を掴めそうなので……。
「その分は、差し引いて、可憐な程度の仕返しに留めてあげるわね」
くすりと笑ったアンブローシアだった。
***
明け方になって、ようやくアンブローシアもクリューセースも自室に戻って、少しだけ眠り……、起きた時には、昼も過ぎ、夕刻に近い時間となってしまっていた。
「おはようございます、アンブローシアお嬢様。さすがに今日はお嬢様もお寝坊さんでございましたわね」
「んー……、メリッサ、おはよう」
「はい、『おそよう』ございます。お嬢様が起きられるのをこのメリッサ、首を長くしてお待ち申し上げておりました」
「もうっ! メリッサ! 寝坊したのは悪かった……わ……って、えええええええ!」
明るいメリッサの声。それはいつもと変わらない。
青みを帯びた銀の髪を後ろで一つに結んでいるのも。
クリューと同じ青い瞳も。
変わらない。
だけど。
メリッサの顔も腕も。
犬のような獣人の姿ではなく、元の人間の顔と体に、戻っていたのだった……。
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