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異世界マップ  作者: 碧衣 奈美
第十八話 相性

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強くなりたい

 図書館へ向かって歩いていたレリーナは、聞き覚えのある声に呼び止められた。振り返ると思った通り、ターシャが手を振っている。

「あ、こんにちは、ターシャ」

 レリーナはそちらへと軽く駆けて行く。

「こんにちは。ね、レリーナ。今から少し時間はある?」

「はい。ターシャはお仕事の方、いいんですか?」

「ええ。息抜きに出て来たの。そうしたら、うまい具合にレリーナを見付けたから。また話を聞かせてもらえたらと思って」

 魔法使い協会ロネール。魔法使い育成と、仕事の斡旋をする所だ。レリーナは修学部に、ターシャは職務部に所属している。

 数多いる魔法使いの中でも、ターシャはトップレベルにあって「氷のターシャ」という異名まで付いている女性だ。そんな彼女と図書館で同席したことをきっかけに、レリーナは親しくしてもらっている。

 二人がさらに親しくなったのは、異世界カロックへ行ってからだ。

 カロックの大竜ジェイが受けている、巣立ちのための試練。その協力者としてレリーナは幼馴染みでつい最近恋人になったラディとともに、その異世界へ週一のペースで呼ばれている。

 そのジェイに呼ばれているところをターシャに見られ、話をしたところで信じてもらえないだろうからと一緒にカロックへ連れて行った。自分の目で見れば、ターシャも異世界の存在を信じない訳にはいかない。

 自分の世界へ戻って来ると、ターシャはレリーナからそれまでの話を聞いた。だが、レリーナは何度もカロックに行っているため、多少の時間では話し切れない。

 今はちょうど時間ができたところにレリーナを見付けたので、ターシャはまたカロックの話を聞かせてほしいと言っているのだ。

 単に話をするだけでは、異世界の話など夢物語にされてしまう。だから、他の人にはカロックのことを話せない。

 しかし、一緒に行った人なら当然信じてくれる。そうそう体験できるものではない話なのでターシャは興味があるし、普段他の人に話せない分、話し手となるレリーナも聞いてもらえるのが嬉しいのだ。

 こうしてターシャに時間はいいかと言われ、レリーナが断るはずがなかった。

「食堂の方に行きましょうか」

「え……でも、人がたくさんいたらマズくないですか?」

 食堂は当然食事をする場所だが、時間外はカフェ状態になる。魔法使いも見習いもいるから、カロックの話を聞かれたら妙な顔をされないだろうか。

「気にすることないわよ。ああいうたくさん人がいる所の方が、案外他人の話なんて聞いてないんだから。それに、話の内容って異世界っていう部分を除けば魔物や魔獣についてでしょ。魔法使いが話しても全然変じゃないわ」

 ターシャに言われ、レリーナもそれはそうかと思い直す。異世界、という単語さえ出さなければ、誰に聞かれても妙に思われる場所ではないのだ。街中のカフェに行くより余程安心して話せるというもの。

 そうと決まって、二人は食堂へ向かう。職務部の魔法使いは仕事の話もできる談話室があるのでそこでお茶を飲む人もいるが、食堂の方が品数があるのでこちらへ来る人も多い。

 今も見習い・正規に関わらず、ティータイムを楽しんでいる人達がいる。

 レリーナとターシャはそれぞれ注文したジュースを持つと、空いていた窓際の席に座った。私が誘ったから、とジュースはターシャのおごりだ。

「十日程前だったかしら。ラディと会ったの。そんなに話はできなかったんだけど、彼とうまくいってるみたいじゃない?」

 いきなりそう切り出され、レリーナは目を丸くした。

「ラディが……言ったんですか?」

「んー、言わせたって方が正しいかしら。今のレリーナみたいにね」

「え……今のって」

「うまくいってるかって言っても、それってカロックでうまくやってるかって意味に取ることもできるでしょ? でも、二人ともそっちの方には考えてないみたいね」

「あ……」

 カマをかけられて、あっさり引っ掛かった。ラディもそうだったが、レリーナも二人の関係がうまくいってるのかと聞かれたように考えてしまったのだ。

「レリーナと話をするのが楽しみだって言ったら、何を聞く気ですかってラディが焦ってたわ」

 その時のことを思い出し、ターシャはくすくす笑う。

「えっと……カロック程には面白い話なんてないです、けど……」

 赤くなりながら、レリーナは口ごもる。

「気持ちは通じ合ったんでしょ?」

「え……ええ」

 レリーナが尋ね、ラディはレリーナを好きだと答えてくれた。お互いの気持ちが通じたから、幼馴染みから恋人になれたのだ。

 頷いたものの、面と向かって言われると無性に照れ臭い。でも、ターシャはまだラディと恋人になってなかった頃からレリーナの気持ちには気付いていたようなので、今更隠す必要もない。

「よかったわね。カロックでのラディを見た限り、レリーナは絶対大切にされるわ」

「……はい」

 自分でも大切にされてるという自覚はあるが、第三者からそう言われると嬉しい。

「それで、あれからどんな所に行ったの?」

「えっとですね……」

 レリーナはカロックでの話をターシャに聞かせる。

 以前ラディが呼び出した翼のある猫シュマをレリーナ自身が召喚したことや、カロックでよその見習い魔法使いと会ったこと、ラディの祖父ヴィグランが呼び出した魔獣を呼び出してわずかながら昔の話を聞いたことなど。

 あれもこれもと、言いたいことはたくさんあるが、時間がなさすぎる。レリーナはとりあえず省略しながら話したが、これでは全然足りない。

 おじいちゃんが何度も話してくれたけど、きっとおじいちゃんも話したいことがたくさんありすぎて困ってたんだろうな。

 話しながら、レリーナはヴィグランにカロックのことを聞かせてもらった頃を思い出していた。

「あ、そうだ。この前、ラディにも見てもらったんですけど」

 言いながら、レリーナはカバンの中からノートを出した。これまでカロックで出会った魔獣がスケッチされているノートだ。ラディにもうまく描けてるとほめてもらった。

 見せられたターシャも、その画力に感嘆する。

「まぁ……上手ね、レリーナ。あ、これってデアゼルトね」

 ターシャがカロックへ行った時、ラディが呼び出した麒麟の絵もあった。ターシャもその魔獣を見ているので、この絵に関してははっきりと上手下手がわかる。

 そして、その絵は確かにターシャの記憶にある通りの魔獣が描かれていた。それなら、他の絵も特徴をとらえて描かれていることになる。こんな絵があれば、ただ話を聞いているよりずっと想像がふくらむというものだ。

「あら、グリフォンね。これはラディが契約した魔獣?」

 ラディが召喚の授業でグリフォンを呼び出し、さらには契約もした、という話は職務部でも持ちきりだった。その魔獣の姿がノートに描かれている。

「あ、それはカロックのグリフォンで、バルディです。ラディが契約したのはカイザックで……このグリフォンです」

 少しページをめくり、レリーナは別のページにあったグリフォンの絵を指した。

「ラディがカイザックと契約した時のこと、聞きました?」

「いいえ。何か面白いエピソードでもあるの?」

「ラディってば、カイザックが現れた時、大竜のって言い掛けたらしいんです。今は関係ないんだって慌てて訂正したんだけど、カイザックはラディが竜と何か関わっているのかって興味を持ったみたいで。話を聞いて、契約してもいいって思ったそうです」

「まぁ、そんなところでカロックが関わってたのね」

 この話は同じくカロックに行ったことのあるブラッシュにしか話せない。彼もこの話を聞けば驚き、それから笑い出すだろう。

「この前、あたしもカイザックに会わせてもらって。それから少し遠出して、カロックの話を二人でカイザックに聞いてもらったんです。彼も聞きたがってたし」

「そう。ずいぶん人間に心を開いたグリフォンなのね。本当は彼らがそういった性質なのか、ラディがそうさせるのか。そもそも彼らは人前にはあまり現れないから、やっぱりラディの才能かしらね」

 グリフォンは竜と近いレベルで珍しい魔獣とされている。人前に現れず、現れても警戒するのだという。

 少なくともターシャはそう聞いていたが、ラディは見事にそんな定説を覆している。

「ジェイも言ってました。ラディは召喚の才能があるって。カロックで現れた魔獣は強くて、でも協力的で。ラディのお姉さんのテルラと一緒に行った時、ロック鳥が来てくれたんですけど、あたし達が危ない時に自分から助けに来てくれたんです」

 魔獣と契約しても、もしその関係に不満があれば魔獣は最小限の協力しかしてくれない。ひどい場合、呼び出されてもほとんど協力せず、魔法使いが魔物に殺されるように仕向けることもある。

 極端な例ではあるが、過去にそういった話が実際にあったのだ。

 しかし、ラディの話は対照的。やはりそれは才能なのだろう。

「うらやましいわ。私が契約してる子とはいい関係だと思ってるけど、カロックでの場合、呼び出しただけで契約じゃないでしょ。言ってみれば、その場の口約束みたいなものなのに、ちゃんと守ってくれるなんてね」

 ターシャの場合、仕事でよく呼び出す魔獣とはちゃんと契約を交わしている。何度も顔を合わせているから、それなりに信頼関係はできているだろう。

 だが、ラディの場合は例外を除いて初対面だ。信頼関係を築く時間もない。それなのに守ろうとしてくれるのは、そばに大竜がいるから……ではないだろう。

「はい。呼び出したのはラディだけど、みんなはあたしのこともちゃんと守ってくれるんです。もちろん、協力を要請する時にあたしも込みなんですけど、優先順位ならあたしは最後のはずだし」

 ラディが呼び出した魔獣にいつも言うのは、カロックでの移動と魔物が現れた時の排除を一緒にしてくれ、というもの。言葉にして「守ってくれ」とは言ってないのだ。

 それでも、魔獣達は何かあればレリーナを守ってくれる。彼女が弱いとわかっているからか。しかし、自然界では弱い者は淘汰されても文句は言えない。もしレリーナに何かあっても、あいつが弱いのが悪い、と言われてしまえばそれまで。

 それなのに守ってくれるのは、ラディが呼び出した魔獣達が本当に協力的だということ。結果的に、そういう魔獣ばかりを呼び出すラディにある種の才能がある、ということになるのだろう。

「ラディも魔獣達も、あたしを守ってくれるんですよね……。ターシャ、あたし……」

「どうしたの?」

「魔獣は人間より強いからいいとして、あたし、ラディには迷惑かけたくないんです。今まで何度もラディを心配させてしまって。カロックに行く回数は残りわずかだと思うけど、もう心配や迷惑をかけたくない。どうしたらいいですか?」

 ターシャと一緒に行った時も、雪が積もってわからなくなっていたせいで、地面のない所に足を踏み入れて崖下に落ちてしまった。幸い、雪の上をすべる形で落ちたからケガもなく、ラディが持たせてくれた水晶で連絡を取り合って合流できたが、無事な顔を見るまでは当然心配させている。

 それ以外でも、近いことは何度もあった。ラディも死にかけたことがあるのでレリーナも心配させられたが、回数が違う。

 思い返すと、ひどく申し訳ない気がするのだ。

 下のクラスだから。魔力が弱いから。

 それは単なる言い訳にしかならない。カロックに向かっているのは「見習い魔法使いの二人」であり、ジェイにとってはラディもレリーナも同じ「協力者」という立場の存在だ。

「レリーナ、深く考えることはないわ」

 ターシャはあっさり言う。

「でも……」

「私と一緒だった時は、不可抗力だったでしょ。襲われる訳ではなくても、魔物の団体が迫れば足元にゆっくり注意していられないもの。状況が違っても、そういう場合がほとんどなんじゃない?」

 確かに、魔物や環境に恐がっている時は別として、明らかにレリーナがしくじったがためにラディに心配させた訳じゃない。

「それに、何とかしたいって言っても、すぐに力がつく訳じゃないでしょ」

 言われる通りだ。どんなに自主練習したところで、出せる炎がすぐに二倍三倍となる訳でもない。積み重ねが大事なのだ。

「だけど……深く考えても仕方なくても、あたしなりに何とかしたいんです」

「うん、わかるわよ。だから、強いて言うなら防御を強化すればいいと思うわ」

「防御?」

「余程の才能でもない限り、一足飛びに強くはなれない。だから、欲張ってはダメ。一つに絞るの。レリーナの場合、防御を強くするのよ。魔物に囲まれてもしっかり結界を張ったり壁を出すことができれば、そうそう傷付けられることはなくなる。そうなれば、ラディも心配しなくて……するなと言ってもするでしょうけど、気を取られてしまうことはなくなるわ。レリーナが自分を守っている間に、ラディは攻撃に専念すればいいの。ジェイも一緒に攻撃するでしょ。で、少し余裕ができればレリーナも攻撃をすればいいわ」

「結界……ターシャに教えてもらってから、時々練習はしてますけど」

「以前、ラディ達と離されて遠くに飛ばされたって話をしてくれたでしょ。その時はシュマが来てくれたのよね。でも、いつもそうなるとは限らない。その時にしっかり自分で自分を防御できるってラディがわかってくれていれば、必要以上にレリーナを心配しなくて済むわ。つまり、ラディに迷惑をかけなくて済むってことにつながるでしょ」

「そ、そっか……」

 心配する。心を煩わせる。

 それをしたくないのなら、強くならなければいけない。でも、それは攻撃力を強くするばかりではない。自分で自分を守れる力があると知らしめておけば、心配の度合いも低くなる。

 あたし、どうしたら効率よく強くなれるか、なんて厚かましいこと考えてた。攻撃できることばかりが強くなれるってことじゃないんだ。

 結界は魔法の中では地味な方だろう。だが、できるとできないでは大違い。命が助かる確率も飛躍的に上がるのだ。

 そして、結界はフィールドでなくても練習は可能。魔法は訓練しなければ強くなれない技術だが、この魔法はどこででも訓練できる。だから、いくらでも強くなれる可能性を秘めているのだ。

 自分の魔力が低いことに悶々としていたレリーナだが、目の前が開けたような気がする。

「ありがとうございます、ターシャ。話してみてよかった」

「そう言ってもらえて、私も嬉しいわ。私のアドバイスってざっくりしてるって言われることもあるから」

「いえ、とっても的確なアドバイスです」

 すぐに強くはなれない。でも、迷惑や心配をかけることを減らせる。

 レリーナにとって、それがわかったことが今日の最大の収穫だった。

☆☆☆

 ラディはその日、フィールドで治癒魔法の自主練習をしていた。

 読んで字のごとく、傷を治癒させるための魔法だ。自分、または他人や動物がケガをした時に治すための魔法である。

 この魔法は練習しようにも、まさか自分の身体に傷を作ってから、という訳にはいかない。なので、魔法の練習場であるフィールドで幻影の獣や人間を出し、彼らが負ってしまった傷を治す、という方法をとることになるのだ。

 習って間がない時は、小さな獣から始める。慣れてくれば人間の幻影を出すように言われるのだ。

 動物相手なら何とかなっても、人間が対象となると「もし失敗したら」という考えが頭をよぎるため、失敗する見習いも多い。そう頻繁に使う魔法ではないが、そこをクリアしなければならないのだ。テストでも実施されるので、素通りはできない。

「ラディ、自主練で治癒魔法なのか?」

 ラディが幻影で現れた少年の傷を治しているのを見て、マイズが尋ねた。

 近くで同じように自主練習をしていたのだが、静かなのでそちらを見るとラディは攻撃魔法ではなく、治癒魔法の練習をしている。

 だいたいが自主練習というのは、強い力を必要とする魔法をする場合が多い。それなのに、ラディがしているのは動きが少なくて地味に見える治癒魔法の練習。家でやる訳にはいかないだろうが、どうして今? と不思議に思えたのだ。

「テストで絶対にやるだろ。慣れておきたいんだ」

 マイズの問いに、ラディはそう答える。

 テストのためというのももちろんあるが、ラディの場合は理由が別にあった。

 カロックで対応できるようにするためだ。今のところ、この魔法が使われることはない。厳密に言えば、ラディが使ったことはない。

 だが、カロックで二度死にかけたことのあるラディは、大竜のジェイに治療してもらっている。

 もっとも、どちらの時もラディに意識はなかったが、その時の状況からの推測とレリーナの話で認識はしていた。

 さすがにそういうことがまた起きてもらっては困るが、小さな傷くらいならつくってしまう可能性はおおいにある。その時に対応できるようになっておきたい。

 使わないで済むに越したことはないのだが、カロックへ行けば大小様々な魔物が現れては行く手を遮る。全てが無傷で済むとは限らない。試練のためにラディとレリーナを協力者として呼び出しているジェイは、もし二人が大きなケガをすれば治してくれるだろう。

 はっきり聞いてはいないが、来た時と同じ状態、つまり無傷で協力者を帰らせることは必須のようだ。もしかしたら、試練の中にその項目も入れられているのかも知れない。

 とにかく、治療系に関しては竜の力を惜しみなく発揮してくれるので、即死しない限りは無事な姿で自分の世界に帰れる。

 それがわかっていても、ラディとしては小さな傷くらい自分で治せるようにしておきたいのだ。自分自身もそうだし、あってほしくはないがレリーナに何かあった時には対処できるようになりたい。

 そのためには、練習あるのみだ。

「テストって……まだ半月以上先だぞ」

 気が付けば月が変わり、今月の下旬には進級テストがある。ラディが次のテストに合格すれば、修学部で最終のクラスである上級2になるのだ。そのクラスに進級し、そこで受けるテストは魔法使い認定試験。一人前になるまで、あと少しである。

「少しやったくらいじゃ、慣れないだろ。今のクラスで習う魔法はもうほとんど終わってるし、だったら出るってわかってる魔法を自分のものにしておかないとな」

「ラディ、変わったよな」

「え?」

 マイズの言葉に、ラディは級友の顔を見る。

「そう……かな。どの辺が?」

 自分では変わったつもりはない。もっとも、こういうことは他人から見た方がわかる。

「中2の半ばくらいから、急に変わった。がんばり方が段違いって言うかさ」

 マイズとは中級2と現在の上級1のクラスで一緒だ。中2は二人とも一度残留しているので、三期同じクラスにいることになる。

「召喚では正規の魔法使いだって呼べないグリフォンを呼ぶし、他の魔法にしたって進級組にも関わらず、残留組と同じ進み具合だろ。むしろ、残留の連中より上に思えるしさ」

 同じクラスに残留すれば、同じ授業をまた受けることになる。当然、中身はやったことのあるものばかり。進級してきたばかりのクラスメイトよりは上手くできても当然。

 それなのに、ラディは授業内容に慣れてるはずの残留組より上手くこなしている。上級1のクラスともなれば、習う魔法も高度だから進級組は四苦八苦するのが常だ。実際、マイズもついてゆくのが精一杯。

「自主練だって、以前はここまで熱心じゃなかっただろ? 何がラディを変えたんだ?」

「何がって……」

 はっきり言えば、カロックに行くようになってからだ。命がかかっている。軽い気持ちでいれば、自分はもちろん、レリーナにだって危険が及ぶ。

 そうならないようにするには、練習しかなかった。それだけだ。

 でも、それをマイズに話しても信じてもらえないだろう。

「じいちゃんが亡くなったから、かな」

 祖父のヴィグランが亡くなってから、カロックに呼ばれた。魔法を使う必要に迫られた。

 その部分は言えないが……ヴィグランが亡くなったのがきっかけなのは本当だ。

「じいちゃんがロネールの職務部で働いてたって、話したことあったよな?」

「雑談程度にはな。その時の魔獣、この前の授業で呼び出したって言ってただろ」

 ヴィグランと契約していた金の獅子ラトスティン。祖父のことが聞きたくて、ラディはその魔獣を呼び出した。

「俺が魔法使いになりたいって思ったのは、じいちゃんの影響なんだけど。じいちゃんが生きてる間に正規の魔法使いになった姿を見せられなかったのが悔しくてさ。ずっと元気だったし、もっと長生きしてくれるって勝手に思ってたんだ。もう生きてるじいちゃんに見せられないけどさ、一日でも早く一人前になってじいちゃんに報告したいんだ」

 ヴィグランの葬儀の日。ラディが涙を流したのは、祖父がいなくなったことを悲しんだのではなく、一人前の姿を見せられなかった悔しさからだった。

 今更一期や二期、進級や認定が早くなろうが遅くなろうが同じかも知れない。でも、ラディの気持ちとして、少しでも早く墓前に報告したいのだ。

「俺はさ……お前に負けたくない」

 マイズの言葉に、ラディは驚いてクラスメイトの顔を見る。

「負けたくないって言っても、すでに差があるけどな。俺にはグリフォンみたいにレアな魔獣は呼べないだろうし、残留組と肩を並べて授業を受けるのもきついと思う時がよくあるし。けど、同じように上がってきて、ラディだけしかできないってことはないだろ?」

「あ……ああ」

「おい、そんな深刻な顔、するなよ。クラスメイトって言ったって、全員がライバルなんだ。俺がこんなこと言っても、今更だろうが」

 マイズが軽くラディの肩をたたく。

「何となくでも、それなりのスピードで進級できていけたらいいなって思ってた。だけど、ラディを見てたらそんなのんきに構えてる場合じゃないって思ったんだ。要はお前に感化されたってこと」

 それまで同じような実力しかなかったクラスメイトが、急に腕を上げ始めた。ふいに感じる、置いて行かれる恐怖。落ちこぼれと言う程に成績は悪くないが、横を並んで歩いていたはずのクラスメイトは明らかに先を走り出した。

 その背中を見ているだけでいいのか、と自問した時、出た答えは否。

「ラディよりは少ないだろうけど、俺だって自主練する回数は以前よりかなり増えたんだぜ。ここまで来たのに残留続きはごめんだし、それどころか挫折して中退、なんて絶対やりたくないからな。背中を狙われてる恐怖を今のうちに味わっとけ。そのうち、また横に並んでやるからな」

「おう」

 マイズが不敵な笑みを浮かべ、ラディも似た笑みを浮かべた。

 いきなり思いがけない告白をされて驚いたが、嬉しさもこみ上げる。ラディはカロックでのためにやってきたが、自分の知らないところでこうして人に影響を与えていたのだ。改めてのライバル宣言も、驚きと同時にやる気が起きる。

 ジェイの……大竜の試練ってすごいな。よその世界にも影響を及ぼすんだから。

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