23.自ら、禁忌へと
「…………。……好きな人が突然いなくなったら、っていうと?」
凛に感づかれないようにゆっくりと呼吸を整えてから、分かっているのに、翔奏は意味のない質問をする。
それに凛は一瞬不思議そうな表情を見せ、しかしあくまでも感情を表に出さないように言う。
「言葉の通りです。好きな人が、突然自分の前から姿を消したら……いや、突然に亡くなってしまったら、桐宮さんはどうしますか?」
「亡くなったら……って…………」
翔奏は唖然と、凛の言葉をなんとか耳に通す。
凛がなぜこんな質問を唐突にしてきたのか分からないし、質問に答えて凛がどうするのか、なんて想像もつかない。それに凛が感情を出さないからか、こちらのペースが乱される。
なにより——。
(好きな人が…………いなくなったら?)
その恐怖を、翔奏は知っているから。
目の前から好きな人がいなくなる絶望を、翔奏はどこかで知っているから。
だからこそ、翔奏は怖いのだ。
知っているからこそ、いつまでも動悸が止まらないのだ。
そう——どこかで、分かっているから。
(……なんだっけ?)
「翔奏さん? 大丈夫ですか?」
「あ……は、はい。……大丈夫です」
いつの間にか凛がこちらに顔を向けていて、心配そうに翔奏の顔を覗き込んでいた。その顔には、ほんのりと感情が出ているようにも見えて。
翔奏がハッとして頬を触ると、冷や汗が垂れていた。
「……もしかして、辛いことを訊いてしまいましたか?」
「い、いや……まあ、なんていうか。ちょっと、難しくて」
自責を課そうとしている凛に翔奏はさっきの違和感を塗り潰すように身振り手振りではぐらかして、落ち着かせるように深呼吸をする。
先程の凛の質問を思い出し、翔奏はジュースを一口飲む。
「それで……。好きな人が突然いなくなったら、でしたっけ」
「そうですけど……。でも、桐宮さんが嫌なら無理に訊きはしません」
「いや、大丈夫です。さっきのは、一種の発作みたいなものなんで」
発作、という言葉を聞いてまた凛の顔が強張ったが、翔奏の何食わぬ顔を見ると一息吐き、顔を上げる。
「……では、改めてなんですけど。あたしがこんな質問をした意味、桐宮さんは分かりますか?」
「……いえ、まったく」
「ですよね。あなたはあたしではないですから」
凛は俯き加減に、顔を曇らせながら言う。
窓から差し込む光が、凛の瞳に影を作っていく。
「世の中に、もうありふれた話だとは思うんですけど……。あたし、数年前から付き合っている人がいまして」
しかしそのはっきりとした声色は、否が応でも翔奏の耳に届いた。
「まあ、正確には付き合ってはなかったんですけど。たまにお互いの家に遊びに行ったり、旅行とか行ったりして……。あたしも、彼も、表面上で友達のふりをし続けていました」
「…………」
「でも、やっぱりそんなに長くいたら好きになっちゃうじゃないですか。一目惚れとか、そういうのじゃなくて……なんていうのかな、長く一緒にいるからこそ、その人の良さが身に染みて分かってくるというか」
心なしか、少し凛の声のトーンが明るくなる。
凛が言っている「彼」のことを思い出しているのだろうか——。その目からは少しだけ、遠い昔の日のことを目の前で見ているかのような優しい情が、溢れだしていた。
しかし——。次には、凛の表情は一気に暗いものへと変わっていた。
「後で知ったんですけど。……彼、その日あたしにプロポーズしようとしてたんです」
「……プロポーズ、ですか」
翔奏は一瞬、その言葉を鵜吞みにしそうになったが——。
「……え、ごめんなさい、プロポーズって言いました?」
「はい、プロポーズですけど……なにか、問題でも?」
「えっと……。御神さん、おいくつなんですか?」
「……二十三ですけど」
「っ⁉ 二十三歳?」
そう——翔奏からは、凛は同年代の高校生にしか見えなかったのだ。
高校生ならば、付き合うことはあってもプロポーズすることはなかなかないだろう。だから凛の口から「プロポーズ」という言葉が出てきたとき、一拍置いて訊き返したのだが……。
(……そうか、御神さんは大学生なんだ)
「ちなみに何歳に見えてたんですか?」
「実は……高校生くらいにしか、見えてなくて」
「よく言われます。身長はどちらかというと高いほうだとは思いますし、スタイルも整っている自信はありますが……。なんででしょう、顔立ちが高校生っぽいからですかね」
翔奏が危惧したように気分を害した様子もなく、凛は心底不思議そうにテーブルに肘をつき、顎に手を添える。
言われてみれば、凛はスタイルが群を抜いている。桜歌とはまた違ったかわいさというか、何回も思ってはいるが、しゃべり方からしてもクール系女子なことは間違いないだろう。それでいて顔に高校生のようなあどけなさを残しているので、思わずルックスのすごくいい高校生と見まがってしまう。
翔奏は話を戻すべく、一度咳払いをしてから口を開く。
「すみません、違う方向に行っていましたね。それで……その日っていうのは?」
翔奏が言ったのは、さっき凛が言ったことの続きだった。あまり関係はないのかもしれないが、どうしてもその言い回しが気になったのだ。
「詳しくは言えませんが、ある日のことって思っておいてください。……特に深い意味は、ありませんので」
「……分かりました」
特に表情も変わらないし、感情も読み取れない——。だが凛の感じている恐怖は、まざまざと翔奏へと伝わってきた。
「今日は一緒にレストランに行こうって、彼は予定を立ててくれていました。あたしもレストランなんて初めてだったんで、少しお洒落な格好をして行こうって思ったんですけど」
「…………はい」
「彼はそれを止めて、いつもの恰好でいいって言ったんです。どうしてかと尋ねても、理由は教えてくれませんでしたが」
はー、と息を吐き、凛は覚悟を決めたような表情で、こちらを見た。
「そこで——私が、訊かなければよかったんでしょうか。彼は数分後、自宅付近の交差点で亡くなっていました」
「っ……?」
話の方向が急に転換して、翔奏は驚いたように眼を開く。
だがそんな翔奏を一目だけ見て、凛はしゃべり続ける。
「……事故でした。私が着いたときには民家に突っ込んだ自動車しか残っていなくて。彼の声も、彼の音も、彼の姿も、もうどこにもありませんでした」
それは……、と翔奏が口を挟もうとしたところで、凛は言葉を続ける。
「ですが、気が狂っていたんでしょうか。張られていた規制線を乗り越えて、私は彼がきっとどこかにいると、探して、くまなく、隅々まで探して……」
「…………」
「……見つけたんです」
「っ、見つけた⁉」
音量すらも気にせず、思わず翔奏はテーブルを鳴らしながらその場に立った。
「……桐宮さん、落ち着いてください」
「あ……すみません」
運よく店内には気にする客はいなかったが、奥を通って行った店員に睨みつけられた気がして、翔奏はゆっくりと再び椅子に座る。
「それで……。見つけたって、なにを?」
「…………。……結婚指輪です」
「……結婚指輪?」
「茂みに隠れていて、いつもの私なら絶対に気づかないようなところなんですが……。本当におかしかったのでしょう、そんなところまで、気がついたら探していました」
結婚指輪。その言葉の意味が一瞬意味が分からなかったが——翔奏はすぐに、その結論へとたどり着いた。
「そうか……だから、御神さんは……」
「彼が私にプロポーズをしようとしていたことを……。……彼の死んだ後に、気づきました」
絶望、なのだろうか。後悔、自責、自分に対する嘲笑——。どれとも取れるような表情で、しかしそのぐちゃぐちゃに感情が入り乱れた顔で、凛は目を瞑る。
それは表情。それは訴え。それは——、
「桐宮さんなら、どうしますか?」
「え?」
これまた唐突に訊かれた質問に、翔奏はその意図をくみ取るのに数秒固まった。
そして、最初の質問を思い出す。
『桐宮さんは——好きな人が突然にいなくなったら、どうしますか?』
そして、言われた直後に翔奏の脳内には幾つもの……いや、幾千もの言葉が、流れていったのだ。
だから、翔奏も同じような経験をしたことがある——はずなのにも拘わらず、翔奏はなぜかそれが思い出せなかった。記憶の問題なのか、それとも本当は体験していない絵空事の記憶なのか。
分からないが、だがもし妄想だとしたら、あのはっきりと頭の中に響いた言葉は一体なんだったのだろうか。そんな記憶が、本当にあったのだとしたら、なんで覚えていないのか——。
「……泣きわめく、かな」
長考した結果出てきたのは、そんなありきたりなことだった。
結局あの言葉たちについては思い出せず、翔奏は凛に向かってそう言う。
「そもそも、その行動……とかを言葉に表すなんて無粋だと思うけど。でも、俺なら多分そうなると思います」
そう、嘘を吐いた。
意味のない嘘だ。本当は、翔奏は泣きわめくだろうなんて思ってはいない。
ただ——言う勇気が、ないだけだ。
だがそう言った瞬間、凛がまた無表情に——不自然なほどに表情がなくなった。
「……私は、彼が亡くなったあと、何事もないかのように過ごしていました」
自嘲するかのような凛の口から出てきたのは、そんな翔奏も思ってもみなかった言葉だった。
「涙なんて出ませんでした。喚きもしませんでした。私ができたのは——せいぜい、彼を弔うことだけだった」
翔奏に有無を言わせない。そう感じさせるような静かな圧力で、凛は段々と崩れていく。
「あんなに長く傍にいたのに、ずっと見てきたのに……。大好きって、伝えたかったのに……っ」
「…………御神さん」
「……だから私はきっと、そんな薄情な人間なんです。こんな人が、生きていていいわけがないんです」
「…………、」
否定はできた。口を開きさえすれば、いくらでも声の掛けようはあった。なにせ翔奏は文系なのだから、慰めの言葉の一つや二つ、思いつけばいくらだってあった
けれど、それをしないのは。それをしてはいけないと思ったのは、やはり翔奏の曖昧な記憶が邪魔をしているから。
なにより。
(……俺がそんなこと言われたら、すぐにそいつを殴りたくなるから)
慈悲なんていらない。同情なんていらない。哀れみなんて以ての外。優しい言葉なんて論外。
そんなことをされる義理も、継ぎ接ぎの言葉を掛けられる筋合いもない。つながりさえもないんだったら尚更だ。目の前で見たわけでもないのに、まるで自分が体験してきたように語るな、と。この感情を感じることができるのか、と。お前が自分のなにを知っている、と。
——知ったような口を聞くな、と。そう思ってしまうから。
「…………」
だから翔奏ができることは、とにかく沈黙を貫くことだった。なにもできない、けれどなにもしない方が、凛にとってはいいはずだ。
凛の表情を見れば分かる。あくまで無表情、けれどあまりにも不自然。一言では決して表しきれない感情の海に——言うなれば、誰にも触れられたくないような禁忌の領域に、いつの間にか凛自身でさえもが呑み込まれてしまっていたのだ。
自分で自分を陥れるなんて意味が分からないと思うが、しかし世の中はいつだって自分の思う通りに動かない。むしろ、自分が思う通りに動かされるのだ。
「…………一緒に、いたかった」
「……………………」
それにいつの間にか、翔奏の心臓までもが痛くなり始めてきていた。今の今までまったく気づいていなかったが、しゃべっていた間で鼓動が何倍までもに早くなっている。
自分でも、意識すれば鼓動が鼓膜まで伝わるほどに心臓は脈を打っていた。なにかを拒否しているかのような、認めないような、意味の分からない、気持ち悪い感じ。
さっき感じたものよりも、より一層、ひどくなっていた。
(本当に、なんでなんだ)
なにもしていないはずなのに。なにも堪えてなんかいないはずなのに。勝手に限界まで、それは膨れ上がっていた。
それに、なにか思い当たることのあるような——。
——気がつくと、翔奏は息を吸っていた。
「…………御神さん」
決して、凛に同情することを言うつもりはないし、凛のことを慰めようとかそういう気持ちはない。
けれど、せめて翔奏のさっきついた嘘だけは、本当のことに塗り替えてあげなくては。
凛は、生気を失った翡翠色の瞳をこちらへと向ける。
「俺は、」
自分も、命を絶つと思いますよ
と、言おうとしたところで。
「お待たせー」
通路側からそんな場の違う声が聴こえ、翔奏はハッとそちらへ顔を向ける。
そこには、ちょうどお手洗いから帰って来た桜歌がいた。
「結構待ったー? ……って、ごめんなさい、話途中だったかしら?」
「……い、いや、だ」
「大丈夫よ、少し世間話をしていただけだから」
後ろからさっきとはまるで違う声がしたが、翔奏は内心で驚くだけに済ませた。どうやら凛は、気持ちの切り替え——表面上だけなのだろうが——が上手いらしい。
桜歌は言いながら席に座る。
「それならいいけど……。なんか向こうから見てて深刻そうだったし、大丈夫かなって」
「大丈夫よ。このハンバーガーが本当に間食できるのかに深刻になってただけだもの」
「えっ、私が食べていいってこと?」
「だめよ。これはあたし|のもの」
先程までの雰囲気とは一変、桜歌が戻ってきたからなのか、凛が性格を入れ替えたかのようにしゃべり方が変わったからなのか、場は戻りつつあった。
そして、少し経って。
「翔奏、ごめんお待たせ」
「雀お前長かったな、腹でも壊したか?」
「いやお前が掛けた水の塩とかを払ってただけであってな。別に腹を下したわけではないからな」
「はいはい、お疲れ様でして」
「んだお前がやったんだろ」
桜歌がいるからか調子は低めだが、しかしどこか雀の中で整理でもついたのだろうか、軽口の言い合いができるほどまでには朝に戻っていた。
「じゃあ桐宮さん、食べ終わりましょうか」
「……そう、ですね」
凛も——本当に、さっきの人とは別人なのかと思うくらいに表情は冷静だったし、しゃべり方も落ち着いていたし、なにより纏っている雰囲気がさっきまでとは明らかに違かった。
——しばらくして、相変わらず桜歌と雀の間以外で雑談をしながら、翔奏と凛はハンバーガーを食べ終わった。
「さて、これから店を出たいところだけど……。翔奏たちはこれからどこに行くつもりなの?」
「俺たちは……特に決めてはないかな。雀はどこか行きたいところある?」
「んー……。オレは夕日の写真は撮りたいから、とりあえずそこまで近くの商店街とか神社とかを軽く回るつもりだけど。翔奏は夕方まで平気なのか?」
「まあ、極端に遅くならなければ」
「ならそうするか」
「……とのことですが、大丈夫そう? 桜歌の方は」
あくまでも翔奏に向かって話をする雀に若干呆れを覚えながら、翔奏は桜歌の方に向き直る。
「私はもう帰ろうと思ってたから、ちょうどよかったわ。それじゃあ、さっさと会計を済ませて」
「いいじゃない。行きましょう、桜歌」
「…………え?」
「…………はい?」
これまた突然に投げかけられた言葉に、翔奏はもう動揺しなかったが桜歌と雀は同時に声を上げた。
さすがにもう桜歌と雀は、言うなれば敵対しているということは分かっていると思うのだが……。多分、わざとだろう。
さっきなら押してなんとか通っていたが、今回はさすがに押し切るとはいかず、桜歌と雀が——特に桜歌が、強く反発する。
「凛、もう私帰りたいんだけど」
「だって桜歌ちゃん、この間寺に行きたいって言ってなかったっけ。写真見せて、ここいつか行きたいなあってぼやいてなかった?」
「そ、それはまた今度でいいから。今日は疲れたし……。なにより、翔奏たちが行くのは神社でしょう? 寺とはまたちが」
「この近く寺もあったと思うけど……」
「っ、おい翔奏?」
「……あっ、ごめん」
「らしいわよ。あたしも行ってみたいし、わざわざ後日にここまで来るより今日行った方が効率はよくないかしら?」
「……だ、だけど、今日は他に用事が」
「ショッピングモールだっけ。帰りに行けば?」
「…………」
うーん、と桜歌は唸る。それはそうだろう、顔も合わせたくない人と一緒に出掛けるなんて、そんなことは想像もしたくない。
ちなみに翔奏が「この近く寺もあったと思うけど」と言ったのは、本当につい言ってしまっただけだ。昔はよくここに来ていたので、土地勘があると言うか、なんとなくで口にしてしまった。雀からの圧が横から感じられるが……。今回は無視しよう。
数分間唸り続け、その間に他の三人はお金を計算していると、ついに桜歌は観念したように吐息を零した。
「……分かったわよ。行きましょう」
「じゃあ決まりですね。お会計をしてから向かいましょうか」
桜歌もお金を出して、会計は年上だからという意地からか凛が行ってくれた。その間翔奏と桜歌と雀が外で沈黙を流しながら待っていたことは、言うまでもない。
そして凛が出てきてから目的地を決めていた、その隙間の時だった。
「……桐宮さん、よかったら連絡先交換しませんか?」
「え? ……ああ、はい。いいですけど」
おそらく先ほどの話が関係しているのだろう、と予想はついたが、連絡先を交換するとは思っていなくて翔奏は急いで連絡先を出そうとする。
——と、凛は口を翔奏の耳に近づけ、二人に聞こえない声量で言った。
「信じてはいますが……。桐宮さん、あの事は絶対に他言しないでくださいね」
「っ…………ええ、もちろん」
少しだけ本当の凛になったような、低くて圧のある声。その近さに思わず身を震わせながら、翔奏は連絡先を凛へと見せた。
凛はそれを一瞥し、すぐにスマートフォンへと打ち込む。「もうしまって大丈夫ですよ」と言うほどなので、どうやら、瞬時記憶が得意みたいだ。
それでは、と今度は桜歌と雀を含めた三人に言い、凛はいつの間に開いたのか、ここ周辺のマップを画面上に出す。
「あたしはここがいいと思うんですけど……。桜歌ちゃんはいいとして、桐宮さんと木蔦さんはどう思いますか?」
「凛? なんで私の意見を聞かないの?」
「……すぐに分かるわよ」
「あんたねえ……」
まるで学校の面影の欠片もない桜歌の呆れ声が聴こえる。
そんな桜歌を言葉で宥めながら、こちらに向けられたそのマップを見ると。
「これは……御神さん、面白いところに行きますね」
「…………待ってください御神さん、これ嘘ですよね?」
「ん? 本当ですよ?」
首を傾げて、凛はクールなのにきょとんとしたように言う。
翔奏の反応を見て、さすがの桜歌も見たくなったらしく。
「ちょっと、私にも見せなさいよ」
「……見ない方がいいと思うのだけど」
「いいの。ちょっと、ほら早く見せな……」
桜歌の動きが、そこを見た瞬間に止まった。
釘付けになっている、というより、目の前の事の処理で時間がかかっているといったように、桜歌は口をぱくぱくとさせる。
凛は、高らかに言った。
「それじゃあ、行きましょうか——零牡寺へ」
——一方その頃、少女は。
「だから瑞葉ちゃん、言ったでしょ? 早く物の取捨選択をしなさいって。そうじゃないとここが小説でまみれるじゃない」
「で、でも……」
「口答えする暇あるなら取捨するか、読んでいる以外の小説をしまいなさい」
「……め、めんど」
「なあに? この如月になにか言った?」
「ごめんなさい、片づけます」
「……はあ、よろしい」
この有様であった。
23.自ら、禁忌へと




