7レイノルドの回想
※自死を表現しております。多少の鬱展開ありです。
はぁ、エリザベスに振らっ(心の中でも言いたくないっっ)
意見の保留があってから、動悸が止まらない。
まさかとは思うが、エリザベスに好きな男がいるとかだったら真剣に耐えられない。きっと相手を殺してしまう。
エリザベスの幸せを誰よりも願っているとか言っておきながら、幸せにするのは自分でなければ許せないなんて我ながら情けない・・・。
子供時代を思い出せ。
会えないどころか存在すらもわからなかったあの苦しい日々に比べれば耐えられないことなど何もないだろう。
がんばれレイノルド頑張れ!!私は今までよくやってきた!!私はできる奴だ!!そして今日も、これからも、嫌われていようと私が挫けることは絶対に無い!!
と某アニメの主人公の名台詞をストーカー宣言に変え色々台無しにしながら、麗しのエリザベスの事を思うのであった。
◇◇◇◇
ダンジェル侯爵家の次男として生まれ、何不自由なく育った僕は本来ならばスクスクと成長したと書かれなければならないだろう。
しかし、実際はいつも不安げで鬱々とした陰険な子に育っていた。
理由は誰にも分らなかった。
両親は聡明で優しい人達だったし、兄も僕を可愛い弟として見ようと努力してくれていた。
でも、自分でもわからない『何かが欠けている』気持ちが僕の心に影を落としていたのだ。
「なぜ、目が覚めると、こんなに悲しいの?」
「綺麗なものを見ると誰かに教えてあげたいの。でも、それが誰なのかわからないの?」
幼いながらも自分の意見を何とか伝えられるようになると、他の人もこんな悲しい気持ちを抱えているのかと聞いて回った。
「坊ちゃま、それはきっとお母様が恋しいのだと思います。
貴族の方はお子様と添い寝は致しませんが、坊ちゃまはまだお小さいのですからお母様にお願いなさると宜しいかと存じます。お優しいお母様ですから大丈夫でございますよ。」
そんな風に執事のセバスチャンがいうものだから、母上に一緒に寝たいとお願いしてみた。
母上はなぜか異常に喜んで添い寝してくれた。
しかし朝になり、目覚めた僕の心はいつもと同じ寂しさと後悔で埋め尽くされ、涙が自然に出ているのだ。
6歳になった頃、寒い日だった。
明け方、人の声が聞こえたような気がして目が覚めた。
部屋は光魔法のほのかな明かりの中、周りを見渡しても誰もいない。
でも心臓はギュッと締め付けられ誰かが泣き叫んでいるのが感じられるのだ。
『ライトと拓斗に会いたい、会いたい、会いたいの。誰か私を殺して~~~~。』
魂の叫び、僕の半身。
会いに行かなきゃ、今すぐ助けに行かなきゃ。
僕は裸足のまま部屋を飛び出し庭を抜け、闇雲に走り回った。
どこに行けばいいのか全く分からないけど、声がかれるまで叫んで探した。
「どこ、どこにいるの?僕も会いたい、会いたいよ。
どうしたら会えるの、誰か教えて。誰か助けて!!」
警備の者が異常を知らせ、両親が駆け付けた時には僕は朝日が昇り始めた庭の小山の上で泣きじゃくりながら神に祈りを捧げるように手を組んでいたそうだ。
両親は大変心配して、色々な医者や魔術師に僕を診せた。でも病気なんかじゃない、僕にはわかる。
誰かが僕を呼んでいて僕もあの人を求めているんだ。
あの人が殺してと言っていたから、もしかして僕が死ねば会えるのかなと思って、一度バルコニーから飛び降りてみたけど、腕を折っただけでそれも癒しの魔法で治されてしまった。
家族はますます、僕を心配し24時間監視の者が付くようになり、死ぬことも難しくなってしまった。
でも眠りにつくと、あの人の慟哭が聞こえる、悲しみが溢れてくる。
僕は眠ることも食べることもできなくなり、一日中ベットの中で過ごすようになってしまった。
体力も限界になった時、ベットの中でまどろんでいると、ベットも監視の者もいなくなり部屋が真っ白な空間に変わった。
いるのは白い魔導士の装束を着た老人、とても怖い顔をしている。
「全く、お前達は・・・お互いに会いたい死にたいばかりで、周りが全然見えておらん。
お前をどれだけの人が心配していると思っているのだ。
転生した時点で前の人生とは決別するのがルールなんじゃぞ。
それを人智を超えた力で無理やり繋がりおって・・・彼女が余計に苦しむのがわからんのか。」
「あの人を知っているんですか?僕はあの人を助けたいんです。守りたいんです。何でもします、教えてください。」
ここがどこか、彼が何者だろうが関係ない。藁にもすがる気持ちで訴えた。
「わかっておる。前世の記憶を戻す手伝いをしてやろう。
記憶が戻れば魔力も以前の力を取り戻すじゃろうて。
そして、彼女が転生できるようになるまでお前は彼女を励まし続けるんじゃ。
今、彼女は絶望の中にいる。一瞬でもお前との絆を感じられれば慰めにはなるじゃろう。
彼女が生まれ変わる時はお前と同じ世界に転生させてやろう。
お前達ならきっと出会える、その時を待つんじゃ。
ただな、お前は新しい人生を歩んでいるのだ。いつまでも前世にとらわれ続けてはならん。
今の人生を大切にし、彼女を迎えられるような器量の男を目指さなければ彼女を守ることも助けることも出来ないぞ。
いままで、全てをないがしろにしてきたお前にできるか?」
「誓います。いつかあの人に会えるまで、お爺さんの言葉を必ず守ります。彼女を守れるような強い男になります。」
「フフフ、男と男の約束じゃな」
気分の良い目覚めだった。
何をするべきか解っているというのは、こんなにも燃えるようなやる気が出るものなのか。
まずは、体力を取り戻すこと。
朝食を頼むと、ポリッジ(オートミールのミルク粥)が出された。全然足りない・・・
完食して、次は肉と卵が食べたいとリクエストする。
メイドは目を丸くしてちょっと泣いていた。
まずは庭を歩くこと、次は走ること。
体力がついてくると、家庭教師に何人か来てもらうことにした。
魔力が急に高くなったので魔導士の先生もお願いする。
どうやらこの世界は僕が皇太子だった頃の世界より魔導士の力が弱いらしく、
剣士の方が地位や戦闘力が高いとみなされているらしい。
なので、本当は剣技も学びたいのだが、それはもう少し体力がついてからだ。
あれからも、定期的に胸がギュッと締め付けられる感覚がやってきたり、舞花の声が聞こえてきた。
魔女の呪いが発動されて苦しんでいるのだろう。
そんな時は心の中で『いつか必ず会えるから、必ず見つけるからね。』と強く思うようにした。
そうするとフッと安心したような気がして胸の痛みも無くなるのだった。
1年がたち、次の行動を起こすべきだと決断した僕は父にお願い事をした。
「父上、お願いがございます。やりたいことがあるのです。ダンジェル家の力をお借りする事をお許し下さい。」
「ほう、初めてのおねだりだな。」
「理由も言わずに厚かましい事とは重々承知しております。僕はまだ何もできない子供ですが、これから必ずやダンジェル家の繁栄にご協力できるよう精進いたします。
ですから、お父上の周りに定期的に現れる不審な者と、執事のセバスチャンに指示を出す権限を頂きたいのです。」
「ふふふ、気付いておったか。不審な者とは恐れ入った。
奴らはな、代々ダンジェル家の影の部分を支えてくれた武者どもで、当主にのみ言うことを聞くのじゃ。
お前の兄とて存在は知らされておらん。
さて、どうしたものかな・・・
一年前まで生ける屍であったお前がこうも変わるとは、何があったのか気になるところだが・・・
言う気はないようだな。
まったく誰に似たんだか。だが可愛いお前の頼みを無視するわけにもいかん。
どうだ、私の頼みを一つ聞いてくれるなら、セバスチャンを自由に使う権限をやろう。
武者達はプライドがあるから、お前では扱えん。今はまだな。」
「僕にできる事でしたら、なんでもいたします。」
「ダンジェル家の人間が軽々しく何でもするなどど言ってはならんぞ。
国をも滅ぼす決断になるやもしれないからな。」
怖い顔で叱られてしまった。しかし、こんなことは何てことない
「申し訳ございません、父上。」
平然とした顔で謝罪すれば、
「ふふふははははは、一年前までは吹けば飛びそうだったお前がすっかり男の顔だな。
叱れることがこれほど嬉しいとはなぁ~。
さて、頼み事だがな。是非この喜びをお前の母にも味合わせてやれ。」
「はいっ?」
「お前の母はな、愛情深い子煩悩な女なのだ。
それをお前は、心配だけはかけるのに頼ることも甘える事もしないで来ただろう。
今のお前なら、上手くやれるのではないのか?」
「はぁ。わかりました、母上に会ってきます。」
父上は頷くと暖かい笑みを返してくれた。
久しぶりに母上の部屋を訪ねるのはなんだか緊張する。
子供らしく、花束を作って渡すことにした。
庭師に手伝いを頼むと大層喜ばれて、大事にしていた貴重な百合まで切らせてくれた。
綺麗な赤いリボンが可愛いと思う。
先触れは出してあるが、会った後なんて言おうか。
母上の部屋のドアをノックしようとした途端、内側からドアが開き、母が出迎えてくれた。
「いらっしゃい、レイ君。ゆっくりお話ししましょう!!」
手放しで歓迎してくれる母上に花束を渡す。
「庭師と作りました。お母様が百合がお好きとお聞きしたんですけど。」
「レイ君が作ったの?まぁぁぁぁ なんて綺麗なのかしら。・・・ありがとう・・・。」
目にうっすら涙を浮かべて喜ぶ母上。
部屋を見渡せば兄上と僕の肖像画が飾られている。
丸いテーブルには沢山のお菓子が並んでいる
「僕の好きなものばかりだ・・・なぜ?」
「レイ君はなんでも食べるようになったと料理長が喜んでいたわ。
食べている時の様子で、好きだろうと思うお菓子を私と料理長が相談して用意したの。
ふふふ、楽しかったわ。」
食べ物なんて身体を大きくなるためのもの、なんでも食べるし残さないようにしていた。
好き嫌いなんて態度に出したつもりはないけど、よく見ているな・・・
父上の言うとおりだ、母上はこんなに僕の事を愛そうとしてくれているのに僕はまったく見ていなかった・・・
「母上のお好きな食べ物は何ですか?今度は僕のお部屋でもお茶会したいです。」
母上の為に椅子を引きながら、ニッコリ笑う。
僕はこの時初めて、今の人生も幸せなんだと感じたのだった。