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70.過去-情報の棚卸

 

 自分事として、この世界に本気で関わるとして、これから俺が行わなければいけないことについて整理することにした。


 ここで情報を一旦整理することは必要なことだろう。

 二度とクロード爺さんと同じような悲劇が起きないようにしなければいけないのだ。


 それにしばらくは過去での行動のみに限定されているため良い機会かもしれない。

 6年後の現在では疾風の精霊の力が凄まじく、それを抑えるための晶氷の精霊の加護が中和するように働いているようだが、それでも爆発が終わる気配がしない。

 疾風の精霊の力は、たしかに精霊の中でも頭一つ抜けているのかもしれない。


『頭の中身も抜けているけどね』


 いや、そんなことは……まあ、うん。


 さて、俺の行動指針としては相変わらずヒックス君の代理人として、行動していくことになる。


 俺が代理人になった当初からの重大な使命は二つだった。


 一つはオイコノ子爵領がヒックス家に冤罪をかけることを防ぐこと。

 これはかなり順調かと思う。

 オイコノ子爵領の街中に設置した監視システムにてオイコノ子爵とその関係者の弱みを握りつつ、重大な資金源である裏金についても強奪をしている。

 何よりもオイコノ子爵領が狂う決定的な契機であるらしい重魔リリスの存在を知り、その襲来の時期も把握している。


 重魔リリスを潰しつつ、水面下からオイコノ子爵領の地位を支えるものを削り取り、失墜させるつもりだ。

 しかし相手が貴族である限り、水面下で完全に事を達成しなければいけない。


 もう一つは屑勇者だが、こちらは現時点では何とも言えない。

 屑勇者は未だに公に名前が出ていない。


 その名をヒックス君が知ったのは彼がおよそ15歳になったころであるから、屑勇者が過去ではどこで何をしているかも分からない。


 極魔アドラメレクとやらを倒すつもりらしいが、こちらもよく分からない。

 自分の女を犠牲にして使う卑劣な概念技が極魔アドラメレクとやらに通用すれば勝てるだろうが、そうでなければ屑勇者では極魔には勝てないように思われる。


 ラファータが聖女に認定されれば屑勇者が仲間に加えようとして来るだろう。

 その場合ははりやヒックス君の代理人である俺も彼女に同伴するだろう。


 しかし、現在のところラファータが聖女に認定されるような事態にはなっていない。


 本来の歴史ならばヒックス君が魔物に襲われて瀕死になったところを癒したことで聖女として扱われるようになったわけだが、客観的に見て代理人である俺ではそこらの魔物で怪我をするわけもない。


 もちろんヒックス君以外の誰かが重傷を負って、その治療のために聖女認定されるような可能性もあるのだが。


 この世界は偶然によって幾らにでも変化していくのだから。


 ラファータは聖女になることを望んでいるのだろうか。


 6年後の現在でラファータは聖女としての使命に生きることを選んでいた。

 それは、おそらく彼女自身の幸せでは無かった。

 俺には彼女が抑圧されて苦しんでいるように思われた。


『本当に? キミはキミが本当にしたいことをして、抑圧されていないと思っているの? ボクはキミの良心がキミを抑圧しているように見えるけど』


 ……もし、テトラくんちゃんの言葉が真実だとしても、今の俺はそれが望ましいと思うが。


 いや、ラファータは苦しんでなくても良い。

 俺がヒックス君とラファータには同じ時間を過ごして幸せになって欲しいのだ。


 その為にはラファータは聖女にならない方が良いように思うのだ。


『傲慢、あまりに傲慢じゃな』


『ええ、重魔スペルビアの思想と違えるところがありませんわ』


 ……ヘプたん様とペンテお嬢様の言う通りだ。

 他の人間たちの行く末を自分の願望のままに規定しようなんて思い上がりも甚だしい。


『しかし、推しカプのためにならどこまでも傲慢になるのが、人間ですわよ! ワタクシにそれを否定なんてできませんわ!』


『キミもじゃん』


『否定は致しませんわ』


 あー……うん。


 もっと過去のラファータと話をしよう。


 正直に言えば、俺はラファータを避けてきた。

 幼い彼女と代理人である俺が関わることはジョーリ・ヒックスという存在を塗り潰す行為なのではないかと。


 しかし、俺は真剣に彼女と対話しなければいけない。

 この世界に自分事として関わると決めたのだから。


『屑勇者についてはそこがスタートだよね。まあ、どうであれ避けられない対峙をする予感があるけど』


 ああ。


 直感でしかないが、屑勇者とはどうあがいても和解する気がしないし、袖振り合わない運命はないように思う。


 重魔リリス、重魔スペルビア、そしてその背後にいる黒幕は屑勇者と全く無関係とは思えないのだ。


『その辺りは『精霊の寵児』を狙っている輩だよね』


『その目的は素敵なこととは思えませんわね』


『……忌まわしきクオンツと無関係とはいかなそうじゃの』


 ……今更だけど精霊の寵児って具体的になんだ?


 俺の問いに精霊三柱は顔を見合わせて——今更だがミア鳥は勝手に顕現してシーフィアと一緒にいるため不在である——押し黙った。


『精霊に愛される存在だよ』


 うん? うん。


『……精霊の力と親和性が非常に高い存在ですわね』


 はい。


『精霊の力を圧倒的に多くその身に宿すことが出来るのじゃ。稀代の魔法使いになる素質のなるだけの才能がある』


 シーフィアが稀代の魔法使いか。

 シーフィアに才能があるのは嬉しく思うが、あまりに優れた才能で逆に苦労しないか心配になる。

 現に重魔スペルビアたちの背後にいる黒幕に狙われているくらいだ。


 それで、精霊たちは何を隠しているんだ?


『んー、まあそれはキミに気付いて欲しいかも』


『あら、あらあら。テトラさんがそう言うのならばワタクシも従いますわ。うふふ、テトラさんも乙女ですわね!』


『ふむ。話すことは構わないがそれならば儂もここでは口を閉ざそう』


『……キミたち、ボクだって羞恥とかあるんだよ?』


 テトラくんちゃんが少し拗ねたような口調で咎めたが、二柱たちは生温かい目で見るだけだった。


 ……そういうことなら、聞かずに考えてみるよ。

 知っていようが知らなかろうがやるべきことは変わらないだろう。


 さて、悪徳領主のオイコノ子爵領と屑勇者ケインについては一先ず以上か。


 次の大きな課題は重魔スペルビアの背後にいる黒幕か。


『正体が全然分からないよね』


『ヘプたんさんは何か知っている素振りでしたわね?』


『貴様の追う黒幕は知らん……いや、ともすれば全ては繋がっているのかも知れぬが……貴様らに話すつもりはない』


『ええー、匂わせといて。秘密主義かよー』


『ヘプたんさん、情報はしっかりと共有すべきですわよ。誤解や擦れ違いの悲劇ほど哀しく虚しいものもそう在りませんわよ』


 その言葉で俺はクロード爺さんの冷たい手の感触を思い出した。


『……ちっ、『破戒獣』と『原初の勇者』じゃ』


 ヘプたん様は舌打ちしながらも、ぽつりと言葉を洩らした。


『神話ってこと?』


『始まりの勇者は天啓を受けて巨悪たちを討ち滅ぼしたと伝えられていますわね』


『クオンツの時代から、この王国まで伝えられていますわね』


 確かにヒックス君の知識にも僅かばかりの知識がある。

 かつて存在の危機に瀕していた人間を救った存在で、歴代の勇者は全てその再来だとか。


『破戒獣がどうしてそこで出て来るの? 始祖竜も大霊樹も破戒獣もいつの間にか隠れたとされているし、ボクが聞いた原初の勇者の主流の英雄譚にはそれらは出てこないと思うけど」


『もちろん英雄譚も様々な異文がありますし、創造神の御子たちが出て来るのもあっても良い気がしますわ。もちろんテトラさんの言う通りに少数派だとは思いますわね』


『貴様らが口にしたのは歪められた物語じゃ。そうは言っても儂も全ては知らぬし、儂の知る物語が全て真実とも思わん。しかし、この部分だけは譲れん』


 ヘプたん様は一息入れてから、続きを述べた。


『原初の勇者は始祖竜、そして大霊樹を滅ぼした』


 テトラくんちゃんとペンテお嬢様はその言葉にしばし沈黙した。


『それは、いわば親殺しの大罪ではありませんの?』


『むしろ破戒獣を滅ぼすならまだ分かるよ。何故、始祖竜と大霊樹? 生命創造の親じゃないか』


『知らん。まあ、想像の余地はある。なぜ破戒獣が滅ぼされなかったのか。何が原初の勇者に天啓を授けたのか』


『……破戒獣が唆したってことかい?』


『可能性の話じゃ。そして、原初の勇者によって竜の仔と精霊の仔は、破戒獣の子どもに取り込まれていき、やがて人間に成った』


 ……その理屈でいくと、人類は魔物と同じように破戒獣の子だということか。


『竜の仔』、『精霊の仔』というのは、今までのヘプたんの発言を鑑みるに、剛人族と魔人族のことだろうか。


『然り。僅かに生き残った純粋な血脈じゃ。魔人族の最も高貴な血は貴様ら人間によって穢されたがな』


 ……ハーベルのことか。


『……うーん? 破戒獣が重魔スペルビアたちの黒幕というのは流石に飛躍し過ぎじゃない?』


『じゃから、繋がりがあるかもしれんと言っただけじゃろう』


『どこまで関連があるかは分かりませんわね。かつての親殺しの罪を背負って現生人類が存在していると言われれば、確かにそうかもしれませんわ』


『そんな情報に価値ある?』


『……ふん、お主らなんて知らん!』


 そのままヘプたん様の存在が遠かった。


 俺たちを拒絶して奥に引きこもったようだ。


『もうテトラさん、もっとヘプたんさんには配慮して発言するべきですわ。氷を溶かすにも温かい日差しが心地良いでしょう?』


『そういうのはキミと代理人くんに任せるよ。キミも結構正論で人を殴りつけている気がするけど』


 ……話が中断してしまったが、重魔スペルビアたちの黒幕は依然不明だと。

 しかし、重魔スペルビアほどの存在を配下にできるということはやはり強力な存在だろうし、破戒獣そのものかそれに関わる存在であるかもしれないな。


 もしくは王国の中枢にいると言う初代国王とやらもかなり怪しいと思っているが、こちらも確定的な情報はない。


 さて、最後に一番の問題である剣聖のクソ爺だ。


 まあ、どうするも何も、あれと戦わないわけにはいかないから、アルテナとハーベルを喪わない為にも俺は強くならなければいけない。


 ヘプたん様とミア鳥にも力を借りることができた。


 精霊の力を借りて何とか打倒したい。


 精霊たち、頼むぞ。


『うーん……頑張って!』


『……頑張るのですわよ!』


 ……もちろん、頑張るけどさ。


 大丈夫か、これ。


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