グリフォン
土曜日の午後。
そろそろかな、と思いながらラディはフィールドへ向かう廊下を歩いていた。何もなければ自主練習をするだけだし、ジェイがどこかで現れれば家に帰ってカロックへ向かうだけだ。
「よっ、ラディ」
「わっ」
そろそろとは思っていたが、いきなり真横から声をかけられてラディは驚いた。
廊下の壁からジェイが生えるように現れている。いつもはあるはずのない扉があり、扉をノックするとそこからジェイが現れるのだが……。
「え……あれ? あ、ちゃんと扉があるのか」
壁から生えてるように見えたが、ちゃんといつものように扉がある。ただ、廊下の白い壁とほぼ同化したような色の扉で、意識して見れば扉の形に線が入っているのがわかった。ジェイはいつものように、ちゃんと扉から現れているのだ。
「素通りしそうだったからさ」
確かに、ラディは完全に素通りしかけていた。いつもなら「あれ?」と違和感を覚えて立ち止まり、扉を見付ける。その扉をノックし、ジェイが現れるというのがいつものパターン。
でも、今日は扉の存在を気付けなかった。
「ジェイ、壁とほとんど同化してるぞ。前回も白かったけど、もう白と言ってもいい色になってる。今みたいな感じでレリーナに声をかけたら、悲鳴をあげないかな」
「あ、平気だって。レリーナの方はもう少し違う色の所に出たみたいだから」
ジェイがどういうタイミングで扉を出しているのかわからないが、どうにでもなるらしい。異世界の竜の魔法はラディ達の魔法よりずっと便利に思える。
「で、いいか?」
「もちろん。家の方に頼むよ。すぐに帰るから」
「おう、わかった」
そう返事して、ジェイは姿を消した。同時に壁に出ていた扉を思わせる線も消える。
今と最初の頃じゃ、ジェイの色が対照的だな。
帰り道を急ぎながら、ラディはこれまでのことを思い出す。
出会った頃のジェイは黒だか焦げ茶だかわからないような色をしていた。それがカロックへ行く回数を重ねる毎に、色が変わっている。色が抜けている、とでも言うのだろうか。茶色が薄くなってきたな、と思っているうちに色はさらになくなり、今ではほぼ白。
試練が終わる頃にはどんな色になるんだろう。白ってことは、雪か氷、もしくは風が得意なのかな。でも、今までジェイの魔法を見てる限り、どれが得意でどれが苦手なんてのはなかった気がする。竜には得手不得手なんてものはないのかな。まぁ、どうなるか楽しみにしておこう。
そんなことを考えているうちに、ラディは自宅近くまで戻って来た。
「……ん?」
自分の進行方向に人影がある。住宅街なのだし、人がいるのは別に妙なことではない。だが、やけに目立つ。何がそんなに目を引くのだろうと思ったら、その金色の髪だ。光が当たっているせいもあるだろうが、その髪そのものが遠目からでも美しいと感じる。長く、少し波打った金の髪。
長身の男性。少しくらい離れていても美形だとわかる顔。
その姿に、ラディは見覚えがあった。あちらもラディに気付いてこちらに向かって来る。
「カイザック?」
気付いた瞬間からわかったが、目の前に来るまで幻でも見てるのかと思った。
しかし、ラディの前にいるのはカイザック。ラディと契約を交わした金のグリフォンだ。
「な、何でここに……」
「いけなかったか?」
女性であれば、きっと聞き惚れる美声。男のラディだって、いい声だと感じる。
「いや、いけなくはないけど」
普通、契約した魔獣は術者である魔法使いが呼び出さなければ現れない。それは、主と従者の関係となる契約で、主が呼ぶまで従者はよそに控えているのと同じだ。
ラディは、光文字の契約をカイザックと交わした。それはいわば、仲間になるのと近い。友達関係のような契約なので、魔獣がこの関係に飽きれば簡単に破棄できる。一応「契約」なので魔法使いが明確に呼び出せば現れるが、それ以外の時間でも自由に行き来できるのだ。友達が遊びに来るような感覚である。
そんな縛りのゆるい契約だから、カイザックがこうして現れてもおかしくない。実際、カイザックは以前にもこうして突然ラディの前に現れたことがある。
「また話が聞ければと思ってな。ロネールよりこちらの方がいいかと。この周辺なら魔法使いはあまり……いや、ほとんどいないようだが、数が少ないから騒がれることもないだろう」
ロネールで現れた時も、今のような姿だった。魔力が強い魔獣は、人の姿になれる。人の姿になった時、魔力が強い程美しい姿になるのだ。強い魔力を有するグリフォンのカイザックがこうして人の姿になれば、当然のように誰もが見惚れてしまうような美形になる。
そうなれば、周りが騒いでしまうのも、これまた当然。特に女子の見習い魔法使い達が大騒ぎだった。
カイザックは人間が多くなければ、あのような状態にはならないだろうと考えたらしい。実際、騒ぎにはなっていない。昼食が終わるか終わらないかくらいの時間帯ということもあり、道行く人の数はそんなに多くなかった。
だが、カイザックを見た人は、その姿に二度見三度見していく。その美しさは人を振り返らさずにはいられないようだ。
「えっとさ、俺、今からカロックに行くんだ」
「そうだったか」
カイザックには数回、カロックの話をしている。カイザックと契約できたのは、カロックのおかげと言ってもいい。この言い方で十分に通じる。
だが、ちょっとタイミングが悪かった。せっかくカイザックの方から訪ねて来てくれたのに、ゆっくり話ができない。
ラディは申し訳なく思ったが、カロックで何時間過ごしてもこちらの世界では大した時間は経たないから、帰って来るまで待ってもらうのも手だ。居眠りする時間もないだろう。
「帰るまで俺の部屋で……」
言い掛けてラディの言葉が止まる。
「どうした? 多少待つくらい、俺は構わないが」
「うん、そんなに待たせることはないと思うんだけど……」
ラディは頭によぎったことをカイザックに言ってみた。
「ジェイがいいって言ったら、カイザックもカロックに行ってみる?」
その言葉にはカイザックもさすがに驚いたらしい。知的そうな黒い目を丸くしている。
「それは……確かに俺も異世界には興味があるが、行っていいものなのか?」
「俺にもわからないけどさ。今まで三人の飛び入りがあったから」
「お前の姉とロネールの魔法使いだったな。しかし、それは全て人間だろう。俺は魔獣だぞ」
「うん。だから、ジェイに聞いてからだよ。魔獣はちょっとって言われたら、俺の部屋で待っててくれればいいし。話で聞くより、自分で見た方がよくわかるだろ」
ラディはそう言って、カイザックを自宅へ招き入れる。母のセリーンにはただいまとだけ言って、自室に入った。
「人間の家なんて、魔獣には狭いだろうけどさ。あ、これがカロックへの扉」
部屋の壁の一部に、さっきの白い扉が現れていた。これだけ見ると、かなりの違和感。
「ちょっと待ってて。ジェイに聞いてみるよ」
ラディはいつものように扉を開き、足を踏み入れた。扉の向こうは、いつものようにムーツの丘だ。少し歩いた所に扉と同じ色のジェイがふわふわと浮いている。
「おーい、ジェイ」
ラディは片足を部屋に残したまま、ジェイを呼んだ。
普通に入って扉が閉じてしまったら、その扉はかけらを見付けて帰る段にならなければもう現れない。カイザックを置いてきぼりにすることになるのだ。いつもは全く気にしてなかったが、扉が勝手に閉まるのか、閉まらなくてもラディがカロックに入った時点で消えるのかわからないので、ラディは完全にカロックには入りきらない状態でジェイを呼んだのである。
「ん? 何してんだ、ラディ」
「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」
「そういう中途半端な格好で、何を聞きたいんだよ」
言いながら、ジェイはこちらへ近付いて来た。
「俺の部屋にカイザックっていうグリフォンがいるんだ。何度かカロックの話をしていて、今日もその話が聞きたいって来てくれたんだけどさ。ちょうど今来たところだから、一緒に行けないかなって。ブラッシュやターシャと違って、魔獣だけど……そんな飛び入りはありかな」
「へ-、面白い。いいぞ、連れて来いっ。大歓迎!」
ブラッシュ達の時と違って魔獣だからどうかな……というラディの不安は見事なまでに杞憂だった。その口ではっきり言ったが、ジェイは完全に面白がっている。大竜の試練は本当にこんなことでいいのだろうか、と受けてる当事者でないラディの方が心配になってきた。
「おかしなことは起きないか? ブラッシュ達みたいに少し力が落ちるとか」
「んー、どうかな。よその世界の魔獣がカロックに来るなんて、オレも聞いたことがないからなー。でも、全く何もできなくなるってもんでもないだろ」
いつものことだが、ジェイの言い方だと一抹の不安が生まれる。でも、基本的に魔獣は魔力が強いのだから、完全になくなってどうこう、ということはない……だろう。
「カイザック、ジェイがいいって言ってくれてる。もしかしたら、いつもとは魔法の使い勝手が違うようになるかも知れないけど、それでよければ」
ラディが部屋の方を振り返り、カイザックにジェイの許可が下りたことを伝える。
「ああ、多少のことは構わない。せっかくの機会だ。よその世界と行き来する魔獣も珍しいだろうからな」
そこそこに好奇心のある魔獣であれば、こんなチャンスを逃すことはないだろう。
ラディが先に扉を通り、万が一にも消えないようにその扉を押さえてカイザックを通す。
「カイザックって言った? カロックへようこそ~」
異世界の魔獣相手でも、やはりジェイの対応は軽い。ここまでブレないというのは、やはりすごいのだろうか。
「ジェイか。話はラディから聞いている」
「そっか。じゃ、やることは知ってるよな」
「小さなかけらを捜すのだろう? その途中で色々な魔物が出て来るそうだな」
「まぁね」
「ここがムーツの丘と言う場所か。なるほど、ラディが言う通り、ラウザーの丘によく似ている」
「そうだろ。丘って名前が付いてる場所なら、みんな似たようなものかも知れないけど」
カロックの話を聞くため、カイザックがラディやレリーナを連れて行ったのがラウザーの丘。二人はそこがカロックで最初に訪れるムーツの丘に似ている、と話していたのだ。カイザックも来てみて納得だ。
そんな話をしている間に、レリーナも現れた。
「え……誰?」
ラディの横に見慣れない金髪の男性を見付け、首を傾げる。レリーナはカイザックと一度会ったことはあるが、その時はグリフォンの姿。人間の姿でロネールに現れたことがあるが、レリーナはその場にいなかったので見たことがないのだ。
「レリーナも来たか。本当にそれぞれで来るのだな」
「その声……もしかして、カイザックなの?」
「そうだ」
目がこぼれ落ちるんじゃないかと思うくらい、レリーナは目を丸くしている。ラディが事情を説明した。
「はぁ……そういうのもありなのね。ジェイに聞いたら、何でもありって感じだわ」
「そっかな。ん~……そうかも。それはダメだな~っての、思い付かないもんな」
禁止だらけも堅苦しくて困るが、緩すぎてもちょっと心配になる。だが、飛び入り参加が認められるのはありがたい。
「そう言えば、カロックでラディがカイザックを呼び出すのは難しい、みたいな話をしたことなかったかしら」
ターシャが飛び入りした時だ。魔獣を召喚する、という時にターシャが契約した魔獣を呼ばないのかと尋ね、道を作るのが難しいからきっといやがられる、とジェイが答えたことがある。
「カイザック、こっちに来て平気なの?」
「空気が違うのは感じられるが、特に問題はない」
「あれはラディが呼び出したらって話だったろ。今回はオレが作った道を人間と一緒に通ってるからな。呼び出したのとは別の話だから、何ともないんだ」
見習い魔法使いが作る道と、試練の最中とは言え、竜が作る道では全くの別物なのだ。
「問題がないなら、よかったわ。あたし、人間の姿になったカイザックを初めて見るけど、ステキね。以前、フィーアのお父さん……あ、炎馬が人間になった姿を見たけど、彼もステキだったわ。魔力が高いと美しい姿になるって、本当なのね」
「光栄だ。レリーナは……それにラディも、普段からそういう調子なのか?」
「俺も? そういう調子って……」
ラディとレリーナは不思議そうに顔を見合わせる。自分達の調子がどうだと言うのだろう。
「えらく魔獣のことをほめるところだ。俺のことに限らず、カロックで出会った魔獣について話していた時も、きれいだの毛並みが素晴らしいだのといった言葉が並んでいたな」
「え……だって、きれいなんだもん」
一言で終わった。
「ラディとレリーナはいつもこんな感じだぞ。レリーナはいっつも魔獣にみとれてるし、ラディは初対面の魔獣が来ても全然恐がらないし」
「なるほど。理解した。二人はそういう性質だということだな」
「性質って言われると妙な気分なんだけど……」
ラディが苦笑する。早い話、どちらも魔獣好きだということだろう。
「ねぇ、今日はここにカイザックが来てるなら、目的地まではカイザックが連れて行ってくれるの?」
「ん? あ、そうだな。それもありか。グリフォンならラディとレリーナを乗せても余裕だろ」
「俺達、カイザックに乗せてもらったことがあるから、その点では問題ないよ。あとはカイザック次第だけど」
「俺は構わない。行く先を示してくれさえすれば」
カイザックは当然、カロックの地理はわからない。だが、その翼を動かすことさえできれば、どこにでも移動は可能だ。
「そんなのはオレがちゃんと言うからさ。それじゃ、今日はカイザックに連れてってもらおう」
話がまとまる。ラディとレリーナ、そしてジェイはグリフォンの姿が現れるのを待った。
「……」
しかし、いつまで経ってもカイザックは人間の姿のままだ。
「カイザック?」
「戻れない」
「え?」
「元の姿に戻れないんだ。力が空回りしているような」
「あちゃー、そっちに出ちゃったか」
ジェイが残念そうな声を出し、みんながジェイを見る。
「この世界に来ても、何の縛りも受けないのは見習い魔法使いだけなんだ。他の奴は何かがうまくいかなくなる。魔法使いだと力が弱くなる、みたいな感じで。魔獣はどうなるかオレもわからなかったけど、姿を変えられなくなるってところに縛りがきたみたいだ。元の姿で来ていれば、別の部分に縛りがきたと思うけど」
正規の魔法使いであるブラッシュやターシャは、カロックに来ると魔力のレベルが若干落ちた。カロックの空気がそうさせるようだ。
竜をはじめとするカロックの生物は、異世界の人間が魔法使い認定試験に合格してるか否かの判断はもちろんできない。ジェイも詳しくは知らないようだが、本人が自分は一人前だと本気で思い込んでる見習いだと、レベルが落ちるらしいのだ。つまり、本人の自覚の問題である。
少なくとも、ラディ達の世界では魔法使い協会が正規か見習いかを判定しているので、どんなにあがいても自分がどちらであるかは頭の隅にある。だから、本人の自覚うんぬんで左右されることはない。
魔獣の場合はジェイも初体験なので、何もできなくなることはないだろう、程度のことしか言えなかった。それに、本当に何もできなくなるとは思わなかったのだ。
実際のところ、カイザックは他の魔法については特に問題はないらしい。だが、肝心の姿を変える魔法だけがうまくいかないのだ。
「すまない。どうやら俺が連れて行くことはできないようだ」
「謝らなくていいよ、カイザック。俺もまさかそうくるとは思ってなかったし、カロックへ来るのが俺の部屋からじゃなかったら、グリフォンの姿で来てたかも、だろ?」
どうしてもカイザックに乗り、カロックを飛び回ってほしかった訳じゃない。今回は魔法の縛りが都合の悪い部分に出ただけだ。
「じゃあ、やっぱり召喚が必要なのね」
「いつものパターンに戻っただけだよ。カイザックは相性のよくない魔獣っている?」
「相性?」
「せっかくカロックへ来たのに、ここでじっとしてるのはもったいないだろ。俺がここで魔獣を召喚して、カイザックも乗せてもらえば、一緒にカロックを見て回れるじゃないか」
「俺が魔獣に……乗る?」
カイザックは呆然として、ラディの言葉を繰り返した。
「そっか。今は人間の姿だもん、乗れるでしょ」
「そうだよなー。半日か、一日か。ずっと待ってるなんて、つまらないだろ。それに他の魔法が大してレベルダウンしてないなら、同行して魔物を退ける協力をしてもらった方が、かけら捜しもスムーズにいくしさ」
ジェイ曰く、趣味と実用を兼ねる、という訳だ。
カイザックの頭には、自分が魔獣に乗る、という選択肢などなかったが、確かにずっとここにいても面白くない。わざわざ異世界に来た意味がないというものだ。
「特に相性の悪い魔獣はいない。少なくとも、俺はそう感じているが……あとは相手次第だ」
グリフォンは非常に珍しい種族であり、魔力も高い。珍しい、という部分はともかくとして、魔力の高い魔獣を警戒する魔獣もいるだろう。こちらは何ともなくても、相手は何かと考える部分があるかも知れない。
「んじゃさ、同族は? ラディ、前にここでもグリフォンを呼んだことがあるだろ」
「ああ。えっと……バルディだよな。カイザック、どうかな」
「異存はない」
割と初期の頃、ラディは白銀に輝くグリフォンのバルディを呼び出したことがある。彼とは別れ際、また機会があれば頼むと言い、その時暇ならと返された。グリフォンが仕事で忙しい、とは思えないが、とにかく呼べば来てくれるだろう。
スムーズに話が決まり、ラディはバルディを呼び出すべく、呪文を唱えた。わずかな時間の後、近くで小さな竜巻が起きる。その風がおさまった時、見覚えのあるグリフォンの姿があった。
「久しい顔ぶれだな」
深い青の瞳が、術者のラディを見た。レリーナを見て、ジェイを見る。最後にその視線はカイザックに止まった。
「見覚えのない顔もあるな。……魔法使いですらないようだが」
見ただけで人間ではないところまでわかるのは、さすがにレベルの高い魔獣である。
「ああ。このなりだが、同族だ」
「同族? グリフォンが人間の姿でいるのか」
「うん、今回はちょっと訳ありなんだ」
ラディはカイザックとともにカロックへ来たことと、それによる魔法の縛りの話をした。
「……ということなんだ。バルディ、前回と同じく、大竜の試練の協力者である俺達に力を貸してほしい。カイザックも含めて、カロックの移動と魔物が現れた時の排除に協力してほしいんだ」
「……」
ラディの協力要請に、バルディはすぐに返事をしない。
「カイザックにとっても珍しい体験だけどさ、バルディもすんげー珍しい体験にならないか? 魔獣を乗せてカロックを飛び回ったことなんて、これまでないだろ。しかも、カロックじゃない世界から来た魔獣だぞ。二重三重にそうそうありえない状況なんだ、話のネタには当分困らないんじゃない?」
「これがジェイ流の依頼か」
横で聞いていたカイザックがつぶやく。ラディ達から、軽い頼み方をするとは聞いていたが、本当に軽い。顔見知りであっても気を許した友ではないのに、ジェイの言い方はくだらないことをそそのかす悪友のようだ。
「ジェイは前も、話のネタ、と言っていたな」
「え、そうだっけ? でも、ネタになるのは合ってるだろ。たぶん、こんなことできるの、バルディだけだぞ」
「わかった、わかった。話のネタだな」
そんなに食い下がった訳ではないが、バルディの口調はどこか根負けしたかのようにも聞こえる。
「私がここで断って帰ったとしても、別の魔獣を呼んで同じことを言うのだろう。だったら、その話のネタは私がもらおう。大竜の試練に何度も関わる魔獣はそう多くないだろうからな」
もし自分がカロックに棲んでいて、このように魔法使いに呼び出されたなら。そのそばにジェイのような大竜がいれば、きっと自分も丸め込まれるのだろう。
同族の様子を見ていて、カイザックはそんなことを考えるのだった。





