玻璃の森
不思議な気分だ。
そう思うのは、カイザックとバルディだけではない。ラディもレリーナも同じだ。いつもなら自分達が乗せてもらう魔獣が、自分達の後ろで同じように魔獣に乗っているのだから。
カイザックもまさかこんな状況になるとは思ってなかっただろうし、バルディはもっと強くそんな思いにかられているに違いない。よその魔獣が乗るのは、乗せられるのはこんなものなのか、とそれぞれどこか複雑な気持ちでいた。
唯一、この状況を楽しんでいるのはジェイである。
「ジェイ、エルオーの森ってどんな所なんだ?」
ジェイに目的地を聞き、とりあえず協力者達を乗せて飛び始めたバルディ。その背でラディが改めて場所についてを尋ねた。
「玻璃でできた森だ」
「玻璃? 水晶ってことなの?」
「そうなるのかな。とにかく、透明な石で森全体ができてる。木も葉も草も透明なんだ。少し色はついてるから、半透明って感じかな」
「カロックに人間はいないとラディから聞いたが……つまりその森は自然にできたということか?」
水晶がある森、ではなく、水晶で形作られた森。聞きようによっては、人間の手で生み出された環境のようにも思えるが、カロックに人間はいないのだ。
「そう。玻璃なんだけど成長する。葉とかは枯れると言うより、落ちて砕けるって感じだな。で、新しい葉がちゃんと生えるんだ」
「カイザック、俺達の世界にそういう場所ってある?」
「いや、俺も色々な場所へ行ったが、そういう場所は見たことがない」
もちろん、カイザックも世界中を隅々まで見て回った訳ではないので、どこかでひっそりと存在しているかも知れない。だが、見たことはないし、仲間からや噂などで聞いたこともなかった。
「その森で現れる魔物も、半透明だ」
バルディが付け加える。
「それだと、見えにくくないの?」
「私達は目だけで見ているのではないからな。気配だけでもその位置は充分にわかる」
「んー、俺達は気配に鈍感だからな。同じようにはできないよ」
見えにくい魔物に襲われる、というのは少々厄介だ。森に入ったら、出発前に張った結界を強化しておいた方がいいだろう。
やがて、眼下に見える景色の色が薄まってきた。それまでは、濃い緑の森が広がっていたり、明るい若草色の草原や水量豊かな川が見えていたのだが、その色が薄くなってきたのだ。目をこらして見れば、かろうじて木々が立ち並んでいるのがわかるのだが、空から見える葉も枝も色が薄い。下手な水彩画だってもう少し濃く描くぞ、と言いたくなるような色だ。
「エルオーの森って、この辺りなの?」
「そうだ。あまりこの森の物には触るな。人間のお前達だと、ケガをすることもある」
バルディの言葉に、ラディ達は首を傾げる。
「森の物って、つまりは木や葉ってことだよな。魔物を触る気は全然ないし。でも、どうしてケガするんだ?」
「普通に生えている分には問題ない。ただ、中には獣や魔物が当たるなどして、枝葉の一部が落ちたものもある。普通の木なら折られたような状態だが、そういうものはささくれだっていたりするだろう。それと似たようなものだが、ここの場合はその先端が異様に尖っている場合が多い。私は触れても問題ないが、お前達の肌は傷付きやすいだろうからな」
つまり、割れた状態の木々があって、それに触るとケガをするということ。ガラスが割れてそのままにされているようなものだろう。
確かにそれに触れば切れたりして危険だ。自分から触ることはないとしても、半透明だとそういう部分があることに気付かない時もありえるだろう。それなら最初から全てに触るな、ということをバルディは注意してくれているのである。
「確かになー。ラディやレリーナはちょっと気を付けた方がいいか。何でもない木に触る分には全然支障はないんだけどさ。腕、気を付けろよ」
自分達の世界では夏。ラディとレリーナはロネールの制服を着ているが、夏服だ。つまり半袖である。素肌が出ている分が多いのだ。
「そういうことなら、今の俺も少々注意が必要だな」
普通の人間ではないにしても、今のカイザックも姿は人間に違いない。
「ああ、そうね。人間って、動物の中で一番無防備かも」
「ジェイ、どの辺りに降りればいい?」
「んーと、もう少し先だな。バルディの降りやすい場所で適当に降りてくれ」
木々が密集している訳ではないので、森の中でバルディが翼を広げて飛んでもそれほど移動しにくくはない。飛んで移動できればいいのだが、かけらの気配を捜しながら進むことになるので、残念ながら着地しなくてはならないのだ。
空から見渡してもかなり広い森である。まだ中央にも至ってないが、バルディはゆっくりと地面に降りた。
「地面も……水晶なんだ。うっすらと土色だけど、半透明だな」
この水晶の地面を掘り続けたら、本当の土が下から現れるのだろうか。なだらかな地面は、表面だけなら普通の地面と変わらない。
今は昼の時間帯で、太陽が空にある。普通の森なら枝葉に遮られて光はあまり届かないが、ここでは何度も屈折しつつ地面に届いていた。場所によっては焦点が重なって熱く感じたりもする。黒い物を置いておけば、焦げるかも知れない。虹のような光があちこちで見えた。
「木の色も何となくあるみたいだけど、本当に半透明なのね。向こうにある木が見えるもん」
目の前に立っている木の向こうに、違う木があるのが見える。妙な感じだ。
「ほう……。不思議な雰囲気の森だな。異世界ではこんな場所が存在するのか」
カイザックは興味深そうに周囲を見回している。上空から見ていた時も感じていたが、こうして地面に足を着けるとますます興味深い。
「私も滅多に来ることはない。カロックの中でも、珍しい場所と言えるだろう。普通の雪山や海辺などでなくてよかったのではないか?」
「ああ、全くだ」
バルディが珍しくからかうような口調で言い、カイザックもその顔に笑みを浮かべる。ラディやレリーナとしては、彼等が険悪な雰囲気にならなかったのでほっとしていた。
人間でも初対面の相手だと、きっかけ一つで場の空気が悪くなることがある。魔獣ならどうなるかと少し心配な部分があったのだが、グリフォン達はお互いの存在を尊重しているようだ。
「ラディ、今回は雷で頼むなー」
「わかった。その前に……」
ラディは呪文を唱え、レリーナに張った結界を強める。それから自分の分も。
「これで半透明で姿が見えにくい魔物が来ても、多少は持ち堪えるはずだ」
余程強い魔物に体当たりされれば破られるかも知れないが、そんなに強ければラディ達だってその気配に気が付く。気が付けば注意できるし、防御の壁も出せるからそう簡単に負傷することはないだろう。
「ラディ、あたしね、ターシャに言われて防御の魔法を中心に練習してるの」
「防御? 壁とか結界とか?」
「うん。自分で自分が守れたら、ラディはあたしに気を取られることなく攻撃に集中できるでしょ」
「え、そのために?」
「まだ言う程には力がついてないんだけどね」
苦笑いしながら、レリーナは肩をすくめる。
「レリーナ、健気だなー。オレがそうそう危ない目に遭わせたりしないから、心配するな」
「ラディ達から話を聞いていた限り、かなり危険な状態も多かったようだが」
魔物にさらわれたり、別の場所へ放り出されたり。色々あったと聞いているカイザック。それも全ての話を聞いた訳ではないから、もっと多くの危機があったと想像するのは容易い。
「確かに。私が前回呼ばれた時も、一歩間違えれば、という状況だったと記憶している」
バルディと同行した時は、一つ目巨人にレリーナは捕まえられそうになっていた。バルディの助けるタイミングが悪ければ、握りつぶされていたかも知れない。
「あー、バルディもカイザックもそういうことは言わないっ。途中でヤバいなーって思うことはあっても、無事に帰れるようにしてんだから」
「ジェイもヤバいなーって思ったりしてたんだ……」
「ラディ、レリーナでもいいけど、雷頼むぞ。それをやってくんなきゃ、前に進めないんだからな」
わざとらしく話をそらし、ジェイはかけら捜しの魔法を頼む。ラディがくすくす笑いながら、小さな雷を起こした。
「地図はどこまで完成したのだ?」
ジェイがこっちだと言って進み出し、その後に続きながらバルディがラディに尋ねる。
「もうほとんどできたよ。あと数回くらいじゃないかな。以前に別の協力者と会って、見せてもらった地図が今の俺達の地図くらいだったんだ。そいつがもうすぐみたいなことを言ってたから、たぶんね」
「なるほど。ジェイも以前会った時とはずいぶん変わっているからな」
バルディを呼び出したのは、割と初期の頃。ジェイはまだ茶色っぽかった。今はほぼ白だ。この色の違いで、進み具合がわかるようになってるのかも知れない。
「この世界には、竜は多くいるのか?」
「いや、多くはないだろう。どれだけいれば多いことになるのかは私にも言えないがな」
群れで生活する種族ではないので、カロックにどれだけいるのかはたぶん大竜達も知らないだろう。
「ジェイ以外の大竜と会ったり見掛けたりすることは?」
「せいぜい三回くらいだ」
「そうか。俺はそこそこの年月を生きているが、自分の世界で竜を見たのは一度だけだ。いないのか、隠れているのか。その辺りもよくわからない」
「えっ、カイザックは竜に会ったことがあるのか」
バルディとカイザックの会話に、ラディが割り込む。
「会ったんじゃない。見ただけだ。上空でな」
「だけど、あたし達の世界にも本当に竜はいるのね。ほとんど伝説状態になってるけど」
いるらしい、とは言われてるものの、情報はほぼない。魔獣について書かれている本にも、載っているのは伝説の話やそれに類するものばかりで目撃談などはないし、ましてや生態なんて一切不明だ。
その点ではグリフォンもいい勝負だが、竜よりはまだ目撃情報が多い。ラディがこうしてカイザックと契約したことで、今後色々と解明されていく部分も多いだろう。
「オレはそっちの竜の事情は知らないけどさ。いても隠れてんじゃない? 魔力はうまくやれば何とか隠せるし、誰か来てもやりすごしてるとかさ。本当は普通にその辺りで生活してても、一度伝説扱いされたらもう出にくくなって……なーんてこともあるかもな」
「そんなことって……って思うけど、竜のジェイが言うと、もしかしてそうなのかなって思えてくるところが恐いな」
世界が違えど、ジェイも竜だ。その竜が言うなら、そういうこともありえる……かも。単に人間の相手が面倒だから姿を見せないようにしていたら、他の魔獣の目にも止まらなくなってしまった、なんてこともありえそうだ。
そんな話をしながら歩いていると、キキッという甲高い声が聞こえた。
「邪魔者が現れたようだ。前方から気配が近付いて来る」
バルディの言葉に、ラディとレリーナは身構える。
「ジェイ、弱点はあるのか? ここでは使わない方がいい魔法とか」
「制限する魔法はない。弱点は特になかったよなぁ。魔法に弱いと言うより、物理的に弱いんだ。氷や土のつぶてを当てれば、奴らの身体は割れる。割れるってことは、奴らにすれば大ダメージだ。割れ具合によっては消滅する。水も勢いによってはありかな。風はいまいち。グリフォンの出す風なら、勢いが違うから叩き割られるようなもんだろうけど」
「ラディ達がやるとすれば、風で相手の身体を巻き上げ、地面に叩き付ける、といった方法なら効果がある。風の刃だと、ジェイが言うように効果は期待できない」
「つまり、割れ物に向かって石を投げるイメージでいればいいんだな」
ジェイやバルディのアドバイスで、ラディとレリーナはだいたいの攻撃方法を決めた。
やがて現れた魔物は、ネズミを大きくしたような姿をしていた。薄い黒で半透明の身体。ちゃんとした色なら、黒っぽい灰色になるのだろうか。それが十匹前後いた。
ラディとレリーナは、聞いた通りに氷や土のつぶてで応戦する。うまく当たるとぱきっという小気味いい音が響いた。音と同時に手や足が割れ、魔物はバランスを崩す。それを見ていると、置物が動いているみたいだ。でも、壊しても叱られないから気楽である。
バルディはその太い前脚で軽く弾き飛ばした。木にぶつかったり、地面に叩き付けられたりして魔物は壊れる。普段ならこれで魔物が「死ぬ」ということになるのだが、身体が水晶で生き物感がほとんどないため、壊れるという言葉がしっくりくるのだ。
カイザックは腕を振ると、羽が飛ぶ。羽の形をした風の力だ。ラディ達がやる風の刃のようなものらしい。
ジェイやバルディが言ったように、あまり効果はないのかも知れないが、やっているのは人間の姿であってもグリフォンだ。その羽が身体に突き刺さった魔物は、そこから亀裂が入ってゆき、やがてぱんっと弾けるように壊れる。
レリーナはもちろん、ラディもカイザックが魔法を使って攻撃する姿を初めて見た。今は人間の姿だが、その力は人間を軽く越えている。
魔物の数が少なかったこともあり、その場はすぐに一掃された。
「姿を変える魔力だけでなく、全体的に少し落ちているようだ」
魔物が全て消え、カイザックは軽く息をついた。
「そうなの? すごくあっさり攻撃してたように見えたけど」
「うん。ため息が出るくらい鮮やかだったぞ」
「あの程度なら、そう問題はない。ただ、あれ以上に相手の魔力が上がると、少々苦戦しそうだ」
元々が強い魔力の持ち主なので、レベルが落ちていると言ってもラディよりも上なのは変わらないだろう。それでも、いつものようにやっているとレベルダウンをいやでも感じてしまうのだ。
「この森には主レベルのような魔物はいないはずだ。今のレベルが多少前後する程度といったところだろう。私はそう認識しているが……ジェイ」
バルディがジェイの方を見る。
「うん、たぶんそんな感じ」
「真実であっても、疑いたくなるな」
ジェイの軽い返事を聞けば、カイザックでなくてもそう思うだろう。
ラディとレリーナは、苦笑するしかなかった。
☆☆☆
進んで行く間に、魔物はちょろちょろと現れる。時には鳩サイズの鳥、時には中型犬サイズの山犬のようなものなど。どれも半透明で、わずかに色がついてる程度というのは同じだ。
そのわずかな色のおかげで、何となくこういう形の魔物、というのがラディとレリーナにもわかる。完全に透明だと、水でできてるようにも見えるし、周囲に同化してしまい、もっとやりづらかっただろう。
仮に襲われて喰われたりしたら、血の色が魔物の身体を通して見えるのだろうか。魔物の胃に肉片が見える状態なんて、想像したくない。
「あ、カイザック。手から血が出てるわ」
「ん?」
何度目かの魔物排除が終わった時。レリーナに言われ、カイザックは自分の両手を確認した。右手の甲に細い傷が走り、血がにじんでいる。いつからだったのか、全然気付かなかった。
「この程度なら、どうということはない。……やはり肌が出ているというのは、こういった環境では不利だな」
何度も魔物を排除しているうちに、魔物が割れた時に飛んだ破片で切れたらしい。
今のカイザックは、白い長袖シャツに黒いズボン姿。一番シンプルで目立たない服装だが、彼自身が一番目立つ……のは仕方がない。ラディの元へ来る際、人間の中にいても不自然に見えないよう、これまでに見た人間の格好をまねたのだろう。もちろん、本当の服ではなく、服に見えているだけだ。
本来なら毛や羽毛に覆われ、それが防御してくれるはずだが、今はそんなものが全然ない。今のカイザックにとっては、服に見える部分がいわば体毛のようなものだ。手首から先や首から上など、むきだしの部分は本当に何もない。だから、ちょっとしたことでも傷付いてしまうのだ。
「私と同族でも、姿を変えればこれだけ防御力が落ちてしまうものか」
「そのようだ。人間というのは、本当にもろいものだな」
知っていたつもりだった。でも、自分で実体験し、文字通り身体で事実を知る。人間は傷付きやすくて弱いものなのだ、と。
自分は魔獣だからまだこの程度で済んでいるが、本当の人間……ラディやレリーナならもっと深い傷になっていたかも知れない。
「カイザック、手を出して」
「ん? 手を……どうする?」
ラディに言われ、カイザックは首を傾げる。
「傷を治すんだよ」
「言っただろう。この程度の傷、どうということはない」
血はにじんでいるが、流れてはいない。痛みもないし、わざわざ治さなくても治癒能力の高い魔獣なら、完治もすぐだ。
「ダメだよ。いくら竜に呼ばれたからと言っても、俺達はここでは異質の存在なんだから。どこでどういう反応があるかわからないだろ。それに、血の臭いで余計な魔物が現れても面倒だよ」
「あたしも以前、血の臭いでどうのって言われたの。ただでさえ大変なことがたくさん起きるんだもん、防げることはやっておかなきゃ。それに、痛くない方がいいでしょ」
魔物がいる場所で血の臭いをさせることは、傷付き弱った獲物がいると教えているようなもの。実際には痛くもないし、弱っていなくても、そう思い込んだ魔物が来ることは充分に想定できる。
さっさとこの場から離れられればいいが、まだかけらは見付かっていない。もうしばらくはここにいなければいけないのだ。
「わかった。……ラディ、治せるのか?」
「一応、治癒魔法は練習してるから。クラスの中でも結構進んでる方だぞ」
カイザックが差し出した手を取り、ラディはその手に自分の手をかざす。
相手は魔獣ではあるが、今は人間の姿。多少の緊張はあるが、これまでレリーナがもしケガをしたら、というシチュエイションでイメージトレーニングしてきたラディである。何度も繰り返し練習したおかげで、気負わずに力を使えるようになってきた。
「呼ばれた時から思っていたが、ラディはずいぶん力をつけたな」
あっさりとカイザックの傷を治したのを見て、バルディが言う。もちろんレリーナも、と付け加えた。
「本当? ラディが言われるのはわかるけど、あたしも力がついてきてる?」
魔法使いとして、嬉しい言葉だ。
「前回会った時から時間が経っているからな。あの頃と同じなら、今まで何をしていた、と言うところだ」
「んー、そうだよな。魔物を振り払う時間が前に比べて短くなってるぞ」
ジェイにも言われ、ラディとレリーナは嬉しくなる。魔力の高い存在にそう言ってもらえると、本当にちゃんと認めてもらえた気分だ。
「今受けてみて思ったが、ラディの魔法は心地いい」
「え……魔法に心地いいとか、そんなのがあるのか?」
カイザックの言葉に、ラディが首を傾げる。
「そりゃ、あるだろ。攻撃された魔物は思わないだろうけどな」
ジェイが笑いながら言う。
「お互いの相性がいいってのもあるだろうし、術者の腕とか気性とかによっても魔法の質は変わってくるぞ。たぶん、ラディの魔法は魔獣と相性がいいんだ。それでカイザックが心地いいって思ったり、バルディみたいに強い魔獣に声が届いて来てくれる」
「ジェイが以前、ラディは召喚の才能があるって話してたけど、そういう相性につながるってことなの?」
「うん、そうなるかな」
バルディがふとカイザックの方を見る。
「呼ばれた時はどうだった?」
「呪文がなめらかに思えたな。話を聞いて、カロックで召喚に慣れているならそう感じるのも道理だと、その時は感じていたが」
「私が最初に呼ばれた時は、まだたどたどしさが残っていた。だが、呼んでいる者を見てみたい、という気持ちを起こさせたな」
「慣れてるかどうかではなく、ラディだから呼ばれてもいいと思った……ということか」
前回ラディがバルディを呼んだ時は、カロックへ来る回数もまだ少なかった。なので、呪文にはまだかたさが残っていたが、心のどこかで悪くないと思ったような気がする。実際に見て、つまらない奴ならさっさと帰ればいい、くらいに考えて。
「今回は名指しだったが、その気になれない場合もある。だが、その気になる、ならないを思う前に来ていた」
呼ばれた、と思った直後、何かを意識する前にバルディはラディ達の前に現れていた。
「バルディ、別れる時に暇なら来てやる、みたいなことを言ってくれてただろ。名指しだから来てくれたんだと思ってたけど」
名指しするということは、最低でも一度は会って名前を告げているということ。それなら、魔獣側に余程の事情でもない限りは現れる……とラディは思っていた。
「この魔法を使う奴には会いたくない、近付きたくないと思えば、行くことを拒む。それが名指しであろうとなかろうとな」
「それじゃ、バルディはラディに会いたいって思ってくれたのね」
「そういうことになるか」
「複数のグリフォンにそう思わせるくらいだ。他の魔獣の真意はどうでも、ジェイの言う通り、ラディは間違いなく魔獣と相性がいいということだな」
「え……そ、そうかな。グリフォン達に言われると嬉しいけど、あまりほめられるとくすぐったいよ」
でも、悪い気分じゃない。相性が悪いと言われるより、いいと言われる方が絶対いいに決まっている。
「ラディが呼び出す魔獣、みんな強くてきれいだもんね。相性がいいって言われるの、わかる気がするわ」
「だよなぁ。あ、ラディもだけど、レリーナだってそうだと思うぞ」
「え、あたしも?」
ラディの話のはずが、自分にも話が及んでレリーナは驚いた。
「レリーナはシュマしか呼んだことがないけど、それ以前に呼んでもいないシュマに助けられただろ。相性が悪けりゃ、放っておかれる。一度会ったとは言え、通りすがりの魔獣に助けられて、相性が悪いはずないだろ?」
ターシャにも魔獣に好かれる性質だということは言われた。好かれるということは、相性がいいということ。
今はラディの話で意識していなかったレリーナだが、竜からそう言われるとやっぱり嬉しい。
「竜は……んー、魔獣って括りに入るのか微妙だな。前も言ったけど、人間じゃないから魔獣寄り、か。二人が魔獣と相性がいいから、竜とも相性がよくって協力者に呼ばれたのかも」
「うん、そうかも。こんなに相性がいいもんね」
言いながら、レリーナはふわふわ浮いているジェイをぎゅっと抱き締めた。以前来た時、こうしたら気持ちいいと言っていたのを思い出したのだ。
カイザックとバルディは、少し驚いた表情で竜を抱き締める少女を見ている。このサイズではあっても、魔獣が竜を抱き締めるなどという光景はありえない。それが人間ならなおさらだ。
「うん、間違いなくいいよな」
ジェイの嬉しそうな声に、ラディとグリフォン達は笑みを浮かべるのだった。





