第11話 愛とか恋とか。永遠だとか運命だとか。
愛とか恋とか。
永遠だとか運命だとか。
物語に登場するような、そんな感覚は今のアンブローシアにはまだ分からない。
クリューセースのことは好きだ。
けれど「好き」の種類が明確には分からない。
名を付けたからなのか。
長年側に居て仕えてくれたからなのか。
それとも愛や恋なのか。
ただ、直感的に思った。感じた。
もしも、誰かを、愛の相手に選ぶのなら。
「……わたくしは、クリューセースがいいの」
愛しているだの恋をしているだのは、言えなくても。
ただ、選びたい。
選んでほしい。
その願いだけがあった。
「お嬢様……。私は……」
「クリューセースはわたくしが嫌い?」
泣きそうな声で、震える瞳で。
アンブローシアから言われた瞬間に、クリューセースの心のどこかにずっとあった重しのようなものを……捨てた。
「好きです。本当は、ずっと……貴女を誰にも渡したくなかった」
「クリューセス!」
「……ですが、使用人の私のはお嬢様には相応しくない。一生、お傍で控えさせていただくだけでしあわせだと……、自分自身に思いきかせて……。気持ちを押し殺して……」
ぶわっと、全身が泡立つような、そんな感覚。
だけど、嫌な感覚ではない。
そうではなく……、これは、歓喜だ。
好きと言われて嬉しい。
だから。
「もしも……わたくしも、クリューセースと同じ気持ちだといったら。クリューセースは身分なんて考えずに、わたくしの手を取ってくれる?」
「お嬢様……」
「愛とか恋とか、正直に言えばわたくしにははっきりとは分からないのよ。だって、わたくしは貴族の令嬢だったのだもの。侯爵家の持ち物、財産。わたくしの意思で未来を決めるのではなく、家長の命じるまま、家の利益のために嫁ぐ。ずっとそう生きてきたし、それに耐えてきたわ」
家のために、クズな王太子の婚約者を拝命し。我慢をして、それでもできる範囲で努力をして……。その結果が獣人刑。
「だけど、もう。これから先はずっと。わたくしはフィッツクラレンス侯爵令嬢ではなく、ただのアンブローシアでいたい。だから……」
クリューセース息を吸った。
手を伸ばす。
アンブローシアを抱きしめる。
アンブローシアも、クリューセースの背に手を回し、ぎゅっとその背を掴む。
「……わたくしを、選んで。クリューセース」
「……アンブローシア様も、私を選んでください」
戻ればいい。
だけど、戻らなくても。
互いに互いを選ぶのならば。
たとえ、獣人の姿のまま一生を過ごしたとしても。
きっと、しあわせだと、アンブローシアもクリューセスも同じように思った。
そっと顔を近づける。
頬を頬を寄せ合って。
瞳と瞳を合わせて。
……唇に、触れた。
月のしずくが滴り落ちてくる。
ぽたり、ぽたりと。
落ちた光が体にしみ込んで、全身がうっとりと震えるような……そんな感覚がした。
「……クリューセース」
「……アンブローシアお嬢様」
目を開けて、お互いの手で、お互いの頬に触れる。
獣人の顔ではない。
元の、人間のアンブローシアと人間のクリューセースがそこにいた。
アンブローシアの赤と黒の混じった長い髪。
ルビーのようなぱっちりとした瞳。
そして……すらっとした鼻筋とつるりとした白い頬。
元の、人間の、姿。
クリューセースもだ。
犬か狼のような顔ではなく。
高く通った鼻筋に薄い唇。人の姿に戻っていた。
「戻ったわ……」
「戻りましたね……」
アンブローシアはじっとクリューセースを見つめた。
「クリューセース」
「はい、お嬢様」
「……わたくしが自分の気持ちを自分で理解するよりも先に、月に教えてくれたわ」
「……私も、身分差を盾に、自分の弱い心を隠していましたが……、月が、弱い心を捨てる勇気をくれました」
二人、見つめあって。
「大好きよ、クリューセース」
「はい、お嬢様。私もあなたを愛しています。一生ずっと、あなたの側で、あなたを愛し続けます」
目を伏せて、そうして、もう一度そっと。
お互いの唇に触れた。
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腱鞘炎のため、短くてすみません。




